2019年01月28日号
先週の為替相場
ドル円堅調も110円が重い
1月21日からの週は、ドル円が109円台を維持するなど、堅調な地合いとなった。米中の通商摩擦問題、米連邦政府機関閉鎖問題、英ブレグジット問題などが材料に。
米中の通商摩擦問題では米政府がカナダで逮捕された華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)CFOの引き渡しを要求との報道や、ロス商務長官(用語説明1)による知的財産権問題の交渉が難航している旨の発言などが売り材料だった。しかし、クドローNEC(米国家戦略会議)委員長の楽観発言や、中国政府による米国産小麦の輸入拡大計画報道などが支えとなり、ドル買い基調が崩れず。
米連邦政府機関閉鎖問題では、交渉難航が報じられたが、閉鎖長期化の悪影響もあり25日に両院で2月15日までの暫定予算を可決、大統領も合意し、35日で政府機関閉鎖がいったん解除されることとなった。暫定期間の短さや、国境の壁問題がその期間中に合意できるかどうかの不透明性もあって、ドル買いの動きは一息も、売り材料は一服に。
英ブレグジット問題では、今月の協定案採決で反対に回った北アイルランドの地域政党DUPが、メイ首相が21日に提案した改定案を非公式に支持との報道や、EU離脱期限の延期見通しの拡大などが支えとなり、ポンド買いに。市場全体のリスク警戒感の後退にもつながり、ポンド円の買いを通じてドル円にも支えとなった。
もっとも110円近辺では売り意欲が見られた。木曜日にいったん110円をトライも、上抜けできずにすぐに調整が入り、109円台前半に。もみ合いから再び上をトライして金曜日に109円90銭台まで上昇も、やはり売りを崩せず、109円台半ばまで調整。下値での買い意欲は継続も、110円超えの勢いが出ない展開が続いた。
ポンドは対ドル、対円ともにしっかり。合意なきEU離脱懸念が後退しており、ポンド売りポジションの調整が続いている。ポンドドルは先週初めの1.28台前半から、先週末には1.32超えまで上昇する展開に。EU離脱協定の難航を受けて昨年秋の1.33近くから下落局面に入ったが、そのほとんどを解消する展開に。もっとも、昨年春の1.43台からの大きなポンド売りトレンドを意識すると、まだ調整途上という印象も。ポンド円は140円台から144円台後半まで上昇している。
今週の見通し
相場を大きく動かす可能性のあるイベントを多数抱える週となっている。
今週末から2月ということで、金曜日2月1日には米雇用統計が予定されている。前回は雇用者数が予想を大きく超える増加をみせた。今回はその反動も見込まれる分、数字が気になるところ。また、先週末に米連邦政府機関閉鎖を一時解除する暫定予算案(用語説明2)が議会を通過し、大統領も合意したことで、週明けからの米連邦政府機関の再開が予定されている。これを受けて関係省庁がクローズしていたことで発表が延期されていた一部の米経済指標の発表が見込まれている。ただ、データの確認などで当面は不安定な発表となりそう。30日には米第4四半期GDP速報値の発表が予定されているが、こちらも予定通りの発表になるのかは確認が必要。
経済指標以外では29日、30日に米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催される。今年からすべてのFOMCで結果発表後の議長会見が予定されており、金融政策の柔軟な変更がやりやすくなったこともあり、注目を集めている。また、30日、31日には中国の劉鶴副首相が訪米し、ライトハイザーUSTR代表らと協議を行う。米中通商摩擦交渉は市場の重要な関心事であるだけに、注目度の高いイベントとなっている。
これらの材料次第で上下ともに動きがあり得る週となっている。地合い自体はドル高円安方向。最大のリスク材料である米中通商摩擦交渉に関しては、今週の協議ですべてが決まるものではなく、対立姿勢が印象付けられるような結果にならない限り、進展期待でのドル買いが期待されるところ。
米雇用統計は非農業部門雇用者数が前回の反動(前月比なので前回が強いと弱めに出やすい)もあり、伸びが鈍化する見込み。ただ、それでも+16.5万人が見込まれており、雇用市場の地合いの強さが印象的に。
FOMCでは政策金利の現状維持が見込まれており、パウエル議長の会見も慎重なものとなるとの織り込みが進んでいる。一方で米紙はバランスシートの調整の終了を早める決定をするのではとの観測を報じている。実現した場合、ドル買いの材料となるだけに要注意。
こうした状況から、地合いは基本的にしっかりと期待されるところ。110円ちょうど近辺の売り意欲は継続も、しっかりと超えて111円を目指す動きが期待されるところ。
用語の解説
ロス商務長官 | ウィルバー・ルイス・ロス・ジュニア(Wilbur Louis Ross,Jr)。米国の第39代商務長官。ロスチャイルド系のPEファンドでのファンドマネージャーを経て、投資ファンドを設立した投資家・銀行家。エヌ・エム・ロスチャイルド在職時に経営破綻した幸福銀行の買収を手掛け、自身の投資会社に引き継いで関西アーバン銀行として再生させている。非営利の日米交流団体ジャパンソサエティーの会長を2010年から務めるなど知日派としても知られている。 |
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暫定予算 | 米連邦政府機関の閉鎖が長期化していることで、様々な問題が生じていることもあり、トランプ大統領と民主党・共和党両党議会指導部は、2月15日まで3週間の暫定予算を成立させ、政府機関の閉鎖を一時解除することで1月25日に合意した。同予算には焦点となっている国境の壁に関する予算は含まれておらず、暫定期間中に両党の合同委員会で同問題の合意を目指すこととなっている。トランプ大統領が民主党に譲歩した形で、過去最長の35日間に及んだ政府機関の閉鎖がいったん解消される形となった。 |
今週の注目指標
EU離脱協定代替案採決 1月29日 ☆☆☆ | 1月15日の英議会において大差で否決されたEU離脱協定案。21日にメイ首相がバックストップ条項の修正協議を行う代替案を提出し、同案について29日に採決が予定されている。15日の採決では反対に回った北アイルランドの地域政党DUPが非公式に支持を表明などの一部報道も見られたが、与党保守党がまとまっておらず、DUPの賛成反対如何を問わず、成立は難しいとみられている。この場合再度の修正案の提出などが見込まれる。また、労働党のクーパー議員が提案している2月26日までに協定案が成立しなかった場合、EU離脱期限の年末までの延長を求める方針を議会が政府に指示するという修正案などが採決される見込み。メイ首相の代替案が採決されると一気のポンド買い。ポンドドルは1.35を目指す可能性も。否決された場合でも、前回よりも反対票が減るようだとポンドはしっかりで1.32台での推移も。 |
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米連邦公開市場委員会 1月31日04:00 ☆☆☆ | 米連邦公開市場委員会(FOMC)が1月29日、30日に開催される。前回12月のFOMCで利上げを実施した直後であり、今回は政策金利の据え置きが見込まれている。これまでFOMCでは年8回の会合のうち、3月、6月、9月、12月の4会合のみ、会合後の議長会見を実施していたが、今年からすべての会合で会見が行われる予定となっており、31日午前4時半から議長会見が行われる見込み。米中の通商摩擦問題などもあり、市場では年内金利据え置きから一部では利下げも見込むより慎重な見通しが広がっており、議長がどこまで慎重論を示すかが注目されている。年内の据え置きを示唆してくるような発言があるとドル売りが強まり、109円割れを試す可能性も。一方でバランスシートの調整に関しては終了への動きを速めるとの一部報道もある。実現するとドル買い材料となり、110円超えの可能性も。 |
米雇用統計 2月1日22:30 ☆☆☆ | 1月の米雇用統計が発表される。前回は予想外に雇用者数が前月比31.2万人の大幅増を記録した。今回はその反動もあり、16.5万人増まで鈍化する見込み。もっとも前回の増加分と平均すると弱い数字ではなく、予想前後の数字が出てくると雇用市場の堅調さが印象付けられるとみられる。なお、連邦政府機関の閉鎖により、大きな雇用減が生じる可能性があったが、無給期間中に遡っての給与支払いが行われることとなったことから、2013年の政府機関閉鎖中同様に連邦政府職員は雇用中であったと取り扱われる見込みで影響は限定的。一時雇用者などに対する影響で政府部門は前月の1.1万人増から1.0万人減になるとみこまれている。予想前後の雇用者増が見られると、ドル買い材料となり、ドル円は110円超えを試すと期待される。 |
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