2016年11月28日号

(2016年11月21日~2016年11月25日)

先週の為替相場

ドル買い継続

 21日からの週は、これまでのドル買いの流れが継続する展開となった。トランプ氏の経済政策であるトランポノミクスへの期待感がドル高株高債券安(利回り上昇)の流れを呼んでいる。

 ドル円は一時114円に迫るところまで買い進まれる展開に。ダウ平均が最高値を更新し、19000台をつける展開となるなど、世界的な株高がリスク回避での円買い需要を後退させて、円売りが強まった面も。

 対新興国通貨に対するドル高が特に目立っており、市場介入を行った中国をはじめ、新興各国が対応を迫られている。トランポノミクスへの期待感などを受けて投資資金が新興国から米国へ移動し、ドルの全面高傾向を支えている。

 トランプフレーション(用語説明1)と呼ばれるインフレ期待の拡大が、来年の米国の追加利上げペースを加速させるとの思惑も、ドル買いを誘った。

 ユーロドルに関しては、12月に憲法改正の国民投票(用語説明2)を行うイタリアへの警戒感がユーロ売りドル買いを誘った面も。レンツィ伊首相は国民投票で憲法改正が否決された場合退陣を公言しているが、世論調査では否決見込みが強まっており、イタリアに政治的な混乱が生じる可能性が高いことも、ユーロ売りに。なお、現在イタリアの有力与党は軒並みユーロ離脱を主張しており、首相の退陣総選挙に伴う野党勢力の拡大は、イタリアのユーロ離脱リスクを高めるとの見方も。

今週の見通し

 週末を前に少し調整が入ったが、下がったところでは買いが出るなど、基調はまだドル高方向。

 米国のインフレ期待が広がっており、すでに織り込み済みの来月の利上げだけでなく、2017年の追加利上げ期待が広がる状況となっており、ドルは中長期的に大きく値を上げそう。

 新興国通貨売りの動きが激しく、若干リスクが警戒化される点が要注意。

 またユーロドルで1.05の節目を割り込み切れていないことも、ドル高一服感に。

 ただ、ドル円はこれまであまり押し目(高値からの調整)がなく上昇してきた分、買い遅れムードもあり、下がったところではしっかりと買いが出そう。110円から112円にかけてはサポート水準となりそう。

 中期的にはドル円はある程度の調整を交えながら大きなターゲット115円を意識する展開が予想される。

 ユーロドルの1.05を割り込むとドル買いが加速する可能性。同水準をしっかり割り込み、2015年春の1.0460台を割り込むようだと、パリティ(1ユーロ=1ドル)が見えてくる。ただし、1.05手前の買い意欲はまだ残っている。

 ただ、ユーロも戻りは鈍い。12月のイタリアの国民投票に加え、来年のフランス大統領選、ドイツ総選挙など、懸念材料が中長期的に続くだけに、買いにくい面も。

来年にかけてパリティ割れもありそうな展開となっている。

用語の解説

トランプフレーション トランプ次期大統領の提唱する経済政策への思惑から生じるインフレのこと。トランプ(Trump)とインフレーション(Inflation)を組み合わせた造語。トランプ次期大統領は選挙戦の中でインフラ整備を中心にした大規模な財政支出・法人税(現行で最大39%)を15%とするなどの大規模減税・ドッド=フランク法の廃止などの金融規制緩和などを主張した。こうした政策が実行された場合、米景気が相当押し上げられ需要面からインフレが生じることに加え、政策の結果生じる財政赤字拡大による金利の上昇からのインフレ圧力も予想され、インフレの加速が生じるというもの。
イタリア国民投票 12月4日にイタリアで行われる、議会制度を事実上の一院制に変えるための憲法改正について是非を問う国民投票のこと。現行の制度は上院下院がほぼ同様の権限を持つ二院制。このうち上院の権限を大幅に縮小し、安定的でシンプルな体制を構築することを目標としている。憲法改正自体は今年4月に議会を通過しており、投票結果次第では憲法の改正が実施される。レンツィ首相は否決された場合退陣すると表明している。

今週の注目指標

OPEC総会
11月30日
☆☆☆
 9月の会合で8年ぶりの減産の基本合意に至ったOPEC(石油輸出国機構)。今回の総会で正式な合意が行われる予定となっているが、イランやイラクなどが減産対象からの除外を求めるなど、加盟国間での意見の相違が見られ、合意がなされるかどうか、かなり不透明な状況となっている。減産合意への期待がNY原油先物を支えているが、合意に失敗した場合大きく値を崩す可能性。先進国唯一の純産油国(石油の輸出>輸入)であるカナダの売りを誘い、カナダ円が82円を割り込む動きを見せる可能性が高い。
米雇用統計(11月)
12月2日22:30
☆☆☆
 利上げが見込まれる12月13日14日の米FOMC(連邦公開市場委員会)前、最後のビッグイベントとなる米雇用統計が2日に発表される。すでに利上げがほぼ織り込まれており、よほどの数字が出てこない限り波乱要素は少ない。ただ、市場では2017年以降の追加利上げの思惑が広がりつつある。雇用統計が予想を上回る好結果を記録すると、そうした見通しをサポートし、ドル買いが広がる可能性も。114円から115円にかけての強い上値抵抗水準を試す可能性。
イタリア国民投票
12月4日
☆☆☆
 現在上下二院制を敷くイタリアにおいて、上院の権限を大幅に縮小し、事実上の一院制とすることを柱にした憲法改正の是非を問う国民投票。レンツィ首相が改革の目玉として意欲的に取り組んでおり、4月には議会を通過している。今回の国民投票で否決された場合、レンツィ首相は退陣するとたびたび明言している。もっともレンツィ政権下での景気回復の遅れなどから首相の支持率が低下していることもあり、世論は否定派が優勢に。解散総選挙となった場合、イタリアのユーロ離脱を主張する野党勢力が議席を伸ばし、ユーロ圏全体の懸念材料となる。ユーロドルが直近の強いサポートとなっている1.05を割り込む可能性も。
                                                

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