2020年08月11日号

(2020年08月03日~2020年08月07日)

先週の為替相場

米雇用統計好結果でドル売りの流れに調整

 3日からの週、ドル円は先々週末に急騰した後を受けて、週明けはしっかりの展開も、その後は総じて軟調な動きを見せた。しかし注目された7日の米雇用統計が強めに出たこともあり、安値から値を戻して週の取引を終えている。

 ドル円は31日の市場で104円台前半から106円台まで大きく上昇する展開を見せた。大きな材料が出たというよりも、これまでのドル全面安の流れに対する調整が一気に入った格好。週明けもその流れの中で当初は不安定な振幅。105円台半ばまで値を落とした後、31日の高値を超え106円47銭まで上値を伸ばす場面が見られた。

 もっとも、106円47銭が先週の高値となり、その後はドル売り円買いが優勢に。米国ではサンベルト地域(米国内で北緯37度線以南の地域)を中心に、新型コロナウイルスの感染第二波の勢いが強まり、米金融当局による超緩和的な政策が長期間にわたって維持されるとの見通しが広がっているため、ドル売りが入りやすい展開に。

 いったん調整が入ったが、ユーロドルなどを中心に再びドル売りが継続。ポンドも対ドルで買い(ドル売り)が入る展開となり、いったんは調整したものの、流れ的にはドル全面安が継続するとの意識が広がった。

 7日の米雇用統計を前に、相関が高いとされる米ISM製造業景気指数、同非製造業景気指数の雇用部門の数字や、ADP雇用統計の数字が弱めに出たこともドル売りを誘った。

 注目された米雇用統計は非農業部門雇用者数が予想の148万人増に対して176.3万人増と、予想を超える伸びを示した。前回の479.1万人増(480万人増から修正)からは伸びが鈍化も、かなりの好結果。失業率も予想の10.6%より低い10.2%となった。

 内訳をみると、飲食店が50.2万人増、小売店が25.8万人増と、新型コロナウイルスの感染拡大で雇用が大きく減少した部門での回復が目立った。飲食店部門は3月、4月の2カ月で雇用がほぼ半減するなど、新型コロナウイルスの感染状況が大きく影響するため、感染が再拡大する中で警戒感が出ていた。それだけに、今回の好結果は、市場の安心感につながった面も。

 なお、今回U6失業率(用語説明1)は16.5%まで低下した。4月には22.8%まで上昇し、前回時点でも18.0%と高い水準にあった。水準的には依然かなり高いが、通常の失業率以上の改善を示しており、とりあえず仕事に就いたという形ではなく、しっかりと雇用が回復してきているという印象を与えている。

 ユーロドルは一時直近高値を更新した。先々週末に1.19台から急落。先週初めにドルの買い戻しが継続する局面で、1.16台まで値を落とす場面が見られた。しかし、その後はユーロ買いドル売りの流れに戻り、6日に1.1916までと、先々週の高値1.1908を超える動きを見せた。

 4日の海外市場で1.18台を付けた後1.17台前半まで値を落とすなど、不安定な動きを見せる局面も見られたが、米金融当局の緩和路線が長期継続するとの見通しが、ドル売りにつながった。

 米雇用統計前には高値から調整が入り1.18台前半に。さらに統計発表後のドル買いに1.17台に値を落として週の取引を終えている。

 ポンドも基本的には同様の動き。6日の英中銀金融政策会合(MPC、用語説明2)では、政策金利・量的緩和ともに事前見通し通りの据え置き。もっとも全会一致での据え置き決定で、追加緩和主張が出なかったことや、会合後のベイリー総裁会見でマイナス金利導入に否定的な見解を示したことからポンド買いの動きに。

 ポンドドルは先週初めの1.29台から1.3180台まで上昇。米雇用統計後のドル買いに1.3000台まで一時値を落とす展開に。

今週の見通し

 中期的なドル売り基調が継続も、目先はドル売りに一服感が出ている。レンジ取引が基本となりそうだが、上下ともに動きが出る可能性。

 米FRBによる緩和政策が長期にわたって続くとの見通しがドルの重石に。また、米中関係の緊張の高まりもドル売り圧力となりそう。香港では国家安全法の下で、メディア創業者や香港民主化運動の活動家らが逮捕されており、米国などからの反発が強まる可能性が意識されている。

 一方で先週の米指標はISM製造業景気指数、同非製造業景気指数、雇用統計など、重要指標が軒並み好結果を記録した。ISMに関しては製造業・非製造業ともに新規受注が大幅に伸びており、今後への期待感が広がる結果となった。こうした状況はドルを支える材料に。

 新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化する中南米や南ア、さらには通貨防衛がうまくいっていないトルコなどの新興国通貨売りドル買いの動きが広がっていることも、ドルを支える材料に。

 ドル買い、ドル売り双方の材料が交錯する中で、次の流れを見極める展開に。米雇用統計などの重要イベントをこなし、次の方向性を探る段階となっている。

用語の解説

U6失業率 米国では失業率(unemployment rate)を、レベル1からレベル6まで6段階に分けて計測している。例えばU1は15週以上働いていない労働者。数字が大きいほど幅広い範囲で失業者を定義しており、失業率は高くなる。一般的な失業率はU3。U6の失業率は、通常の失業者に加え、本当は働く意思があるが十分に働く場所がないことから求職自体を諦めている人や、正社員での雇用を望みながらパートタイムでの仕事に従事している人などを失業者に含んだ非自発的失業の割合を示した失業率となる。雇用の健全化のためには仕事があるだけでは十分ではないとの考え方から、FRBではU6失業率を重視している。
英中銀金融政策会合(MPC) 英中銀の金融政策を決定する最高意思決定機関。総裁、副総裁を含む5人の内部委員と、4人の外部委員の9人からなる。FOMCや日銀金融政策決定会合は、投票前の討論の中である程度のコンセンサスを整え、最終的な投票において議長提案が否決されることはまずない(過去一度もない)。しかし、MPCは比較的自由な投票となっており、現総裁や前総裁の下ではないが、過去の会合で議長提案が否決されるケースが複数見られた。それだけに議長らがマイナス金利を強く否定していたとしても、委員からマイナス金利を希望する投票が出るのではとの期待が広がっていた。

今週の注目指標

NZ中銀政策金利
8月12日11:00
☆☆☆
 国内感染者ゼロが100日続くなど、新型コロナウイルスの感染拡大の抑え込みに成功しているNZ。ただ、人口が少なく、酪農製品などの輸出や観光などで経済を維持していた面が大きいこともあり、新型コロナによる経済への影響は厳しい状況。3月の緊急会合で政策金利を同国としては過去最低水準の0.25%まで引き下げ。同月に量的緩和(LASP、大規模資産購入プログラム)の実施も決定した。その後4月、5月とLASPの規模拡大などの追加緩和を実施してきた。前回の会合では金融政策の現状維持を決めたが、今後追加緩和が必要になるとの見通しが一般的。今回の会合でも現状維持が見込まれているが、声明でマイナス金利導入などの追加緩和への姿勢をより強めてくる可能性が十分にある。その場合はNZドル売りの材料に。NZドル円は69円台半ばが目先のターゲット。
豪雇用統計(7月)
8月13日10:30
☆☆☆
 4月、5月と2カ月連続で大きく落ち込んだ豪州の雇用者数は、前回6月分が21.08万人増と一気に増加した。もっとも、内訳をみるとパートタイム雇用が目立ち、正規雇用は3.81万人の減少となっている。こうした状況から豪州の雇用はまだかなり厳しい状況とみられている。豪州第2のビクトリア州で感染拡大が続いており、都市部のロックダウンなどの動きにつながっていることも、雇用に悪影響。今回は2.5万人の増加が見込まれているが、予想を下回る伸びにとどまったり、前回に続いてパートタイム雇用が目立つような状況なら豪ドルの売り材料に。豪ドル円は75円50銭を割り込むと大きな下げにつながる可能性。
米小売売上高(7月)
8月14日21:30
☆☆☆
 5月に過去最大の伸びとなる+18.2%(速報時点では+17.7%)を記録、6月も予想を超える+7.5%の大きな増加となり、パンデミック前の水準をほぼ回復した米国の小売売上高。前月比105.1%増となった衣料品をはじめ、自動車やフードサービスの売り上げ増が全体を押し上げた。今回はさすがに伸びが鈍化する見込みも、+2.0%と堅調な拡大が期待されている。雇用の回復、景況感の改善などが消費回復につながっているとみられる。予想通りもしくはそれ以上の結果が出るとドル買いの材料に。ドル円は106円台後半を意識する展開に。

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