2021年03月08日号
先週の為替相場
ドル買いが加速
3月1日からの週は、ドル高が強まる展開となった。
先々週後半に106円台にしっかりと乗せたドル円は、107円ちょうど手前の売り注文にいったん頭を抑えられ、107円台を付けた後も107円ちょうど前後での推移が続いたが、週後半に入ってドル高円安の流れが加速し、米雇用統計の発表を前に108円台を付ける動きに。
注目された米雇用統計では非農業部門雇用者数が予想を大きく上回る好結果となりドル高の勢いが加速。108円60銭台まで上値を伸ばし、その後週末にかけてやや調整も108円30銭台で週の取引を終えるなど、ドル高円安基調が目立った。
週前半のドル円は堅調な動きで107円ちょうどを意識する展開。米債利回りが上昇する中で、ドイツ債などの利回り低下が見られ、金利差からのユーロ売りドル買いが強まり、ドル全面高につながる場面が見られた。
バーキン・リッチモンド連銀総裁(用語説明1)が債券利回り上昇をそれほど気にしていない様子を示したことなどもドル買いに寄与した。一方、ビルロワドガロー仏中銀総裁がECBは過度な緊張に対して対応しなければいけないと発言したことで、ECBは長期債利回り上昇に米国より神経質との思惑が広がり、ユーロ売りドル買いにつながった面も。ユーロドルは2日に心理的な節目である1.20を割り込み、その後いったんポジション調整の買い戻しが入る展開に。
4日のパウエルFRB議長講演を受けて、ドル高がさらに強まった。議長は長期金利の上昇について留意しているとしたが、無秩序な動きであるとの認識は示さず、市場が期待するほど強い警戒感を示さなかったことで、米長期金利の上昇とドル高を誘った。ベンチマークとなる米10年債利回りは1.5%を超える展開に。
さらに5日の米雇用統計を受けてドル高が加速した。
米雇用統計では非農業部門雇用者数が予想の前月比20万人増を大きく超える37.9万人増の好結果となった。また1月の数字も4.9万人増から16.6万人増に上方修正され、「予想を下回る弱い数字」という前回の雇用統計の印象が払しょくされた。前回と同水準と見込まれていた失業率も0.1%ポイント低下していた。
新型コロナウイルスの感染被害が深刻なカリフォルニア州やNY州で1月後半に行動制限が一部緩和されるなど、全米各地でロックダウン緩和が進められている影響が強く出たとみられる。12月の雇用減の主要因となり、前回もマイナス圏となっていたレジャー&ホスピタリティ部門(レストランなどの飲食部門、ホテルなどの宿泊部門、映画館、カジノなどのレジャー部門)が、35.5万人増となり全体を支えた。また、小売業も4.11万人増と好結果に。小売業は速報時点では前月比マイナスとなっていた1月の数字が大きく上方修正され4.63万人増となった。ロックダウンを受けた在宅訪問医療への悪影響などから前回マイナス圏となったヘルスケア&ソーシャルアシスタンス(用語説明2)部門も、前回の9.62万人減から4.56万人増に一気に改善し、全体を支える格好に。
こうしたロックダウンの影響を受けやすい部門が軒並み大きな改善を示したことで、予想を超える雇用統計の好結果となり、米景気回復への信頼感が強まるとともにインフレ期待が強まった。
雇用統計後には米長期金利の上昇がもう一段強まり、10年債利回りは1.62%台を一時付ける動きとなってドル高に寄与し、ドル円は一時108円60銭台まで上値を伸ばしている。ユーロドルに至っては1.19を割り込む場面が見られ、ドルは全面高の流れに。
今週の見通し
ドル高の流れがどこまで続くのか。ドル円にはさすがに高値警戒感が出ているものの、地合いはまだ上方向。米長期金利の上昇がドルを支える格好となっている。
先週末の米雇用統計の力強い結果を受けて、米株式市場が大きく上昇。ドル円に関してはリスク選好の円売りも支えとなっている。
もっとも米長期金利の上昇が今後の株価に対する懸念材料となっており、リスク選好の動きがどこまで続くのかは微妙なところ。
米雇用統計はかなり強い数字となったが、それでも米国の雇用はパンデミック前の水準と比べて約6%程度低い状況で、まだ戻り切っていない。雇用の最大化が二大命題の一つであるFRBにしても、雇用問題の専門家でありFRB議長時代にハト派的な姿勢を示していたイエレン財務長官にしても、景気刺激姿勢を崩すとは考えにくいこともあり、米国では将来的なインフレ期待が当面強い状況が続くとみられる。
ドル全面高基調が続く中で、ドル円は節目である110円を強く意識する展開となりそう。株高一服での円高進行などが重石となっても、下がると買いが入る流れか。
短期的には108円ちょうど手前がサポートに。108円台でのレンジ取引から109円超え、さらには110円に向けた動きが期待される。
ユーロドルは1.2000が上値抵抗水準となりそう。9月、11月と2度下値を支えた1.1600手前が次の大きなポイントに。1.18-1.20レンジを中心にした動きから、もう一段の大きな下値トライを意識。
用語の解説
バーキン・リッチモンド連銀総裁 | トーマス・I・バーキン(Thomas I. Barkin)リッチモンド連銀総裁。フロリダ州出身。ハーバード大学及び同大学院(MBA及び法務博士)を出た後、大手コンサルティング会社であるマッキンゼーに30年以上勤め、同社CFOやCRO(最高リスク管理責任者)などを歴任。2018年1月よりリッチモンド連銀の総裁に就任した。2021年のFOMCでの投票権を有している。 |
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ヘルスケア&ソーシャルアシスタンス | 米労働省による雇用の区分のうち、「教育及び健康」の大区分の中の健康部門。開業医、病院、看護、在宅医療、介護などの部門からなる。高齢化が進む先進国において慢性的に人手不足の業界であり、米国も同様。リーマンショックで雇用が減少する際にも雇用増が続いて全体を支えた。今回の新型コロナウイルス感染拡大の中では、さすがに昨年3月、4月の2カ月で全体の約1割に当たる160万人程度の大幅な雇用減を記録したが、5月以降は順調に回復し、全体を支えていた。ただ、訪問看護など在宅医療部門に関しては昨年9月にプラスとなったほかは雇用減が続くなど、新型コロナウイルスの影響が強く出ている。 |
今週の注目指標
中国消費者物価指数(CPI・2月) 3月10日10:30 ☆☆☆ | 10日に2月の中国物価統計が発表される。消費者物価指数(CPI)は1月と同じ前年比-0.3%、生産者物価指数(PPI)は前回から大幅上昇の+1.4%が見込まれている。サービス価格の下落傾向が消費者物価指数を抑えているとみられる。新型コロナウイルスの感染拡大が他国よりも早かった分、回復も早く始まっている中国だが、春節での移動自粛を呼び掛けたこともあって、直近のサービス価格下落がやや優勢となっており、中国当局の景気支援姿勢につながっているとみられている。予想通りもしくはそれ以下の数字が出てくると、警戒感から資源国通貨売りの動きも。豪ドル円の84円前後が重くなる可能性も。 |
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米消費者物価指数(CPI・2月) 3月10日22:30 ☆☆☆ | 雇用と並んで米FRBの二大責務となっている物価の安定であるが、パンデミックの影響でやや厳しい状況が続いている。米国のインフレターゲットの対象はPCEデフレータであってCPIではないが、上下変化はほぼ相似することもあり、発表が早いCPIが注目される傾向にある。今回の予想は総合がエネルギー価格上昇の影響で+1.7%と前回の+1.4%から上昇も、コアは前回と同じ+1.4%に。CPIはPCEデフレータよりもやや高く出ることが多いことから、ターゲットの2%までまだ遠いという印象を与える結果となりそう。予想前後の数字が出てくるとFRBによる現行の緩和政策の長期化期待が強まり、テーパリング期待が後退することでドルの重石となりそう。ドル円は108円割れも意識。 |
ECB理事会 3月11日21:45 ☆☆☆ | 今回のECB理事会では政策金利及び量的緩和策の現状維持が濃厚。政策金利はここ6会合連続で据え置きが続いている。量的緩和については、昨年12月の会合で昨年6月会合以来となる追加緩和策としてPEPP(パンデミック緊急購入プログラム)の5000億ユーロ拡大と期限の延長を決定した。前回1月の会合でラガルド総裁は「引き続きあらゆる手段を用いる準備ができている」と状況次第では追加緩和を実施する姿勢を示したが、現状では追加緩和の実施が行われる可能性は低い。市場の注目はユーロ圏でも強まっている長期金利上昇に対する言及。今月に入ってデギンドス副総裁が利回り上昇が資金調達環境を悪化させていないか見極めが必要と発言するなど、ユーロ圏でもやや警戒感が広がっている。声明やラガルド総裁の会見で警戒感が示されると、ユーロドルでのユーロ売りドル買いにつながる可能性。ユーロドルは1.16台に向けた動きも。 |
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