2017年10月30日号

(2017年10月23日~2017年10月27日)

先週の為替相場

ドル高強まる展開

 23日からのドル円相場は、ドル高の動きが強まり、一時114円45銭を付ける展開がみられた。

 米税制改革への期待感がドルを支えている。20日に上院で予算決議案が通過した後、先週は下院でも同じく予算決議案が通過。この後の税制改革での減税の実現に向けた期待感が広がり、ドル高米株高を誘った。

 また、注目されている次期FRB議長人事に関して、テイラー・ルールで知られるスタンフォード大学のテイラー教授が優勢との見通しが、週の前半に報じられた。同教授のタカ派的な姿勢から、来年以降の利上げ基調の加速が期待されてドル買いが強まった面もあった。

 もっとも、同材料に関しては、金曜日にもう一人の有力候補パウエルFRB理事(用語説明1)が有力との報道でドル売りが入るなど、かなり神経質な展開。パウエル氏はFRB理事の中では本来中立派で、ハト派的な人物ではない。しかし、テイラー教授がタカ派的なだけに、対比としてドル売りとなっている。イエレン議長留任の可能性はまだ残るが可能性は低くなっており、その他は候補を外れ、実質テイラー氏、パウエル氏の両名のどちらかとみられている。なお、正副議長として両名を指名する可能性もある。

 米経済指標もドル高を支えた。金曜日の米第3四半期GDPは前期比年率3.0%と、予想を大きく上回る好結果。前期の3.1%に次ぐ高水準で、ドル買いが加速し、ドル円が週の高値を付けるなどの動きに。金曜日はGDPで高値を付けた後、パウエル理事が次期FRB議長に有力との報道で値を落として週の取引を終えている。

 その他通貨で売り材料が頻発したことも、ドル全面高に寄与した。

 週初は衆院選での自公勢力の勝利が、アベノミクス継続期待からのリスク選好を誘い、円売りに寄与。114円台を付ける動きとなった。もっとも、大台超えでは利益確定の動きが優勢で、値を落とした。

 火曜日にはNZドル売り米ドル買いの動き。連立交渉の結果、第一党である国民党を押さえ、労働党、NZファースト、緑の党の連立政権樹立が決まり、新首相となるアーダーン労働党党首が会見。選挙時の姿勢から懸念されていた財政支出拡大に関して、財政均衡への責任を負うことを示し、いったんはNZドル買いが入る場面が見られた。だが、NZ中銀の責務に雇用の最大化を追加する可能性を示したことで、一転してNZドル売りに。緩和政策長期化懸念が一気に強まり、さらにNZドル売りを誘った。

 25日の豪第3四半期消費者物価指数(CPI)の弱さが豪ドル売り米ドル買いを誘った。豪CPIは前期比+1.8%と、前期の+1.9%から低下。予想は+2.0%と上昇見込みだっただけに、インパクトのある結果となった。これを受けて豪中銀の緩和姿勢が当面継続し、利上げ時期が見えないとの見通しが強まり、豪ドル買いに。

 豪州に関しては、27日に豪高等裁判所が、二重国籍問題(用語説明2)が取りざたされた5名の議員について、憲法規定により議員資格はないとの判断を示し、ジョイス副首相を含めた3名が議会を去った(残り二名は7月時点で辞任済み)。これを受けて与党は下院で過半数割れとなった。こうした状況を受けて豪ドルは売りが加速する場面がみられた。

 25日のカナダ中銀金融政策会合は、事前見通し通り政策金利の現状維持を発表。中銀は、今後の経済成長見通しを引き上げたものの、インフレ目標の到達時期見通しを先延ばしした。NAFTA再交渉の不透明感にも言及して、追加利上げに慎重な姿勢を強調。それらにより、カナダ売りドル買いが入る展開がみられた。

 26日のECB理事会では、焦点となった量的緩和(年末まで月額600億ユーロの債券購入)について、購入額を月額300億ユーロに減額の上、9月末まで延長することを示した。額・時期については今後の動向次第で見直す姿勢を示したが、その後の会見でドラギ総裁は少なくとも9月まで延長することを示し、その後の延長の可能性を示したこともあり、ユーロ売りドル買いの流れが強まった。

今週の見通し

 イベントの多い週だけに、次の流れを意識する展開となりそう。

 今週は日本、米国、英国で金融政策を決める会合が開かれ、金曜日には米雇用統計が控える注目材料の多い週となっている。また、今後の大きな流れにつながる可能性のある次期FRB議長人事も今週中には決定の見込みとなっている。

 そうした中、基調はドル買いの継続と見ている。

 先週金曜日の米第3四半期GDP速報値が予想を上回って、二期連続で前期比3%台に乗せる高水準を記録したように、米経済の状況は基本的に良好。

 米両院で予算決議案が通過したことで、トランポノミクスの柱の一つ、大規模な減税に向けた動きも加速してくると期待されることもドル買いに寄与してきそう。

 ただ、パウエルFRB理事が議長に就任した場合はいったんドル売りのリスク。同理事は目立ったハト派でもなく、本来はドル売り材料ではないはず。だが、実質二名に絞られた中での対抗馬テイラー教授のタカ派的な印象が強すぎるため、テイラー教授が就任とならなかったからドル売りという流れに。

 もっとも、金融規制改革などに前向きなパウエル理事が議長に就任することで、株式市場などへの好影響が出ると期待される。

 長く理事を務めてきた人物だけに、実際の運営面での不安も解消され、中期的にはドル買い材料に。

 ドル円は113円台での推移を中心に114円台に再び乗せる可能性が高そう。テイラー教授が次期FRB議長に就任した場合は、もう一段上、115円台を意識する流れになる可能性も。パウエル理事が議長に就任した場合は、短期的には113円割れも、その後114円台への回復を期待。

 ユーロはカタルーニャ問題への警戒が強まりそう。独立宣言を行ったカタルーニャ自治州に対して、スペイン政府は自治権を剥奪し、ラホイ首相の直接統治となる権限を首相に付与。週末には独立賛成派・反対派ともに大規模なデモを行っており、当面は不安定な展開が予想される。ユーロ買いには慎重な姿勢が見られそう。対ドルで1.15割れを試す可能性も。

 先週は政治情勢などが売りを誘った豪ドルとNZドルは、少し落ち着くか。豪州は二重国籍問題で5名の議員の資格が剥奪され、与党が下院で過半数を失うという状況に陥った。もっとも、今回議席を失ったジョイス副首相は、8月に二重国籍問題を解消しており、12月の補選で勝利し、あっさりと元の状況に戻る可能性。NZは連立によって新首相に就任するアーダーン党首が、中銀に対して雇用の最大化を求める姿勢を示したことで、NZドル売りが広がった。今後は新党首の姿勢次第の面も。

 豪ドル円は86円台半ばがサポートに、NZドル円は77円割れもありそうだが、突っ込んだ動きには注意したい。

用語の解説

パウエル理事  Jerome H. Powell、プリンストン大学からジョージタウン大学ローセンターに進み、法務博士(J.D)を取得。投資銀行ディロン・リードを経て、ジョージ・H・W・ブッシュ(パパブッシュ)政権で財務次官を務めた。その後、プライベート・エクイティ・ファンドのカーライルを経て、2012年からFRB理事を務めている。金融規制については、「規制の強化が常に最適な回答ではない」と発言するなど、規制緩和に前向きな姿勢を示している。政策金利見通しについては、中立派といわれているが、理事就任後、議長提案に反対したことが一度もなく、イエレン議長の見通しに比較的近いとも言われている。
豪二重国籍問題 移民国家である豪州は、二重国籍に寛容といわれ、国民の6人に1人にあたる約400万人が二重国籍であるといわれている。しかし、連邦議会の議員になることは同国憲法第44条1項において禁じられている。7月の時点で、野党緑の党の副党首であったラドラム上院議員とウォーターズ上院議員が同問題を受けて辞任。今回、豪州高等裁判所は両名を含む5名の議員(ジョイス副首相・下院議員、ナッシュ上院議員、ロバーツ上院議員)について、当選時に二重国籍であり、議員資格はないと判断した。豪下院において与党(自由党・国民党連合)は、過半数をわずか1議席上回っているだけであったため、ジョイス副首相の失職で、過半数を失った。ジョイス副首相は8月時点で同問題の元となったNZ国籍を放棄しており、12月の補選に出ることが可能。当選した場合、与党は再び過半数を獲得する。

今週の注目指標

米連邦公開市場委員会(FOMC)
11月02日 03:00
☆☆☆
 金利先物市場動向から割り出した年内の追加利上げ確率は、CMEFEDWATCHによると98.2%と、利上げがほぼ確定的となっているが、今週のFOMCでの利上げ見通しはほとんどなく、12月12日、13日開催のFOMCでの実施が見込まれている。今回はFOMCメンバーによる経済・物価・金利見通しもなく、イエレン議長の会見も予定されていない回にあたっており、注目は声明の内容となりそう。12月の利上げ実施について、どこまではっきりと市場に示してくるか、また、来年以降の金利動向についてどのように表現してくるのかが、ポイントとなりそう。イエレン議長に任期は来年2月3日までで、(留任しない場合)来年1月30日、31日のFOMCが最後となるため、先行きについてはあまりしっかりとは示してこない可能性が高い。しかし、今後の利上げ継続を意識されるような表現があると、ドル買いにつながる場合も。ドル円は114円台にしっかりと乗ってくると期待される。
英中銀金融政策会合(MPC)
11月02日 21:00
☆☆☆
 今週の英中銀MPCは、結果に加え議事録と四半期インフレ報告が同時に発表され、会合後の総裁会見が予定されている、いわゆるスーパーサーズデーにあたっている。直近の物価上昇傾向から、利上げ見通しが強い英国にとって、今回の会合が利上げ実施のタイミングとしてふさわしいという見方が強く、9年超ぶりに英中銀が利上げに踏み切る可能性が高い。9名のメンバーのうち、2名は以前から利上げに投票している。ホールデン理事(チーフエコノミスト)なども利上げに強い意欲を示しており、早期の利上げに比較的前向きなカーニー総裁などの賛成があると、利上げが実施される可能性が高い。もっとも、カンリフとラムスデンという二人の副総裁は利上げに否定的で、据え置きとなる可能性も残されている。市場は利上げを織り込みつつあり、据え置きとなった場合、サプライズ的に大きなポンド売りに。ポンド円は147円を割り込むような大きな下げが見込まれる。利上げ実施の場合予想通りで反応は限定的も、150円超えを試す程度の買いは期待できそう。
米雇用統計(10月)
11月03日 21:00 
☆☆☆
 前回9月分の雇用統計は非農業部門雇用者数(NFP)が予想外に前月比マイナスまで落ち込んだ。もっとも、ハリケーンの影響が大きい特殊事情によるものとの見方が広がり、否定的な見方は少なかった。一方で平均時給は前月比+0.5%、前年比+2.9%と強めの結果となり、こちらを好感してドル買いが強まった。今回はNFPが前回の反動で+31.0万人と強めの数字に。もっとも、こちらも特殊事情として反応は限定的か。平均時給が前月比+0.2%、前年比+2.7%と前回から鈍化見込み。ただ、前月比は前回の強めの数字からのプラスということで、予想通りに出てくると、ドル買いに作用する可能性も。ドル円は114円台をしっかりと回復するきっかけとなりそう。

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