2020年11月30日号

(2020年11月23日~2020年11月27日)

先週の為替相場

振幅経てドル安が優勢に

 23日からの週は、月曜日の海外市場で一気にドル買いが入る場面が見られたが、その後はドル売りの動きが優勢となった。

 ドル円は、英薬品大手アストラゼネカが米ファイザーやモデルナに続いて、新型コロナウイルス向けワクチンの治験で好結果を示したことを発表したこともあり、リスク選好でのドル売りが強まる展開で始まった。ドル円は前々週から下値を支える103円60銭でサポートされたものの、頭の重い展開でスタート。ユーロドルが前々週に上値を抑えた1.1900を超えて1.1906を付ける場面が見られた。

 しかし、月曜日の海外市場で一気にドル買いの動きが広がった。11月の米PMI(購買担当者景気指数)速報値(用語説明1)が、10月からの悪化見通しに反してかなり強く出たことがきっかけ。製造業PMIは56.7と10月の53.4、事前見通しの53.0を上回り2014年9月以来の高水準に。非製造業PMIは57.7と10月の56.9、事前見通しの55.0を上回り、こちらは2015年4月以来の高水準となった。

 米国では新型コロナウイルスの感染拡大第3波の様相が強まり、全米規模でのロックダウンは避けられているものの、各地で行動制限の動きが広がっていた。それだけに景況感の悪化が懸念されていたところに、強めの数字が出たことでサプライズ的な結果に。これを受けてドル買いが一気に広がる形となり、ドル円は104円台後半に。ユーロドルは1.1800前後までドル高が進んだ。

 ユーロドルが1.19台を付けるなどドル売りの動きが広がっていたことで、ユーロ高の調整が入りやすくなっていた面も。

 その後ユーロドルはすぐに反発したものの、ドル円は比較的しっかりの展開が続いた。24日の海外市場で104円10銭台までのドル売り円買いが入ったものの、同日のNY市場午前に104円76銭を付けるなど、ドル買い円売りの動きが継続した。新型コロナウイルス向けワクチン開発の期待がリスク選好につながっており、ドル売り円売りの流れに。ドル円はドル売りが優勢な場面も一時見られたが、その後株高を受けた円売りも入り、方向性がはっきりしない格好に。

 ユーロドルなどでのドル売りの動きは優勢で、ユーロドルは月曜日の下げ分を解消してさらに上を試す展開。1.19台にしっかり乗せると、その後は1.1880台がサポートとなる形での振幅を経て、週末にはもう一段のユーロ高ドル安が進み、1.1960台とほぼ高値圏で週の取引を終えた。

 ドル円もユーロドルなどでのドル売りに押される形で週末には103円台まで値を落とす展開に。

 クロス円はリスク選好の動きに基本的にしっかり。ユーロ円は先週初めの123円20銭前後での推移から、週の半ばには124円台半ば超えまで。その後いったんは124円を割り込んだが、週末にかけてのユーロ買いもあって124円台にしっかり乗せて週の取引を終えている。

 ポンドはやや不安定な展開。週初のドル売りで1.3397前後までと1.34に迫るも、その後のドル買いに1.3260台まで下落。その後ユーロドルなどでのドル売りが強まる中で再び1.34手前まで上昇したものの、週末にかけてはポンド売りがやや優勢となった。

 英EU間の自由貿易協定の協議が難航。物別れに終わる可能性が高まったとして、警戒感からのポンド売りが出ていた。

 その他目立ったのはNZドルの買い。対ドルでは月曜日のドル買い局面で0.69を割り込んだところから週前半に0.70台まで上昇。その後もしっかりで0.7030台まで上値を伸ばした。

 24日にNZのロバートソン財務相がオア中銀総裁にあてた書簡で直近の住宅価格上昇への懸念を示し、今後中銀の目標として住宅価格の安定を加える可能性を示唆。これにより、今後中銀が追加緩和に動きにくくなるのではとの思惑がNZドル買いを誘った。

今週の見通し

 新型コロナウイルスワクチンの早期供給期待が広がっている。治験者の約95%に効果があると発表した米薬品大手ファイザーは11月20日、米食品医薬品局(FDA)(用語説明2)にワクチンの緊急使用許可を申請。FDAは12月10日に諮問委員会による検討会を開くとしており、早ければ12月11日、可能性が高いところでは12月中旬から供給が開始される見込み。

 英医薬品・医療製品規制庁も数日中に承認の見込みと英紙が報じており、こちらは早ければ12月7日からのワクチン接種開始となる見込み。

 米国での新型コロナウイルスの1日当たり新規感染者数が過去最多となる20万人超えを記録するなど、感染第3波が深刻化する中でのワクチン供給早期開始の報道が、市場の期待感を誘っており、リスク選好からの株高・ドル安円安の流れに。

 もっとも今週は1日(日本時間2日午前0時)に米ISM製造業景気指数、3日(同4日午前0時)に同非製造業景気指数、4日に米雇用統計と、米国の重要指標が目白押しとなっており、やや不安定な動きも。

 米PMIが強めに出ただけに、同系統の指標(というよりもISMなどを参考にしてPMIが後発的に作られた指標)であるISMも強めの数字が期待される。ドル買いの動きにつながるか、リスク選好のドル売りが広がるかはタイミングもあり微妙なところであるが、円売りにつながる可能性は高そう。

 また、米PMIは雇用部門の数字が強く出ただけに、4日の米雇用統計(11月分)への期待感も強い。

 前回10月分の雇用統計は、非農業部門雇用者数が事前予想の58.0万人増に対して、63.8万人増と、9月分の67.2万人増(改定値、速報値時点では66.1万人増)よりも伸びが鈍化したものの、予想よりも強めの数字となった。

 また、前回の数字に関しては国勢調査関連の臨時雇用が終了したことで、政府部門が26.8万人の大幅減となっており、民間部門だけで見ると90.6万人増と、4か月ぶりに前月を上回る雇用者数の伸びを示した。

 失業率も9月の7.9%、事前予想の7.7%に対して、6.9%と大幅に低下し、米国の雇用情勢の堅調さが印象付けられた。

 雇用の内訳をみるとレジャー&ホスピタリティ部門が27.1万人増となり、全体を押し上げた。レストラン・バーなどの飲食、ホテルなどのアコモデーション、劇場・カジノなどのアミューズメントからなるこの部門は2月時点での1686.7万人という雇用者が、パンデミックの影響で4月には854.9万人まで減少。そこからのV字回復で、前回までに1338.1万人まで雇用が戻ってきている。

 ただ、新型コロナウイルス感染第3波の様相が強まり、レストランの屋内営業や深夜営業などへの制限や、移動に対する警戒感が示される中で、これ以上の回復についてはやや疑問視されるところ。

 今回は非農業部門雇用者数の事前予想が50万人増と、前回から伸びの鈍化が見込まれている。国勢調査関連での特殊要因で大きく減少した政府部門が通常に戻ることを考えると、数字以上に伸びが鈍化しているという印象に。ただ、上記通りレジャー&ホスピタリティ部門の伸びがあまり期待できないこと、同部門ほどではないものの、3月と4月で238.4万人の雇用が失われ、その後大きな回復を見せていた小売業の雇用が、前回までに2月時点の96.8%まで戻っており、こちらもそろそろ頭打ちとなることなどから、予想前後の雇用増にとどまる可能性が高そう。

 もっとも雇用の増加傾向自体は継続し、失業率も前回大きく下げた分、下落幅は小さくなるものの6.8%への低下が見込まれており、堅調な雇用情勢への期待感は続くとみられる。

 先週の米PMIにおける雇用部門の好結果もあり、予想以上に強めの数字が出る可能性も。この場合は、リスク選好での円売りが広がると見込まれ、ドル円は104円台後半を付ける動きも十分にありそう。ISMなどもそれまでに強めに出ていると、期待感がさらに強まって105円台の回復も視野に入ってくる。

用語の解説

PMI Purchasing Manager’s Index(購買担当者景気指数)の略。本来PMIとは購買担当者に対するアンケート調査による景気指数全体をさす言葉で、米ISM景気指数や、シカゴ購買部協会による景気指数もPMIであるが、PMIとだけ表記されている場合、米調査会社IHSMarkit社が30カ国以上を対象に公表しているPMIを指す場合が多い。50が好悪判断の境となり、50を超えると好況、下回ると不況となる。
FDA Food and Drug Administration(米食品医薬品局)の略。米保健福祉省(HHS)の管轄下にある政府機関。食品、医薬品、化粧品、医療機器、たばこ、玩具などを対象に、市民の生活における安全を確保することを責務としている。諮問委員会で緊急性があると認められ、安全性や効果が確認された場合、通常の薬事承認を経ずに新薬の緊急使用許可を出す権限を有している。新型コロナウイルス向けワクチンについてFDAが緊急使用許可を出した場合、CDC(米疾病対策センター)が接種の指針を示し、州政府が実際の接種を管轄する形となる。

今週の注目指標

米ISM製造業景気指数(11月)
12月2日00:00
☆☆☆
 米供給管理協会(ISM)が全米400社以上の製造業を対象に購買担当者にアンケート調査を実施し、その結果を基に発表する景気指数。新規受注、生産、雇用、入荷遅延、在庫の5項目からなる。50が好悪判断の境となる。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて4月に36.1まで低下。7月分から50を回復している。内訳のうち雇用部門の回復が遅く、前回10月分からようやく50を超えてきた。全体の数字は前回59.3まで大きく上昇した。事前予想は55.8と9月分の56.5から鈍化見込みだっただけに、ポジティブサプライズとなった。今回は前回が強かった分57.6までの鈍化が見込まれている。ただ、23日発表の製造業PMIが事前の鈍化予想に反して強めに出たこともあり、ISMも強めに出る可能性が意識されている。予想及び前回よりも強めに出た場合、リスク選好のドル売りからユーロドルが1.20超えを付ける可能性も。
米IMS非製造業景気指数(11月)
12月4日00:00
☆☆☆
 米供給管理協会(ISM)が全米375社以上の非製造業の購買担当者に、受注や在庫、価格など10項目についてのアンケート調査を実施し、その結果を基に発表する景気指数。製造業景気指数同様に50が好悪判断の境となる。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて4月に41.8まで低下。製造業よりも早く6月分から50を回復している。もっとも感染第3波の影響を製造業以上に受けることもあり、前回10月分は56.6と9月分の57.8から鈍化している。今回の予想は56.0とさらなる鈍化が見込まれている。レストランの営業時間や営業形態、旅行などの自粛などで景況感が予想以上に悪化している可能性が十分にあり、予想を下回った場合は、警戒感から円買いが進む可能性も。ドル円は103円台半ばがターゲットに。
米雇用統計
12月4日22:30
☆☆☆
 米国の雇用は、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて3月、4月と大きく低下。特に4月は2078.7万人の雇用減を記録した。反動で5月以降は大幅に回復したが、6月の478.1万人増をピークに、4カ月連続で雇用者の伸びは鈍化している。もっとも雇用者数は2月時点での1億5246.3万人に対し、前回10月時点では1億4237.3万人で、依然1千万人以上の雇用が回復できていない。今回の事前予想は50万人増前後となっており、5カ月連続での雇用の伸び鈍化が見込まれているが、上下ともにぶれる可能性が十分にある。予想以上の雇用増加が見られるようだと、米経済への期待感につながり円売りの動きが強まる可能性がある。ドル円は105円台に乗せる可能性も。

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