2020年12月21日号
先週の為替相場
英国情勢に緊張感
12月14日からの週は、ドル全般に売りが目立つ展開となった。ドル円は13日が期限とされていた英国とEUとの通商協議について、継続協議が決まり、合意への期待感が広がったことによるリスク選好のドル売りもあり、月曜日海外市場でいったん103円台半ば近くまで下落。その後実需筋の買いなどに104円台を回復も、火曜日海外市場以降再びドル売りの流れが広がった。
15、16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、一部で期待されていた量的緩和策(QE)における購入債券の平均残存期間(デュレーション)長期化などの変更が見送られた。四半期に一度発表されるFOMCメンバーによる今後の政策金利見通しでは、2023年末まで現行の金利水準維持が前回に続いて大勢となったが、利上げを見込むメンバーが1人増えるなど、全体にタカ派な印象に。これを受けて、FOMC前に一時103円台前半まで値を落としていたドル円は103円90銭近辺まで急騰した。もっともFOMC後のパウエル議長会見で緩和姿勢の継続への強い意志が感じられ、ドル売りが再び強まる展開に。政策金利だけでなく、QEについても経済状況が顕著に改善を示すまで継続すると明言されたことがドル売りにつながった。
ドル円はその後も売りが続き、102円80銭台まで一時値を落とす動きに。週末前にはさすがにポジション調整によるドル買い円売りが入ったが、103円30銭台で週の取引を終えるなど、ドル安基調が継続した。
大きな値動きを見せたのがポンド。英国とEUとの通商協議について、ジョンソン首相とフォンデアライエン欧州委員長が13日までに何らかの結論を出すと示したが、合意に向けた動きが不十分という見方が市場で広がっており、ハードブレグジットが決まるのではとの懸念から先々週末にかけてポンド売りが強まった。ポンドドルは11日に一時1.3130台まで。しかし、結局は協議継続が発表された。合意への前向きな姿勢も示されたことから週明けはポンド高で始まり、その後も上昇基調に。ポンドドルは1.33台を回復して始まると、月曜日海外市場で1.3440台まで上昇。その後のドル安の調整局面で1.3280前後まで下落も、週後半にかけて再びポンド高が強まった。英保守党議員などからも合意に向けた前向きな姿勢が示されたことで、期待感が広がっていた。
17日の英中銀金融政策会合(MPC)を無難にこなし、その後1.3620台まで。
もっとも週末にかけてはポンド売りも。欧州議会(用語説明1)が年内に自由貿易協定(FTA)を承認するために20日深夜までの合意が原則と示したが、それまでの合意が難しいのではとの懸念が市場に広がったことでポンド買いポジションに調整が入った。ポンドドルは1.35を割り込んで週の取引を終えている。140円40銭台まで一時上昇したポンド円は139円台前半で週の取引を終えた。
今週の見通し
英国で感染力が最大7割強いとみられる新型コロナウイルスの変異種の感染拡大が確認された。ジョンソン英首相は19日、20日からロンドンなどを含むイングランド南東部における制限レベルをこれまでのTier3からTier4(用語説明2)に引き上げることを発表。これにより仕事、教育、必要不可欠な活動を除く外出の禁止、必要不可欠でない小売店、ジム、レジャー施設の閉鎖など厳しい制限が課せられることとなった。また、フランスが英国からの入国を人だけでなく貨物なども含めて停止することを発表。ドイツをはじめ多くの欧州諸国が英国からの渡航禁止を決めるなど、非常事態となっている。
新型コロナウイルスの感染第3波が依然深刻な欧州において、事態をもう一段深刻化させる可能性のある今回の状況を受けて、リスク警戒の動きが広がっている。
ポンドの急落とそれに伴うユーロの下落、一方リスク警戒からのドル買い円買いの動きが見込まれるところ。
ドル円に関してはドル買いと円買いが交錯し、方向性が分かりにくい展開か。ややドル買いが優勢と期待されるが、不安定な動きに。102円から104円にかけてのレンジの中での振幅が見込まれる。
ポンドはどこまで下がるかの判断が難しい。EUとの通商協議についても欧州議会が設定した承認の期限を過ぎても依然交渉が難航。漁業権問題での調整が進んでいないとみられ、ハードブレグジットが現実味を帯びている。
ただ、これまでの争点とされてきた項目のうち、監視のガバナンスなどについては歩み寄りに成功したとの報道もあり、漁業権問題がまとまれば急転直下での合意もあるだけに、難しい判断となる。新型コロナウイルスの変異種問題が生じたところにハードブレグジットがぶつかると、英経済は相当厳しい状況になることが見込まれるだけに、期限を延長してでも合意に成功すればポンドの大幅な買い戻しで1.35台もありうる一方、ハードブレグジットでポンドの売りが強まると、11日に付けた1.3130台を割り込む動きもありそう。
用語の解説
欧州議会 | EU加盟国から直接選挙で選出された議員で構成されるEUの立法機関。EU加盟国首脳らで構成されるEU理事会とともに両院制での立法機関となっており、立法や予算の決定に関する権限を理事会とともに有している。当初は諮問委員会としての役割であったが、その後権限が強化され、現行のEU基本条約である2009年のリスボン条約において、ほとんどの法案についてEU理事会と共同で決定することと定められている。 |
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Tier4 | 英国における新型コロナウイルスの感染拡大防止のための制限レベルで、最も高いもの。Tier4により、仕事・必要不可欠な活動・教育など合理的な理由がある場合を除く外出の禁止、法的に認められた場合を除くTier4地域内外の移動の禁止、建設・製造現場など一部を除いて仕事は在宅を基本とすること、生活に必要不可欠でない小売店・レジャー施設・屋内ジム・パーソナルケアサービスの閉鎖、屋外の公共スペースで他の世帯の人と会う場合は1人までなどの厳しい制限が課せられる。 |
今週の注目指標
米PCEデフレータ(11月) 12月23日22:30 ☆☆ | 米FRBの緩和姿勢が続く中、雇用と並ぶFRBの二大責務である物価統計にもある程度の警戒感が出ている。長期の緩和を維持するためには、物価上昇圧力が強まらないことが重要となる。米国のインフレターゲットの対象は、多くの国で採用されている消費者物価指数ではなく、PCEデフレータ前年比となっている。11月分の予想は10月分と同水準の+1.2%。食品やエネルギーを除いたコアも10月分と同水準の+1.4%。インフレターゲットである2%を下回った状況での推移が続いており、緩和姿勢維持を後押し。予想外に物価上昇が見られると、金融政策への警戒感からのドル買いも。ドル円は103円台後半への上昇を期待。 |
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トルコ中銀政策金利 12月24日20:00 ☆☆☆ | 先月7日に就任したアザール中銀総裁は、就任後初となる前回11月19日の理事会で政策金利をそれまでの10.25%から15.00%に一気に引き上げた。総裁は声明でディスインフレのプロセスを回復するために実施した、インフレ率の持続的な低下が達成されるまでは引き締めを維持するーとインフレに対抗する強い姿勢を示した。その後も総裁は必要ならばさらなる引き締めを行うなどと発言。市場は今回の理事会で連続利上げに踏み切るとの見方が広がっており、トルコリラの買い材料となっている。利上げ幅の見通しはやや分かれているが、予想は16.50%前後。予想前後もしくはそれ以上の利上げが実施されると、トルコリラ円は13円台後半でのしっかりとした動きから、心理的な節目である14円ちょうども視野に入ってくるとみられる。 |
クリスマス 12月25日 ☆☆ | 日本や中国などごく一部を除いて世界的に休場となる。前日24日の米国市場は株式・債券市場が短縮取引となっており、そのあたりから取引参加者が極端に減少する。例年閑散とした中でほとんど値動きを見せないが、大きな材料が入った場合は市場に厚みがない分大荒れになる可能性も。新型コロナウイルスの変異種の問題や、英国とEUの通商協議など、神経質な材料を抱えているだけに今年は要注意。狭いレンジ取引が見込まれるが、上下ともに荒っぽい動きを見せるリスクを意識したポジション管理が必要。 |
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