2019年06月03日号

(2019年05月27日~2019年05月31日)
スペシャル為替レポート

先週の為替相場

リスク警戒感加速

 27日からの週は、複数の要因でリスク警戒感が加速する展開となった。

 週の前半は23日から26日にかけて行われた欧州議会選挙で、ポピュリズム政党が台頭したことが市場の警戒感を誘った。中道勢力が右派・左派合わせても過半数に届かず市場の警戒感を誘った。さらにEUの財政規律に批判的なイタリアの同盟が支持を伸ばし反EU色を強めるとの懸念が広がったことや、英国の新興のブレグジット党が大勝し、保守党が73議席中わずか4議席にとどまり、政権混乱が見込まれることなどが重石となった。

 その後も米中通商問題に進展がみられないことなどを材料に警戒感が続き、ドル円は109円台での推移が続いた。29日に中国共産党機関紙がレアアースの対米輸出制限を示唆する論説を発表。これにより、109円15銭近辺まで値を落とす場面も見られた。だが、109円手前の買いに支えられて、その後109円90銭台まで値を戻すなど、いったんは109円近辺がしっかりの展開に。

 しかし、トランプ大統領が30日(日本時間31日朝)に自身のツイッターで、メキシコからの輸入品すべてに5%の関税を課す方針を明らかにした。これにより、市場のリスク警戒感が一気に加速した。トランプ大統領は、国境を越えて米国に入国する不法移民対策が不十分との理由で、同対策を改善しなければ10月までに最大25%まで関税を引き上げる方針を示した。これにより109円近辺のサポートを割り込んでドル安円高が進行。ドル円は一時108円台前半まで値を落とした。ユーロ円が週前半の122円台後半から120円台に、豪ドル円が76円台から75円ちょうど近くまで値を落とすなど、リスク警戒での円買いに円は全面高。

今月の見通し

米中関係が最大の注目材料に

 対中国を中心に米国の通商問題が6月最大の注目材料となる。

■米中関係の現状

 トランプ政権は5月10日から米国の1974年通商法301条(以下、301条)に基づく、中国製品2000億ドル相当の5745品目(通称リスト3)に対する追加関税率を、それまでの10%から25%に引き上げた。中国は13日に同措置に対する対抗関税実施を発表。同日米国は中国製品3000億ドル相当の3805品目(通称リスト4)に対する最大25%の追加関税を実施する方針を示している。

 リスト3に対する関税率引き上げは本来今年1月に実施される予定であった。昨年12月の米中首脳会談で米中の通商協議実施が決まり、実施が猶予されてきたもの。米国側からすると、いったん合意した事項の再交渉などを含め、結論を先延ばしする中国に対してしびれを切らした格好。一方、中国側からすると米国が無理な要求をしているという格好で、両国とも折れる様子はない。

 さらに5月15日に中国の通信機器大手ファーウェイ(華為技術)とその関連68社に対して、米国商務省産業安全局(BIS)がエンティティリストへの記載を決定。これにより米企業によるファーウェイへの製品・サービスの輸出にBISの承認が必要となり、事実上の輸出禁止となった。さらには監視カメラの世界的大手ハイクビジョンを含む中国の監視関連会社最大5社に対しても同様の対応が検討されていると報じられ、関税以外でも米国から中国への圧力が強まっている。

 事務レベルでの交渉だけでなく、米国側からライトハイザーUSTR代表、ムニューシン財務長官、中国側から劉鶴副首相が代表となり、何度も閣僚級協議を続けてきた両国だが、合意形成に至らないまま、次回会合の日程すら決まらない状況。市場の警戒感も継続している。

■対中国以外での米国の通商問題

 米政府は5月17日、日本や欧州に対する自動車・同部品に対する関税を最大180日猶予することを発表。当面は懸念が一服も警戒感は継続。G20などの場での話し合いで警戒を誘う可能性も。日本に対しては夏以降の本格議論となる見込み。

 トランプ大統領は5月30日(日本時間31日)に、メキシコからの全輸入品に対して5%の関税を賦課する方針を表明した。不法移民問題を改善するまで続けるとしており、同問題の進展次第では10月までに最大25%まで引き上げられる。

 英国に対しては6月の米英首脳会談でファーウェイを英国の5G通信網に採用するかどうかに関する議論を行うとしている。英国がファーウェイを排除しなかった場合は、英国との情報共有を制限するなどの対応が行われる可能性がある。

 こうした中国以外の通商問題もドル売り円買い材料に。特に米中問題が悪化して市場が神経質になっているタイミングでこれらの問題に対する悪材料が出ると神経質な反応も。

■今後のスケジュール

 関税関係では6月17日からリスト4に関する公聴会が行われる。数日かかる可能性があり、終了から7日後に反証提出期限となる。その後はいつ発動してもおかしくない状況となる。米中の会合関係では6月28日、29日の大阪G20サミット(用語説明1)がポイントとなる。両国首脳が参加する同サミットの機会に米中首脳会談を行うことが基本路線となる。

■予想されるシナリオ

1)基本的なシナリオとしては、G20サミットをにらみ、首脳会談をまとめるために6月に入って閣僚級協議を再開。形式的には中国及び米国で一回ずつ閣僚級協議を行い、米中首脳会談に臨む形が見込まれている。

1A) もっとも楽観的なシナリオでは、閣僚級協議で基本的な合意を形成し、首脳会談で正式に合意を発表する形。

 リスト4の発動停止を含め、米中経済に与える影響ももっとも小さくなる。合意の履行状況を確認してからとなるが、将来的なリスト3の関税率引き下げなども含めて期待されるところ。ドル円、クロス円での円安進行が期待される。

1B) 閣僚級協議で両国の溝を確認。首脳会談では今後の協議継続で合意。

 一時に比べて米中間の関係悪化が進んでいることを考えると、このシナリオの可能性が最も高そう。本来はドル売り円買い材料であるが、5月の円高進行の背景ともなっており、影響は限定的に。ただ、対中国以外でも摩擦が目立つ米政権の姿勢に神経質になっており、予想以上にドル売りが広がる可能性も。

2)閣僚級協議及び首脳会談を実施せず

 現時点では協議再開のめどが見えない。米中首脳会談自体を見送る、もしくは行ったとしてもごく短時間の形式的なものになる可能性も。国内支持につながる安全保障問題が絡んだファーウェイの件などで米国が大きく妥協する可能性は低いが、中国側としても米国の主張を認めるわけにはいかないところ。両国の態度が硬化する可能性。市場の警戒感が広がり、ドル売り円買いに。首脳会談を行わないという発表がある場合はもちろん、期日が迫る中で何も決まらず市場が疑心暗鬼になる場合も含めドル安円高材料に。

英国のEU離脱問題

 5月24日にメイ首相が辞意を表明した。2016年の国民投票で英国のEU離脱(ブレグジット)が決まり、当時のキャメロン首相の後を継いで、円滑なブレグジットに向けてかじ取りを続けてきたメイ首相であるが、離脱派、残留派双方からの批判を浴びる形で辞任に追い込まれた。与党保守党は先月の地方選で1300以上の議席を失う大敗。欧州議会選挙では73議席中わずか4議席の獲得にとどまるという体たらくを見せた。

 こうした状況の下、市場が注目しているのは次の首相人事。欧州議会選挙でその名も「ブレグジット党」が第1党となったことも踏まえ、保守党内でも離脱強硬派が勢いを得そう。ボリス・ジョンソン前外相、ドミニク・ラーブ前EU離脱担当相、マイケル・ゴーブ環境相あたりが有力候補。中でもジョンソン氏が本命視されておりブックメーカーなどでも他を引き離して有力とされている。

 ただ、ジョンソン氏(もしくはより過激なラーブ氏)が首相となった場合、合意なき離脱(ハードブレグジット)への懸念が広がる。新首相はEUとの再交渉を目指すとみられるが、EU側がこれ以上妥協する可能性は低い。その場合、ジョンソン氏などは英国がより妥協するのではなく、ハードブレグジットにかじを切るとみられる。この場合ポンドが急落することはもちろん、ユーロも連れ安に。世界的なパニック相場になると、円が独歩高の可能性も。

 6月10日には党首選(事実上の首相選挙)の候補者が締め切られる。その後の世論調査動向も併せ、市場の注目が集まる。

資源国通貨に逆風

 米中通商摩擦を受けた中国の需要減退懸念が豪ドルや南アランドなど資源国通貨に重くのしかかっている。4日に行われる豪中銀金融政策理事会では0.25%の利下げがほぼ確定的とみられるなど、各国とも景気浮揚に懸命となっているが、かなり厳しい状況が続きそう。特に豪ドルは同国大手金融機関が11月までに計3度、0.75%への利下げ見通しを示すなど、今回の利下げだけでなく、今後の継続的な利下げが見込まれる状況。米大手金融機関JPモルガンは来年までに0.50%までの利下げを見込んでいる。電力不足が悪化する南アなど、その他資源国も国内問題と中国の需要減のダブルパンチという状況が続いている。資源国通貨にとっては売り圧力が強まる月となりそう。

ドル円
米中関係次第
 シナリオ1Aの場合、110円台の回復からさらに上値を試す流れが期待される。ターゲットは一目均衡表の雲下限が控える111円ちょうど近辺。上昇時期によるが、6月半ばには雲のねじれが見込まれており、その前後の期間であればあっさりと111円を超えて、もう一段の大きな上昇も。4月24日につけた112円40銭近辺が夏に向けた中期的な大きなターゲットに。もっともこの場合でも進展があるまではドル安円高圧力が継続。ボリンジャーバンド3シグマ下限の控える108円割れの水準を目先のサポートに、割り込んだ場合も107円30銭近辺をサポートとして、頭の重い展開が見込まれる。同シナリオ下でのレンジ見通しは107.30-110.75(勢いが見られると111.75)
 シナリオ1Bの場合、ドル売り円買い圧力が続くものの、影響は限定的に。ボリンジャーバンド3シグマ下限が控える108円割れの水準、さらには1月3日に安値を付けたあと、4月24日に付けた戻り高値の61.8%戻しの水準である107.75が目先のサポート。これらの水準をしっかり割り込んだ場合でも、2018年に104円台をトライした際にポイントとなった107.00から107.30にかけてがサポートになると意識されている。下値一服後の上値は110円の大台を回復出来るかがポイントに。109円70銭近辺に21日移動平均線が控えており、同水準から110円にかけてがテクニカル的にも重要なポイントとして意識されている。
 シナリオ2の場合、かなり強いドル売り円買い圧力に。対中輸出が自国経済に占める位置の大きい豪州、南アなどの資源国通貨に対する売りも加わり、円買い圧力が加速する可能性。ドル円は今年1月3日にフラッシュクラッシュ気味につけた104円台後半が意識される展開に。ごく短期のポイントとしてはシナリオ1Bで指摘した107.75。さらには107.00-30がサポート。これらをしっかりと割り込んだ場合、ドル安円高の流れがもう一段加速する可能性も。今年1月3日の安値、2018年1月から3月末にかけてのドル安円高局面での安値はともに104円台後半で止められている。これらの水準を割り込むと中期的には2016年6月に付けた98円台が意識される展開も。
ポンド
次期保守党党首人事が流れを決める
 保守党党首選の行方が大きな流れを誘う。実際の党首選自体は7月にずれ込みそうだが、6月10日には候補者が締め切られる見込み。その時点での世論調査動向などに市場反応してくるとみられる。かなり多くの候補の名前が挙がっているが、世論調査で2位以下を引き離してトップに立っているのがボリス・ジョンソン前外相。直近調査ではジャビド内相、レッドサム前下院院内総務、ゴーブ環境相と続く。ブックメーカーでもジョンソン前外相が他を引き離してトップ。続いてラーブ前EU離脱担当相、ゴーブ環境相と続いている。
 このうち比較的穏健派なのがジャビド内相。同氏への支持が広がるようだと、ポンドは買い戻しも。ジョンソン前外相の支持が伸び悩むなどの状況が見られると、もう一段の買いも。ポンド円は5月3日につけた146円台を高値に値を落とす格好となっているが、その約半値142円程度までの戻りを期待したい。ジャビド内相が党首選を辞退したり、ジョンソン前外相の支持が予想以上に高まるようだとポンド売りに。ただ、合意なき離脱に走るとしても秋以降の見込みだけにすぐに大きく崩れる展開にはなりにくい。目先は135円ちょうどがターゲット。
豪ドル
利下げ基調が重石に
 豪ドルは4日の金融政策理事会で、市場期待通り利下げが実際されても、それで打ち止めではなく、10月までに2~3回の利下げが見込まれている。米金融機関大手JPモルガンは来年には0.5%との見通しを出すなど、かなり厳しい状況が続く。目先のターゲットは74円ちょうど近辺。同水準をしっかりと割り込むと、2010年、2011年、2016年と3度に渡って下値進行を止めた72円ちょうど手前の水準が重要なポイントに。

用語の解説

G20サミット 6月28日・29日の2日間、大阪の国際見本市会場(インテックス大阪)で20か国・地域(G20)や今回の招待国の首脳、国際機関のトップなどを招いて行われる会合。世界経済の諸問題について話し合う枠組みとしてはG7もあるが、新興国の急速な発展を受けて世界経済の中でのG7の占める位置が低下したこともあり、新たな枠組みとして1999年から財務相・中央銀行総裁会議としてG20の枠組みが誕生。リーマンショックのあった2008年からは、首脳が集まるG20サミットも開催されることとなった。
ボリス・ジョンソン前外相 保守党に所属する英国の下院議員。2001年に初当選。2008年5月から2016年5月まではロンドン市長を務めた。差別発言などの失言も多いが、歯に衣着せぬ発言で国民からの人気は高く、英国で最も人気のある政治家の一人。2016年に誕生したメイ政権下で2018年7月まで外相を務めた。政治家になる前のジャーナリスト時代から欧州懐疑派として知られ、政治家になってからもたびたび反EU発言を行ってきた。2016年の国民投票においてはEU離脱派の代表格として活動している。

今月の注目指標

豪中銀金融政策理事会
6月4日13:30
☆☆☆
 前回は専門家の半数強が利下げを見込んでいたにもかかわらず金利を据え置いた豪中銀。今回は専門家のほとんどが利下げを見込み、金利市場動向からの利下げ割合は87%に及んでいる。ロウ中銀総裁も利下げを協議すると明言しており、サプライズはほぼなく利下げに踏み切るとみられる。注目は声明での今後の姿勢。年内後1~2回の利下げが見込まれる状況。今後の積極的な緩和姿勢が強調されると豪ドル売りも、今後の状況次第と示すなど予想外に慎重な姿勢を示すと豪ドルの買い戻しも。豪ドル円は下が74円、上は78円が大きなポイント。
米連邦公開市場委員会(FOMC)
6月20日03:00
☆☆☆
 米連邦公開市場委員会(FOMC)が6月18日、19日に開催され、19日の米国東部時間午後2時(日本時間20日午前3時)に結果が発表される。政策金利は据え置きの見通しが大勢であるが、トランプ政権からの利下げ圧力もあり、金利市場動向からの利下げ割合は1割以下とはいえゼロではない。また、今回はFOMCメンバーによる経済成長・物価・雇用・金利などの見通しが示される回にあたっている。中でも年末時点での金利見通し(ドットプロット)に対して注目が集まっている。前回3月のドットプロットでは年内金利据え置きが大勢も、利下げを見込むメンバーは居なかった。現在、金利市場では9月のFOMCでの利下げ確率が5割を超え、年内では8割を超える勢いを見せている。参加メンバーの中でも利下げを見込む動きが広がっていることが予想される。複数回の実施を含め、今後の利下げ見通しが強まっているようだとドル売り圧力となる。ドル円は107円をターゲットに値を落とす可能性も。
G20サミット
6月28・29日
☆☆☆
 G20サミットで注目される最大の内容は、米中首脳会談が開催されるどうか。さらに開催された場合は会談の内容はどうなのかである。米中関係改善のきっかけとなると、ドル買い円売りの大きな材料となる。貿易戦争は両国だけでなく世界経済的にもデメリットが大きいが、大国の威信もあり簡単に折れることもできない状況。今後の通商協議継続と早期合意に向けた前向きなメッセージを出すことが出来るとドル円は110円台回復も。

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