2017年03月27日号
先週の為替相場
ヘルスケア法案を巡りドル売り広がる
20日からの週はドル円が110円台を付けるなどドル安円高が進行する展開となった。
最初のきっかけは欧州通貨買いドル売り。フランスの大統領選に関して、これまで支持率でトップを走っていた極右国民戦線のルペン党首と、中道派無所属のマクロン前経済相の支持率が拮抗。20日に行われた討論会ではマクロン氏が優位に弁を進めたとの思惑が広がり、ユーロ買いを誘った。元々決選投票でのルペン氏勝利の可能性はほとんどないが、第一回投票でもトップに立てないようだと、欧州での極右旋風が落ち着くとの思惑が広がった。
ポンドは利上げ期待拡大で上昇。21日に発表された英消費者物価指数(2月)が予想を上回り、今月の金融政策会合で利上げを主張するメンバーが出たこととも合わせ、今後の利上げ期待が広がり、ポンド買いとなった。
ポンドに関してはブレグジット関連も相場を揺さぶった。
英政府は20日、メイ首相がEU離脱に関する通知(用語説明1)を29日にトゥスクEU大統領(用語説明2)に向けて行うと発表。これにより英国のEU離脱、いわゆるブレグジットが正式にスタートすることとなる。
EU側は英国に対してEU予算の分担金の支払い保証などがない限り通商などの交渉に応じないという強硬な姿勢を示しており、今後に向けての不透明感が広がる展開に。
もっとも、市場はブレグジットスタートを既に織り込んでおり、発表直後の動きはどちらかというとポンド買い。直近の世論調査などを見ると、英国内はブレグジットへの流れを許容しつつあり、正式なスタートが決まらない不安定な状況を嫌っていた様子。正式なスタート決定でイベントを一つクリアしたという動きになった。
週前半の欧州通貨買いドル売りの動きは、ドル全面安の動きを誘い、ドル円なども週の前半から頭の重い展開に。
週の半ばからはドル円が主導してドル安円高に。
トランプ大統領が以前から主張しているオバマケアの見直しについて、共和党の提出した代替法案が、共和党保守派の反対で成立が難しいという見通しが広がり、ドル売りを誘った。23日に予定されていた下院での法案採決は反対派が多数出て通過の目途が立たなかったことで、いったん24日に延期。
同法案での審議難航は、今後控える税制改革や金融規制改革でのトランプ政権の政策実行力への懸念につながり、ドル売りとなった。
こうした状況はリスク警戒感での株安債券高(利回りの低下)を誘い、円買いの動きも加速した。
さらに、24日になって採決の中止が決定された。中止決定に至るまでドル売りの動きが強まっていたが、決定後はいったん買い戻し。
トランプ政権の動向が不安定な中で、週末をはさんだポジションに対する警戒感が、いったんの調整を誘った格好に。
ドル円以外では、リスク感応度の高い新興国通貨なども大きく売りが出る展開。米FOMCでの今後の利上げペース拡大期待が後退したことで、いったん買いが出ていた分の調整が入る格好となった。
今週の見通し
ドル安傾向が意識される展開となっている。
トランプ政権の政策運営力に対する警戒感は、今後期待されている税制改革や金融規制改革の実現に向けた警戒感を誘っている。
こうした政策、いわゆるトランポノミクスへの期待感がこれまでのドルを支えていた面があるだけに、いったん売りが入りやすい展開か。
年度末を前に実需がらみで外貨売り円買いが入りやすいという季節的な要因も重石に。大手企業の会計年度前の外貨売り円買いはかなり進んでいるとみられているが、ここにきての下げが急だった分、売り切れていない分の売り注文が戻ったところで円買いが入ってくると予想される。
今週もFRB関係者による講演が多数予定されているが、市場の目先の注目は経済状況以上に政治動向に向かっている。トランプ政権関係者の発言や、今回の採決中止を受けて求心力が低下した共和党議会幹部の発言などに注意したいところ。
ドル円は110円の大台を割り込むと、ドル売りが加速する可能性があるが、その手前にはまだ買い意欲も。新年度を迎えて新たな外貨投資注文への期待感もあり、110円の大台をにらんで神経質な展開となりそう。
戻りが鈍いようだとどこかのタイミングで110円割れも。リスクは円高方向という印象。
クロス円も基本的には円高が優勢となりそう。
欧州通貨は対ドルでしっかりの展開が期待されるが、29日水曜日にメイ英首相がEU離脱の正式通知を行うと報じられており、ブレグジットがらみで神経質になる分、買い上げにくい面も。対円ではリスク警戒での円高進行が優勢となりそう。
ポンド円は137円半ば割れを意識。ユーロ円は120円超えが重くなるようだと、118円を意識。
用語の解説
EU離脱に関する通知 | EUについての基本条約であるリスボン条約において、加盟国の離脱手続きについて示された第50条の規定に基づく通知。当該国、今回の場合英国が欧州理事会に対して通知を行うことで、離脱手続きが正式に開始される。通知を受け取るのは理事会の常任議長いわゆるEU大統領のトゥスク氏。トゥスクEU大統領は英国を除くEU加盟国27か国と離脱交渉の方針についての指針をまとめ、通知を受け取ってから原則48時間以内に第1回の返信を行うこととなっている。 |
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トゥスクEU大統領 | 2009年に発効したリスボン条約によって、これまで持ち回りで務めてきた欧州理事会の議長に、常任議長を据えることとなった。この常任議長のことを一般的にEU大統領と呼ぶ。任期は2年半で一度だけ再任が可能。初代常任議長はファン・ロンパイ氏。二期の任期満了により、第二代常任議長にポーランドの元首相であるドナルド・トゥスク氏が選出され、今年3月に再任された。なお、二期目の議長選挙では出身国であるポーランドのみ反対票を投じ、27対1での再任となった。 |
今週の注目指標
メイ英首相、EU離脱を通知 3月29日 ☆☆☆ | 英国のメイ首相は29日にEU離脱に向けた通知を欧州理事会のトゥスクEU大統領に行う予定。この通告はEU離脱に関する手続きを定めたリスボン条約第50条に基づくもので、この通告を受けてブレグジットが正式にスタートする。EU側は英国が負担する分担金の支払い保証や英国に在住する他のEU加盟国市民の権利保障を求めているが、英国側の反発もあり、今後の交渉は難航する見込み。 離脱まで原則として2年間の期間があるが、開始早々交渉が難航するようだと、今後の通商交渉などへの懸念につながり、ポンドにとっては売り材料に。ポンド円は下値の大きなターゲットである135円を目指す可能性も。 |
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米第4四半期GDP(確報値) 3月30日 ☆☆ | 米国の第4四半期GDPの確報値が発表される。速報値、改定値は前期比年率+1.9%となっていたが、確報値では+2.0%と上方修正される見込み。米景気回復の力強さを意識させる数字で、ドルにとってはサポート材料となりそう。第1四半期のGDPに関しては、3月に入って米国東部を襲った大寒波の影響が大きくのしかかるものの、NY連銀の予想(NowCast)は前期比年率+2.5%を見越すなど(寒波発生前は3%超の予想となっていた)、米景気回復傾向はかなり力強い。第4四半期時点で予想通り2%もしくはそれ以上の数字が出てくるようだと、ドルの買い戻しに寄与しそう。ドル円は110円の大台が維持されると、113円近辺までの買い戻しを意識する展開に。 |
米PCEデフレータ(2月) 3月31日21:30 ☆☆☆ | 米国のインフレターゲットの対象指標である個人消費支出の指標。前回の1月分で前年比+1.9%とターゲット水準(2.0%)目前まで上昇。今回は+2.1%とターゲット水準を超えてきている。ただ、今回の数字に関しては変動が激しいエネルギーコストが与える影響が大きい。同じくFRB当局者が注目している同コアデフレータ(エネルギーと食品を除いたもの)は前回と同じ+1.7%にとどまる見込みで、予想通りの数字にとどまった場合、利上げ圧力の高まりは限定的なものとなりそう。ただ、消費者物価指数(CPI)に比べて低めに出やすいPCEが2%を超えてくるという意味は大きく、中期的にはドル買い材料に。ドル安の流れを抑え、数字次第では113円台への反転のきっかけとなる可能性も。 |
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