2018年12月25日号

(2018年12月17日~2018年12月21日)

先週の為替相場

株安がリスク警戒誘う 

 12月17日の週は、米株を中心に世界的に株安の動きが強まったこともあり、リスク警戒感からの円高が広がる展開となった。

 ドル円は17日の113円台半ばから110円台まで値を落とす展開に。米中の通商摩擦問題への警戒感、FOMCで市場が期待するほどハト派色が強くならなかったこと、米暫定予算期限切れによる政府機関の一部閉鎖などの材料が、米株安ドル安円高を誘う格好となった。

 17日海外市場からドル売りの動きが始まった。NY連銀景況感指数が予想を大きく下回る鈍化を見せたことをきっかけに売りが出ると、トランプ大統領の利上げ批判やFRB批判を嫌気したドル売りも見られ、112円台前半まで。

 その後FOMCまではもみ合いが続き、FOMCはいったんドル買いに。金利市場で利上げ織り込みが6割台にとどまっていたことで、実際の利上げ実施でドル買いに反応した形。来年の利上げ見通しも、年1回あるかないかという市場の見通しに対して、FOMCメンバーの見通しは来年2回が中央値となっており、市場の見通しに比べてタカ派との印象がいったんのドル買いを誘った。

 しかし、このFOMC結果は、その後の大きなドル売りを誘った。米株が崩れ、さらにその動きが世界的に波及する中で、リスク警戒でのドル売り円買いが進行。ドル円は110円台を付ける動きに。

 110円台では買いがいったん入ったものの、111円台半ば手前が重くなる形でもみ合いになると、21日が期限となっていた米暫定予算の延長が合意できず、連邦政府が一部閉鎖となったことで、再びドル売りが強まって110円台を付けるなど、頭の重い展開が続いた。

 もう一つ動きが見られたのがポンド。EU離脱協定の議会での可決が難しくなる中で、20日の英金融政策会合(MPC)は、事前の見通しどおり金融政策の現状維持を決定。声明では合意なきEU離脱のリスクが強調されたことで、ポンド売りが広がった。

 ポンド円は142円近辺から140円台へ下落。対ドル、対ユーロでもポンド売りが見られた。

今週の見通し

 米株安のリスクが引き続き強く、リスク警戒での円高進行リスクも継続。

 米暫定予算の期限が切れたことで、連邦政府の一部閉鎖が22日から続いている。トランプ大統領は国境の壁予算を含まない暫定予算への署名を拒否しているが、上院で壁予算が合意する見込みがなく、暗礁に乗り上げている。

 現状では共和党が多数派を握る下院で壁を含んだ予算案を提出。共和党が多数派ながら、成立には民主党の一部委員からの賛成が必要(用語説明1)なため、妥協案の出やすい上院が壁予算を含まない予算案を提出したという状況で、調整が進んでいない。11月の中間選挙で民主党が下院の過半数を抑えたことで、年明けの新議会から下院では民主党が多数派となることで、壁問題での強硬姿勢が軟化する形での解決策が出る可能性があるが、年内は政府閉鎖が続く可能性が高そう。

 さらに今月利上げに踏み切ったFRBへのトランプ大統領の不満表明などもあり、当面は米国の政治リスクにドル円の頭は抑えられそう。パウエルFRB議長の解任(用語説明2)への動きを強めた場合などは、ドル売りが加速する可能性も。

 もっとも、今週は週の前半がクリスマスで世界的にお休みムード。取引参加者も極端に少ない。週の後半は戻ってくるものの、会計年度末前に欧米の金融機関の取引は手控えられがちだけに、動きが抑えられる可能性。

 110円を割り込み、ドル売りが加速して108円台を目指す可能性が十分にあるものの、そうした積極的な動きは年明けまで抑えられる可能性も高い。

用語の解説

上院での暫定予算案成立 上院・下院の二院制をとる米国。衆議院に優先権のある日本と違い、両院の権利は等しく、両院で予算(この場合歳出法案)を可決する必要がある。ともに過半数の賛成で可決するが、上院は少数政党による議事妨害(フィリバスター)が認められている。フィリバスターを実施すると、期限内に歳出法案の採決ができないため、実質的に廃案になる。フィリバスターを回避するためには60名の賛成が必要となるため、上院で歳出法案を成立させるためには、過半数の51名ではなく、60名の賛成票が事実上必要となる。
FRB議長の解任 FRBの制度は、1913年に成立した連邦準備法によって定められている。その中で、FRB議長の解任についての規定があり、大統領は「正当な理由」がある場合に限り議長を解任することが可能。ただ、自身との意見の相違が「正当な理由」として認められる可能性は低い。米国の歴史上、大統領がFRB議長の解任に動いたケースがないため、判断が難しい面はあるが、別の独立機関である連邦取引委員会(FTC)のメンバーを当時のルーズベルト大統領が解任しようとしたケースでは、連邦裁判所によって判事の全会一致で否定されている。

今週の注目指標

黒田日銀総裁講演
12月26日13:00
 日本銀行の黒田総裁が日本経済団体連合審議員会で講演を行う。世界的な株安が進行するなど、市場の不安定な動きが続く中で、黒田総裁のコメントが注目されるところ。金融政策に関しては現状の長短金利操作付き量的質的緩和の継続を強調してくるとみられ、波乱要素は少ない。米国の問題などについて、厳しいコメントが出てくるようだと、ややドル売り円買い材料に。ドル円の110円台での戻りを抑える動きにつながる可能性も。
大納会
12月28日
 28日に東京株式市場は2018年の大納会を迎える。ここにきて株の大幅安が進んでおり、年間で7年ぶりとなる下落が見込まれる状況に。注目は2万円の大台に乗せて年の取引を終えることが出来るか。2万円割れでの年の取引終了となると、株安の意識が強まり、円買いが入りやすくなる面も。ドル円の下値を試すだけの材料には弱いが、110円台でのドル売り円買いが入りやすくなる面も。
米中古住宅販売成約指数(11月)
12月29日0:00
 米雇用情勢が力強く推移していることもあり、米国の住宅市場は堅調な展開が続いている。もっともここにきて、株安や景況感の悪化などが目立ってきており、住宅市場動向にも注目が集まるところ。先月時点では影響は限定的とみられるが、住宅関連指標の中では比較的先行性の高い中古住宅販売成約指数の今後の動きには注目が集まっている。予想は前月比+1.0%と堅調な数字が見込まれている。予想を下回って、前月比マイナスなどの数字が出てくると、ドル売りが強まり、ドル円は109円割れを意識する展開も。

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