2020年10月12日号

(2020年10月05日~2020年10月09日)

先週の為替相場

材料は豊富も目立った方向感生じず

 10月5日からの週は、値幅自体は限定的ながらも、やや神経質な展開となった。2日(現地時間1日)にトランプ大統領が新型コロナウイルスに感染し、その後軍病院に入院したことで、先週初めはリスク警戒感が強い展開。もっとも、症状が回復し、日本時間5日朝(現地時間4日)には一時車で病院の外に出て支持者に手を振る姿が、日本時間6日(現地時間5日 )には退院が報じられる中で、リスク警戒の流れが後退した。

 一方、米国の追加経済対策を巡るバタバタした状況も市場の材料となった。週の前半は民主党のペロシ下院議長(用語説明1)とムニューシン財務長官との協議が続いていたことから、追加対策の合意に期待が広がった。しかし、トランプ大統領が6日、民主党が提案する対策案を拒否し、協議自体を大統領選後まで行わないと発表。米国株が大きく売られ、為替市場ではドル買いが強まるなど、リスク警戒の動きが一気に広がった。

 トランプ大統領は翌7日になって「米議会に対し、航空会社向け雇用支援250億ドルと中小企業のための1350億ドルの支援策をすぐに承認するよう要請した」とツイート。航空会社向け雇用支援は民主党も推していた政策だけに、的を絞った形で早期に対策案がまとまるとの期待感がリスク警戒を後退させる格好となった。リスク選好の円売りが強まる中で、ドル円は106円台を回復する場面が見られた。

 もっとも、ドル円は106円台での買いには慎重で、106円ちょうど前後でもみ合いとなった後、週末にかけて少し調整が入って105円台後半に値を落とした。

 ユーロドルはトランプ大統領の容体回復や、追加経済対策への期待感などで週前半は1.18台を付けるなど堅調な動きに。その後、トランプ大統領の民主党案を拒否する発言に1.17台前半まで値を落とし、いったんはもみ合いに。

 週末にかけてはドル売りの動きからユーロドルもしっかり。国慶節の祝日で1日から8日まで休場し9日に再開した中国市場で、ドル売り人民元買いの動きが一気に強まったことなどをきっかけに、ドル全面安ムードが広がった。

 9日に発表されたイタリア鉱工業生産が予想外に強めの数字となったことも、ユーロ買いを支える格好となった。ユーロ円が一時125円台を付けるなど、ユーロは対円でもしっかりの展開が見られた。

 ポンドドルはユーロドルに準じた動きとなり、週前半のドル安局面で1.30台を示現。トランプ大統領が民主党提案の追加対策を拒否してドル全面高となる局面では、EUとの自由貿易協定に関する協議が難航していることを懸念したポンド自体の売りも加わり、1.28台半ば割れと、大きく値を落とす場面が見られた。週末にかけてのドル安局面では直近高値を超えて1.3050手前まで上値を試すなど、不安定な展開に。

 豪中銀は6日の金融政策理事会で大方の予想通り政策金利及び3年物国債利回り目標を据え置いた。一部で今回追加利下げを実施するのではとの期待があり、発表直後は豪ドル買いも、大勢の見通しが据え置きとなっていたこともあり、すぐに値を戻した。

今週の見通し

 神経質な動きが見込まれるものの、やや期待感も。

 米国の追加経済対策については、トランプ政権及び共和党が当初案の1兆ドル、その後の1.6兆ドルよりも大きい1.8兆ドルの対策を提案、民主党は2.2兆ドル規模の提案を行っており、両党とも大規模な追加対策を行う方針を示したことで、期待感が広がっている。

 米大統領選については、当初15日に予定されていた第2回大統領候補者討論会が、トランプ大統領の新型コロナウイルス感染を受けて主催者側がオンライン開催に変更したことにトランプ陣営が反発したことなどから結局中止となり、バイデン氏リードの情勢が続く。世論調査での支持率の差もかなり広がってきており、バイデン氏の勝利を織り込む動きが強まっている。また、同時に行われる連邦議会選挙で、上院、下院ともに民主党が勝利する可能性が高く、トリプルブルー(用語説明2)となる可能性が指摘されている。この場合、民主党が提唱する2.2兆ドルの追加対策実施に向けた動きが強まると期待され、バイデン氏がトランプ減税の廃止などを行っても株安の動きは限定的で、逆に株高の動きも期待されるとの思惑が広がっている。

 ただ、選挙情勢は日々変化するもの。2016年の選挙でもクリントン候補が最後まで支持率でリードしていた(実際に得票数も多かった)が、選挙ではトランプ大統領が逆転しており、先行き不透明感が意識されている。ただ、前回の大統領選の時と比べてもバイデン氏のリードは大きい。クリントン氏のリードは10月半ばで最大7%程度、直前には3%程度まで縮んだ。バイデン氏の支持率は現在10%前後トランプ氏を上回っている。2016年の実際の得票数はクリントン氏がトランプ氏を2%程度上回った(選挙制度の関係で得票数=勝利ではない)。討論会が1回分中止となったことで、バイデン氏が支持率を落とす要素が小さくなったこと、実際の選挙である程度票を落としたとしても、さすがに逆転される可能性が低いリードを保っているとみられることなどから、バイデン氏勝利を織り込みにかかる動きにつながっている。

 もっとも、米国以外の材料は不安定要素が大きい。

 英国とEUとの自由貿易協定(FTA)を巡る協議は、英政府がデッドラインとして定めた15日を前に、依然としてまとまる気配がない。ハードブレグジットに陥ると、ポンド売りが進むのはもちろん、世界的なリスク警戒からの円買いなども見込まれるだけに注意が必要。

 また、ロシアの仲裁で10日に停戦合意したアルメニアとアゼルバイジャンの軍事衝突について、停戦合意後に両国が攻撃を受けたと相手を非難するなど、依然不安定。攻撃が本格的に再開される可能性も十分にある。

 こうした状況から、基本的にはリスク選好の動きが想定されるものの、神経質な動きとなりそう。ドル円は106円台の本格回復を期待も、105円台でのレンジ取引を中心とした展開か。材料次第では円高が強まる可能性に注意したい。

用語の解説

ペロシ下院議長 ナンシー・ペロシ下院議長。民主党が多数派を占める米議会下院の民主党トップ。2003年に当時は少数党であった民主党のリーダーとして下院院内総務に就任。2006年の中間選挙で民主党が多数派となったことで、2007年1月から第60代の下院議長に。その後2010年の中間選挙で共和党が多数派となったため下院院内総務に戻り、2018年の中間選挙で民主党が下院の多数派を奪回したことを受け、第63代下院議長となった。なお、下院議長は大統領が執務不能に陥った場合の継承順位では、副大統領(上院議長を兼務)に次ぐ2番目となる。
トリプルブルー 大統領、上院の多数派、下院の多数派がすべて民主党で占められること。青は民主党のシンボルカラー。2016年の選挙では逆に共和党がすべてを占め、トリプルレッド(赤が共和党のシンボルカラー)となっていた。議会のどちらかを大統領の所属と違う党によって過半数が抑えられていた場合、法案などの提出に際して相手方の党にある程度配慮し、賛同者を得ないと通らないことになる。トリプルブルーが実現した場合、民主党案がかなり通りやすくなる(上院での少数政党による議事遅延権などで何でも通るわけではない)。

今週の注目指標

EU首脳会議
10月15・16日
☆☆☆
 英国のジョンソン首相がEUとの自由貿易協定(FTA)に関する協議のデッドラインとして定めるEU首脳会議が15、16日、EU本部のあるベルギーのブリュッセルで開催される。EU側はデットラインとは認めておらず、各国首脳はEU側の交渉担当者であるバルニエ主席交渉官に対して、英国が合意の義務に違反した場合に迅速に報復措置を取る権利を確保するよう要請するとの見通しが出ている。首脳会議までに交渉がまとまらなかった場合の英国側の対応や、会議でのEU首脳の反応などからハードブレグジットに向けた動きが加速するようだとポンドは急落する可能性も。ポンド円は135円割れが意識される展開も。
米小売売上高(9月)
10月16日 21:30
☆☆☆
 米国のGDPの約7割を占める個人消費動向を示す小売売上高が16日に発表される。すでに新型コロナウイルスの感染拡大前の水準を超えてきており、米個人消費の堅調さを印象づけている。予想は前月比+0.7%、変動の激しい自動車を除くコアの前月比が+0.4%。大幅減からのV字回復を果たした後だけに、伸びは小幅なものにとどまるもののプラス圏を維持する見込み。予想通りもしくはそれ以上の結果が出てくると、米経済の強さへの期待につながり、リスク選好の円売りが進む可能性も。ドル円は106円台にしっかり乗せる可能性も。
NZ総選挙
10月17日 
☆☆☆
 ニュージーランド(NZ)の総選挙が10月17日に行われる。当初は9月19日の予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、約1カ月延期された。アーダーン首相率いる労働党は前回選挙でそれまでの政権与党である国民党に議席数では及ばず第二党となり、NZファースト党との連立で政権を奪取した。今回は首相の人気もあり労働党が国民党を大きく上回り、単独過半数を確保する可能性もある。ただ、その場合でもNZファースト党との連立及び閣外協力の緑の党との関係は維持するとみられている。世論調査通り労働党が勝利した場合、政策継続の安心感もありNZドル買いの動きも。NZドル円は70円台半ばを回復する可能性も。

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