2020年05月11日号

(2020年05月04日~2020年05月08日)

先週の為替相場

円高傾向も、少し戻す

 GW期間のドル円は月末要因での実需のドル買い円売りなどを受けて、4月30日海外市場でドル高円安が進む場面が見られたが、その後はドル安円高の流れが優勢となった。

 6日NY市場夕方から7日東京朝にかけては106円割れを試す場面も見られたが、GW明けの東京勢が買いに回ったこともあり、その後はやや値を戻す展開に。

 先々週は株高ドル安の流れの中で4月29日に106円30銭台まで下落。リスク警戒感からのドルひっ迫感が後退し、ドル全面安の流れが強まる中で、ドル円の頭が重くなった。月末がらみの外貨買い円売りに107円台半ば近くまで上昇したものの、5月に入って再びドル売り円買いが強まる展開に。

 新型コロナウイルス問題で米国が中国を批判する姿勢を強めたことで、警戒感からの円買いが広がったとみられる。

 5日にドイツ憲法裁判所(用語説明1)がECBの量的緩和について一部違憲とする判断を下したことで、今後のユーロ圏の金融政策の動向が不透明になったことも警戒感を誘い、ユーロ円の大きな売りからドル円も頭の重い展開に。

 8日の米雇用統計を前に、前哨戦となる6日のADP雇用者数が2000万人を超える減少を示し、本番の雇用統計で厳しい数字が見込まれたこともドル円の重石に。

 注目された米雇用統計は2050万人の雇用者減、14.7%の失業率と、ともに戦後最悪を記録した。もっとも、いずれも事前予想に比べるとマシな数字となっており、発表後はドル買い円売りの動きが広がった。

 ドル円はいったん106円割れを試したことで下値一服感もあり、106円70銭台まで戻して週の取引を終えている。

 ユーロは先々週後半にかけて買いが入った後、一転して売りが強まる展開に。月末がらみの外貨買い円売りの動きにユーロ円が30日海外市場で大きく買われ、115円台から117円台後半を付ける動きに。ユーロドルもつれ高となり1.08台半ばから1.09台後半を付ける動きに。

 ユーロ円は高値からすぐに値を落としたが、ユーロドルはドル円などの下落もあり、対ドルで少し高値圏もみ合いに。レーンECBチーフエコノミストがパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)拡大の可能性について示したことなども支えとなり、1日の海外市場で1.10台を付ける動きが見られた。

 もっともその後はユーロドルも高値から値を落とす展開に。

 5日にドイツ憲法裁判所によるECBの量的緩和についての一部違憲判断などもユーロ全面安基調を誘い、ユーロドルは1.0760台まで。ユーロ円は114円台半ば割れまでと、高値から3円以上値を落とす格好に。

 その後は買い戻しの動きが広がり、ユーロドルは1.08台、ユーロ円は115円台後半で週の取引を終えている。

 ポンドはユーロと同様の動き。7日の英中銀金融政策会合(MPC)は事前見通し通りの金利据え置きも、2名の委員が量的緩和の拡大を主張したこと、総裁会見で追加緩和の可能性を示したことなどが好感されて、少し買われる場面が見られたが、影響は限定的なものにとどまった。

今週の見通し

 レンジ取引が続く展開となっている。リスク警戒の動きが広がる中で、ドル円は若干上値を抑えられる展開も、105円台を売り込むだけの勢いも見られず。

 新型コロナウイルスの感染者数が世界で400万人を超え、中でも米国では10日時点で130万人を超える感染者、8万人に迫る死亡者が確認される中で、先行き不透明感が広がり、上下ともに積極的な取引を手控えさせる要因となっている。

 経済再開への期待感から株高の動きが広がる中で、3月のようなパニック的なドル売り円買いが進む可能性は低いが、被害が最も深刻な米国の状況をにらみ、安心してドルを買う動きにも躊躇といったところか。

 注目された米雇用統計は、非農業部門雇用者数が2050万人減と統計開始以来最悪の結果となった。失業率も14.7%と現行の統計方式では最も高い水準に悪化した。もっとも、市場の反応はドル買いに。事前見通しでは非農業部門雇用者数を2200万人減と見込むなど、より厳しい数字を織り込んでおり、その乖離分だけドル買いに作用した。

 とはいえ、3月時点での就業者数1億5179万人の約13.5%が職を失った格好。さらに、ムニューシン財務長官など米当局者は、4月の雇用統計の計測期間(4月12日-18日)以降、700万人が新たに失業したとの見通しを示しており、米国の雇用状況は相当に深刻だ。失業率も6月には20%に達するとの見通しを示している。1930年代の大恐慌(用語説明2)にも匹敵する水準で、米経済の厳しい状況が示されている。

 こうした中で、先行き不透明感が強いと、積極的なドル買いは仕掛けにくい。ただ、相場は期待で動くもの。米経済の深刻さのピークがこれから先であったとしても、その後の回復が見込めるのであればドル買いが入る可能性は十分にある。欧州に続いて米国でも感染被害の小さいところからロックダウンの緩和に向けた動きが広がっており、こうした流れが大都市部へつながるとドル買いに弾みがつく可能性も。

 105円から106円にかけた水準がサポートとして維持されると、中期的には109円-110円の上値抵抗水準をトライする流れに復するとみている。

 もっとも今週に関してはまだレンジ取引が中心か。106円台から107円台前半にかけてのレンジを中心に、上値を意識する展開を予想している。

用語の解説

ドイツ憲法裁判所 ドイツ南部バーデン・ヴュルテンベルグ州カールスルーエにあるドイツ連邦憲法裁判所のこと。憲法に関する広範な権限を持ち、法律などの合憲性判断だけでなく、連邦政府、州政府、各政党などの権限の帰属・行使などの合憲性などについての判断を下すことができる。
大恐慌 大恐慌(Great Depression)とは1929年10月29日のブラックチューズデーをはじめとする世界的な株価の大暴落をきっかけとして、世界的に広がった経済恐慌のこと。大恐慌が収まった1932年までの間に世界のGDPは約15%縮小したとみられている。リーマンショックが起きた2009年の世界GDPは-0.073%と0.1%に満たない縮小。なお反動もあって2010年には5.415%の拡大。今回はIMFの推計で3.029%の縮小とリーマンショックを大きく超える経済の縮小が見込まれているが、大恐慌の水準には届いていない。

今週の注目指標

豪雇用統計(4月)
5月14日10:30
☆☆☆
 前回3月分は雇用減が見込まれていたものの、小幅ながらプラス圏(+0.59万人)となった豪雇用統計。失業率も5.2%と2月の5.1%から小幅な上昇にとどまった。しかしその後、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた人員削減の動きが強まり、今回は55万人の大幅な雇用減が予想されている。失業率も8.8%まで一気に悪化する見込み。豪中銀は6月に失業率が10%になるとの見通しを示しており、ある程度は想定内も、米国などよりも新型コロナウイルス感染拡大の動きが緩く、今後の経済再開も期待されている豪州での厳しい状況に、豪ドル売りが広がる可能性。豪ドル円は70円が重くなり68円台半ばトライも。
中国小売売上高(4月)
5月15日11:00
☆☆☆
 世界中に感染被害が広がる新型コロナウイルス。被害拡大が最も早く、その分収束からの経済の再開も進んでいる中国の個人消費動向を示す小売売上高が15日11時に発表される。昨年12月時点での同指標は前年比+8.0%とかなり好調であったが、新型コロナウイルスの感染拡大によるロックダウンなどの影響で、2月時点での年初来小売売上高は前年比-20.5%まで悪化。3月に入って外出制限の緩和が続いたこともあり、ある程度の回復が期待されていたが、3月単月の前年比は-15.8%、3月までの年初来は-19.0%と厳しい状況が続いた。もっとも4月8日に発生元とされる武漢市のロックダウンが解除されるなど、経済の再開が本格化する中で、4月の事前見通しは前年比-5.8%、年初来-13.0%まで回復する見込み。予想を超える回復を示すと、対中輸出が大きい豪ドルやNZドルの買いにつながる可能性も。NZドル円は先月末の上値66円10銭近辺をしっかりと超えてくる可能性も。
米小売売上高(4月)
5月15日21:30
☆☆☆ 
 先週末の米雇用統計は戦後最悪となる2050万人の雇用減となった。米GDPの約7割を占める個人消費は雇用動向とかなり密接に関係するだけに、動向が気になるところ。前回3月分は前月比-8.7%と1992年の統計開始以来最悪の下げ幅を記録。雇用情勢の悪化が続いていることもあり、小売売上高も前月比-11.7%とさらなる減少が見込まれている。3月の厳しい数字と比較してなおこれだけの落ち込みということで、深刻な米国の情勢が示されそう。予想を一段と下回る厳しい数字が出てくるとドル売りの動きも。ドル円は105円台トライを意識。

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