2018年03月26日号

(2018年03月19日~2018年03月23日)

先週の為替相場

貿易戦争への懸念強まる

 19日からのドル円相場は、米中を中心とした貿易戦争への懸念が強まり、ドル安円高の動きが加速。一時2016年11月以来となる104円台を付ける104円64銭を付ける動きとなり、その後も軟調地合いが続いて、ほぼ安値圏で週の取引を終える展開となっている。

 貿易戦争による世界的な貿易縮小懸念もあって、米株を中心に世界的に株価が大幅安に。米株に関しては、データの不正利用懸念が広がったフェイスブックや、提携するウーバーの自動運転中の死亡事故が懸念されたエヌビディアなど、ハイテク関連で独自の売り材料もあり、特に大きく値を落とした格好で、ドル売り円買いの流れを誘った。

 週初は買い戻しがやや優勢に。注目されたG20は通商問題について具体的な策を出さず、無難な通過との印象を与えたことで、ドル円はポジション調整のドル買い円売りが強まり、106円台後半に。

 先週最大の注目イベントであった20日、21日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、事前見通し通り政策金利(FF金利翌日物誘導目標)を0.25%引き上げた。市場が注目していた経済・金利の見通し(プロジェクション)については、年末時点での金利見通し分布図(ドットプロット)において、年内あと二回の利上げ(年内計3回)を見込むメンバーが大勢と、12月時点と同様の状況に。経済見通しでは、経済成長見通しが若干の引き上げも、物価見通しが12月と変わらずという状況で、今後の利上げペース加速の期待が後退。その後のパウエル議長の記者会見では、通商問題が今後の不透明要因と、警戒感を示すなど慎重な姿勢がみられ、この会見も含めてドル売りの材料に。

 22日にはトランプ大統領が中国に対して知的財産権の侵害を理由に関税賦課を実施する措置に署名。中国も対抗関税の実施を示し、貿易戦争への懸念が加速。

 さらに、以前から対立が噂されていたマクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)が解任され、後任に外交タカ派で知られるボルトン元国連大使(用語説明1)が任じられたことで、対中東、対北朝鮮との関係悪化が懸念される形で、さらにドル売りが広がり、ドル円は104円台へ下落する展開となった。

今週の見通し

 リスク警戒感続く。

 今週はそれほど大きなイベントがなく、市場の注目は米中を中心とした貿易戦争の進展に集まっている。

 トランプ政権が知的財産権侵害への制裁措置(用語説明2)として打ち出した追加関税措置について、中国は米国からの鉄鋼や豚肉などの輸入品30億ドル相当に対抗関税を課す計画を示すなど、貿易戦争への動きを強めている。

 23日から始まった鉄鋼・アルミニウムへの関税賦課方針についても、以前から示されていたカナダ・メキシコに加え、豪州、EU、韓国、ブラジルなどの両品の主要な供給元への関税賦課を4月末まで凍結する姿勢を示し、ターゲットが中国(及び日本)であることを印象付けた。

 こうした米中の通商問題での対立が強まると、中国が保有する巨額の米国債の売却など、インパクトのある手段が講じられる可能性がある。その場合、一気にドル売りが進む一方、米金利が急騰し、米経済はかなり大きなダメージを受ける可能性も。

 こうした状況でドルの買い戻しを積極的に進めることは難しく、ドル円は頭の重い展開が続きそう。

 金曜日にダウ平均株価が序盤にプラス圏推移となったように、リスク警戒による行き過ぎた株安ドル安の動きには慎重な姿勢も見られるが、買い戻しが盛り上がらず、戻りが鈍くなるようだと、下値を試しに行く可能性が強い。103円をターゲットに、下方向のリスクを意識する展開が続きそう。

 株の大幅安傾向が継続すると、ドル円だけでなくクロス円でも円高進行か。リスク感応度の高い豪ドル円などの動向に要注意。クロス円も下方向のリスクがかなり高く、豪ドル円は80円をしっかり割り込むと、78円をターゲットに下値トライの可能性。

 

用語の解説

ボルトン元国連大使 ジョン・ロバート・ボルトン(John Robert Bolton)、メリーランド州ボルチモア出身の政治家・外交官。イェール大学ロースクール修了(法務博士)後、法律事務所を経て、共和党保守派のヘルムズ上院議員の補佐官に就任。レーガン政権では司法省などに務め、(パパ)ブッシュ政権で国務次官補、ブッシュ(ジュニア)政権で国務次官を経て、国連大使に任じられ、2006年12月まで務めた。国連大使時代も含め、対北朝鮮や対イラン強硬派で知られており、近年でも両国への先制攻撃は正当化されるものという姿勢を示している。
知的財産権侵害による制裁措置 通商拡大法232条に基づいた鉄鋼・アルミニウムへの輸入関税の引き上げ措置に続いて、米国が中国に対して実施する通商法301条に基づいた貿易に関する制裁措置。米通商代表部(USTR)は、中国の知的財産権侵害についての調査を以前から実施しており、その中で、米国企業から中国企業への技術移転の強要などの証拠を得たとして、ライトハイザーUSTR代表が中国製品への関税賦課と対米投資規制を検討しているとしたもの。中国側は対抗措置として、米中貿易で米国の黒字部門となっている農産物、特に豚肉についての関税賦課方針などを示している。

今週の注目指標

佐川前国税庁長官証人喚問
3月27日 
 学校法人森友学園に関する文書改ざん問題について、当時財務省理財局長であった佐川前国税庁長官の証人喚問が27日に実施される。午前中に参議院、午後に衆議院で喚問が行われる予定。同問題に関して、当初は海外市場の関心が弱かったが、安倍首相の進退問題に関する報道が流れることで、このところは海外勢もリスク要因として意識しており、警戒感が広がっている。政権の支持率がさらに低下するような内容がみられると、円高の動きにつながる可能性も。ドル円は104円割れを意識する展開も。
米第4四半期GDP確報値
3月28日 21:30
 米国の第4四半期GDP確報値が28日に発表される。先月発表された改定値は、速報値の前期比年率+2.6%から、+2.5%に鈍化したが、今回発表される確報値で+2.6%に戻ると見込まれている。予想通りもしくはそれ以上の好結果が出てくると、米経済の堅調地合いが印象付けられ、ドル円の買い戻しを誘う可能性も。ドル円は105円台をしっかり回復する流れも。
米PCEデフレータ(2月)
3月29日 21:30
☆☆☆
 米国の金融政策を決める鍵となる雇用と物価のうち、雇用はほぼ完全雇用の状態であり、利上げへのハードルはクリアしているという見方が強い。焦点は物価動向となるなか、今週は米国のインフレターゲットの対象であるPCE(個人消費支出)デフレータが発表される。予想は前年比+1.7%と前回1月と同水準。変動の激しい食品・エネルギーを除いたコア部分は+1.6%と、前回1月の+1.5%から上昇の見込み。
 3月13日に発表された消費者物価指数(CPI)は前年比+2.2%と1月の+2.1%から伸びが加速、コアの前年比は+1.8%と1月と同水準であった。CPIに比べてPCEデフレータはまず低めに出ることから、予想程度の水準が見込まれるところ。予想を下回り、前回よりも弱めに出てくると、追加利上げ期待が後退し、ドル売りが加速する可能性も。103円台に向けた動きが強まるとみられる。

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