2021年01月12日号
先週の為替相場
先週後半からドル買い優勢に、雇用統計の弱さも逆にドル買いにつながる
1月4日からの週はドル買いの動きが優勢となった。
バイデン新大統領の誕生が正式に決定し、新政権下でより積極的な追加経済対策が行われるとの思惑が、国債利回りの上昇を誘いドル買いにつながった。米10年債利回りは節目の1.0%を超えて上昇する展開となった。
追加経済対策への期待感が株高の流れにもつながっており、リスク選好からの円売りも入る形で、ドル円は102円台から104円台まで上値を伸ばす展開となった。
年初はドル売りの動きに。昨年後半から年末にかけて世界的に株高の動きが広がり、リスク選好の動きがドル売りにつながった。昨年末に一時102円台を付けたドル円は、年始に103円をしっかり割り込み、6日には102円60銭前後までドル売り円買いが進む場面が見られた。ユーロドルが1.23台半ば前後まで上昇するなど、ドルは昨年末からの全面安基調が継続した。
もっとも、その後はドル安に対する調整が入り、一転してドル全面高基調に。5日に行われたジョージア州での上院決選投票(本選挙及び議員の任期前引退に伴う補欠選挙)は、2議席とも民主党候補が勝利し、これにより大統領選、上院、下院のすべてを民主党が抑えるブルースウィープ(トリプルブルー・用語説明1)となった。バイデン新政権下での追加経済対策の強化が進みやすくなったとの見通しが、将来的なインフレ期待につながる形で米債利回りが上昇。ドル買いにつながる展開を見せた。
ベンチマークとなる米10年債利回りは節目の1%を超えて上昇し、本邦機関投資家などからの金利差を意識したドル買いが入る展開に。一方米株は追加経済対策期待で上昇しており、ドル高株高債券安(利回り上昇)という流れに。
ドル円は104円前後でいったん頭を抑えられたものの、8日の米雇用統計発表を前にロンドン市場で104円09銭を付ける動きとなるなど、ドル買いの動きが継続。
注目された米雇用統計は予想外に非農業部門雇用者数が減少。11月の数字が、速報時点から大きく上方修正された影響もあるが、5万人増の予想に対して14万人減と厳しい数字となった。
新型コロナウイルスの感染拡大から各地で厳しい行動制限が課せられる中、影響を受けやすいレジャー&ホスピタリティ部門(レストラン・バーなどの飲食部門、ホテルなどのアコモデーション部門、映画館・劇場・カジノなどのアミューズメント部門)が49.8万人減と大きな雇用の減少を見せたことが全体を押し下げる結果となった。
米雇用統計の結果を受けてドル円が103円60銭前後まで値を落とす場面が見られたが、その後ドルは再び買い基調に。
バイデン新政権が今回の雇用統計動向などを受けてより積極的な追加経済対策に乗り出すとの思惑が、将来的なインフレ期待の拡大につながりドル買いが強まる展開に。ドル円は104円台に乗せる場面が見られた。ユーロドルは1.22を割り込んでおり、ドル全面高基調に。
今週の見通し
一時のドル売り基調から、一転してドル高の動きが強まっている。ドル高の材料とされているのは米10年債の利回り上昇。バイデン氏が新大統領に正式に決まり、1月20日から新政権が発足する中で、より積極的な追加経済対策が実施されるとの思惑がドル買いにつながっている。
新政権下で財務長官となるイエレン前FRB議長(用語説明2)は労働問題の専門家であり失業問題に積極的に取り組むとみられていることも、先週末の米雇用統計の弱さから追加経済対策期待につながる格好に。
追加経済対策期待でのドル買いに加えて、財源としての国債発行の拡大により将来的なインフレ期待が強まるとの思惑が広がっており、米長期債利回りが上昇しドル買いにつながった。
米ドルはパンデミック下で流動性確保の思惑などで大きく買われ、その後新型コロナウイルスの影響が落ち着く中で、リスク選好のドル売りが広がっていた。米FRBの積極的な緩和政策と、その長期化観測により金利面でのドルの魅力が低下し、リスク選好局面ではドルから新興国などに資金がシフトする格好となっていた。
しかし、ベンチマークとなる米10年債が節目の1%を超えて、さらに上昇を続ける中で、金利面でのドルの魅力も出てきており、株高債券安(利回り上昇)局面でドル買いが入りやすくなっている面も。
ドル円は105円手前の売りが意識されており、104円台での買いには慎重姿勢が見られるが、押し目では買いが入る流れ。長期的な基調はまだドル売りと見る向きが多いが、一部金融機関などではドル売り推奨姿勢を改める動きもある。トレンドの転換が見られる可能性もあるだけに、要注意な局面。
ドル円は短期的には上方向が意識される展開で105円がターゲットに。105円台をあっさり回復するようだとドル買いが加速する可能性も。
ユーロドルは1.20台までのユーロ売りドル買いが視野に。ドル主導でユーロ円などクロス円はやりにくさも、株高が続くようだと押し目では買われる流れか。
用語の解説
ブルースウィープ | 11月の米大統領選及び上下両院選挙の結果、大統領、下院、上院のすべてを民主党が押さえる結果となった。この状況を民主党のシンボルカラーであるブルーにかけて、ブルースウィープもしくはトリプルブルーと呼ぶ。近年では2016年の選挙後に共和党が大統領、上下両院を押さえるレッドスウィープとなっていた。人事案や予算案のごく一部を除いて上院では少数政党に議事妨害権(フィリバスター)があるため、民主党がすべてを決めることが出来るわけではないが、単純過半数を抑えている意味は大きく、政権運営がかなりスムーズになると期待されている。 |
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イエレン前FRB議長 | ジャネット・イエレン(Janet Yellen)前FRB議長。ハーバード大学の助教授を経て、FRBのエコノミストとなり、その後カリフォルニア大学バークレー校の教授となる。1994年にFRBの理事、その後大統領経済諮問委員会(CEA)委員長やサンフランシスコ連銀総裁、FRB副議長を経て、2014年にバーナンキ総裁の後を継いで第15代のFRB議長に就任。2018年2月まで同職を務めた。経済学者としての専門は労働問題。そのためFRB在職中はインフレよりも雇用問題を重視して緩和的な政策を志向するハト派としてとらえられていた。バイデン新大統領より新政権下での財務長官に指名された。配偶者はレモン効果の研究でノーベル経済学賞を受賞した米国を代表する経済学者の一人であるジョージ・アカロフ。 |
今週の注目指標
パウエル議長WEB会議参加 1月15日02:30 ☆☆☆ | バイデン新政権の誕生を20日に控え、財政面でのさらなる景気対策が期待される中、中央銀行も積極的に米経済を支える姿勢を維持すると期待されている。そうした中、今週はFRB関係者の講演予定が目白押しとなっている。中でも注目は14日のパウエルFRB議長が参加するWEB会議。FRBは前回のFOMCで完全雇用に近づくまで量的緩和を長期維持する姿勢を示した。そうした中、先週発表された12月の米雇用統計は非農業部門雇用者数が予想外に前月比で大きなマイナスを示すなど、状況が悪化している。米国ではワクチン接種が始まっているものの、新型コロナウイルスの感染拡大が収まるには相当時間がかかるとみられており、雇用の減少が数か月続く可能性が指摘される中で、パウエル議長が従来以上に積極的な景気支援姿勢を示すかどうかが注目されるところ。発言内容次第では米長期金利の低下につながりドル売りが広がる可能性も。ユーロドルは1.22台半ばを意識する展開に。 |
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米小売売上高 1月15日22:30 ☆☆☆ | ここにきて厳しい状況が続く米国での新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、先週発表された米雇用統計は予想外に雇用の大きな減少を示した。こうした状況が米国の家計の消費動向にどこまで影響を与えているのかが注目されるところ。米国の個人消費動向を示す米小売売上高は、10月、11月と連続で減少している。前回は衣料品店や飲食店などでの売り上げが大きく減少しており、行動制限の影響が懸念される状況となっていた。12月に入ってカリフォルニア州の大部分で厳しいロックダウンが再開されるなど、行動制限の動きがさらに強まっており、小売売上高も弱めの数字が見込まれるところ。前回が前月比-1.1%とかなり厳しい数字となったこともあり、今回は-0.1%と小幅な減少にとどまる見込みも、予想通りの数字が出ると3カ月連続での売り上げ減となる。予想を超える減少となる可能性も十分にありそう。弱めの数字が出た場合リスク選好からの円買いが広がる可能性。ドル円は103円台半ば割れも。 |
独キリスト教民主同盟党大会 1月15日・16日 ☆☆☆ | ドイツ与党キリスト教民主同盟(CDU)の党大会が15、16日にオンラインで開催される。今回の党大会ですでに辞任を表明しているクランプカレンバウアー党首の後任が決まる。メルケル首相は今季限りの政界引退を表明しており、9月の総選挙には出馬しないため、CDUが大きな敗北を喫さない限り、今回の党大会で決定される新党首が総選挙後のドイツの新首相となる。ノルトライン・ヴェストファーレン州のラシェット州政府首相と前回の党首選でクランプカレンバウアー氏に僅差で敗れたメルツ氏が有力候補。ラシェット氏が後任となった場合はメルケル路線の継承が見込まれるが、メルケル氏の政敵として知られるメルツ氏が後任となった場合はやや不透明感も。ユーロの売り材料となる可能性がある。この場合ユーロドルは1.21割れを試す可能性も。 |
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