2018年03月12日号

(2018年03月05日~2018年03月09日)

先週の為替相場

米保護主義への警戒などでドル安加速

 5日からのドル円相場は、週初のドル売りから値を戻す展開となった。

 週の初めは、その前の週から続いて米国の鉄鋼・アルミに対する関税賦課が重石となり、105円台前半での推移。米株が値を落としたほか、日経平均が21000円を割り込むなど、為替市場以外でもリスク警戒の動きが広がった。

 週末に実施されたイタリアの総選挙で、与党中道左派勢力が議席を減らし、中道右派連合と、新興の五つ星運動が議席を伸ばしたものの、各勢力とも過半数を確保できず、ハングパーラメント状態になった。このことにより、今後の政局運営の混乱が懸念されたことも、当初はリスク警戒を誘った。

 もっとも、105円の大台を維持したことで、その後は買い戻しが優勢に。イタリア総選挙結果の問題も、ユーロドルでのユーロ安ドル高から、ドル全般の買いを誘う形でドル円の買い戻しに寄与。

 いったん値を戻した後、7日のコーン米国家戦略会議(NEC)議長の辞任で、いったん105円台半ば割れまで値を落とす場面が見られたが、その後買い戻しが入りなど、下値はしっかり。

 米朝首脳会談の開催が合意されるなど、有事リスクの後退にドル円が支えられた面も。

 注目された9日の米雇用統計は、非農業部門雇用者数(NFP)が予想をはるかに上回る30万人超えとなり、ドル高が加速。ドル円は107円台を付ける動きとなった。もっとも、107円超えでは利益確定の売りなども入り、106円台後半で週の取引を終えている。失業率や平均時給などの数字が予想に比べて弱かったことも、高値圏でのドル買いを躊躇させる要因に。

 6日の豪中銀金融政策会合は事前見通しのとおり、政策金利の現状維持を決定。声明も目新しいものはなく、影響は限定的。

 8日のECB理事会では、声明の中でそれまで見られた「経済見通しや金融システムが悪化した場合は、資産購入の規模または期間、もしくはその両方を拡大の用意」という追加緩和の可能性を示した文言が削除され、瞬間ユーロ買いが優勢に。しかし、その後の記者会見でドラギ総裁が貿易への懸念などを通じて、総じて慎重姿勢を示したほか、ECB理事会スタッフによる経済・物価見通しにおいて、2019年のインフレ見通しが引き下げられたことなどが重石となり、一転してユーロ売りが優勢となった。

今週の見通し

 米物価動向をにらみ、今後の利上げを占う展開に。

 13日の米消費者物価指数(CPI)、14日の米生産者物価指数(PPI)(ともに2月分)など、米国の物価動向が市場の注目を集めている。FRBの二大責務(用語説明1)である「雇用の最大化」と「物価の安定」に関して、雇用の最大化は順調に進んでおり、すでに利上げのハードルをクリアしているとの認識が広がっていることから、先週の米雇用統計での雇用者数の大幅な増加に対してもドル買いの反応は限定的に。市場は今後の物価動向をにらみつつ、利上げ見通しを探る展開となっている。

 先週末の雇用統計を受けての、利上げ見通しはそれほど変わっておらず、年内3回の利上げ見通しが大勢に。物価動向次第では、年4回の見通しが強まりドル買いが期待される状況。

 米国のインフレターゲットは個人消費支出(PCE)デフレータの前年比であり、CPIでもPPIでもないが、PCEデフレータとCPIは傾向がほぼ同じとなる(代替品の取り扱い(用語説明2)や不動産関連の織り込み度の違いから、水準は違う)ことから、発表の遅いPCEではなくCPIが注目される傾向がある。

 前回1月分のCPIは前月比、前年比ともに予想を上回る好結果となり、米国の長期金利上昇からのドル買いを誘う要因となった。

 前回が強すぎた分、今回は前月比での伸びは前回を下回る+0.2%と見られているが、前年比は前回よりも強い+2.2%が期待されている。PCEデフレータはCPIよりもかなり低めに出ることが多いため、それでもインフレターゲットの2.0%は遠いと見られるが、CPIの上昇傾向はPCEの予想にも好影響を与えるだけに注意したいところ。

 PPIはCPIほどの注目度は無いが、雇用コストの上昇が価格に展開されているようだと、物価の上昇期待を強めるだけに、こちらも注意したい。同時に出る米小売売上高と合わせて確認したいところ。

 基本的には比較的しっかりとした数字が期待されており、ドル円は107円台をしっかり回復し、108円台を目指す展開が期待されるところ。

 ユーロは対ドルでの1.22台の買い意欲、ユーロ円でのユーロ買い意欲などから、1.23後半に向けた動きが期待されるところ。ターゲットは1.2450。

 政治情勢への警戒感も強く、米国の関税問題、日本の森友問題などの進展にも要注意。

 

用語の解説

FRBの二大責務 中央銀行の責務としては、物価の安定が掲げられるケースが多いが、米国の場合は、景気拡大につながる「雇用の最大化」と利上げを通じて景気を落ち着かせる方向の「物価の安定」という二つの責務(デュアル・マンデート)を負っている。1977年の連邦準備改革法によって定められ、1978年の完全雇用・均等成長法(いわゆるハンフリー=ホーキンス法)によって、議会への説明責任などを負った。
CPIとPCEデフレータの代替品の取り扱い 米消費者物価指数は、2年ごとに更新されるリストを元に計測対象とする商品を選定し、固定ウェイトをかけて、指数を計測する。その間に新商品や価格変化などによる消費行動の大きな変化があったとしても、その行動を織り込むことはできない。例えば、格安スマホが流行することで、消費者の携帯にかける費用が減退したとしても、商品リスト選定時に高いスマホが選出されていれば、その変化は考慮しない。キャベツを選んで白菜を除外したとして、キャベツの値段が高騰する一方で白菜の値段が抑えられて、消費者がキャベツの代わりに白菜の消費を増やしたとしても、キャベツの指数内でのウェイトは変化しないといった具合に代替品の取り扱いが考慮されない。PCEデフレータは連鎖ウェイトという方式をとることで、こうした代替品による消費行動の変化を物価指数に織り込むことが出来る。そのため、CPIに比べて水準が低くなりがち。また、計測が煩雑な分、発表が遅くなる。

今週の注目指標

米消費者物価指数(CPI)(2月)
3月13日 21:30 
☆☆☆
 前回1月分のCPIは、前月比が事前予想の+0.3%に対して、+0.5%。前年比が事前予想の+1.9%に対して+2.1%と強めに出た。変動の激しい食品とエネルギーを除いたコア部分も、予想を上回る好結果となっており、物価上昇傾向が顕著に見られた。これを受けて、米国の利上げ期待が押し上げられ、米長期金利が上昇。ドル高を誘う展開が見られた。今回は、前回が強すぎた分前月比は+0.2%と伸びが鈍化見込みも、前年比は+2.2%と1月以上の伸びが期待されており、物価の上昇傾向が継続する見込み。予想程度の水準は織り込み済みも、予想を超える好結果となった場合、年内4回の利上げ期待が広がり、ドル買いが強まる可能性がある。この場合ドル円は108円に向けて大きく上昇する可能性。
米生産者物価指数(PPI)(2月)
3月14日 21:30
☆☆
 CPIに比べると、金融政策へ与える直接的な影響が小さいこともあり、注目度が低いPPI。ただ、このところの労働時給のひっ迫感などから、雇用コストなどが上昇し、生産コストが押し上げられているようだと、PPIに影響が出ている可能性がある。この場合、CPIやPCEデフレータの押し上げ要因となり、ドル買いにつながる。食品・エネルギーを除いたコア部分の前年比が+2.6%と1月の+2.2%から大きく上昇する見込みとなっているが、予想をさらに超えて上昇するようだと、ドル買いが強まり、ドル円は107円台に向かう可能性。
メルケル独首相就任宣誓
3月14日 17:00
☆☆☆
 9月の総選挙で第一党を確保したメルケル首相率いるCDU/CSUは、過半数確保による安定政権の樹立を目指して連立交渉を進めてきた。当初予定していた連立先との交渉が決裂するなどの紆余曲折を経て、前期に引き続いて第2党であるSPDとの大連立がまとまり、約5か月続いた政治的な空白が収束し、今週14日にメルケル首相が第4期目に向けた就任演説を行う。
 今年終盤での利上げ期待もある今のユーロ圏経済を支えるドイツ。焦点の財務相には連立相手であるSPDのショルツ党首代行が内定している。親EUとして知られるショルツ氏の財務相就任は、市場に比較的好感を持って迎えられる見込みも、元々今回はCDUとは組まないとして選挙に臨んだように、連立を組むことによる党勢の低下を警戒しており、各政策で強い主張を打ち出し、政権内部の対立が強まる可能性も。相場への短期的な影響は少ないと見られるが、中長期の波乱要素として注意したいところ。

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