2018年02月13日号
先週の為替相場
米株式市場動向に振り回される
5日からのドル円相場は、二度の大幅安を記録した米株式市場動向に振り回される展開となった。
2日のNY市場でダウ平均株価が一時700ドル超の下げを記録したNY株式市場。週明けの月曜日に株安の動きがさらに強まり、ザラ場での史上最大の下げ幅の記録を大きく更新する1600ドル超の暴落を記録。終値ベースでもこれまでの記録を400ドル以上上回る1175ドルの下げとなった。株式市場と為替市場の連動はそこまで大きなものではなく、2日の株安に対する反応は限定的なものにとどまっていたが、週明けの暴落にはさすがにリスク警戒の動きが強まり、ドル円は108円台半ば割れまで値を落とす展開に。
その後、株安の動きが収まると、ドル円、クロス円は買い戻しの動きが優勢となり、ドル円は109円台後半まで回復。しかし8日のNY株式市場でダウが再び1000ドル超の大幅安となり、リスク警戒の動きが強まる中でドル円は108円台へ値を落とした。
週明け137円近辺で始まったユーロ円は、5日のNY株安に134円近辺まで値を落とし、いったん136円手前まで買い戻しも、週末にかけて132円割れを付けるなど、安値を更新する展開に。
豪ドル円が87円台半ばから84円台を付けるなど、クロス円全般に下げが目立つ展開となった。
スーパーサーズデーとなった8日の英中銀金融政策会合(MPC)で、今後の利上げ時期の見通しについて前倒しを発表した英ポンドは、対ドルで1.38台から1.40台後半を付けるなど、ポンド買いが一気に進む場面が見られた。しかし、すぐに値を落とし、その後ポンド安ドル高が優勢となるなど、こちらもドル高基調が優勢に。
6日の豪中銀金融政策理事会は、事前見通し通り政策金利の現状維持を決定。声明なども目立った変化がなく、市場の反応は限定的。
8日のNZ中銀金融政策理事会では、政策金利こそ事前見通しのとおり現状維持も、声明においてインフレ目標達成見込みを先送りし、NZドル売りが強まる展開に。NZの利上げ期待が後退したことで、対米ドルとの金利差縮小及び今後の金利差逆転への警戒感が広がった。対米ドルで0.7350近辺を付けていたNZドルは0.71台まで大きく値を落とす展開に。その後は調整が入ったものの0.72台半ばでのもみ合いと、理事会前の水準まで戻しきれず。
今週の見通し
警戒感が残る展開が当面続きそう。
米国株についてはトランプ大統領が予算教書(用語説明1)で積極的なインフラ投資姿勢を示したことなども買い材料となっており、大きく崩れる可能性はそれほど高くない。
ただ、先週の下げにしても、米金利上昇というきっかけはあったも。しかし、史上最大の下げを記録するまでの材料とはいえず、理由なき暴落という一面があっただけに、市場の警戒感が払拭しきれていない。
ドル円、クロス円の買いには当面慎重な姿勢が見られると予想され、下値リスクが高い展開に。
もっとも、今週は米、英で重要な指標発表が控えている。今年の大きなテーマが各国の金融引き締めへの動き。昨年3度の利上げを実施し、今年も同数もしくはそれ以上の利上げの可能性が意識されている米国と、昨年11月に10年ぶりの利上げに踏み切った英国において、利上げのカギを握ると言われる物価関連指標の発表がある。
英国はインフレターゲット(用語説明2)の対象である消費者物価指数に加え、生産者物価指数、小売物価指数(いずれも1月分)が13日18時半に発表される。
英国の消費者物価指数は昨年2月分からインフレターゲットである2.0%を超え、昨年11月分は+3.1%と、許容幅(ターゲット±1.0%)を超えた。前回の12月分は3.0%、今回の予想値は2.9%と二ヶ月連続での鈍化が見込まれているが、予想を上回り、前回並もしくはそれ以上の上昇を見せるようだと、早期追加利上げ期待が一気に強まり、ポンドが大幅高となる可能性も。
クロス円の下げがドル円を押し下げていた面があり、ポンド円が大きく上昇すると、ドル円も買い戻しやすい展開に。109円台を回復するきっかけとなる可能性も。
米国は消費者物価指数が14日に、生産者物価指数が15日に発表される(ともに1月分)。米国のインフレターゲットの対象はPCEデフレータであるが、水準はともなく、上下の推移動向は消費者物価指数と似通っている(水準は消費者物価指数のほうが一般に高めに出る)ため、発表の遅いPCEデフレータ(同じ1月が対象のPCEデフレータは3月1日発表)よりも、消費者物価指数が重要視される傾向がある。
予想を上回る数字が出てくると、今年の順調な利上げが期待されてドル買いの流れも。ドル円の買い戻しももちろん、金利差の縮小や逆転が懸念されるオセアニア通貨が対米ドルで下落する可能性。豪ドルは対ドルで0.77割れも意識か。
もっとも、こうした指標動向での動きは、先週のような株の乱高下があると吹き飛ぶ可能性もある。株式市場動向をにらみながらの展開が続きそう。
用語の解説
予算教書演説 | 大統領による三大教書の一つ。毎年2月ごろに出される米国の大統領による翌会計年度(米国の会計年度は10月から翌年9月)に向けた政府側の予算編成方針の希望を示すもの。米国の予算は歳入・歳出に関する予算関連法案を成立させることによって決まる。大統領には法案の提出権限などが基本的にないため、予算の決定権は議会が有している。大統領は議会に対して、自身の指針に沿った予算編成を促す勧告として予算教書演説を行う。 |
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インフレターゲット | インフレターゲットとは、インフレ率に関して、政府・中央銀行が目標(ターゲット)となる水準を定め、政策金利の変更や量的緩和などの手段を通じて、目標近辺で物価が安定するように金融政策を執り行うこと。 元々は物価の高騰を防ぐために、物価を目標値近辺まで下げることを目的に広がった。だが、リーマンショック以降の政策金利の世界的な大幅な下落などにより、世界的に物価の鈍化が進む中で、ターゲット水準まで物価を上昇させることを目的とするケースが生じている。英国のインフレターゲットは消費者物価指数前年比の2%をターゲットに、上下1%の幅を許容水準として、ターゲット近辺で安定させるというもの。ターゲットとなる物価統計は国によって違い、日本の場合消費者物価指数のうち生鮮食品を除くコアCPIの前年比、米国の場合PCE(個人消費支出)デフレータの前年比。 |
今週の注目指標
英消費者物価指数(1月) 2月13日 18:30 ☆☆☆ | 昨年11月のスーパーサーズデーで、約10年ぶりとなる利上げに踏み切った英中銀。ただ、その時は、ブレグジットを決めた国民投票後に混乱を回避するために金利を0.25%引き下げた分を利上げし元に戻した。水準としてはリーマン・ショック後長く続いた0.50%ということもあり、次回の利上げは当面先という見通しが広がっていた。しかし、その後も英国の物価が高止まりしており、インフレターゲットの上限ギリギリや超えるところでの推移が続いていることもあり、急速に追加利上げの期待が拡大。市場では次回のスーパーサーズデーである5月の金融政策会合での利上げを見込む動きが強まる展開に。そうした中、利上げ実施のカギを握る消費者物価指数の発表が13日に行われる。予想は前年比+2.9%と二ヶ月連続の鈍化期待。予想に反し3.0%を超えてくると一気にポンド買い。逆に2.9%よりも物価が落ち込み2.5%に近くなると、利上げを急ぐ必要性が後退し、ポンド売りに。この場合ポンド円は149円をしっかり割り込む動きに。 |
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米消費者物価指数(1月) 2月14日 22:30 ☆☆☆ | 年内3回の利上げが期待される米国。一部で3回以上の利上げ期待が見られる一方、ハト派的な地区連銀総裁からは2回程度の利上げ示唆が見られるなど、見通しが分かれている状況。米FRBの二大責務のうち、雇用の最大化に関しては、今の雇用市場情勢の中で問題はない。もう一つの責務であるインフレターゲット2%の達成が鍵を握っている。米国のインフレターゲットの対象はPCEデフレータであるが、市場は発表が早く、動向がほぼ似通る消費者物価指数(CPI)に反応するケースが多い。今回の予想は総合が2.0%、同コアが1.7%とともに鈍化見込み。12月は自動車販売の単価上昇が見られたこともあり、全体が押し上げられた。1月はその分の反動が出ると、予想を下回る可能性も。PCEデフレータはCPIよりも低めに出るため、CPIの時点で2.0%を下回る結果が出ると、PCEデフレータでの2%が遠い印象となり、ドル売りが広がる可能性も。ドル円は106円台を意識する展開も。 |
豪雇用統計(1月) 2月15日 09:30 ☆☆ | 外需を中心に経済が比較的好調な豪州。特に雇用はここ二ヶ月かなり好調で、雇用者数は11月分が6.36万人増、12月分が3.47万人増と、2400万人ほどしか人口のいない国としてはかなりの高水準を記録した。 今回も1.50万人増と直近二回に比べると水準は落ち着くものの、雇用増が期待されている。労働市場の逼迫は賃金の上昇を誘い、物価を押し上げる形で利上げ期待の拡大につながる場合もある。予想通りもしくはそれ以上の雇用増が見られるかどうかに注目。予想を上回る好結果が出てくると、豪ドル円は買いが強まる可能性。87円を目指す動きも期待できる。 |
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