2017年10月16日号

(2017年10月09日~2017年10月13日)

先週の為替相場

ドル買い優勢も北朝鮮リスク警戒

 

 9日からの市場は、それまでのドル高トレンドが一服し、ドル円は週後半にかけてやや頭の重い展開が見られた。それまでのドル買い円売りトライで113円台の重さが確認され、短期ポジションの調整が入りやすくなっていた。

 ダウ平均株価など米国の主要株価指数が軒並み史上最高値を更新。日経平均が約21年ぶりの高値を付けるなど、主要国の中で株高が一息となっていた日本株も上昇を見せるなど、世界的な株高の動きが加速したが、為替市場への影響は限定的なものにとどまった。

 米国の年内利上げ見通しに関して、FOMC議事録や米消費者物価指数(CPI)などを受けて、期待感がやや後退し、米債利回りが不安定な動きを見せたことも、ドル高一服に寄与した。

 12月のFOMCでの追加利上げが期待される中、注目を集めた9月のFOMC議事録では、参加メンバーの大半が年内の利上げが正当化されると判断と示し、市場の年内の利上げ期待を押し上げる格好となった。しかし、利上げへの最後のハードルとなる物価の鈍化について、多くのメンバーが物価鈍化が一時的なものではない可能性を指摘。予想以上に慎重姿勢がみられるとの印象を与え、発表直後はドル売りが広がる展開を見せた。

 ドル円は議事録発表後に111円台まで下落。その後112円台を回復も、戻りは鈍く、もみ合いとなった。

 13日には、FOMC議事録を受けて注目度がいつも以上に強まった消費者物価指数が、予想を下回る弱い結果と示し、ドル売りがさらに強まる展開に。ドル円は111円台まで値を落として週の取引を終えている。

 16日からの米韓合同軍事演習を前に、北朝鮮が批判を強めており、ミサイル発射の準備に入っているとの報道もあって、ドル売り円買いにつながった面も。

 ユーロはカタルーニャ問題が材料となった。10日に予定されていたカタルーニャ自治州の独立宣言について、同州のプッチダモン首相は宣言を見送り、一時ユーロ買いに。しかしスペイン中央政府はカタルーニャ自治州の自治権剥奪を含む強硬姿勢を崩さず、ユーロは不安定な展開が見られた。

 ポンドはブレグジッドがらみの問題が神経質な動きを誘った。ジョンソン外相との対立などから同問題でのメイ首相の指導力不足が懸念される中、EU側のブレグジッド交渉担当者であるバルニエ主席交渉官(用語説明1)が、交渉に行き詰まっており、解決金交渉は暗礁に乗り上げたと発言し、ポンドが急落する場面が見られた。その後独紙が英国が金銭負担を実施しながら投票権を持たずに2年間暫定的に残留する案を報じたことで、一転してポンド高が進むなど、同問題がらみで大きく相場が振らされる展開に。

今週の見通し

 政治リスクへの警戒感続く。

 16日から20日にかけて行われる米韓合同軍事演習を受けて、北朝鮮リスクが強く意識されている。週末には複数のミサイル発射場での動きが報じられており、示威行動としてのミサイル実験を行う可能性が指摘されている。18日から開催される中国共産党の党大会を前にしたアピールとしてもミサイル実験の可能性が高まる。昨年も党大会前の10月15日にミサイル実験が実施されており、市場の警戒感を誘っている。

 欧州の政治リスクへの警戒も根強い。住民投票で圧倒的に独立が支持されたスペイン・カタルーニャ自治州の独立に向けた動きへの警戒感が継続。スペインのラホイ首相は16日を自治州政府の独立に向けた姿勢の明確化期限を設定し、19日にも自治権を剥奪すると宣言。一方カタルーニャ自治州は独立の意向を覆しておらず、混乱が予想される状況に。

 英国はブレグジッドがらみの警戒感が根強い。ジョンソン外相らとの対立で指導力不足が指摘されているメイ首相は、同問題に関するEUとの交渉に積極的に参加していく姿勢を示しており、今後の進展が期待されるところ。先週時点でEU側のバルニエ主席交渉官が交渉の行き詰まりを示すなど、厳しい状況がどこまで好転してくるか。

 これらの政治リスクはドル安欧州通貨安円高の材料となる。

 ドルを支える材料であった米国の年内利上げ期待も、先週末の米消費者物価指数(CPI)の弱い結果を受けて少し後退してきており、頭の重い展開が続く可能性。

 もっとも、依然として年内の利上げ期待は市場の大勢。FF金利先物動向から計算された12月までの利上げ確率は、80%を超えており、期待感は根強い。下がったところでは買いが出る流れか。

 26日のECB理事会でのテーパリング(用語説明2)期待や、スーパーサーズデーにあたる来月の英中銀金融政策理事会での利上げ決定への期待感から、欧州通貨も下がったところでは買いが出そう。

 短期的には外貨売り円買いの動きが強まったとしても、下がったところでは買いが出て、反発を見せるのではと予想される。

 ドル円は111円台を維持してくると、週の後半にかけて112円台から113円トライに向けて上昇に転じる可能性も。

用語の解説

バルニエ主席交渉官 ミシェル・バルニエMichel Barnier、フランスの政治家。1978年に国民議会議員、環境相などを経て、1999年から2004年まで欧州委員会(ブローディ委員会)で欧州委員(地域政策担当)、2004年から1年間フランスの外務相を務め、2010年から2014年11月まで欧州委員会(バローゾ委員会)で欧州委員(域内市場・サービス担当)。2010年から2015年まで欧州議会内の多国籍政党で、メルケル・ドイツ首相やラホイ・スペイン首相などもメンバーとなっているEPP(欧州人民党)の副党首を務めた欧州を代表する政治家の1人。2016年からイギリスのEU離脱に関するEU側の主席交渉官を務めている。
テーパリング Tapering、Taperとは細いロウソクのこと、さらに転じて先細りなどの意味がある。金融用語としては、量的緩和の縮小を指している。中央銀行が市中の債券を購入して実施する量的緩和策は、一気に購入額をゼロにすると、市場の混乱が大きくなることから、徐々に購入額を減らして、廃止に向かう動きを示す。この徐々に購入額を減らす行為をテーパリングと呼ぶ。

今週の注目指標

英消費者物価指数(CPI)(9月)
10月17日 17:30
☆☆☆
 11月の英中銀金融政策会合(MPC)は、会合結果・議事要旨に加えて四半期インフレ報告と総裁会見が行われるスーパーサーズデーに当たっており、金融政策の変更が起こりやすい回にあたっている。このところの英経済の回復動向、物価の上昇傾向から、10年超ぶりとなる利上げの実施が期待されており、注目が集まっている。前回9月のMPCでは9名の委員のうち2名が利上げ、7名が据え置きに投票し、据え置きが決定した。しかし、その後据え置きに投票した複数の委員から早期の利上げに前向きな発言が出てきており、今回の会合で利上げを決定する可能性は高い。もっともハト派(利上げに慎重派)といわれるブリハ委員なども含め全会一致での利上げまで意識されており、その場合ポンドは大きく買われる可能性も。対ドルで1.35の大台を意識する展開まで期待されるところ。
中国共産党第19回全国代表大会
10月18日から
☆☆☆
 5年に一度行われる中国共産党の党大会、第19回全国代表大会(19大)が10月18日から約1週間行われる。中国共産党の最高意思決定機関であり、党の指導者である常務委員会委員の7名が決定されることからも、世界的な注目を集めるイベントとなっている。習近平国家主席や李克強首相の続投はほぼ確定的で、焦点は王岐山党中央規律検査委員会主任が留任するかどうか。不文律といわれる68歳以上のメンバーは委員会入りしないという原則に従うと、現在69歳の王氏は留任できない。しかし、右腕といわれる同氏が外れると、習体制が弱体化するとの懸念があり、リスク警戒につながる可能性も。中国の政治不安は豪ドルなどのオセアニア通貨売りにつながるだけに要注意。豪ドル円は87円割れを意識も。
豪雇用統計(9月)
10月19日 09:30
☆☆☆
 雇用者数が予想を大きく超える増加を見せ、豪ドル買いを誘った豪雇用統計。雇用増の内訳も正規雇用が中心の力強いものとなり、豪労働市場の力強さを印象付けた。もっとも、今回は反動もあって雇用増は鈍化する見込み。事前見通しは1.5万人の増加と、前回の5.42万人からかなり伸びが鈍る。もっとも、予想前後の数字としても、強すぎた前回の数字からさらに労働者が増加しており、豪州の雇用市場の力強さが印象的に。豪ドルにとっては買い材料となり、豪ドル円は89円を目指す期待も。

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