2021年03月22日号
先週の為替相場
米長期金利動向にらむ
15日からの週、ドル円は振幅を見せる展開となった。
米国をはじめとする世界的な長期金利の上昇が市場の注目材料となる中、米連邦公開市場委員会(FOMC)、英中銀金融政策会合(MPC)、日銀金融政策決定会合など、重要なイベントが続き、やや神経質な動きに。
週初から米債利回り動向をにらみながらの展開で、先週初めに米10年物国債が1.63%台と先々週の水準を超えたことで、109円30銭台まで上昇。利回り上昇が落ち着くとすぐに調整が入るも、109円ちょうど前後がしっかりで週前半はもみ合いに。
その後ドイツやフランスなどユーロ圏主要国で、アストラゼネカ製ワクチンの接種を一時停止すると報じられ、ユーロ売りが進んだ。ワクチン接種の遅れが景気回復の重石になるとの警戒感がユーロ売りを誘う格好となった。ユーロ円の売りからドル円も節目の109円をしっかり割り込み、108円台後半へ下落。ユーロドルは1.18台へ、ユーロ円は130円40銭近くから129円台半ば割れまで値を落としている。
その後はFOMCを前にいったん調整ムードが広がり、ユーロ円の買い戻しなどを支えにドル円もしっかり。ユーロ円が130円60銭台までと、下げ分を解消して値を戻したこともあり、ドル円も109円30銭台を回復する動きを見せた。米10年債利回りが1.65%前後まで上昇したこともドル円を支えた。
FOMC後はドル売りが強まる展開となった。今回のFOMCではSEP(Summary of Economic Projections)が示される回に当たっていたが、その中で今年の経済成長見通しを6.5%に、インフレ見通しを2.4%に大きく上方修正。一方でドットプロットにより示されたFOMCメンバーの政策金利見通しは、2023年までの金利据え置きが大勢となった。物価見通しが今年中にいったんインフレターゲットを大きく上回る状況でも、政策金利が長期的に現状の実質ゼロ金利で維持されるとの見方に、市場の金利先高観測が後退した。
しかし、ドル売り一服後はドル買いが強まる展開に。FOMC後のパウエル議長会見で、長期金利上昇についての具体的な対応について明言がなく、容認姿勢と市場がとらえたことで米長期債利回りが上昇。ベンチマークとなる米10年債利回りが1.75%台を付ける中で、ドル円は109円20銭台まで。
その後、日銀が金融政策決定会合で長期金利の変動許容幅を拡大するとの報道があり、いったん円買いの場面も、FRBがパンデミック対応で実施していた金融機関向け補完的レバレッジ比率(SLR:用語説明1)の条件緩和措置を今月で終了すると発表したことで、米長期債利回りが上昇した。これを受けてドル円は109円台を回復する動きになるなど、週を通じて米長期債利回り動向に振り回される展開となった。
今週の見通し
米長期債利回りの急激な上昇に対する警戒感が広がり、少し調整が入る場面も見られるが、米金利の先高観測は継続。
週末にトルコのエルドアン大統領がアーバル同国中銀総裁(用語説明2)を解任したことで、リラがパニック的な売りとなっており、市場のリスク警戒を誘ったが、ドル円の下げが限定的なものにとどまるなど、下値しっかり感がかなり強い。
米国の景気回復への信頼感と、FRBの緩和措置が長期化するとの見通しが、米債利回りの上昇につながる展開は当面続くとみられ、日米の金利差拡大の思惑もあり、今後大きな節目である2%を目指すような動きも考えられる状況。
世界的に金利が低下する中での米長期金利上昇は、投資資金の米国への流入を促す可能性が高いだけに、ドルの先高見通しにもつながっている。
ドル円は節目の110円を意識する展開か。大台手前にはドル売り注文があるとみられ、一気の上昇は難しいが、下がると買いが入る展開が続くようだと、もう一段の上昇がありそう。クロス円での円売りなどがサポートすると、あっさりと大台超えの可能性も。
もしくは、ユーロドルなどでのユーロ売りドル買いがドル円をサポートする可能性も。ユーロに関しては、ドイツなどでの新型コロナの感染拡大懸念が広がっている。1.18を割り込むような動きを見せると、ドル全面高の流れに。
用語の解説
SLR | SLR: supplementary leverage ratio、補完的レバレッジ比率。金融機関の自己資本規制の一つで、分母に貸し出しや保有有価証券などのエクスポージャー、分子にティア1と呼ばれる中核的自己資本をおいて計算される。リーマンショック後に総資産が2500憶ドルを超える銀行に対する規制としてFRBが導入。パンデミック対応として昨年4月1日に、2021年3月31日までの時限措置として緩和を決定。米金融機関からは延長が求められていたが、FRBは態度をはっきりさせていなかった。 |
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アーバル・トルコ中銀前総裁 | アーバル・トルコ中銀前総裁。ウイサル氏の後を受けて昨年11月7日にトルコ中銀の総裁に就任。インフレ率上昇への対応を責務として、就任以来積極的に利上げを実施。就任以降の利上げ幅は875BP(8.75%)に及んだ。先週18日のトルコ中銀理事会でも市場の予想を超える2%の利上げを実施していた。低金利志向のエルドアン大統領の反発を買ったとみられ、20日未明に出された官報で解任が公表された。後任には政権よりのコラムニストのカブジュオール氏が指名された。 |
今週の注目指標
パウエルFRB議長公聴会証言 3月23日 ☆☆☆ | パウエルFRB議長とイエレン米財務長官が23日に下院、24日に上院でコロナ対応の経済対策に関する四半期に一度の公聴会に出席する。FOMCで経済成長率や物価見通しの大幅な上方修正が示された後だけに、パウエル議長による低金利政策を長期維持する姿勢についての質問が出るとみられ、注目を集める。また、イエレン長官に対しては、一部で報じられている今後の増税計画に対する言及があるかも注目される。景気支援姿勢が強調されると、米長期金利の上昇を誘いドル買いも。ドル円は110円に向けた動きに。 |
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バイデン大統領記者会見 3月25日 ☆☆☆ | バイデン米大統領が就任後初となる記者会見を実施する。就任から2カ月がたったにもかかわらず、記者からの自由な質問を受け付ける場を設けてこなかったことで、大統領に対する批判が広がっていた。トランプ前大統領、オバマ前々大統領は就任後1カ月以内に会見を開いており、厳しい質問が飛ぶと見込まれる。タラップでよろめいた姿が報じられるなど、健康面でも不安が出ている大統領だけに、今後の政策運営への懸念が生じるようだとドル売りの可能性。ドル円は108円台前半へ向けた動きも。 |
米PCEデフレータ(2月) 3月26日21:30 ☆☆☆ | 米長期金利上昇の最大の要因である物価動向への注目が高まっている。そうした中、米国のインフレターゲットの対象であるPCE(個人消費支出)デフレータが発表される。予想は前年比+1.6%と前回の+1.5%から0.1%ポイントの上昇見込み。10日に発表された米消費者物価指数(CPI)は前年比+1.7%と前回の+1.4%から0.3%ポイントの大幅上昇となったが、そこまでの上昇は見込まれていない。ただ、PCEはCPIに比べて医療費の政府や保険での負担分を含むなど、全体におけるウェイトが高く、新型コロナ関連で高めに出やすくなっていることもあり、予想を超える上昇に警戒。強めの数字が出てきた場合、長期金利の上昇を誘い、ドル円の110円超えへのきっかけになる可能性も。 |
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