2021年02月08日号

(2021年02月01日~2021年02月05日)

先週の為替相場

ドル高の流れ強まる

 2月1日からの週は、ドル高の流れが強まり、ドル円は5日の海外市場で105円70銭台を付ける場面が見られた。ユーロドルは一時1.19台半ば近くまで値を落とし、ドル全面高の流れに。

 米追加経済対策期待が米株高を誘う中で、これまでリスク選好時に見られたドル売りの動きが、ドル買いにつながる形に変化している。追加経済対策の財源として米国債の発行が拡大し、将来的なインフレ期待につながるとの思惑が、米長期債利回りの上昇をもたらす形でドルが買われている。

 また、インフレ警戒もあり、市場は米FRBによる早期の出口戦略(テーパリング:用語説明1)に向けて期待を強めている。パウエル議長は先月26、27日のFOMC後の会見でテーパリングの議論については時期尚早という姿勢を改めて示した。ただ、アトランタ連銀のボスティック総裁(用語説明2)やダラス連銀のカプラン総裁などタカ派の地区連銀総裁からはテーパリングの議論について年内に開始の意向が示されており、市場の期待感を誘っている。

 ドル円は先週前半に105円台を付けると、その後105円ちょうど前後でのもみ合いを経て、4日にユーロドルが節目の1.20を割り込むなどドル高の勢いが強まる中で105円台にしっかりと乗せる展開に。

 その後も5日の米雇用統計発表まではドル高の勢いが継続し、発表前に105円70銭台まで上値を伸ばしている。

 注目された1月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が予想の10.5万人増を下回る4.9万人の増加にとどまったことに加え、前回値(12月)の数字が速報値の14万人減から22.7万人減に大きく下方修正される弱いものとなった。

 12月の雇用減を主導したレジャー&ホスピタリティ部門が6.1万人減と雇用の減少傾向を続けたことに加え、11月の雇用減から12月は13.49万増と持ち直しを見せていた小売業が3.78万人減と雇用の減少を見せたこと、運輸・倉庫部門が2.78万人減とこちらもさえない数字になったことなどが全体を押し下げた。総じて新型コロナウイルスの影響が強く出る部門であり、米国の新型コロナウイルス感染第3波の流れを意識させるものとなった。

 発表直後にドル円は105円台半ば割れまで下落し、いったんは値を戻すも、NY市場午後には105円30銭台まで値を落として週の取引を終えている。

 ドル高基調の中で先週初めの1.21台からじりじりと値を落としたユーロドルは、節目の1.20を割り込むと、その後は1.20ちょうど前後が重くなり、米雇用統計発表前までユーロ売りドル買いの流れが継続。発表前には1.1950手前までユーロ安ドル高が進んだ。雇用統計を受けて一気に調整が入り1.20台半ば近くまで値を戻して週の取引を終えた。

 そのほか目立った動きとしては3日朝にNZドルが上昇した。同日発表されたNZ第4四半期雇用統計において、失業率が悪化(上昇)見込みに反して第3四半期の5.3%から4.9%へ低下し、雇用者数も大きく伸びたことでNZ経済への期待感が広がった。

 発表前日に対ドルで0.7130台、対円で75円ちょうど前後を付けていたNZドルは、対ドルで0.7220台まで上昇。対円では75円80銭台を付ける動きが見られた。

今週の見通し

 ドル円は堅調地合いを維持する見込み。今週はそれほど目立った指標発表予定がなく、これまでの流れが継続しそう。

 米雇用統計の弱い結果を受けてドル買いの調整が入っているが、ドル高の中期的な流れは継続。米国の追加経済対策期待で株高からの円安の流れが続いていること加え、米国のインフレ期待拡大から米長期債利回りの上昇傾向が続いており、ドル買いの動きも。

 ドル円は105円ちょうどから105円20銭にかけての水準を短期的なサポートとして上を意識する展開か。昨年10月7日につけた106円10銭前後の水準が上値トライの目途となりそう。

 米10年債利回りの上昇傾向が続く中で、下がると買いが入る展開が続いており、ドル高基調が継続。一方米株を中心とした世界的な株高の流れが、リスク選好の円売りを誘う展開。クロス円がしっかりとした動きを見せる中で、ドル円も堅調な地合いを維持している。

 節目の1.2000を一時割り込んだものの、雇用統計後のドル売り基調に1.20台を回復したユーロドル。ポイントである1.20を先週いったんしっかり割り込んだことで、到達感からユーロ買いドル売りの動きが強まる可能性がある。一時懸念されていたイタリアの政局もドラギ前ECB総裁が首相に指名されたことで、落ち着きを示す可能性が高い。ただ、米債利回りの上昇傾向などから基調は依然としてドル買いか。1.2150前後が重くなると、再び1.20割れを試す可能性も。

用語の解説

テーパリング 英語でTapering。本来の意味としては先細りや漸減を意味する言葉。経済用語としては量的緩和(QE)の縮小を意味する。量的緩和策とは中銀が国債や住宅ローン担保証券(MBS)など各種債券を市場から買い入れることで実施される。その購入量を徐々に減らしていくのがテーパリングで、金融緩和における出口戦略の一つ。
ボスティック総裁 ラファエル・ボスティック(Raphael Bostic)アトランタ連銀総裁。2017年6月に同年2月で退任したロックハート氏の後任として総裁に就任。スタンフォード大学で経済学の博士号をとった後、FRBで住宅政策を専門とするエコノミストとして勤務。フレディマックの役員などを経て、2009年から2012年までオバマ政権下で米住宅都市開発省の政策開発・研究担当次官補、その後南カリフォルニア大学の教授を務めた。米地区連銀総裁として初のアフリカ系アメリカ人。地区連銀総裁の中でも比較的タカ派(景気見通しに強気で、利上げなどに前向き)のメンバーとして知られている。2021年のFOMCでの投票権を有している。

今週の注目指標

米消費者物価指数(CPI・1月)
2月10日22:30
☆☆☆
 米FRBは最大雇用と物価安定に向けて大きな進展があるまで当面の間は現状の超緩和的な金融政策を維持する意向を示している。ただ、ここにきて米景気の回復傾向が顕著となる中で、テーパリングの開始に向けた思惑が市場でくすぶっており、開始の目途の一つであるインフレ率にも注目が集まる。米国のインフレターゲットの対象はPCEデフレータであって、多くの国のようにCPIではないが、水準はともかく増減の傾向はほぼ一致するため、PCEよりも発表が早いCPIに注目する傾向がある。予想は前年比+1.5%と前回12月の+1.4%から若干強めも、水準的にはまだまだ。ただ、予想を超えて上昇していた場合、テーパリングの議論が再燃し、ドル高に繋がる可能性も。ドル円は106円台乗せが意識されるところに。
パウエルFRB議長講演
2月10日
☆☆
 パウエル議長が10日にニューヨークのエコノミック・クラブ主催の講演を行う。FOMCの一部メンバーがテーパリングに関する議論を早期に始めることを希望する意向を示す中、議長は時期尚早との従来の姿勢を繰り返すとみられる。先週末の米雇用統計の弱さもあり、完全雇用復活までにかなりの時間がかかるとの見通しを示す可能性も。市場のテーパリングに対する期待感を後退させるような先行きに対する悲観的な見方が表明されるようだと、ドル売り円買いの動きに。ドル円は104円台半ばを意識する展開も。
英第4四半期GDP速報値
2月12日16:00
☆☆☆
 英国の第4四半期GDP速報値が発表される。新型コロナウイルスの影響で第2四半期に大きく落ち込んだ英GDPは第3四半期に前期比+16.0%と一気の回復を見せた。しかし、昨年後半に入り感染力の高い変異種による感染が広がり、再度のロックダウンを余儀なくされるなど厳しい状況となった。これを反映して予想は前期比+0.5%と低い伸びにとどまっている。前年同期比では-8.1%となっており、厳しい英経済状況が示される見込み。予想を超えて前期比でマイナスになる可能性も十分にある。この場合は量的緩和の拡大などさらなる追加緩和期待が広がる形でポンド売りにつながりそう。ポンド円は144円割れの可能性も。

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