2020年11月02日号
先週の為替相場
重要イベント控え様子見
10月26日からの週は、リスク回避の動きがやや優勢な展開となった。
ここにきて米国と欧州で新型コロナウイルスの感染拡大が強まり、フランス、ドイツ、英国などで行動制限が実施される事態に。米国でも1日当たりの新規感染者数が9万9321人(ジョンズ・ホプキンス大学調査)と、過去最多を更新する状況となっており、警戒感が強まった。
注目された米第3四半期GDP(速報値)が前期比年率+33.1%と、過去最大の落ち込みを示した第2四半期の-31.4%からV字回復したことなどが好感されたものの、先行きの不透明感を払しょくするには至らず。
ドル円は104円台後半から、26日の海外市場でリスク回避でのユーロ売りドル買いからドル全面高の流れとなり、いったん105円台を付けた。もっとも、大台を維持出来ずすぐに値を落とすと、その後は株安を受けた円高の動きなどが優勢となり104円台での推移に。29日の海外市場で一時104円03銭までと、節目である104円ちょうどをトライする場面が見られた。
大台割れを回避すると、ポジション調整の動きが広がり、104円台後半まで上昇。ECB理事会後のユーロ売りドル買いの動きもドル全面高の流れを誘い、ドル円の安値からの調整に一役買っていた。
ユーロドルは週初から頭の重い展開が続き、ECB理事会後にユーロ売りがさらに強まる格好となった。
リスク警戒感からのドル買いの動きに頭を抑えられ、ポイントなる1.1800前後をしっかりと割り込んで売りが強まる形で29日のECB理事会を迎えたユーロドル。
新型コロナウイルスの感染拡大が欧州で広がり、フランスでレストランやバー、生活必需品を扱う店以外の商店の1カ月閉鎖といったロックダウンが導入されるなど、事態が深刻化していることもユーロ売りに。
ECB理事会では事前見通し通り金融政策の現状維持を発表。市場が驚いたのはその後ラガルド総裁が会見で、「ECBが12月に行動を起こすことはほぼ疑いない」と述べ、追加緩和を強く示唆したこと。これを受けてユーロはさらに売りを浴び、1.16台半ばを付ける動きとなった。その後少し値を戻したものの1.1700前後が重く、週末にかけて再びユーロ売りが強まる形で週の取引を終えた。
ユーロ円でもユーロ売りの動きが目立った。週初124円台を付けていたユーロ円は、リスク警戒感から週の半ばに122円10銭台に。その後少し値を戻すも、ECB理事会後のラガルド総裁による追加緩和示唆に再びユーロ売りが強まると、一時121円62銭を付けた。
今週の見通し
米大統領選、米FOMC(連邦公開市場委員会)、米雇用統計と、重要なイベントが目白押しとなっている。
米大統領選ではバイデン前副大統領が世論調査でのリードを保って選挙本番を迎えようとしている。2016年の選挙でも民主党のクリントン候補が共和党のトランプ候補に支持率で上回りながら、選挙本番ではトランプ氏が勝利したこともあり、まだ先行きは不透明という見方が一部でみられる。
ただ、前回の直前の支持率の差はRCP(用語説明1)調査で2.9%。実際の選挙結果は2.1%(選挙制度の関係で得票率ではクリントン氏がトランプ氏を上回ったが、選挙自体はトランプ氏が勝利)となっており、それほどの乖離はない。今回は7.2%のリードを11月1日時点で保っており、バイデン氏が相当に優勢な状況。
バイデン氏はこれまでトランプ氏が実施してきた企業減税の見直しや、富裕層向けの増税などを公約としており、バイデン氏が勝利すると米株安からリスク警戒の動きが広がるという見方が一時優勢であった。ただ、こうした見方はやや後退している。バイデン氏が勝利することで、民主党が現在打ち出している追加経済対策の実現に向けた動きが強まり、株を支えるとの見方が広がっている。
ただ今回の選挙、新型コロナウイルスの感染拡大が広がる中ということもあり、郵便投票が記録的な数に及んでいる。トランプ氏は郵便投票が二重投票などの不正の温床になると主張しており、裁判所への提訴などが行われる可能性がある。状況によっては1月6日の締め切り(用語説明2)までに双方が過半数の選挙人を確保できないケースまで浮上しており、かなりの混乱が生じる可能性がある。こうした動きはリスク警戒感からの円買いにつながる可能性があり、ドル円は一気に下に向かうこともありそう。
FOMCは現状維持見込み。先週の米第3四半期GDP速報値が好調な数字となったが、基調判断を変化させるには時期尚早という見方が強い。
一方、追加緩和の可能性が意識されているのが、5日の英中銀金融政策会合(MPC)。今回は結果発表・議事要旨公表と同時に四半期インフレ報告が公表され、その後中銀総裁の会見が行われるスーパーサーズデーに当たっている。
英国は週末にジョンソン首相が11月5日から12月3日までの4週間のロックダウン実施を発表したばかり。英経済に厳しい影響があるとみられ、今回の四半期報告での成長率見通しの引き下げなどが予想されている。
マイナス金利の導入は難しいものの、英中銀による金融政策もより緩和的なものが示されるとみられ、量的緩和政策の規模拡大などの実施が見込まれている。
ポンドドルは1.2800前後の節目を割り込み、1.2500に向けた動きを強めてくる可能性もありそう。
6日発表の10月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数が前回(66.1万人増)並みの60万人増の予想になっている。前回は8月の149万人増(速報時点では137万人増)及び事前見通しの85.9万人増に届かず、やや厳しい数字となった。ただ、5月以降の雇用の回復を支えている娯楽産業での雇用増が目立つなど、内訳はしっかりしており、今回も期待が広がるところに。
小幅ながらしっかりとした回復を示す製造業の雇用回復傾向の継続など、堅調な雇用情勢が示されるようだと、米経済に対する期待感につながり、ドル買い円売りの動きが広がりそう。それまでに大統領選後の混乱が収まっていることが条件となるが、ドル円は105円台後半などへの動きも期待される。
用語の解説
RCP | RCP(RealClearPolitics)は、米国の著名な政治情報サイト。選挙に関連する各種のニュースに加え、各社の世論調査結果をまとめて、総合的な分析を示すことで知られている。その対象は全米規模のものだけでなく、各州規模の情勢なども網羅している。また、この世論調査動向を基にした大統領選の勝敗予想、上下両院選挙での議席数予想、知事選挙の勝敗予想なども行っている。 |
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1月6日の締め切り | 11月3日の米大統領選挙は、直接候補者を選ぶという形ではなく、各州に割り振られた538人の選挙人を選出する選挙となる。選出された選挙人は11月3日の結果に基づいて、12月14日に大統領・副大統領を選ぶ選挙人投票を行い、過半数の270名を獲得した候補が新大統領となる。この選挙人投票の開票日が1月6日。12月14日までに選挙人が確定していない選挙区であっても、1月6日までに間に合えば、数として含められるとみられる。ただ、1月6日時点でも未確定の選挙区があり、両候補者ともに270名を確保できない可能性が生じている。この場合は11月3日の上院及び下院選挙で確定した新しい下院議会で大統領、上院議会で副大統領を選出する。 |
今週の注目指標
米大統領選挙 11月3日 ☆☆☆ | 4年に一度の米大統領選挙が3日に行われる。事前の世論調査では全体の支持率でバイデン氏が7.2%のリードとなっている。各州の選挙人獲得見通しでも、216人をほぼ確保しており、125人の確保にとどまっているトランプ大統領を大きくリードしている。過半数は270人で、現在支持率の差が小さく接戦となっている197人のうち54人を確保すると勝利となる。各選挙区での支持率の差のまま決まるとバイデン氏が368人を獲得する見込み。同時に行われる下院選挙でも民主党が多数派を維持する見通しがほぼ確定的に。現在共和党が多数派を占める上院はかなりの接戦で、支持率の差そのままだと両党が50議席ずつとなる可能性。もっとも、同数の場合は上院議長を兼ねる副大統領の採決で決まるため、バイデン氏が勝利した場合は、民主党側が実質上の多数派となる。そのため、大統領、上下両院を民主党が占めるトリプルブルーが実現する。この場合、民主党が進める大規模経済対策案などの実現可能性が強まるため、米株式市場にとってもプラス材料に。ドル円は105円台を試す可能性。トランプ大統領の逆転勝利でも、企業減税の継続期待などで株価にはプラスとなるが、問題は郵便投票に対する不正などを訴えることで、選挙結果の判明が大きく遅れるケース。政治的な混乱は投資資金の逃避理由となるだけに、ドル円は104円を割り込んで売りが進む可能性も。 |
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米FOMC 11月6日4:00 ☆☆☆ | 4、5日と米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催され、日本時間6日の午前4時に結果が発表される。金融政策の現状維持見通しが大勢となっており、注目は声明と委員会後のパウエル議長の会見となっている。前回9月のFOMCでは2023年末までのゼロ金利政策据え置きが示唆され、会見で議長は予想よりも早い経済回復が持続するかどうかはわからないと慎重姿勢を示した。その後米国では新型コロナウイルスの感染拡大第3波の動きが一気に強まり、1日当たりの新規感染者数が過去最多を更新する状況が続く中で、今後の追加緩和の可能性についてどこまで言及するかなどが注目される。追加緩和の必要性を強く示唆してくるようだと、ドル売りの動きも。ドル円は104円をしっかり割り込み、ドル売り円買いが進む可能性。 |
米雇用統計(10月) 11月6日22:30 ☆☆☆ | 10月の米雇用統計が6日に発表される。大統領選をはじめ重要イベントが並ぶ週だけに、通常に比べて雇用統計の影は薄い。ただ、週末金曜日のNY市場ということもあり、多くのイベントをこなして(大統領選の結果が判明していない可能性は残っている)からの発表だけに、予想からの乖離が見られると、相場へのインパクトが出る可能性が十分にある。 前回9月の雇用統計では、非農業部門雇用者数が66.1万人増と予想の87.5万人増を下回る結果にとどまった。ただ、これは前々回8月の雇用統計が速報値から11.8万人上方修正され、そこからの前月比となったことに加え、地方政府の教育部門でロックダウンに伴って雇用が伸びなかったという特殊事情によるところが大きい。内訳をみると、5月以降の雇用のV字回服を支えたレジャー&ホスピタリティ部門(劇場などの娯楽部門、ホテルなどの宿泊部門、レストランやバーなどの飲食部門からなるグループ)の雇用が31.8万人増と好調な数字となった。5月から3カ月続けて大きく伸びたこともあって8月分が14.3万人増にとどまり、頭打ち感のあった部門が再び力強く伸びたことで、米経済回復に対する期待感が広がった。また、製造業が6.6万人増としっかりした伸びを見せ、今後への期待が強まっている。 今回の事前見通しは非農業部門雇用者数が60万人増と、前回から若干鈍化も堅調な伸びを維持する見込み。失業率は7.7%と前回の7.9%から0.2ポイントの低下見込みとなっている。予想前後もしくはそれよりも強めに出るとリスク選好の円売りも、予想を下回る伸びにとどまると一気の円買いの可能性。小規模な雇用増にとどまると104円を割り込んで一気にドル売り円買いが進む可能性も。 |
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