2018年06月04日号

(2018年05月28日~2018年06月01日)

先週の為替相場

南欧の政局に振り回される

 28日からのドル円相場は、イタリアやスペインの政局動向に振り回される展開となった。

 イタリアは第1党である五つ星運動と第2党である同盟が推したコンテ首相候補(用語説明1)が、当初提出した閣僚名簿において、反ユーロ主義のサボーナ元産業相を財務相候補としたことを、マッタレッラ大統領が拒否したことで、混乱が広がった。マッタレッラ大統領は元IMF幹部による暫定政権を模索したものの、議会が認める可能性が小さく、早期の再選挙が見込まれる状況が、市場の警戒を誘った。

 こうした状況を受けて29日の市場においてイタリア株やイタリア債が暴落(利回りが急騰)、ドイツ債とイタリア債の10年債利回り格差が3%を超える状況となったことを受けて、ユーロ売りの動きが広がった。

 スペインのラホイ首相に対する不信任決議案が可決される見込みが強まったことも、ユーロ売りに拍車をかけ、ユーロドルは一時1.1510近辺に、ユーロ円は124円台まで値を落とす展開に。

 リスク警戒感の高まりを受けて、ドル円も108円台前半での推移が見られるなど、円全面高の動きも見られた。

 もっとも、その後情勢は一服した。イタリアの五つ星運動と同盟はコンテ首相候補の下で、別の財務相候補を選出、サボーナ氏を対欧州問題担当相とする新人事案を提出し、大統領がこれを容認したことで、新政権が樹立する運びとなった。

 スペインはラホイ首相が元々少数与党だったこともあり、市場の反応は限定的なものとなり、金曜日に実際に不信任決議案が可決した際には、影響は限定的なものに。

 両国で誕生した新政権の動向について、今後の警戒材料となっているが、すぐに状況が変化するものではなく、短期的な反応は一服した。

 金曜日の米雇用統計、ISM製造業景況感指数の好結果も、ドル円、クロス円の買いに寄与した。雇用統計は非農業部門雇用者数が予想を超え、失業率も予想外に低下と、かなり強めの数字となった。その後出たISM製造業景気指数が予想を上回ったこともあり、週末にかけてドル買い円売りの動きが優勢に。

 ドル円は109円台後半の推移。ユーロドルは1.17台を一時回復した。

今週の見通し

 ドル高円安進行への期待が強い展開に。

 リスク警戒感を誘っていた南欧の政局不安は、とりあえず一服。市場の注目は政治情勢から経済へ戻ってきた印象。

 政治問題では懸念材料が続き円高圧力が強まったが、経済状況に再び注目が集まると、好調な米景気動向からドル買い基調が回復すると期待している。

 物価上昇傾向が続く米国。物価と雇用というFRBの二つの命題のうち、雇用は依然として好調。先週末の米雇用統計は予想以上の強さを示した。

 この雇用統計を受けて、6月の利上げがほぼ確実となったことに加え、年内残り3回の利上げも現実味を帯びる展開となっており、ドルを支える展開となりそう。

 リスク警戒感の動きが一服したユーロが、ユーロドルで大きく買われる(ユーロ高ドル安)と、ドル全面高に水を差す可能性があるが、ユーロ圏経済指標は総じていまいちで、大きく買い上げる勢いはないとみられる。

 ドル円は110円手前に売りが入っているものの、109円台の高値圏でもみ合いが続くようだと、どこかのタイミングで上をトライする展開となりそう。

 ターゲットは5月21日に付けた111円40銭近辺の直近高値圏。5月25日に109円割れをいったんトライした後、109円80銭手前の売りに頭を抑えられており、直近の動きでも上値を抑えられる格好となっているが、今の状況から同水準及び110円の大台を超えて、上値を試す可能性は十分にありそう。

 ただ、12日の米朝会談などを控えて、政治情勢への警戒感はまだ残っている。新規材料次第では再びリスク警戒が強まる可能性があるだけに、要注意。

用語の解説

コンテ氏 ジュゼッペ・コンテ(Guiseppe Conte)。イタリア首相(イタリア閣僚評議会議長)。フィレンツェ大学教授、専門は市民法。3月の総選挙で第一党となった五つ星運動との関係が深く、選挙前2018年初頭に五つ星運動のディマイオ党首が掲げた閣僚候補の一人として名前が挙がっていた。
FRBの二大命題 FRB(連邦準備制度・本来FRBは同制度の下での理事会(Board) のことを指し、中央銀行機能については正確にはFRS)が、連邦準備法Section2A(1913年)の下で規定されている命題は、「雇用の最大化、物価の安定、穏やかな長期金利」。このうち穏やかな長期金利を成立させるためには物価を低位安定させることが必要となるため、実質的には雇用の最大化と物価の安定がFRBに課せられた二大命題として認識されている。

今週の注目指標

豪中銀政策金利
6月5日13:30
☆☆☆
 かつては高金利通貨の代表格でもあった豪ドルであるが、現在の政策金利は1.50%と米国以下に抑えられている。世界的な低金利志向の中で、2016年8月から現水準での推移が続いているが、豪中銀は当面の間現行水準を維持すると表明しており、今回も現状維持が濃厚(現状維持を決めた場合20会合連続となる)。注目は声明での物価と豪ドル水準に対する評価。前回の声明ではインフレ率が当面低い水準で推移し、18年中に2%を若干上回るとの見通しが示された。第1四半期の消費者物価指数(刈り込み平均・前年比)は+1.9%となっており、現時点では中銀の見通しに近い状況が確認されている。こうした状況を受けて前回の内容を踏襲してくると、豪ドルは動きにくい展開に。豪ドルの水準については、前回の声明では最近低下しているとの表現が見られた。その後、前回会合と同水準での推移が続いており、安定が見られる状況をどのように評価してくるのかがポイントに。現水準を肯定してくると、豪ドル高牽制姿勢が後退しているとみなされて、若干豪ドル買いが入る可能性も。ターゲットは84円台。
米貿易収支(4月)
6月6日21:30
☆☆☆
 一時凍結していた欧州・カナダ・メキシコに対する鉄鋼・アルミニウムの関税賦課を決めるなど、保護主義色を強める米国。その背景にある巨額な貿易赤字傾向に対する市場の注目度が高まっている。今回の予想は491億ドルと前回の490億ドルとほぼ同水準。予想を超えて2か月ぶりの500億ドル超えの赤字額が示現されるようだとドル売りにつながる可能性も。ドル円のターゲットは109円割れ。なお、中国との通商問題がもっとも懸念されており、対中貿易赤字額も注目材料に。
 8日には中国の貿易収支も発表される(時刻は確定されておらず、日本時間昼前後)。こちらも併せて注意したいところ。
G7首脳会議
6月8日・9日
☆☆☆
 先週カナダのトロントで行われたG7(主要7か国)財務相・中央銀行総裁会議に続き、今週は同国のシャルルボアでG7首脳会議が行われる。米国が日本や中国に続いて、欧州、カナダ、メキシコなどに対しても賦課を決めた鉄鋼・アルミニウム関税など米国の保護主義的な姿勢について、財務相・中央銀行総裁会議では議長総括として「開かれた貿易や世界経済の審理性を損なう」として懸念を表明。首脳会議で引き続き議題とすることを示した。今週の首脳会議でも通商問題が最大のテーマになるとみられ、欧州や議長国カナダなどからの圧力を受けてトランプ大統領がどのような反応を見せるのかが注目されている。
 通商問題への警戒が強まるようだとドル売り円買いに。ドル円は108円台半ばがターゲットとなりそう。

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