2017年12月11日号

(2017年12月04日~2017年12月08日)

先週の為替相場

ドル高優勢、税制改革への期待感が支え

 4日からのドル円相場は、ドル高円安の流れが強まり、ドル円は113円台半ばを超える動きを見せた。

 米税制改革への期待感がドルを支える展開。2日に米上院本会議で税制改革法案が可決されたことを好感して、週初からドル買いが強まる展開となった。すでに可決している下院案とはかなりの差異があり、両院協議会での調整が難航すると見られている。だが、30年ぶりの大改革に向けて、状況が進展したことに対する期待感がドル買いを誘っている。

 6日にトランプ大統領がイスラエルの首都をエルサレムと公式認定(用語説明1)し、現在テルアビブにある大使館をエルサレムに移転する意向を示した。1995年に米議会はイスラエルの首都をエルサレムとする認定を可決しているが、歴代の大統領が中東情勢への懸念などから、移転凍結文書に半年ごとに署名していた。トランプ大統領は、今年6月時点では署名を行ったが、12月の署名時期を前にして、凍結への署名を拒否する姿勢を示した。これにより、ドル円が112円を一時割り込むなど、ドル安の動きが一時強まった。

 もっとも、その後の海外市場で堅調な株式市場動向などを受けて、警戒感が後退し、再びドル高円安に。

 7日にはトランプ大統領が一般教書演説(来年1月30日)までにはインフラ計画を提示すること発表し、こちらもドル買いに。税制改革法案と合わせ、政府主導での米経済の成長期待がドル買いを誘っている。

 注目された8日の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が予想を上回り、節目の20万人増を超えてきたものの、平均時給が予想を下回る結果に。発表直後の振幅を経て、平均時給の弱さを受けて、低インフレ長期化懸念でドル売りに。もっとも113円台を維持するなど、下値は限定的で、その後8日NY市場午後には値を戻した。

 その他通貨で目立ったのはポンド。

 ブレグジット交渉の進展が期待されて週初からポンド買いに。しかし、期待された4日のメイ英首相とユンケル欧州委員長との会談での離脱条件の合意は、アイルランドの国境問題を争点にまとまらず、いったんはポンド売り。その後、同問題での合意が進み、週後半にかけて再びポンド買い。金曜日には合意が正式に成立も、その前に織り込みが済みだったこともあり、合意発表後は利益確定売りにポンド売りが進むなど、不安定な展開が続いた。

 その他目立ったのは6日のカナダの急落。この日行われたカナダ中銀金融政策会合では、事前見通し通り金利の据え置きが決定された。その際の声明では、前回の会合同様に利上げに対して慎重になるとの文言が示された上に、雇用情勢に関してはスラック(需給のゆるみ)があると表現。先日の雇用統計で失業率が約20年ぶりの低水準となり、雇用者数も予想をはるかに超える高水準となった。これにより、期待が広がった表現の上方修正が見られず、カナダ売りに。

今週の見通し

 FOMCなど重要イベントが目白押しも、基調はドル買いと期待される。

 今週は12日、13日に米連邦公開市場委員会(FOMC)。14日に英中銀、ECBの政策金利発表、米小売売上、14日、15日にEU首脳会議など、重要なイベントが目白押しとなっている。

 もっとも注目されるFOMCでは、今年3度目の利上げがほぼ確定的。利上げを見送るとサプライズのドル売りもあるが、可能性は低そう。

 利上げが実施されても、織り込み済みで市場の反応は一息と見られ、注目は声明と参加メンバーによる経済成長、物価、雇用、政策金利見通し(プロジェクション)となりそう。

 政策金利については、前回9月に公表されたプロジェクションの中の、各メンバーの年末時点での金利見通しをドットで示したドットプロット(用語説明2)において、来年中3回の利上げが見込まれていた。しかし、現在の金利市場などでの織り込みは、来年中1回から2回の利上げが大勢となっており、FOMCでの見通しとの乖離がある。

 こうした乖離がどこまで調整されているのかが注目される。前回の9月時点でのドットプロットでは、今回の利上げすら見送り、来年末時点でも現行の1.00%-1.25%が続くと予想していたメンバーがおり、今回ほぼ確実視されている利上げを受けて、見通しの上方修正が不可避となっているだけに、乖離が逆に広がる可能性もある。この場合、市場の来年中の金利見通しが上方修正され、ドル買いにつながる可能性も。115円に向けた動きも期待されるところ。

 もっとも、イエレン議長の下でのFOMCは来年1月末で最後となり、来年最初の利上げが期待される3月以降のFOMCはパウエル次期議長の下でのFOMCとなるだけに、今回時点での見通しをそれほど重視してこない可能性もある。この場合、ドル買いの流れは継続も値幅は限定的で113円台での推移が続きそう。

 今週のEU首脳会議でブレグジットに関する通商問題の協議がスタートすると期待される英ポンドは、不安定な展開が続きそう。離脱条件協議以上に難航が予想されるだけに、すぐには材料となりにくいか。

 前向き発言などで期待感が強まると、9月に付けた対ドルでの高値1.36台半ばが意識される展開も。

用語の解説

エルサレムの首都認定 イスラエルは1949年の第一次中東戦争の休戦協定で西エルサレムを占領した後、1950年に議会でエルサレムを首都と定め、建国初期に首都機能があったテルアビブからエルサレムに議会などの首都機能を移転した。1967年の第三次中東戦争でヨルダンが収めていた東エルサレムを実効支配すると、1980年に統一エルサレムを首都とすると議会で定めた。国連は東エルサレムの実効支配を批判し、エルサレムを首都と認めないとの安保理決議を可決。第3次中東戦争までエルサレムに大使館を置いていた国も、テルアビブに大使館を移転している。米国は1995年にエルサレムを首都とする議案を議会で可決(安保理決議については米国は棄権している)。大使館などもエルサレムに移転することとなっていたが、歴代の大統領は国際情勢を勘案して移転凍結書面に半年ごとに署名する形で、移転を先送り続けてきた。トランプ大統領は今年6月時点では移転凍結書面に署名したが、12月時点での署名を拒否する姿勢を示した。
ドットプロット 年8回開催されるFOMCのうち、半分の4回で、FOMC参加メンバー(議長・副議長を含む常任理事と投票権の有無にかかわらず地区連銀総裁全員)によるGDP成長率、失業率、物価(PCEデフレータ)、政策金利の年末(当該年含む3~4年)及び長期の予想を示したプロジェクションを発表する。中央値、中央レンジ、全体のレンジに加え、政策金利については各メンバーの予想した水準を、グラフ上にドット(点)で表したドットプロットが公表される。前回時点で今年年末(今週のFOMC後)時点での金利見通しは、現行の1.00%-1.25%が4名、1.25%-1.50%が11名、1.50%-1.75%が1名となっている。1.25%-1.50%への変更がほぼ確実視されており、4名が上方に、1名が下方に今年年末時点での金利水準認識を修正することとなる。

今週の注目指標

米FOMC
12月14日 04:00
☆☆☆
 米国の金融政策を決定する連邦公開市場委員会(FOMC)が、12日、13日に開催される。今回のFOMCは年8回のFOMCのうち半分の4回で実施される参加メンバーによる見通し(プロジェクション)の発表と、議長会見のある回にあたっており、金融政策の変更が起こりやすい回として注目されてきた。現状の物価・経済状況から今回のFOMCでの利上げ実施はほぼ織り込まれている状況。注目はイエレン議長の声明とプロジェクションになりそう。次回1月末のFOMCでは会見予定がないため、イエレン議長がFOMCで会見を行うのは、今回が最後となる見込み。イエレン議長は利上げ後も慎重な姿勢を崩さないと見られ、パウエル次期議長との政策の継続性を強調すると期待される。プロジェクションでは来年の金利見通しに加え、物価見通しなどが注目される。現状では前年比1.9%とされている来年末時点での物価水準(PCEデフレータおよび同コアデフレータ)であるが、下方修正されるようだと、来年中の追加利上げ期待が後退し、ドル売りが強まる可能性も。ドル円は112円台に値を落とす可能性も。
ECB理事会
12月14日 21:45
☆☆☆
 14日に、英中銀金融政策会合とECB理事会の結果発表が行われる。ともに金融政策は現状維持の見込み。ECB理事会は10月の理事会で来年1月から債券買い入れ額を現行の月額600億ユーロから300億ユーロに縮小し、少なくとも来年9月まで延長することを決定しており、今回は変更余地がない。ドラギ総裁の会見も波乱要素は少なそう。現行では影響が未知数と、言及を避けているブレグジットに関して、英国とEUとの交渉が進展してきており、何らかのコメントが出てくるかなどが注目材料。ユーロは対ドルで1.17-1.19のレンジでの安定した動きが続くと予想される。
EU首脳会議
12月14日
☆☆☆
 欧州連合は14日、15日に本部のあるブリュッセルでEU首脳会議を行う。ブレグジット問題に関して、離脱条件で先週合意したことを受けて、今回の会議から本線である通商問題の交渉が始まる。2019年3月の離脱に向けて、来年2月か3月ごろまでには詳細な交渉指針で合意する必要があるといわれているが、離脱条件交渉以上に難航が予想されており、厳しい交渉が予想されている。英国側は、離脱について2019年3月までの条件合意が厳しいと、移行期間を設ける交渉を行う可能性もある。通商条件の提示や延期提案などを含め、ブレグジット交渉の行方が注目されている。交渉が前向きに進んでいる印象が生じると、ポンドにとっては買い材料に。ポンド円は直近高値の153円台前半を超えて、155円をターゲットとする可能性も。

auじぶん銀行外貨預金口座をお持ちのお客さま

ログイン後、外貨預金メニューからお取引いただけます

免責事項

本レポートは株式会社時事通信社が提供しています。また本レポートの内容は、株式会社時事通信社が提供する情報をもとに、株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイドが執筆しています。本レポートは、情報提供のみを目的にしたもので、売買の勧誘を目的としたものではありません。投資決定に当たっては、投資家ご自身のご判断でなされますようお願いいたします。株式会社時事通信社、株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイドおよび情報提供元は、本レポートに記載されているいずれの情報についても、その信頼性、正確性または完全性について保証するものではありません。また本レポートに基づいて被った損害・損失についても何ら責任を負いません。本レポートに掲載されている情報の著作権は、株式会社時事通信社および株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイドに帰属します。本レポートに掲載されている情報を株式会社時事通信社の許諾なしに転用、複製、複写等することはできません。

Copyright(C) JIJI Press Ltd. All rights reserved.

auじぶん銀行からのご注意

  • 本画面に掲載されている情報は、auじぶん銀行の見解を代弁したものではなく、auじぶん銀行がその正確性、完全性を保証するものではありません。

以上の点をご了承のうえ、ご利用ください。