2017年08月07日号

(2017年07月31日~2017年08月04日)

先週の為替相場

米政治リスクなども重石

 7月31日からの市場は、ドル円が数度にわたって110円を割り込むなど、ドル安が優勢な展開が見られた。

 28日の米GDPの弱さもあって、週明けからドルは軟調地合い。ドル円は110円台前半に値を落として始まった。

 米政治リスクへの警戒感が、ドル安基調をさらに強めた。31日にトランプ大統領はスカラムッチ広報部長を解任した。就任わずか10日での異例の解任に、市場はトランプ政権の混乱に対する警戒感を強めた。同氏の就任に対しては、反対姿勢を示した当時のスパイサー報道官が7月21日に辞任。同氏と対立していたプリーバス首席補佐官が同28日に更迭されており、相次ぐ政府要人の離職となった。

 政治リスク関連では3日にトランプ大統領のロシアゲート疑惑を調査しているモラー特別検察官が大陪審(用語説明1)を招集との報道が流れ、ドル売りが強まる場面なども見られ、政治リスクがドルの重石となっていた。

 米景気への警戒感も、ドル売りに繋がった。

 1日に発表された米国の新車販売台数が予想を大きく下回る弱いものとなった。しかも、米3大メーカーの売上が鈍り、トヨタが好調となったことで、日米の通商問題も意識され、ドル売り円買いを誘う材料となった。ドル円は同指標を受けて一時110円を割り込んだ。

 3日の米ISM非製造業景気指数(7月)の弱さもドル売りとなった。同指標は6月の57.4から53.9に急落。水準的には昨年8月以来の低水準。下げ幅としてはリーマンショック2ヶ月後の2008年11月以来という悪化を記録し、ドル売りが広がった。

 もっとも、注目された米雇用統計が強めの結果となり、週末のNY市場でドル円が111円台を付けるなど、ドル安一服の動きで週の取引を終えている。

 米雇用統計は非農業部門雇用者数が予想を上回り、節目となる20万人の大台も超える好結果を記録した。失業率の低下自体は予数通りも、労働参加率が上昇する中での低下ということで、こちらも好印象となった。

 物価との関連で注目される平均受給も、前月比+0.3%と増加。5か月ぶりの水準となっており、ドル買いに寄与した。

 その他通貨で目立ったのは英ポンドとNZドル。

 ポンドは4日木曜日の英中銀金融政策会合(MPC)後に急落を見せた。今回のMPCは会合結果、議事録に加え、四半期インフレ報告が同時に公表され、30分後にカーニー総裁が会見を行う、いわゆるスーパーサーズデーにあたっており、注目を集めていた。会合は事前見通し通り据え置きを発表。投票結果は6月の5対3から6対2に変わった。これまで強硬に利上げを主張してきたフォーブス委員が6月で退任し、新しく入ったテンレイロ委員が据え置きに回った形。市場ではホールデン理事(チーフエコノミスト)が利上げに回るとの期待が一部であり、発表後の急落に繋がった。

 四半期インフレ報告では、2017年、2018年の経済成長見通し、雇用見通しがともに下方修正され、ポンド売りに繋がった面も。

 NZは、2日に発表された第2四半期雇用統計において、雇用者数が第1四半期から予想外に減少し、一気に売りを誘った。対米ドルでは、ドル全面安の流れに値を戻す場面が見られたが、週末の米雇用統計の好結果で米ドルに買いが入ると、再びNZドル売りが強まり、0.74を割り込むなど、安値圏で週の取引を終えている。

今週の見通し

 神経質な展開が予想される。

 トランプ政権への不信感がドルを買いにくくさせている。要人が相次いで解任された7月後半の状況が重石となっている。

 切り札として起用されたジョン・ケリー首席補佐官(用語説明2)への期待感が見られるが、ロシアゲート疑惑が根強く残っており、ドル買いには慎重姿勢も。

 先週の米経済指標は、金曜日の雇用統計発表まで弱気なものが目立ったが、雇用統計の好結果で持ち直した印象。

 懸念の物価鈍化に関しても、1日のPCEデフレータ、4日の平均時給などが強めに出たことで、警戒感が後退している。

 もっとも、今週は米生産者物価指数・消費者物価指数が控えており、結果次第では懸念が広がる可能性も。特11日の米消費者物価指数に関しては、前回が弱めに出ているだけに、注意が必要。前年比+1.8%と、6月の同1.6%から改善の期待も、予想を下回り前月並みにとどまると、ドル売りが強まる可能性。この場合、ドル円は110円割れをしっかりとトライし、108円台を試す可能性も。 

 今週後半から日本はお盆シーズンとなるが、海外勢も本格的なサマーバケーションに入り、取引参加者が減少する点にも要注意。

 取引参加者が少ない場合、基本的には様子見ムードの中、レンジ取引が主体となるが、経済指標結果や要人発言によって、売り買いが偏ると一気に値が飛ぶことも。基本的には110円台を中心にした取引が予想されるが、政治リスクなどからドル安方向の材料に神経質になっているだけに、一気に値を落とす展開に要注意。109円台半ばを割り込むと、ストップを巻き込んで売りが止まらなくなる可能性も。

 その他注目はユーロドル。1.19の重さが意識されており、大台超えはいったん達成したものの、すぐに値を落とし、頭を押さえられてもみ合った後、米雇用統計の好結果で一気に値を落とした。上値一服感が強まり、1.18台で売りが出てくるようだと、ドル全面安基調は一段落しそう。下方向の大きなポイントは1.16。

用語の解説

大陪審 米国における特徴的な司法制度で、1年以上の禁固・懲役の可能性のある犯罪の疑惑について、一般市民から選ばれた陪審員が、起訴を行うか否かを決定する制度。英国で生まれた制度であるが、現在は米国以外ではほとんど行われていない。連邦裁判の場合、16名から23名の陪審員によって審議・決議が行われ、12名上の賛成で起訴を決定して初めて正式な起訴となる(日本のように検察官の判断だけで起訴を決定することが出来ない)。
ジョン・ケリー首席補佐官 米海兵隊に所属した退役軍人。最終階級は大将。2012年11月から2016年1月まで米南方軍の司令官を務めていた。2016年12月にトランプ大統領によって国土安全保障長官に指名され、2017年1月20日に上院が承認した。2017年7月28日にトランプ大統領は更迭したプリーバス首席補佐官に代わって、ケリー長官を首席補佐官に任ずることを発表。7月31日付で正式に首席補佐官についた
 オバマ政権での国務長官で、2004年の大統領選で民主党の大統領候補となったジョン・ケリー氏とは別人。そもそも、日本語では同姓同名(ミドルネームの頭文字もともにF)だが、英語では綴りが異なる。

今週の注目指標

NZ中銀政策金利発表
8月10日 06:00
☆☆☆
 政策金利であるオフィシャルキャッシュレートは、1.75%の現状維持で市場の見方が一致している。前回の会合でNZ中銀は利上げを急がない姿勢を示しており、その後発表された指標も、8月2日の雇用統計が予想外に雇用減を記録するなど、やや弱めであることから、利上げ余地は小さく、波乱要素は少ない。注目は声明での中銀のNZドル高に対する姿勢。先月20日に同国のジョイス財務相が「NZドル高は強いNZ経済を反映したもの。NZ企業はNZドル高に対応している」などと発言。NZドル高を容認する姿勢を示した。中銀も同様の姿勢を示してくると、NZドルが一気に買われる可能性がある。ターゲットは対米ドルで0.75台半ば。
ダドリーNY連銀総裁 記者会見
8月10日 23:00
☆☆☆
 先月のイエレン議長の議会証言で物価鈍化に対する言及があったことや、FOMC声明で物価の現状判断が下方修正されたことで、年内の利上げ期待がやや後退している。もっとも、6月のFOMCでのドットチャートで示された金利見通しでは、年内あと一回の利上げが見込まれており、市場の見方も分かれている。そうした中、米国の金融政策の実務を担当し、FOMCでは副委員長を務めるダドリーNY連銀総裁が10日に定例の記者会見を実施する。質疑応答の時間も用意されており、金融政策の今後についての見通しが示されると期待される。同氏が利上げに前向きな姿勢を示すと、FOMC内のコンセンサスが年内利上げに向いているとの印象を与え、ドル買いが強まる可能性も。この場合、112円をターゲットにドル高円安が進む可能性も。
米消費者物価指数(CPI)(7月)
8月11日 21:30
☆☆☆
 前回6月分の消費者物価指数は、エネルギー価格の低下もあって前年比+1.6%と予想を下回る弱さを見せた。米FRBはインフレターゲットの対象として、CPIではなく、PCEデフレータを採用しており、他の国に比べてCPIの重要性は低いが、PCEデフレータは統計の性質上集計が複雑で、CPIよりも発表が遅く、水準自体は違うものの変化動向が似ているため、市場ではCPIの方をより重視する傾向がある。先月のイエレン議長の議会証言でのインフレ鈍化についての言及やFOMC声明でのインフレの現状認識の下方修正などをうけて、市場はインフレ動向に注目しているだけに、注意が必要。予想は前年比+1.8%と回復が期待されている。食品・エネルギーを除くコアは前年比+1.7%と6月と同水準。予想を下回った場合、ドル売りにつながる。108円をターゲットに値を落とす可能性も。

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