2020年12月14日号

(2020年12月07日~2020年12月11日)

先週の為替相場

神経質な動きに

 12月7日からの週は、新型コロナウイルスワクチンの早期供給期待でのリスク選好と、感染拡大第3波の深刻化によるリスク警戒、英国とEUとの通商協議の動向をにらんだ警戒感などの材料が交錯し、神経質な展開となった。

 ドル円は週の初めに103円台を付けた後、10日に104円50銭台まで上昇するなど、一時円売りの動きが広がった。8日からの英国でのワクチン接種開始などを受けたリスク選好の動きが円売りを誘った。

 もっともその後一転してドル売り円買いの展開となり、週末を前に103円台を付ける動きが見られた。米食品医薬品局(FDA)の諮問委員会が10日(日本時間11日朝)に、新型コロナウイルスワクチンの緊急使用を許可するよう勧告。リスク選好のドル売りが広がり、ドル円も高値から値を落とした。

 さらに英国とEUとの通商協議への警戒感からのポンド円でのポンド売り円買いがドル円の重石となる場面も見られた。

 ポンドは英EU通商協議の動向に神経質に反応した。両陣営の交渉担当者だけでなく、ジョンソン英首相とフォンデアライエン欧州委員長(用語説明1)の両陣営トップによる首脳会談が実施された。北アイルランドの国境についての合意などが見られたことで期待感が広がる場面があり、ポンドドルが週初めの1.3220台から一時1.3470台まで大きく買われる展開となった。しかし、当初から問題となっている3つの争点(漁業権、公正な市場、監視のガバナンス)での合意には至らず。週末にかけては合意なき離脱への懸念が強まる格好に。フォンデアライエン委員長が合意なしがもっともありうる選択肢と発言したことなどもあって、週末には1.3130台までポンド安が進んだ。

 ポンド円も同様で、週の半ばには140円30銭まで上昇する場面が見られたが、週末にかけて136円80銭前後まで大きく値を落としている。

 ユーロは10日のECB理事会が注目を集めた。これまでのラガルド総裁発言などから追加緩和の実施が事前から確定的となる中、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)(用語説明2)の5000億ユーロ増額と9カ月の期間延長、貸出条件付き長期資金供給オペ(TLTRO)の1年延長などが実施された。

 PEPPの5000億ユーロを超える規模の拡大や、ラガルド総裁によるより強いユーロ高牽制などが一部で期待されていたこともあり、発表後はユーロ買いの動きに。週半ばの1.2050台から一時1.2160台まで上値を伸ばす展開となった。週末にかけてはポンドの売りに押されて1.2105前後まで。

 ユーロ円はこうしたユーロの動きとドル円の動きに売り買いが交錯し、125円70銭台から126円70銭台までの約1円レンジでの振幅に。

今週の見通し

 英国とEUは13日までとした期限をまたしても延長し通商協議の継続を決めた。一部では公正な市場問題に関する英国側からの妥協提案が示され欧州側が好感触との報道もあるなど、合意への期待が広がっている。ただ、実際に合意に至るかどうかはかなり微妙な状況。協議の結論を出す締め切り自体は伸ばしているものの、移行期間のタイムリミットである今年の年末については変更しておらず、時間的に間に合うかどうかが微妙な状況となっている。見切りを付けてハードブレグジットに踏み切る可能性が十分にありそう。

 今月に入ってポンドドルが1.35台から1.31台前半へ値を落とすなど、ある程度はハードブレグジットを織り込みながらの展開となっているが、実際にハードブレグジットが決まった場合のインパクトを考えるとまだ不十分か。対ドルで1.30を割り込む動き、ポンド円で135円を割り込む動きも意識される。

 ドル円はポンド円の下げに加えて、リスク警戒感からの円買いが見込まれ、頭の重い展開に。

 このところリスク警戒局面ではドル買い円買い、リスク選好局面ではドル売り円売りの動きとなっており、やや動きにくさがあるが、ブレグジットがらみの動きではやや円買いが優勢か。11月18日、12月3日と2度下値進行を止めた103円60銭台を割り込む動きが見込まれるところ。

 今週雇用統計が発表される豪ドルは、豪ドル買いの動きが継続。新型コロナウイルスワクチンへの期待から世界的なリスク選好の流れが資源国通貨全般を後押しする流れとなっている。対ドルで0.7600を超えてくるともう一段の上昇も。

用語の解説

フォンデアライエン欧州委員長 ウルズラ・フォン・デア・ライエン(Ursula von der Leyen)。欧州連合(EU)の行政機関である欧州委員会の第19代委員長。ミュンスター大学などで経済学を学び、ロンドンスクールオブエコノミクスへの留学なども経験していたが、その後医者の道に転じ医学博士となった。ニーダーザクセン州ゼーンテ市議を経て、同州の社会・婦人・家族・健康相に。第1次メルケル政権で家族・高齢者・女性・青少年相として入閣。2009年に連邦議会議員となり、第2次メルケル政権で家族相を経て労働・社会相に。第3次メルケル政権では同国にとって女性初となる国防相となった。第4次メルケル政権でも国防相を継続していたが、2019年7月のEU首脳会議でユンケル氏の後任として欧州委員会委員長に指名され、同月の欧州議会で委員長に選出された。
PEPP パンデミック緊急購入プログラム(Pandemic Emergency Purchase Programme)。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、今年3月18日にECBが既存の資産購入プログラム(APP)に追加する形で導入を決めた資産購入プログラム。当初は7500億ユーロ規模、期限を2020年末までとしていたが、その後複数回の拡大・延長を経て、1兆8500億ユーロ規模、2022年3月末までとなっている。これまでのAPPで課せられていた加盟国の経済規模やEUへの出資比率に応じた買い入れ割り当て制限が大きく緩和されており、財政的に厳しい南欧や中欧の国債を対象としやすいなどの特徴がある。

今週の注目指標

米FOMC
12月17日04:00
☆☆☆
 今年最後のFOMCが15、16日に開催される。米国では新型コロナウイルス感染第3波の流れが深刻化。ニューヨーク市で14日からレストランの屋内飲食が禁止されるなど、各地で行動制限が強化されている。こうした中、今月4日に発表された11月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数(NFP)が予想を下回る前月比24.5万人増にとどまるなど、雇用情勢にも影響が出ている。こうした状況を受けて、FRBは今回のFOMCで何らかの対応をとってくると期待されている。とはいえ、マイナス金利の導入に関しては否定的な見方が多く、政策金利は現状維持が確定的。量的緩和(債券購入プログラム)についても額の変更などは見送られるとの見通しが一般的となっている。期待されているのは、今後の量的緩和の変更に向けた定性的な指針を含めたガイダンスの強化。こちらはほぼ織り込み済み。さらにもう一段踏み込むとすると、購入債券の平均残存年数(デュレーション)を長期化し、長期金利の抑制を図る可能性がある。ここまで実施すると、FRBの積極的な緩和姿勢や実際の米長期金利低下への期待などによる対ユーロなどを中心としたドル売りが予想される。ユーロドルは1.22台への動きも。
豪雇用統計(11月)
12月17日09:30
☆☆☆
 豪州の雇用者数は前回2.75万人の減少見込みに対して、17.88万人の増加と、予想に反して大幅増を記録した。失業率は7.0%と9月の6.9%から悪化した。新型コロナウイルスの感染拡大が一時目立ったビクトリア州で状況が落ち着き、規制緩和が行われたことが、就業者の大きな増加につながった。同国では新型コロナウイルスの感染拡大を受けたロックダウン期間中に87.2万人の雇用が失われたが、その後64.8万人戻した格好となっている。今回の予想は4.0万人増。前回ほどではないが、もともと人口自体が多くない豪州にとってはかなりしっかりした数字。正規雇用か非正規雇用かという内訳にもよるが、予想通りもしくはそれ以上の増加が見られると豪ドルの買いにつながりそう。豪ドル円は今月11日に付けた78円70銭を超えてくる動きも期待される。
日銀金融政策決定会合
12月18日
☆☆☆
 日本銀行は17、18日に金融政策決定会合を実施する。結果発表は会合終了後で未定であるが、お昼前後が見込まれる。今回の会合で日銀は3月末が期限となる企業向けの資金繰り支援プログラムを延長してくると見込まれる。量的緩和の拡大や、マイナス金利の深堀りを含む政策金利の引き下げ、フォワードガイダンスの変更などの主要政策手段については現状維持が見込まれている。市場の反応は限定的とみられるが、米FRBやECBなどに比べると緩和への姿勢がやや弱い印象を与える可能性がある。この場合ドル売り円買いの動きにつながる。ドル円は102円台へ値を落とす展開も。

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