2020年03月23日号

(2020年03月16日~2020年03月20日)

先週の為替相場

ドル全面高

 3月16日からの週は、ドル全面高の動きとなった。

 新型コロナウイルスの感染拡大が強まる中で、世界的に入出国や国内移動の制限、人の集まる施設の閉鎖といった動きが見られた。特にイタリア・フランス・米国の複数の州などでは、生活必需品を除く店舗の閉鎖や原則外出禁止などの厳しい措置が取られており、実体経済への影響も強く懸念される状況に。

 こうした歴史的な異常事態を受けて、世界的な株安が進行。米ダウ平均株価が1000ドル超の単位で乱高下するなど、大荒れの展開に。

 新型コロナウイルスによる世界的な需要減見込みだったところに、OPECプラスの交渉決裂を受けて増産を決めたサウジアラビアの姿勢を受けてNY原油が急落するなど、天然資源市場も大混乱が続いた。NY原油は18日の市場で一時20ドルちょうど近くまで下げており、ほとんどの国の平均採掘コストを下回る状況に。先進国唯一の純産油国(輸出>輸入)であるカナダ、2018年の原油生産量世界一となった米国などの経済に大きな痛手となった。また、天然資源輸出が経済に大きな位置を占める新興国にとってかなりネガティブな材料となり、新興国通貨・資源国通貨売りが加速した。

 また、これまで安全資産とされていた金や米国債にも売りが出たことが特徴的な動きとなった。米10年債利回りは9日に史上最低水準を大きく更新する0.31%を付けるなど、これまではリスク回避での米国債の買い(債券価格上昇=利回り低下)が目立っていた。しかし、その後米国債は株が売られる局面で同時に売られるという展開に。19日の市場では10年債利回りが1.27%台まで上昇するなど、米国債の売りがかなり顕著となった。また、NY金先物も株安の局面で大きく売られる展開となっており、これまでの安全資産といわれていた投資先まで売りの対象となり、ドルキャッシュの確保に動くという流れが強まった。

 あらゆる投資商品、各国の通貨と比べても、圧倒的に流動性に優れ、信頼度も高い米ドルに需要が集まる状況で、世界の市場がかなりの不透明感を抱えていることが感じられる展開が続いた。

 ドル円に関してはリスク警戒感からの円買いが入る局面も見られたが、ドル全面高の勢いが大きく勝り、ドル円は16日の105円10銭台から20日には111円台半ばまで大きく上昇。週の初めから5円以上のドル高円安に。9日の101円10銭台から見ると2週間も経たないうちに10円超も上昇した格好となっている。

 ユーロドルは16日の1.12台から1.06台前半まで下落。資源国・新興国通貨売りドル買いの動きも目立ち、豪ドルは0.6200近辺から、リーマンショック時の豪ドル売りでも割らなかった0.60ちょうどを割り込んで0.5500近くまで一時売り込まれる場面が見られた。ロウ豪中銀総裁が為替介入を示唆したこともあり、豪ドルドルはその後大きく値を戻す不安定な展開に。

 ポンドは19日に今月2度目となる緊急利下げを実施した。英中銀のカーニー総裁が今月15日の任期満了を前に、11日に0.50%の緊急利下げを実施。中小企業向けの融資を促進するTFSME(用語説明1)や、自己資本比率規制に関連するカウンターシクリカルバッファー(用語説明2)を0%へ引き下げるなど、利下げ以外にも積極的な緩和策を実施して、ベイリー新総裁に引き継いだ。

 しかし、その後も市場の混乱が続く中で、新総裁は26日の定例会合を前倒しする形で臨時会合を開いて0.15%の利下げと、2000億ポンドの量的緩和枠拡大によるQE再開を決めた。定例会合で利下げとQE再開が見込まれていた分、発表直後の反応は一息も、QEの拡大枠が予想を超えていたこともあり、英景気への刺激が期待され、その後はいったんポンド買いの動きに。ドル全面高にその後1.14ちょうど近くまでポンド安ドル高が進行も、金曜日の海外市場で1.19台を付けるなどいったんは大きな反発を見せた。もっともその後1.15台まで値を落とし、1.16台で週末を迎えるなど、流れ的にはまだポンド安ドル高方向。

今週の見通し

 不安定な展開が続く。

 新型コロナウイルスの感染動向などをにらみつつ、直近の値動き同様に不安定な展開が続きそう。

 株式などのリスク資産だけでなく、米国債などの通常安全資産とされる商品も含めた全面売りの流れからのドル買いという最も警戒される流れは、米FRBが短期資本市場への資金供給を拡大していることで、先週末にきてやや落ち着いており、ドルのひっ迫感も後退。もっとも自国通貨の信用力が低い新興国ではドル需要は依然強く、ドル高の流れは継続か。

 ドル円に関してはリスク回避の円買いが入る場面も見られ、ドル買いと円買いが交錯する局面も。ただ、ドル全面高の勢いが強いだけに、トレンドとしてはドル高円安か。

 20日朝に111円30銭近辺を付けた後、いったん109円台まで大きく調整が入ったものの、週末を前に111円50銭近辺まで高値を更新するなど、ドル買いの流れがかなり強い。

 同水準を超えると、昨年の高値112円40銭近辺では上値を抑えきれるか微妙なところ。2018年10月に付けた114円台半ばから115円にかけての上値抵抗水準が意識される展開もありそう。

 主要なポイントを割り込んで下落が続くユーロドルは、さすがに行き過ぎ感も上値は重い。新型コロナウイルスの感染拡大による景気後退懸念もあり、もう一段の下げが見込まれるところ。2017年初めに付けた1.0430前後がターゲットになりそう。

用語の解説

TMSME Term Funding Scheme with additional incentives for SMEsの略。3月3日の臨時英中銀金融政策会合(MPC)で導入された中小企業向けの融資を促進するための仕組み。金融機関に対して政策金利をベースに4年物の資金を供与するもので、2019年末時点での貸出残高をベースに、貸し出しが増えると上乗せ金利をゼロ、減少の場合は最大0.25%の上乗せという形で貸し出し増を促進。中小企業に対する貸出については枠がその他貸し出しに対する基準の5倍まで認められるなど、対中小企業向け融資の拡大を図るものとなっている。
カウンターシクリカルバッファー 英国金融安定性委員会(FPC)が管理する銀行の自己資本比率規制における、景気良好時の資本強化の仕組み。Countercyclical Capital Buffer:CCyBとも表記される。2010年12月に公表されたバーゼル3において、資本保全バッファーと共に最低所要資本に上乗せするものとして導入された仕組みで、各国当局が0.0%-2.5%の幅で設定できるものとされている。

今週の注目指標

独製造業・非製造業PMI(3月)
3月24日17:30
☆☆
 新型コロナウイルスの感染拡大による状況の急激な変化が進む中で、経済指標は計測期間と現状との乖離が大きいこともあり、市場の注目度が下がっている。そうした中、新型コロナウイルスの影響が反映された指標が出てきつつあり、市場はどこまで状況が悪化しているのかなどを注目している。アンケートに基づいた調査で、速報性が高いPMI (購買担当者景気指数)も注目を集める指標の一つ。独PMIは製造業・非製造業ともにかなりの悪化が見込まれている。特に非製造業は前回の52.5から42.0までと、好悪判断の境となる50を一気に割り込んで大きく悪化の見込み。3月第2週から状況がさらに悪化している分の反映は限定的なだけに、どこまで市場が反応するのかは微妙。ただ、独景況感の急速な悪化が印象付けられるとユーロ売りの材料に。ユーロドルは1.05を意識する展開に。
ユーロ圏製造業・非製造業PMI(3月)
3月24日18:00
☆☆
 独PMIの30分後に出るユーロ圏全体のPMIにも要注目。フランス、イタリア、スペインというユーロ圏の経済規模2位、3位、4位の国で新型コロナウイルスの感染拡大が一気に広がる中で、どこまで景況感が悪化しているのかが注目される。独PMI同様に製造業、非製造業がともに大きく悪化する見込み。非製造業PMIは52.6から43.0と好悪判断の境となる50を一気に割り込んで大きく悪化の見込み。フランスで17日に外出禁止令が出されたように、ここにきて状況がさらに悪化している。しかし、そこまでは反映しきれていないとみられるだけに、予想よりも強めに出た場合でも反応は鈍いか。予想を超える悪化を示し、ユーロ圏の厳しい状況が意識されるとユーロドルは1.05割れも。
米新規失業保険申請件数
3月26日21:30
☆☆☆
 米労働省は毎週木曜日に前週の失業保険申請件数を発表する。雇用統計の参考になることもあり、それなりには注目を集める同指標であるが、今回は米国でレイオフなどが急速に広がる中で、その速報性の高さもあって非常に注目を集めている。今年に入って同指標は20万から22万程度のレンジでの推移が続いていたが、前回は新型コロナウイルスの影響もあって2年はぶりの高水準である28.1万件まで拡大。今回は、ここにきて一気にレイオフが進んでいるという状況を受けて、150万件という過去最大の数字が見込まれている。大手金融機関には300万件という予想数字を出しているところがあるなど、かなりのブレも予想される。予想されているように新規失業保険申請件数が一気に急拡大していると、米雇用市場の急速な悪化が改めて意識される。本来であれば強いドル安材料であるが、世界経済への危機感からのドル需要につながるようだと、中期的にはドル高の動きも。瞬間的な動きはともかく、中期的にはドル円を114円台に押し上げる動きにつながりそう。

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