2016年01月25日号
先週の為替相場
ドラギ発言からムード一変
先週の前半は原油安が進行したことで世界的にリスク警戒感が広がり、ドル円が一時116円を割り込むなど、円高が進行する展開となった。また、産油国であるロシアのルーブルが対米ドルで史上最安値を更新するなど、資源国通貨売りの流れが目立つ展開であった。しかし、21日のECB理事会(用語説明1)後に行われたドラギECB総裁記者会見を受けて市場のムードが一変した。総裁は会見において世界的なディスインフレ(用語説明2)圧力に対して、「私達は(ディスインフレ圧力を前に)降伏しておらず、対抗を諦めていない」と発言。今後について「(投入できる)様々な手段がある、適用に限度はない」と今後の積極的な追加緩和姿勢を強く示唆した。これを受けてユーロが急落。また、緩和期待を受けた欧州の大幅な株高進行が見られた。その後のNY株、更には翌日のアジア株、発言から一夜明けた金曜日の欧米株の大幅続伸などもあって、市場ではこれまでのリスク警戒感が一気に後退。NY原油も一気の持ち直しを見せ、株高、商品高、ドル高、円安という流れが生じた。
ユーロは対ドルで節目の1.10が重く、少し押され気味となっていたところに、ドラギ総裁発言で1.09台から一気に1.07台へ下落。その後値を戻す場面も見られたが、週末にかけて再び1.07台を試すなど、売りが優勢に。ユーロ円も発言直後は127円台から126円台前半まで急落。その後は、リスク警戒感後退による円売りが主導し、128円台半ばを試すなどしっかりとなっている。
ドル円は世界的な株式市場の上昇を好感して、買い戻しが目立ち、戻りの目処として意識されていた118円をしっかり上抜けする展開となった。
その他、大きな動きを見せたのがカナダ円。産油国であるカナダはこのところの原油の急落がカナダ経済に厳しいダメージとなり、カナダ安が進んでいた。原油安の影響を受けて、20日のカナダ中銀理事会で利下げに踏み切るのではとの市場の見通しが広がり、結果発表までカナダ売りが優勢に。しかし、結果は据え置き。声明も今後の原油の回復見通しを強調する強気なものとなり、一気の買い戻しとなった。また、その後のドラギ総裁発言を受けての円売り進行もあって、カナダ円は上昇が加速。結局79円割れから84円台までと、週の後半だけで5円超の上昇を見せた。
今週の見通し
円安基調回帰への期待感が広がっている。世界的な株安が落ち着いたことで、市場の雰囲気がかなり変化している。また、底値が見えず、警戒感を誘っていたNY原油の買い戻しが一気に強まったことも大きい。年初からのリスク回避による円買いの流れがようやく収まり、反転に向かうのではとの期待感が広がっている。また、ドラギECB総裁発言でユーロ圏の緩和姿勢継続見通しが強まったことで、日銀の追加緩和もやりやすくなるのではとの思惑が強まっており、こちらも円売りの材料となっている。
インフレ圧力の鈍化などからポンドの利上げ期待も後退する中、主要通貨で唯一引き締め傾向を維持する米ドルへの買い意欲が広がっており、ドル円は相当しっかりの展開が期待されている。黒田バズーカの防衛ラインとして市場の一部が意識している115円を前に値を戻してきたことで、下値しっかり感も出ている。120円の大台までにはまだ売りが残ると見られているが、一旦その売りを試しに行く展開も期待されるところ。
NY原油の下落が収まったことで、産油国カナダはもちろんのこと、豪ドルやNZドルなどの資源国通貨全般にも買いが入っている。心理的な節目である80円を一旦割り込んだ豪ドル円は、83円台を回服。一旦節目をつけたことで、売りに一服感も出ており、中期的な反転も期待されている。この後84円近辺が強い上値抵抗水準であり、手前でもみ合う可能性はある。しかし、その水準を抜けると、年末にもみあった88円台までの大きな戻しとなる可能性は十分にありそう。この後の上値トライの勢いがかなり重要となりそう。
一方、対ドルでの売り意欲が強く、目先は戻しているものの、この後は警戒感が広がっているのが英ポンド。米国に次いで利上げに向かうと期待されていた英国であるが、原油安を受けてのインフレ圧力後退もあって、年内は金利据え置きとの思惑が台頭しており、中長期的にポンド売りが入りやすい展開に。直近はリスク警戒感後退による円売りで164円台からポイントとされる170円近辺まで戻してきたポンド円。この後しっかりと170円台に乗せきれないようだとあっさりと167円程度まで落とされる可能性も。
用語の解説
ECB理事会 | 欧州中央銀行(ECB)の最高意思決定機関。ユーロ加盟19カ国の金融政策を決定する会合。ECBの総裁、副総裁、常任理事(4名)に加え、加盟各国の中央銀行総裁(19名)の計25人によって構成される。かつては毎月2回(そのうち金融政策の決定は月最初の一回のみ)の会合を開いていたが、2015年からは6週間に1度に変更されている。また、ECB加盟19カ国のうち、15名による輪番制(仏・独などは小国に比べて投票権を持つ頻度が高い)をとっている。金融政策決定について、各国政府の政治介入が禁じられており、独立性が高い。 |
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ディスインフレ | ディスインフレーションの略。インフレ状態ではないが、供給過剰で物価が恒常的に下落するデフレ(デフレーション)状態にまでは陥っていない状況。元々は金融政策などによって経済規模の縮小を防ぎながらインフレの抑制を行う政策のことを指した。その後、世界的な物価停滞が広がる状況となり、各国のインフレ目標値(先進国では2%程度が一般的)に届かない低インフレ状況のことを指すようになった。 |
今週の注目指標
米FOMC 1月28日04:00 ☆☆☆ | 26日、27日と米国連邦公開市場委員会(FOMC)が開催される(結果発表は日本時間28日午前4時)。前回12月のFOMCで約9年半振りの利上げに踏み切り、リーマン・ショックの影響で2008年から続いた実質的なゼロ金利政策を解除した米国。今後も緩やかな利上げが継続されると予想されており、FOMCメンバーの金利見通しなどから、今年は4回の利上げが見込まれている。もっとも、今回のFOMCに関しては金利が据え置かれる可能性が高い。前回の利上げの影響を見極める時期であること、中国など新興国の景気鈍化や原油安によるディスインフレ圧力などに警戒感があることなどが、据え置き見通しの理由となっている。また、今回のFOMCでは会合後の議長会見が予定されておらず(年8回のFOMCのうち、半分のFOMCで実施される)、政策変更が起こりにくい回でもある。そのため、市場の注目はFOMC声明の内容に向かっている。上述の懸念材料を強調してくるようだと、3月の利上げが見送られるとの思惑が広がり、ドル売りが強まりそう。この場合、ドル円のポイントとなる115円割れまで意識されるような大きな動きとなる可能性も。米労働市場の健全さなどを強調してくるようだと、逆にドル買い。120円の大台に向けた動きに。 |
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日銀金融政策決定会合 1月29日 ☆☆☆ | 28日、29日に日銀金融政策決定会合が開催される。黒田日銀総裁はこれまでの姿勢を大きくは崩しておらず、基本的には金融政策の現状維持が濃厚。ただ、年初からの中国ショックによる株安や、原油安を受けてのディスインフレ圧力は追加緩和に向けた大きな材料となっている。特に今回の原油安は2016年度後半というインフレ目標達成をかなり困難にさせる材料と見なされており、市場では追加緩和期待が根強く残っている。ECBが追加緩和姿勢を強く示したことも、日銀の緩和へのハードルを低くすると見られている。もっとも、追加緩和期待の本線は4月頃。現時点では若干時期尚早という見方が強い。緩和が実施されると、円売りの動きが加速し、120円台に乗せる動きも期待される。現状維持の場合は予想通りとして市場の反応は限定的か。 |
米第4四半期GDP 1月29日22:30 ☆☆ | 29日に米国の第4四半期GDPの速報値が発表される。第3四半期は前期比年率+2.0%と好数字を記録した米国であるが、第4四半期は+0.7%と低めの数字が予想されている。昨年末頃までは比較的高めの数字が期待されていたが、ここに来て製造業関連の指標や住宅市場関連の指標の鈍化が確認されており、見通しがやや抑えられている。比較的精度の高いGDP見通しで注目されるアトランタ連銀の「GDP Now」は昨年末時点で+1.3%を見込んでいたが、最新20日の発表では+0.7%まで予想を抑えている。去年の 11月時点では2.9%まで予想値を上げていたことを考えると、かなり予想値が低下した印象に。昨年後半はかなりの暖冬となっており、季節性商品の販売が鈍ったことや石油消費が抑えられたことなども、下方修正の要因となっている。予想前後の数字が出てくると、3月の利上げ期待にはやや重石に。ドル円は下を試すほどではないにせよ、120円に向けた動きには冷水をかけられる格好となりそう。 |
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