2020年10月05日号

(2020年09月28日~2020年10月02日)

先週の為替相場

材料は豊富も目立った方向感生じず

 9月28日からの週は、材料が色々と出たが決定打に欠け、ドル円は105円台でのレンジ取引が中心となった。米国の追加経済対策については、ムニューシン財務長官とペロシ下院議長の協議が続いたものの、合意に至らず。注目された米大統領候補者第1回テレビ討論会(用語説明1)は、両者の非難合戦となり内容に乏しいものに。さらに週末にはトランプ大統領とメラニア夫人が新型コロナウイルスに感染と発表され、市場が混乱する場面も見られた。大統領はその後首都ワシントン近郊の軍病院に入院し、市場が容体などを意識して神経質になる中、本来の注目材料である米雇用統計がやや弱めに出たものの、市場の反応は一息となった。

 米国以外の材料としてはアルメニアとアゼルバイジャンの間で、係争地ナゴルノカラバフ(用語説明2)での軍事衝突が深刻化。アルメニアがアゼルバイジャン第2の都市ギャンジャを攻撃するなど戦火が拡大する勢いとなっており、隣国であるトルコなどへの警戒感に。

 英国とEUとの自由貿易協定に関する協議の第9ラウンドも行われ、交渉が前向きに進展との報道も、まとまるまでにはまだ対立点が多い状況となっており、こちらも神経質な材料に。

 週の初めはドル円の頭が重い展開。米株高が進む中でリスク警戒のドル買いが後退し、ドル円の重石に。もっとも安値は105円26銭近辺までと限定的で、下値しっかり感が出ている。

 30日には月末ゴトウビがらみで実需関連のドル買い円売り注文もあり、先週の高値である105円80銭を付ける動きに。ただ、ポイントとされた105円80銭をしっかり超えることはなく、上値を抑えられる格好に。

 現地時間29日夜(日本時間30日午前10時)からの米大統領候補者討論会は、両者の非難合戦が目立ち、司会者が運営に苦労する場面が目立った。選挙戦をリードしているバイデン氏に目立った失点がなく、情勢が変わらないとの思惑から、高値からドル売り円買いの場面も、動きは限定的に。

 その後105円台後半を回復して迎えた2日金曜日の東京時間昼過ぎに、トランプ大統領とメラニア夫人が新型コロナウイルスに感染との報道が出て、リスク警戒の動きが一気に強まった。ドル円は一時105円を割り込んだ。

 その後少し値を戻し、症状は軽度との報道などが下値を支えたが、積極的に上値を買うだけの材料に欠け105円台前半での推移に。

 米雇用統計は非農業部門雇用者数(NFP)が予想を大きく下回ったが、失業率が予想を超える低下を見せたこともあり、好悪まちまちで売り買いが交錯。NFPの弱さにしても、民間部門はほぼ予想通りで、9月の新学期を迎えた学校関連の雇用が小さく、地方政府の教育関連雇用が大幅減となったことが主要因ということで、反応が難しかった面も。失業率は大きく低下も、労働参加率の低下で相殺される(労働参加率の低下は基本的に失業率の低下を招く)こともあり、こちらも反応が難しかった。大統領の入院などの他の材料が目立ったこともあって、雇用統計に対する市場の反応は限定的に。

 ユーロはしっかりの展開。対ドルで1.16台前半から1.17台後半へ。米国の追加経済対策の協議難航などがユーロ買いドル売りに。

 先週前半はポンドの上昇などもユーロを支えた。

 ポンドは、イングランド銀行のラムズデン副総裁がマイナス金利早期導入に否定的な発言を行ったことや、欧州がブレグジット後も英国の金融取引清算所にサービス提供を認めたことなどがポンドの買いを誘った。

 ポンドドルは週初めの1.27台半ばから1.29台を付ける動きに。EUとの自由貿易協定に関する協議において、英国側が合意草案を送付との報道などもポンド買いにつながった。

 アルメニアとアゼルバイジャンの軍事紛争は、アルメニアの隣国で、アゼルバイジャンとは友好国として深いつながりのあるトルコへの警戒感に。トルコリラ円は紛争深刻化報じられた先週初めに13円台後半から一時13円20銭台に。その後値を戻すも、頭の重い展開が続いている。

今週の見通し

 リスク警戒の動きが一服も、不安定な展開が続きそう。

 トランプ大統領の容体について、回復しているとの期待が強いものの、高齢でもあり、今後の影響については予断を許さないところ。リスクを意識する展開に。

 ここにきて保守系シンクタンクによる世論調査でトランプ大統領がバイデン前副大統領を逆転するなど、両者の争いは混戦となっている。11月3日の選挙当日までは不安定な動きが続きそう。

 米国の追加経済対策の協議難航についても、進展期待は見られるが、まだ難航しそうな見込みでリスク要因に。前向きな進展で円売りの動きも、先行き不透明感が強い。

 もう一つ大きな懸念材料となっているのが、アルメニアとアゼルバイジャンの軍事衝突。当初の係争地であるナゴルノカラバフ以外でも軍事衝突が起きている。両国とも戒厳令を発動しており、40歳以下の全国民に対する徴兵令なども出している状況で、全面戦争への警戒感が強まっている。トルコリラはもちろん、地政学的に近いユーロに対する売り材料として意識される。ドル円以外ではドル買いを誘うが、ドル円では円高につながる動きが強そう。

 もっとも、こうしたリスク懸念がありながら、ドル円の基調はドル買い円売り。ドル円以外ではドル売りでクロス円がしっかり。

 先週末の米雇用統計は非農業部門雇用者数が予想を下回ったものの、総じて堅調地合いを維持しており、新型コロナウイルスからの経済の回復が継続している。株の調整も一服してきており、ドル円は流れ的に上方向か。

 大統領選まであとひと月を切り、積極的な取引が手控えられることも想定される中、ドル円は、リスクを警戒しながら、じりじりと上をトライする流れが予想される。106円台にしっかり乗せてくると、勢いが出る可能性も。ターゲットは8月に付けた107円台。

用語の解説

米大統領候補者第1回テレビ討論会 11月の米大統領選を前に、共和党、民主党両党の候補者が行うテレビ討論会。1960年に初めて行われ、1976年以降はすべての大統領選で実施されている。現在の主催者は大統領選挙討論会委員会(CPD)で、民主・共和両党の前全国委員長が共同会長となっている。今後、10月7日に副大統領候補討論会、15日に第2回、22日に第3回の大統領候補討論会が実施される。なお、第1回討論会での混乱を受けて、形式を変更するとCPDが発表した。
ナゴルノカラバフ アゼルバイジャンの西部にある山岳地帯。古くからアルメニアとアゼルバイジャンとの間で係争地帯となっており、ロシア帝国崩壊後の軍事衝突を皮切りに、幾度も衝突を繰り返している。両国がソ連の構成国であった際に、アゼルバイジャンへの帰属が決められたが、アルメニア系民族による自治州となっていた。ソ連崩壊後も紛争は継続し、国際的にはアゼルバイジャンの領土となっているものの、実効支配はアルメニア系という状況が続いている。

今週の注目指標

米ISM非製造業景気指数(9月)
10月5日 23:00
☆☆☆
 1日のISM製造業景気指数は、8月に比べて小幅上昇との見通しに反して、やや弱めの数字となった。8月分の数字を押し上げた新規受注や生産などの数字が弱めに出た。もっとも両項目とも調整が入ったとはいえ好悪判断の境となる50どころか60を超えており、8月分が強すぎた面も。雇用も49.6と50超えが見えてくるところまで改善している。こうした後を受けての非製造業景気指数であるが、予想は56.2と、前回の56.9からやや鈍化見込み。レストランの屋内営業に制限がかかっている地域が多く残るなど、新型コロナウイルスの影響が製造業以上に出やすい分、第二波による影響が懸念されるところ。予想を下回る鈍化を示すと、警戒感からのドル売り円買いも。ドル円は105円台を維持できるかがポイントに。
豪中銀政策金利
10月06日 12:30
☆☆☆
 ビクトリア州での新型コロナウイルス感染拡大が続き、厳しいロックダウンが継続する中、豪州経済の回復は想定よりもやや鈍いものになっているという警戒感が出ている。先月にはデベル豪中銀副総裁が為替介入やマイナス金利導入など、あらゆる選択肢を精査すると発言しており、市場では豪中銀の追加緩和期待が広がっている。今回は据え置き見通しが大勢となっているが、金利市場では0.10%への利下げがあってもおかしくない程度の織り込みに。今回サプライズで利下げを実施し、国債の利回り目標についても、従来の3年物を引き下げるだけでなく5-10年国債利回りも目標を同程度に設定してくるようだと、豪ドルの大きな売り材料に。豪ドル円は74円台へ値を落とす可能性が意識される。
米副大統領候補者討論会
10月07日 
☆☆☆
 先週の第1回大統領候補者討論会に続いて、今週は副大統領候補者の討論会が7日、ユタ州ソルトレークシティーのユタ大学で行われる。計3回行われる大統領候補者の討論会と違い、副大統領候補者討論会は今回だけとなっている。先週の大統領候補者討論会で怒鳴り合いや非難合戦が見られたことで、今回は着席しての討論会が予定されている。ハリス民主党副大統領候補が、黒人層をはじめマイノリティー層にどこまで支持を広げられるかは、大統領選を左右する重要な項目の一つとみられているだけに、今回の討論会に対する注目度は高い。バイデン・ハリス陣営のリードが広がる状況になると、ドル売り円買いの動きが強まりそう。ドル円は104円台への下落が見込まれるところ。

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