2017年12月18日号
先週の為替相場
週半ばからドル売り強まる
11日からのドル円相場は、週の半ばから、それまでのドル高円安基調に対する調整の動きが優勢となり、ドル円は一時112円ちょうど近くまで売り込まれる展開となった。
週の前半はドル高基調が継続。米税制改革法案への期待感などが支えとなる形で、113円台での推移が続き、12日NY市場で米生産者物価の好結果を受けて前週の高値を上回るところまで買いが出るなどの動きが見られた。
しかし、13日に一転してドル売りが強まる展開に。
12日に行われたアラバマ州での連邦上院補欠選挙は、現地時間午後7時、日本時間13日午前10時に締め切られ、即時開票に。日本時間で昼頃まではかなりの接戦が見られたが、同日午後には民主党のジョーンズ候補の勝利が確定した。同議席は今年2月に司法長官に就任するために辞任した共和党のセッションズ氏が獲得した議席で、同市辞任後は暫定的にストレンジ氏が議員職に就いていたため、ジョーンズ氏の勝利で上院の勢力がそれまでの共和党52対民主党48から共和党51対民主党49へと差が縮まった。上院は同数の場合副大統領のタイブレーク(用語説明1)となるため、共和党にとっては同数までは問題ない。だが、今後の税制改革法案などで、造反者の出る余地がそれまでの2名から1名に減ったことで、調整が困難になるとの思惑から、ドル売りが優勢となった。
また、13日の午後10時半に発表された米消費者物価指数(CPI)において、食品とエネルギーを除いたコア部分が予想外に鈍化。CPIは米国のインフレターゲット対象ではないが、対象となるPCE及び同コアと同様の動きを示すこともある。CPIコアの鈍化は物価鈍化傾向の継続と来年の追加利上げ期待後退を誘い、一気に113円を割りこむなどドル売りの動きが見られた。
12日、13日のFOMC(結果発表日本時間14日午前4時)は、事前見通し通り金利の据え置きを発表。注目された参加メンバーによる経済・金利見通しでは、経済成長が上方修正、失業率が下方修正と強めの見通しも、物価見通しが据え置かれたことでドル売り基調が継続した。
14日のNY市場では、税制改革法案の上下両院協議会(用語説明2)の暫定合意が見られ、法案成立が一歩前に進んだが、上院で反対者が出たことなどから、この時間帯の材料とはならず。
15日にかけて112円ちょうど近くまで値を落とすなど、ドル安圏での推移。
15日のNY市場では、税制改革法案への期待感などから買いが入り、112円台後半を回復して週の取引を終えている。
その他目立ったのが豪ドルとNZドルの買い。
豪ドルは14日の雇用統計で雇用者数が予想の1.9万人増を大きく上回る6.16万人増を記録。日本の10分の1程度の人口しかいない国の増加幅としてはかなり大きいこともあり、一気に豪ドル買いに。
週末にかけては豪州の最大の輸出品目である鉄鉱石の国際価格が上昇し、豪ドルを支える格好となった。対米ドルで週前半に0.75台前半での推移していた豪ドルは0.76台後半まで。
NZドルは、NZ政府が中銀の新総裁に元副総裁のロア氏を指名したことで買いが入った。9月の総選挙で誕生した新政権は、中銀の責務に雇用の最大化を加えることを求めるなど、中銀への注文が多くなる中で、新総裁人事が注目されていた。実績のある経験者が新総裁として指名されたことで、市場に安心感が広がった。就任は来年3月。
今週の見通し
基調はドル買いもクリスマスウィークだけに無理は禁物。
来週月曜日がクリスマスということで、海外の取引参加者が休暇などに入るケースが目立ち、1年の中で取引が最も低調になる週に。
米税制改革法案が早ければ19日にも両院を通過する見通しが広がっていることで、ドル買いの基調は継続も、突っ込んだ売り買いには慎重姿勢が見られそう。
特に週の後半は取引が閑散となる見込みで、基本的には様子見ムードか。
先週末にダウ平均株価が史上最高値を更新するなど、株高の動きが続いており、リスク選好での円安も継続の期待。ドル円は113円超えを意識する展開も、そこからさらに上昇していくには勢いに欠ける展開か。上値トライを意識しながらの112円台半ばから113円台にかけてのレンジ取引が中心となりそう。
来年に向けての大きな流れはクリスマス明けに期待。
ユーロはECBの経済成長見通し引き上げにもみられるように、景気動向がしっかりも、ドル高の勢いが強く、対ドルでは頭の重い展開に。もっとも、突っ込んだ売りが入る流れでもなく、レンジ取引が中心に。
ポンドはブレグジット交渉における第二段階の状況を確認しながらの動きに。先週のEU首脳会議で、第二段階の交渉に入ることが決まった。同交渉では、通商条件の交渉が中心となるため、これまで以上に厳しいものとなる予想。すぐに結果が出るものではないため、現水準近辺でのもみ合いが中心となりそう。
オセアニア通貨は基本的にしっかりの展開。商品市場が回復傾向を見せていることが、資源国通貨買いを誘っている。豪ドルは対米ドルで0.77が大きなポイントに。クリスマスウィークに大台超えは厳しいものの、クリスマス明けをにらんで堅調な地合いが続きそう。
用語の解説
タイブレーク | 米国の上院は定数が100名となっており、50対50の同数となった場合は、上院議長を兼ねる副大統領による決裁票で議案の可決・否決が決まる。この決裁票のことをタイブレーク(tie break)もしくはタイブレーキングボート(tie breaking vote・均衡を破る票)と呼ぶ。 米国では三権の分立が厳格に決められており、大統領・副大統領および各省長官は議会で議席を持つことはできない(議員がこれらの職務につく際には議員を辞職する)。よって、副大統領は上院の議長を兼ねているものの、議会での議事に参加したり、通常の採決に参加することは無い(通常の議長業務は上院仮議長代行が執り行う)。そのため、副大統領の裁決は上院での票が同数になった場合のタイブレークに限られている。 |
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両院協議会 | 米国の上院と下院は基本的に両院対等が原則となっている(下院には条約批准や連邦人事の権限が無いなど、一部で権限が劣る)。法案提出については、上院・下院どちらが先に審議しても構わず、類似した法案について両院それぞれの独自案を審議する場合もある。法案の成立は両院で可決して大統領が認可する必要があるため、類似した法案をそれぞれ可決した場合、非公式の協議会で調整を行う。これを両院協議会と呼ぶ。差異を修正した修正案を上下両院で可決し、大統領が認可して初めて成立となる。なお、統一された予算関連法案を上下両院で通す場合、下院に先議権があり、下院からの採決となる。ただし、日本の衆院のように優先権は無く、あくまで先に議決する権利であるため、上下両院ともに可決する必要がある。 |
今週の注目指標
日本銀行金融政策決定会合 12月20日、21日 ☆☆☆ | 現行の長短金利操作付量的・質的緩和の継続は確定的。注目は声明と会合後の黒田総裁の会見となっている。直近の会合では9月から加わった片岡委員が追加緩和を求めて反対に回っており、今回の会合でも同じ立場を継続すると見られている。直近の全国消費者物価指数は前年比+0.2%、生鮮食料品除くコアでも同+0.8%と、依然として低迷傾向。前回会合での展望レポートでも物価については2017年度について幾分下振れと、物価が見通しを下回っていることを認めており、今回の会合での声明や総裁会見で追加緩和を行わないことに関するより詳しい説明が出てくるのではとの期待が一部である。先月、黒田総裁はスイスでの講演で「金利を下げすぎると、預貸金利の利ざや縮小によって銀行の自己資本規制への対応が厳しくなり、金融緩和の効果が却って反転(リバース)する」という、いわゆるリバーサルレートについて発言。市場の反応が大きかったことで、その後あくまで理論を説明しただけと反応に対する火消しを行った。今回の会見などで同発言への質問などが出てくると、市場は神経質に反応する可能性がある。低金利への警戒を示すと円高が強まり、ドル円は112円割れを試す可能性。 |
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カタルーニャ州選挙 12月21日 ☆☆ | 独立問題が話題となったスペイン・カタルーニャ州の州議会選挙が21日に実施され、同日開票される。事前の世論調査を見ると、独立派と反独立派の支持率は拮抗しており、ともに過半数(68議席)を確保できない可能性が高い。反独立派のシウダダノスがやや優勢で、第1党を確保の見込み、独立派のERCが僅差で続くと見られ、左派政党ポデモスが連立の行方を握りそう。同党は独立には反対も住民投票の実施を求めており、どちらとも連立の余地がある。独立派が第1党になるもしくは連立協議で優位に立つなど、独立への機運が再び強まるようだと、リスク警戒からのユーロ売りを誘う可能性。ユーロドルは1.17割れを試しそう。 |
米PCEデフレータ 12月22日 22:30 ☆☆☆ | 米国のインフレターゲットの対象であるPCEデフレータ(11月)が22日に発表される。同様の指標である消費者物価指数(CPI)の11月分はすでに発表されており、前年比+2.2%と10月分より上昇したものの、食品・エネルギーを除くコアは前年比1.7%と10月分から予想外に鈍化を見せた。PCEデフレータはCPIよりも低く出る傾向があるが、ともに消費段階での物価であるため、動きは似通る。今回は前年比+1.8%とCPI同様に10月分より上昇。同コアは前年比+1.5%とこちらも上昇の期待となっている。CPI同様にコアが鈍化もしくは横ばいにとどまると、インフレターゲットである2%が遠いとの印象が強まり、ドル売りにつながる可能性も。ドル円は111円台を試す場合も。 |
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