2020年09月23日号

(2020年09月14日~2020年09月18日)

先週の為替相場

リスク警戒のドル買い円買いがやや優勢

 9月14日からの週、ドル円は頭の重い展開となった。15、16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)を意識したドル売りが週初から入る格好に。

 今回のFOMCは3カ月に一度、参加メンバーによる経済成長、失業率、政策金利見通しなどを示すプロジェクションマテリアル(用語説明1)が発表される回に当たっていた。当年から2年後までの長期見通しが示されるプロジェクションマテリアルは、毎年9月に発表対象が更新される。今年でいうと6月のプロジェクションマテリアルでは2020、2021、2022年のそれぞれ年末時点と長期の見通しが示されていたが、9月からはそこに2023年が加わる。

 この2023年末時点での政策金利見通し(ドットプロット)において、同時期までのゼロ金利維持見通しが示されるとの観測が広がり、ドルの重石となっていた。

 FOMC前にドル円は105円割れまでドル売りが進む展開に。

 FOMCでは事前の見通し通り2023年末時点でのゼロ金利見通しが示された。すでに反応済みということで、発表後は逆にドルの買い戻しが入る場面が見られたが、戻りは鈍く、調整一巡後は再びドル売りが強まる展開に。

 週末から週明けにかけてもドル円は頭の重い展開が続いた。

 ユーロドルはドル円同様にFOMCを前にしたドル売りに週の前半に1.19台を付ける場面があった。しかし1.19台での買いに慎重姿勢が見られたことで短期筋のポジション調整を誘い、その後はユーロ売りが優勢に。

 このところECB関係者からユーロ高を警戒する発言が続いており、先週もデコス・スペイン中銀総裁がこれ以上のユーロ高は輸出に悪影響と発言。こうした関係者からの口先介入がユーロ高基調に影響した形となった。

 不安定な動きを見せたのがポンド。英政府が提出した国内市場法案を巡って、EUとの通商交渉に対する警戒感が広がった。同法案により昨年のEUとの離脱合意に修正が必要になるため、EU側が強い反発姿勢を示し、通商交渉にも悪影響という認識が広がりポンドが売られる場面が見られた。ただ、ドル全面安の流れの中でポンドドルの基調はしっかりしており、一時1.3000を付けた。

 17日の英中銀金融政策会合(MPC)は事前見通し通り政策金利、量的緩和を据え置き。声明の中でマイナス金利の有効性を議論と、これまで否定してきたゼロ金利導入の可能性を示したことで1.28台に急落する展開に。

 安値から値を戻すと、その後はポンド買いが優勢も1.30前後からが重くなっており、その後売りが出る展開となっている。

今週の見通し

 リスク警戒の動きがドル買い円買いに。

 ドル高円高の動きが強まっている。ドル円はやや方向感が出にくい展開。円買いが断続的に入る分、頭は重いものの、突っ込んだドル売り円買いにも慎重姿勢。

 目立った材料が出ているというよりも、これまでの米株高の本格的な調整や、新型コロナウイルスの感染拡大第二波警戒の動きなどが重石となっている。

 11月3日の米大統領選を前に、世論調査でバイデン前副大統領の優勢な状況が続いており、市場の警戒感を誘っている面も。バイデン氏は法人減税の撤廃や、富裕層への増税を公約としており、当選した場合、米株価の下落が見込まれている。

 欧州で新型コロナウイルスの感染拡大第二波の動きが加速していることも、市場の警戒感を誘っている。フランスでは9月に入って1日当たりの新規感染者数が13000人を超える日も出てきた。3月末から4月にかけてのピーク時は7000人台であり、かなり状況が悪化している。英国は4月のピーク時には届いていないが、一時の1000人割れが続いていた状況から4000人台まで増えてきており、警戒感を誘っている。

 また、英国とEUとの通商交渉の難航を警戒する動きもあり、欧州通貨は全般に買いにくい展開に。株安などを警戒したドル買い円買いの動きに、欧州通貨の売り基調が加わるという格好に。

 ドル円はドル高の勢い次第であるが103円台を付ける動きも。米経済の回復はかなり順調に進んでいるが、米当局は慎重姿勢を崩しておらず、リスク選好が進みにくい面も。今週は22日に下院、23日に上院でCARES法(用語説明2)に基づいたパウエルFRB議長とムニューシン米財務長官の議会証言が行われるが、こちらでも慎重姿勢を崩さないという見通しが強い。

 ユーロドルは長期的なユーロ高期待自体は継続も、目先はユーロ売りの流れ。1.15を意識する展開もありそう。

 ポンドは相当不安定。EUとの通商交渉が決裂する可能性が強まっており、ポンドの重石に。もっとも、合意に至る場合でも、ぎりぎりまで交渉を続けるこれまでの流れから、事前の大きな織り込みが難しく、実際に決裂した場合はもう一段のポンド売りも。6月末につけた1.2250前後を年末までのターゲットとして、頭の重い展開が続くか。

用語の解説

プロジェクションマテリアル 年8回開催される米FOMCのうち、3月、6月、9月、12月の会合で公表されるFOMC参加メンバーによる経済見通しを示したもの。今後数年及び長期にわたっての経済成長率、失業率、物価(PCEデフレータ前年比)、政策金利見通しが示される。中でも政策金利見通しは、各見通しを含めた一覧表だけでなく、すべてのメンバーの予想をドットの形で示したドットプロットも含めて公表され、市場の注目を集めている。6月のドットプロットでは2名を除く15名のメンバーが2022年末時点でのゼロ金利を予想していた。2023年分の予想が加わった今回は、2022年末時点でのゼロ金利見通しが16名に増えたうえに、2023年末時点でも17名中13名がゼロ金利を予想していた。
CARES法 新型コロナウイルスで米経済が深刻な打撃を受けたことから、3月27日に第3弾として最大規模となる救済措置法案が制定された。これがコロナウイルス支援・救済・経済安全保障(Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security)法、頭文字を取って通称CARES法である。規模は2兆2000億ドルと米GDP(約21.4兆ドル:2019年)の約1/10に当たる大規模なものとなっている。同法の下でパウエルFRB議長及びムニューシン財務長官は定期的に議会で聴聞会を行い、状況の進捗を報告することとなっている。FRB議長が議会に出席する機会は通常旧ハンフリー・ホーキンス法に基づいた半期に一度の議会証言だけのため、注目されるイベントとなっている。

今週の注目指標

ユーロ圏PMI(9月・速報値)
9月23日 17:00
☆☆☆
 9月のユーロ圏及び独・仏などユーロ加盟主要国の購買担当者景気指数(PMI)が発表される。ユーロ圏、独、仏の製造業PMIはいずれも8月に比べて改善の見込み。好悪判断の境となる50を割り込んでいた仏の製造業PMIも50を超えてくる見込み。非製造業はフランスとユーロ圏が前回並み、ドイツが前回から改善の見込みで、いずれも50を超えた水準が見込まれている。予想通りもしくはそれ以上の数字が出てくると欧州の景気回復への期待感につながり、ユーロの買い戻しが見込まれる。ただ、ここにきて欧州では新型コロナウイルスの感染拡大の動きが広がっており、景況感が予想以上に悪化している可能性がある。この場合はユーロ売りに拍車がかかる可能性も。ユーロドルは1.15台を意識する展開も。
米PMI(9月・速報値)
9月23日 22:45
☆☆☆
 8月の米購買担当者景気指数(PMI)は、製造業が2019年1月以来の53.6、サービス業が2019年3月以来の54.8、コンポジットが2019年2月以来の54.7と高水準を記録(いずれも速報値、改定値ベースでは製造業53.1、サービス業55.0、コンポジット54.6)。7月分で好悪判断の境となる50に乗せてきていたが、さらに大きく改善する状況に。今回は製造業が53.3と改定値の数字からは改善見込み。前々回の50.0から一気に伸びたサービス業はさすがに反動がでて54.5とやや鈍化見込みも、高水準を維持すると期待されている。ただ、米国の一部地域で新型コロナウイルスの感染拡大の動きが強まっており、影響が出やすいサービス業を中心に景況感の悪化が進んでいる可能性があり要注意。予想以上の鈍化を見せるようだと、リスク警戒からの円買いを誘い、ドル円は103円台に向けた動きを強める可能性。
トルコ中銀政策金利
9月24日 20:00
☆☆☆
 トルコ中銀の政策金利が24日に発表される。昨年7月から今年5月まで9会合連続で利下げを実施した同中銀。その後3カ月連続で金利を据え置いている。今回も据え置きが見込まれている。トルコのインフレ率(消費者物価指数前年比)は直近8月分で11.77%と政策金利の8.25%をはるかに上回っており、実質金利では大きなマイナスという状況が続いている。本来であれば利上げが意識されるところであるが、エルドアン・トルコ大統領の低金利志向もあり、金利の据え置きが続いている状態。トルコ中銀は資金供給オペの適用金利を政策金利である1週間物レポ金利(8.25%)ではなく、上限金利である翌日物貸出金利(9.7%)に切り替えるなどの事実上の資金調達コスト引き上げ措置を取っているが、利上げに踏み切るにはハードルが高いという見方が強い。もし利上げを実施した場合はリラ高に。リラ円は14円台回復も視野に。

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