2020年08月31日号

(2020年08月24日~2020年08月28日)

先週の為替相場

週末に大きな動き

 24日からの週、ドル円は振幅が目立つ展開となった。27、28日に開催されたジャクソンホール会議におけるパウエル議長の講演が注目される中、講演まではやや様子見ムードが強い展開に。

 歴代のFRB議長が金融政策の重要な変更を行う際のアピールの場として利用してきた同会議。現在FRBは昨年から続く金融政策の枠組み変更の議論を行っている。ここ数回のFOMCで議論が進展し、9月のFOMCで変更が示されるという見通しが広がる中で、議長講演までは積極的な売り買いがやりにくくなっていた。

 週の前半は株式市場の堅調な動きなどが支えとなり、リスク選好での円安が進行。米中閣僚級電話会議で第一弾の貿易合意について両国が進展を確認し、合意履行に向け必要な措置を取ることにコミットしていると発表されたこともドル円の支えとなった。

 ドル円は週初の105円台後半から106円台半ば超えまで上昇する展開となったが、議長講演を前に調整が入り、その後再び105円台に下落。FRBによる政策の枠組み変更に関しては、インフレターゲットの対象であるPCEデフレータを平均的に2%の目標に合致させるために、一時的に2%を超える水準を許容する姿勢を示すのではとの見通しが広がっており、現状の緩和政策の長期維持につながるとの思惑から、ドル売り材料として意識されていた。そのため、講演を前にドル買いポジションの調整が入りやすくなっていたとみられる。

 パウエル議長講演では事前見通し通り、平均で2%のインフレ目標について言及し、景気低迷期に2%を長く下回った後に、インフレが2%超に上昇しても、しばらく容認する姿勢を滲ませた。これを受けて米国の実質ゼロ金利政策が長期にわたって維持されるとの見通しが強まり、ドル円は105円60銭前後まで。しかし、売りが一巡すると低金利政策維持を受けた株高の動きや米債利回りの上昇もあって、一転してドル買いが強まる展開に。その後28日の日本時間昼頃にかけて、ドル円は14日以来の高値圏となる106円95銭まで上値を伸ばした。

 しかし、安倍首相の辞任観測が報じられて、状況が一変。その後正式に辞任表明がなされると、アベノミクス終焉懸念が広がる中でドル売り円買いの動きが強まった。ドル円は105円20銭前後まで急落。その後少し戻すも105円台前半で週の取引を終えた。

 126円77銭まで上値を伸ばしていたユーロ円が125円20銭近辺を付けるなど、クロス円も軒並みの円高に。

 ドル円以外でもドル安の動きが見られ、ユーロドルは1.1920前後まで上昇し、1.19台で週の取引を終えている。

今週の見通し

 日本の政治問題と米国の景気動向がポイントとなりそう。

 安倍首相の辞任表明を受けてドル円が急落したが、菅官房長官が出馬の意向だと報じられたことで、アベノミクス終焉懸念が後退している。今後の状況次第ではあるが、菅長官に対する主要派閥の支持が順調に集まるようだと、警戒感からの円買いは限定的に。

 一方で、ドル売りの動きも継続しており、こちらはドル円の重石に。

 先週のパウエルFRB議長講演を受けて実質ゼロ金利政策の長期維持見込みが強まっており、ドル売りが入りやすい地合いに。

 今週は、1日に米ISM製造業景気指数、2日に米ADP雇用者数(用語説明1)、3日にISM非製造業景気指数、4日に米雇用統計(用語説明2)と重要指標が目白押しとなっている。

 新型コロナウイルスの影響で落ち込んだ米経済の再生が進んでいるが、米サンベルト地帯(米国内で北緯37度線以南の地域)を中心に感染第二波の動きが継続しているだけに、先行き不透明感も強い。特に雇用に関しては、今後の金融政策への影響も大きく、注目度が高まっている。

 雇用統計の中で最も注目度が高い非農業部門雇用者数は3月に137.3万人減、4月に過去最大の落ち込みとなる2078.7万人減を記録。その後5月に272.5万人増、6月に479.1万人増と急回復。前回7月は176.3万人増と水準的には大きいものの、伸びはかなり鈍化した。

 直近3カ月の雇用増は約930万人と、4月の落ち込みの半分にも至っておらず、まだまだ回復の余地はあるが、倒産した企業、閉店した店舗なども多く、どこまで雇用が戻るかは未知数。雇用情勢は、米GDPの約7割を占める個人消費動向に直結するだけでなく、住宅投資や企業の設備投資などにも大きく影響する重要な項目。雇用の回復状況が今後の米経済の勢いを決める大きな鍵となるだけに、いつも以上に注目度が高まっている。

 今回の予想は140万人増と、水準的にはかなり大きいものの、前回より増加幅が縮小する見込み。新規失業保険申請件数の伸びが鈍化するなど、雇用情勢は回復傾向が見られ、予想程度の数字は十分あり得る。ただ、ブレの大きい指標だけに好悪両方向にリスクがある。

 雇用の回復が予想以上に進み、雇用統計までに発表されているISM製造業や同非製造業の数字なども強いようだと、米景気回復への安心感からのドル買い円売りの動きも。ドル円は下値進行が一服し、107円台回復に向けた動きが期待されるところ。

 逆に弱めに出てくるようだと、ドル売り円買いが一気に強まる可能性も。105円をしっかり割り込むと、一気に値を崩す可能性が十分あるだけに、こちらも要注意。

 ISM製造業及び非製造業の雇用部門の数字、ADP雇用者数など、雇用統計の先行指標となる統計結果にも要注意。

用語の解説

米ADP雇用者数 米国にある給与計算代行業大手のADP(Automatic Data Processing)社の持つ約50万社、2400万人のデータをもとに雇用状況を調査した指標。米労働省による雇用統計のうち非農業部門雇用者数(NFP)の大部分を占める民間部門のデータとの相関性が高いとされている。米労働省の雇用統計の原則2営業日前に発表され、雇用統計の先行指標として注目されている。
米雇用統計 米労働省労働統計局(BLS)が、米国の労働者の雇用状況を調査した指標。米FRBは物価の安定と雇用の最大化が二大責務となっており、金融政策に影響するものとして市場の注目を集める指標となっている。中でも農業部門以外の産業で働く就業者の数を事業所の給与支払い帳簿を基に計測した非農業部門雇用者数は、世界で最も注目される経済指標の一つとなっている。月次のデータではあるが、調査期間は12日を基準日として12日を含む週の雇用状況となっている。計測期間から3週間後の金曜日に(各月の第1金曜日になることが多い)発表される。

今週の注目指標

米ISM製造業景気指数
9月1日23:00
☆☆☆
 新型コロナウイルスの感染拡大防止のためのロックダウンなどの影響で、4月に11年ぶりの低水準となる41.5まで落ち込んだ同指数。5月以降3カ月連続で改善しており、6月分から好悪判断の境となる50を超えてきている。前回は予想を超える54.2の好結果に。今回はさらに強めの54.5が見込まれている。予想通りもしくはそれ以上の好結果を示すようだと、ドル買いにつながる。また、内訳のうちこれまであまりさえず、前回も44.3にとどまっている雇用部門の数字の改善が見られるようだと、大きなドル買い材料に。ドル円は106円台半ばに向けた動きが期待される。
豪第2四半期GDP
9月2日10:30
☆☆☆
 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、第2四半期の豪経済は大きな景気鈍化が見込まれている。豪州の四半期GDPは第1四半期時点で-0.3%となっているが、第2四半期は-6.0%と大きなマイナスが見込まれている。リーマン・ショック時でも見られなかった2四半期連続でのマイナス成長、いわゆるテクニカルリセッションに陥ることが確実視されている。ビクトリア州を中心に新型コロナウイルスの感染拡大が継続する中で、予想以上の落ち込みを見せるようだと、豪ドル売りの動きが強まる可能性も。豪ドル円は77円割れも視野に。
米雇用統計
9月4日21:30
☆☆☆
 雇用統計のうち、特に注目度の高い非農業部門雇用者数全体の動向については、見通しの中で示した通り。それだけでなく分野ごとの雇用状況も相場に大きな影響を与える。前回の雇用統計ではレジャー・ホスピタリティ部門が59.2万人増と大幅な雇用増加を記録した。同部門は5月が140.5万人増、6月が198.1万人増と2カ月連続でかなり大きく増えていたため、前回7月分での伸びの実現が懸念されていただけに、好印象を与える結果となった。そのほとんどがバー・レストランなど飲食部門で、ロックダウン緩和による店舗の再開が続いている状況が示されている。同部門は新型コロナウイルスの影響が出る前、2月時点で1230万人が働いていたが、4月には622.7万人と、ほぼ半減する勢いで雇用者が減少した。そうした意味ではまだ回復余地が見られるが、大手レストランチェーンが倒産するなど、傷跡の大きい部門でもあり、今後の動向が注目されている。全体の数字に加え、同部門や、同じくダメージの大きかった小売業部門の雇用回復が目立つようだと、安心感からのドル買いが入りやすくなる。ドル円の107円台回復に向けた動きを支えることになりそう。

auじぶん銀行外貨預金口座をお持ちのお客さま

ログイン後、外貨預金メニューからお取引いただけます

免責事項

本レポートは株式会社時事通信社が提供しています。また本レポートの内容は、株式会社時事通信社が提供する情報をもとに、株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイドが執筆しています。本レポートは、情報提供のみを目的にしたもので、売買の勧誘を目的としたものではありません。投資決定に当たっては、投資家ご自身のご判断でなされますようお願いいたします。株式会社時事通信社、株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイドおよび情報提供元は、本レポートに記載されているいずれの情報についても、その信頼性、正確性または完全性について保証するものではありません。また本レポートに基づいて被った損害・損失についても何ら責任を負いません。本レポートに掲載されている情報の著作権は、株式会社時事通信社および株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイドに帰属します。本レポートに掲載されている情報を株式会社時事通信社の許諾なしに転用、複製、複写等することはできません。

Copyright(C) JIJI Press Ltd. All rights reserved.

auじぶん銀行からのご注意

  • 本画面に掲載されている情報は、auじぶん銀行の見解を代弁したものではなく、auじぶん銀行がその正確性、完全性を保証するものではありません。

以上の点をご了承のうえ、ご利用ください。