2020年03月16日号

(2020年03月09日~2020年03月13日)

先週の為替相場

混乱広がる

 3月9日からの週は、新型コロナウイルスの影響で大荒れの展開となった。

 週明け9日の市場でパニック的なドル売り円買いが進行。週末に金融の中心地であるNY市を含むNY州全体の非常事態が宣言され、新型コロナウイルス感染被害拡大に対する懸念が加速。また、週末のOPECプラス会合での減産交渉が物別れに終わったことを受けて、サウジアラビアがそれまでの減産姿勢から一転して増産を発表し。NY原油が一気に値を崩す展開となった。

 ドル円は101円20銭割れと、2016年の大統領選でトランプ大統領が勝利した際に瞬間的に付けた安値に並ぶところまでドル売り円買いが進行。米債利回りが0.31%台までの大幅な低下、ダウ平均株価が過去最大の変動幅を大きく更新する2000ドルを超える下げとなるなど、株の大幅安などが見られた。

 しかし10日朝(現地時間では9日夕方)にトランプ大統領が給与減税の方針を示したことで期待感から一気に買い戻しが入る展開に。ドル円は105円台を回復する場面が見られた。もっとも同日のロンドン市場で103円台後半まで調整が入るなど、不安定な動きは継続。

 その後は日銀によるETF購入枠拡大見込みや、トランプ減税への期待感などで106円手前まで上昇。議会がトランプ減税に反対の姿勢(用語説明1)を見せたこともあり、勢いを失っていったんは104円10銭近辺まで値を落とすなど、頭の重い展開も、11日の英中銀の緊急利下げで欧州株に買いが入ったこともあり、105円台を回復した。

 注目された12日(現地時間11日夕)のトランプ大統領による演説は、英国などを除いた欧州からの30日間の渡航禁止(その後英国も対象に)などの策を示すも、期待された減税の言及がなく、ドル売り円買いに。一時103円09銭まで大きく値を落とした。

 しかし、そこからは一転してドル買い円売り。米国との渡航禁止を嫌気してユーロドルでのユーロ売りドル買いが入ったほか、緊急時でのドルキャッシュへの需要期待などがドルを支え、ダウ平均が9日の下げ幅を超えて過去最大を更新する2352ドルの下げを記録する中でドル円はしっかり。

 さらに週末にかけて米株に買い戻しが入ると、ドル円の上昇傾向も加速し、108円台を付けて週の取引を終えている。

 ECB理事会でTLTRO(用語説明2)の拡充などを決めたユーロは、ドル安の流れから週の初めに1.15手前まで上昇した後は頭の重い展開に。米国への渡航禁止措置への警戒感、イタリアでの感染者急拡大などの動きもあって、一時1.1050台まで。その後1.12台を回復も戻りは鈍かった。

 11日に緊急緩和に踏み切ったポンドも対ドルではユーロと似た流れ。ただ、値幅自体はユーロよりも大きく、週の初めに1.32ちょうど前後を付けた後、じりじりと売りが強まり、週末には1.22台まで。

 11日の緊急利下げに加え、同日発表された来年度予算での財政出動姿勢を好感も、上値が重く、逆に売りやすくなった面も。新型コロナウイルスの感染者が広がったことも、警戒感を誘っている。

今週の見通し

 各国ともに新型コロナウイルス対応で積極的な緩和姿勢も、警戒感は継続。

 感染者が欧米で急速に拡大する中で、警戒感が広がっている。外出を避け、在宅勤務の推奨などが進んでいるほか、米国、欧州で劇場、映画館などの閉鎖の動きが広がっている。特にイタリアやフランスでは食料品・薬局などを除いた店舗が閉鎖されるようになっており、経済活動の縮小懸念が拡大している。

 サウジアラビアとロシアの対立に端を発した原油安の流れも、米国やカナダ経済に対する重石に。米国は2018年に原油の生産量で45年ぶりの世界首位に返り咲くなど、原油生産が活発になっているが、その多くが採掘コストの高いシェール油田であり、30ドルを割り込むような原油価格では多数の油田で採算割れとなる。カナダも状況は同じで、両国のエネルギー産業へのダメージがかなり大きい。

 一方で、中国や韓国で感染拡大が一服。各国中銀の積極的な対応への期待感なども広がっており、売り買いが交錯しやすい展開に。先週の米株式市場は日替わりで大きな上げ下げの動きを見せ、12日に過去最大の下げ幅、13日に過去最大の上げ幅を記録するなど、不安定な展開が続いている。

 こうした動きから、基本的には安全資産へのシフトが見込まれている。また、状況の深刻化から世界的なドルキャッシュ需要が高まっており、ドル高の動きも。

 ドル円は振幅を交えながら、買い戻しの流れを期待。米株式市場動向をにらみながらの展開が続き、大きく下げる場面も予想されるが、どこかで落ち着きを取り戻すか。

 ドル円の予想レンジはかなり広く103円台もありうる一方で、109円台への回復もありそう。一方向の動きではなく、荒っぽい振幅を交えながら上方向を期待。ただ、欧米での感染拡大が予想を超えていた場合、いったん100円トライの可能性も十分にあるだけに、下値リスクには要注意。

用語の解説

議会がトランプ減税に反対の姿勢 米国の予算は社会保険などの義務的な経費を除いて全てが時限立法という形で法案として提出される。米国では大統領には立法権はなく、議会のみが法案を提出・決定できるため、減税についても議会が基本的な決定権を持っている(大統領は議会の決定に対する拒否権は有している)。
TLTRO 貸出条件付き長期資金供給オペ(Targeted Longer-Term Refinancing Operations)のこと。ECBはリーマンショックさらにはギリシャショック後の欧州市中銀行での流動性不足懸念と資金供給のため、2011年にLTROを実施。もっとも、供給した資金が貸し出しに回っていないとの批判が強まったため、2014年に同様の施策をとるにあたって、貸出条件(Targeted)を付けたTLTROとして供給を実施した。2016年の第2弾を経て、昨年9月から現在まで第3弾のTLTROを実施している。

今週の注目指標

米FOMC政策金利
3月16日06:00
☆☆☆
 米国が臨時FOMC(連邦公開市場委員会)を実施し、緊急利下げ及び量的緩和の再開を発表した。米国の利下げは今月二度目。米国は17日、18日に定例会合を予定していたが、前倒しして週末(現地時間では15日日曜日夕方)に発表した形。政策金利であるFF金利を1.00%引き下げて0.00%-0.25%と実質ゼロ金利に。2014年10月に終了した量的緩和を再開し、少なくとも国債5000億ドル、MBS2000億ドル規模の買い入れを行うとした。この発表を受けてドル売りの動き。しかし、米株は発表後に大きく売られ、東京朝にサーキットブレイカーにかかり取引停止になるなどの動き。新型コロナウイルスの深刻さを印象付ける格好となっている。ただ、対応としては米経済を支える形での積極的な動きであり、中期的にはドル円を支える材料にも。ドル円は105円台がしっかりしてくると、今後108円台に向けた動きを強める可能性も。
日銀金融政策決定会合
3月16日12:00
☆☆☆
 今週18日、19日に予定されていた日銀金融政策決定会合であるが、直近の市場の混乱、週末に決定した日銀、FRB、ECB、BOE、カナダ、スイス各中銀によるドル資金供給での協調などの動きを受けて、日銀は16日12時から前倒しで会合を実施。ETFの買い入れ枠を従来の6兆円から12兆円に増額するなどの緩和措置を発表した。マイナス金利の深堀りは見送られた。各国中銀が大幅利下げなどの緩和措置に踏み切る中、日銀としては積極的も他国との比較ではやや弱い緩和という印象で、発表後の振幅を経て、円買い株安の動きに。当面は円買いの流れが継続しそう。株式市場動向次第でドル円は105円割れの動きも。
G7緊急会合
3月16日23:00
☆☆☆
 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、G7首脳が緊急テレビ電話会合を行う。同問題で移動制限などが広がり、世界的な景気鈍化懸念が高まる中で、経済・財政面での連携強化を協議し、新型コロナウイルスに関するワクチン開発などでも連携を深めることが狙いとみられている。具体的な有効策の提示は難しいが、先進国首脳が連携して積極的な対応姿勢を強調できると、ドル円にとっては買い材料に。先週末に付けた108円台回復へのきっかけとなるか。

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