2020年12月07日号

(2020年11月30日~2020年12月04日)

先週の為替相場

ドル安優勢も週末にかけて調整

 11月30日からの週は、リスク選好でのドル売りが優勢な展開となった。英保健・医療当局が米ファイザー・独ビオンテックによる新型コロナウイルス向けワクチンの緊急使用を認め、世界に先駆けて早ければ7日にもワクチン接種が開始されるとの報道がリスク選好の動きを誘った。米国でも10日の食品医薬品局(FDA)による諮問委員会を経て今月中には接種開始が期待されている。新型コロナウイルスの感染第3波が世界的に強まる中で、ワクチン接種の早期開始期待が市場に好感されリスク選好の動きが広がった。

 米国の追加経済対策期待もリスク選好につながった。民主・共和両党の超党派による経済対策案が示されたことで、追加策の早期実施期待が広がる展開に。もっとも共和党の上院トップであるマコネル上院院内総務(用語説明1)は共和党案による別の対策を提示している。

 週前半はユーロドルでのユーロ高ドル安が1.2000ちょうど前後で抑えられていたこともあり、ドル円はリスク選好の円売りの勢いがやや勝る展開に。104円ちょうど前後での推移から104円台半ば超えを付ける動きとなった。

 ユーロドルが1.20をしっかり超えて上昇を示すと、当初はユーロ円の買いとなってドル円もしっかりとなり、週の半ばに104円75銭を付ける動きに。米国を中心とした世界的な株高などもリスク選好での円売りを誘った。

 高値からは少し調整が入ってもみ合いとなった後、週の後半にかけてはドル売りの勢いが勝り、103円60銭台に下落。ドル全面安基調が意識される展開となった。

 もっとも、週末にかけてはドル売りの動きが収まり、ドル円は104円台を回復して週の取引を終えた。

 注目された米雇用統計がさえない結果となったことが背景に。非農業部門雇用者数(NFP)は前月比46万人増の事前予想に対して24.5万人増にとどまった。前回87.7万人増となっていた民間部門の雇用が、34.4万人増まで鈍化した。

 新型コロナウイルスの感染第3波の影響がまともに出た形で、これまで大幅な回復増で雇用全体を支えていたレジャー&ホスピタリティ部門(レストラン・バーなどの飲食部門、ホテルなどのアコモデーション部門、劇場・カジノなどのエンターテインメント部門からなるグループ)は、前回の27万人増から3.1万人増に鈍化、同じく好調な数字が続いていた小売部門に至っては前回の9.51万人増から3.47万人減と雇用を減らしている。新型コロナウイルスの感染第3波の影響を受けやすい部門での厳しい数字が全体を押し下げる格好となった。

 失業率は予想通り0.1%ポイントの低下も、労働参加率も低下している。雇用情勢が悪くなり、求職者自体が減ると失業率も一時的に低下することから、労働参加率が低下する中での失業率低下はあまり良い傾向とは言えない。

 こうした状況が市場のリスク選好ムードを後退させ、ドル売りの調整が週末にかけて入る材料となった。

 ユーロドルは節目の1.20を超えて上昇に弾みが付き、週後半には1.21台後半まで大きく上値を伸ばした。

 押し目があまり目立たず、週末にかけてドル円同様にドル売りのポジション調整が入ったが、1.21台を維持して週の取引を終えるなど堅調地合いが維持されている。

 ユーロ円も当初はユーロドルなどでのユーロ買いに支えられて124円台前半がしっかり。リスク選好での円売りもあった週の後半には、126円60銭台まで上値を伸ばす展開となった。

 ポンドは神経質な動きに。ドル全面安基調の中で、対ドルで振幅を経て週後半に上昇する動きを見せた。

 英EU間の自由貿易協定協議の動向をにらみながらの展開となっており、1日に英紙が両陣営による集中交渉開始が報じられて買われる場面も、続かなかった。

 英国における新型コロナウイルスワクチンの供給開始期待などもポンドを押し上げ、ポンドドルは一時1.3440台まで上昇していたが、2日にブレグジット交渉のユーロ側担当者であるバルニエ主席交渉官(用語説明2)がハードブレグジットの可能性に言及したことからポンドが急落。交渉への警戒感が広がり、ポンドドルは1.3280台まで値を落とした。140円40銭台まで上昇していたポンド円も138円90銭前後まで値を落とした。

 しかし、その後は週末にかけてポンドの買い戻しが優勢に。ドル全面安の基調がポンドドルでのポンド買いドル売りを誘ったほか、通商協議についても楽観的な見方が広がり、ポンド買いにつながった。ポンドドルは1.35台前半までの大きな上昇に。ポンド円も140円台後半を付けている。

今週の見通し

 新型コロナウイルスの感染第3波が深刻化していることへの懸念と、ワクチンの早期供給期待とが交錯する状況。

 全米で最も人口の多いカリフォルニア州の多くの自治体で不要不急の外出を禁じる自宅待機命令が約7カ月ぶりに発動された。対象地域ではレストランの屋外飲食(屋内飲食は以前より禁止)、美容室の営業、オフィスへの通勤などが原則禁じられるなど、厳しい行動制限が課せられることとなり、経済的な影響も大きいと見込まれている。

 米国では4日に1日当たりの新規感染者数が22万人を超える過去最多を記録。累計感染者数は1500万人に迫るかなり深刻な状況となっており、市場の警戒感を誘っている。

 先週末の米雇用統計の厳しい数字は、こうした新型コロナウイルス感染拡大の影響が大きいとみられ、市場全体のリスク選好ムードに冷や水を浴びせる結果となった。

 一方で米国のFDAは10日からの諮問委員会で米ファイザーと独ビオンテックによるワクチンの緊急使用許可を出すとみられており、早ければ今月半ば以降にワクチンの供給が始まる。今後の経済再生に向けた期待感が広がる展開となっている。

 好悪材料のどちらを重視するのか、非常に難しい情勢。このところリスク選好の動きが強まっていたため、先週末はいったん修正が入る格好となった。ただ、新型コロナウイルス感染拡大が始まった春以降、厳しい状況が続いた中でのワクチン供給開始という明るい話題だけに、市場の中長期的な反応としてはリスク選好に振れやすいか。

 ドル円に関してはリスク選好がドル売り円売りとなるだけに反応が難しいが、ユーロドルの底堅さを考えるとドル安がやや優勢か。103円台後半から104円台前半のレンジを中心に、やや下方向のリスクを意識。

 その他の材料としては大詰めを迎える英国とEUとの自由貿易協定の協議動向が警戒感を誘っている。12月末の移行期限まで時間がなく、ぎりぎりの情勢となっているが、両陣営で意見が合わない3つの重要な争点、漁業権、公正な市場、合意に関するガバナンスについて依然として妥協点が見えてこない。

 両陣営で合意がまとまらず、合意なき離脱(ハードブレグジット)が現実化すると、ポンドの急落を含め市場の大きな混乱も予想される。ポンド円の売りからドル円も値を落とす可能性が高く、102円台トライも十分にありそう。ポンド円は9月の安値133円ちょうど手前といった現水準から大きく離れたポイントも意識したいところ。

用語の解説

上院院内総務 米議会における会派のリーダーを院内総務と呼ぶ。上院で多数派を占める党の院内総務を上院多数党院内総務(Majority Leader of the United States Senate、略してSenate Majority Leader)、少数派を上院少数党院内総務と呼ぶ。そのため、選挙で多数派が入れ替わるとSenate Majority Leaderの指す党も入れ替わる。なお、下院の多数派トップは下院議長になるため、下院の多数党院内総務は会派のNo2になる(上院議長は副大統領が兼ね、上院議員ではないため上院多数派のトップは院内総務)。
バルニエ主席交渉官 ミシェル・バルニエ(Michel Barnier)。フランスの政治家。英国とのブレグジット問題での交渉におけるEU側の交渉担当責任者。1978年にフランス国民議会議員となり、環境相、欧州問題担当相などを歴任。1999年から2004年まで欧州委員会で地域政策を担当。2004年からフランスの外相に。その後農相などを経て2010年から2014年まで域内市場問題担当の欧州委員会委員に。20016年からブレグジット問題でのEU側主席交渉官。

今週の注目指標

ECB理事会
12月10日21:45
☆☆☆
 欧州中央銀行(ECB)理事会の結果が10日に発表される。ラガルド総裁は11月11日の講演で今回の理事会での追加緩和を示唆。その後19日に行われた欧州議会での証言でも追加的な金融政策パッケージを打ち出すと表明しており、追加緩和の実施が確定的。政策金利自体は現状維持とみられ、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)と貸し出し条件付き長期資金供給オペ(TLTRO)の拡充が見込まれている。追加緩和の実施自体は織り込み済みも、規模や延長期間などが予想を超えてくるようだと、いったんユーロ売りの動きもありそう。また、ユーロドルが節目といわれる1.20ちょうどを超えてきており、ラガルド総裁が理事会後の会見でユーロ高をけん制してくる可能性も。この場合ユーロドルが1.20ちょうどを意識する展開も。
米FDA諮問委員会
12月10日
☆☆☆
 米食品医薬品局(FDA)は、米ファイザーと独ビオンテックによる新型コロナウイルス向けワクチンの緊急使用許可を出すかどうかについて、外部有識者を招集して科学的判断を求める諮問委員会を10日に開催する。この会合で緊急使用が承認されると、ワクチンは直ちに各州に配布される。ただし、接種についての枠組みを決める米疾病対策センター(CDC)の諮問委員会がワクチンを検証して接種の推奨を決定し、実際の接種にあたり優先して接種を行うグループを決定するなどの段取りを経ないと接種を開始することは出来ない。CDCの諮問委員会はFDAの緊急承認が下りてから24~28時間以内に開催される見込みとなっている。
EU首脳会議
12月10日・11日
☆☆☆
 EU首脳会議が10、11日に行われる。本来であれば英国との通商協議の合意を受けて、首脳会議での承認という流れが期待されていたが、首脳会議までに合意できるかどうかは微妙。なお今回の首脳会議ではもう一つ大きな議題がある。トルコに対する制裁を行うかどうか。トルコは東地中海のギリシャとキプロスが権益を主張する海域でのガス田探査活動を行っている。一時中断していた探査活動を10月に再開したことで緊張がかなり高まる状況に。11月下旬に探査船を帰港させたことで少し緊張感が後退も、EU側は制裁措置を検討する見込み。実際に制裁に踏み切るかどうかは微妙な情勢とみられており、踏み切った場合トルコリラは値を落とす可能性が高い。リラ円は13円割れが意識されるところに。

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