2021年05月10日号

(2021年05月03日~2021年05月07日)

先週の為替相場

米雇用統計の弱い結果を受けドル売り

 5月3日からの週、ドル円は週初のドル買い円売りから一転して頭の重い展開となった。注目された7日の米雇用統計が予想を大きく下回る弱い雇用増を示すなど、厳しい結果となったことを受けてドル売りが加速する場面も見られた。

 ゴールデンウィークで東京勢が不在となった3日の市場で円安が進行。ドル円は4月13日以来の高値となる109円70銭前後を付ける場面が見られた。欧州でワクチン接種が進展したことから、経済回復期待が強まる形でユーロ買いの動き。デギントスECB副総裁がワクチン接種の加速により緊急刺激措置を段階的に終了させる可能性に言及したことなどもユーロ買いを誘った。

 欧州株上昇の勢いが鈍ると、ドル円は頭を抑えられる展開となり、さらに米ISM製造業景気指数が予想に反して前回から鈍化し、60.7と予想の65.0前後から大きく下にぶれたことなども重石となって、ドル売りが広がった。ドル円は一時108円90銭前後まで。ロンドン朝方に1.2010台を付けていたユーロドルは、ロンドン市場でのユーロ買いと、その後のドル売りに押されて一時1.2070台まで。

 その後は一時1.60%割れしていた米10年債利回りが1.62%台を付けるなど、米債利回りの上昇傾向が継続したことなどを好感してドル買いが優勢な展開に。

 ドル円は109円50銭近くまで買い戻しが入ったが、109円台半ばに並んでいた売りに上値を抑えられ、109円台前半でのもみ合いに。米ISM非製造業景気指数の弱めの数字などに売りが出る場面も、下げは限定的なものにとどまった。

 米雇用統計発表前にはポジション調整のドル売りもあって、一時109円割れも、ドル売り円買いは続かず、109円20銭前後で雇用統計の発表を迎えた。

 ユーロドルは3日の上昇分を解消して1.20を割り込む動きに。もっとも1.20割れでは買いが入る流れとなっており、下値しっかり感が広がる中で、米雇用統計の発表を前にしたポジション調整もあって1.20台後半を回復。

 1.3900を挟んでの展開が続いたポンドドルは、6日の英中銀金融政策会合(MPC)で事前予想通り週ベースの債券購入額の縮小が発表されたこともあり、上下に振幅する不安定な動きを見せたが、その後会合結果発表前の水準に値を戻してもみ合いに。

 注目された7日の米雇用統計(4月)は、非農業部門雇用者数が前月比100万人前後の増加予想に対して、26万6000人増にとどまる衝撃的な弱い数字となった。3月の数字が速報時の91.6万人増から77万人増に下方修正された上での弱い結果で、市場へのインパクトは大きなものに。失業率も3月の6.0%から5.8%へ低下する見込みに反して6.1%に悪化した。

 新型コロナワクチンの接種が進み、全米各地の行動制限が緩和される中で、期待されたレジャー&ホスピタリティ部門(レストランなどの飲食部門、ホテルなどの宿泊部門、映画館、劇場、カジノなどのレジャー部門)の雇用の大幅な拡大が見られたが、運輸・倉庫部門、人材派遣部門などで雇用が減少し、全体の伸びを抑える形となった。

 この結果を受けて、市場に広がっていた米FRBによる量的緩和の早期縮小開始に対する期待が後退。早ければ次回のFOMCか8月のジャクソンホール会議(用語説明1)でテーパリング(用語説明2)に向けた道筋を示すのではとの観測が広がっていたが、そうした見通しがかなり後退する形でドル売りを誘った。

 ドル円は108円30銭台まで急落。その後少し戻して週の取引を終えた。ユーロドルが1.21台後半、ポンドドルは1.40台を回復するなど、ドルは全面安に。

今週の見通し

 インパクトのあった米雇用統計を受けて、今後の方向性を見極める展開となっている。

 市場では順調な米景気回復により、米FRBが現状の量的緩和策(QE)について早ければ今年第4四半期にテーパリングを開始するとの期待が広がっていた。しかし、今月に入って米ISM製造業・同非製造業景気指数、米雇用統計と、重要指標が軒並み予想を下回る状況となっており、景気回復の流れ自体は継続も、簡単な道ではないということが再認識される格好に。

 もっともテーパリング期待の後退は、米株式市場にとっては追い風となる。実際7日の市場は、雇用統計の弱い結果を受けて売りが先行して始まったものの、すぐに買いが広がる展開となり、ダウ平均株価が最高値を更新して引けた。リスク警戒による米債利回りの低下(安全資産である米債の購入拡大による債券価格の上昇)もNY市場午後には収まり、米10年債利回りは雇用統計前の水準に戻しており、市場は大きな動揺を見せていない。

 基本的なドル買い円売りの流れは継続とみられ、ドル円は110円台回復に向けた動きも期待される。ただ、早期のテーパリング期待の後退によってドル買い円売りの勢いはかなり削がれ、振幅を交えながら徐々に上を目指す展開か。ターゲットは110円手前。

 ユーロドルは先月末から先週半ばにかけてのユーロ売り局面において、1.20割れで買いが入ったことが大きい。その後米雇用統計を受けたドル売りに先月の高値を超えて上昇しており、下値しっかり感が強まる中でユーロ高基調が継続しそう。

 ユーロ圏諸国で米国や英国に比べて遅れていた新型コロナワクチンの接種が進んでいることが市場に好印象を与えており、下値でのユーロ買いを誘っている。ユーロ高が現水準からさらに進むと、ユーロ圏政府関係者やECB関係者からのけん制発言が出てくる可能性があるが、今年初めに付けた1.23台半ば前後に比べてまだ余裕があるだけに、もう一段上値を試す可能性は十分にありそう。ターゲットは2月25日に付けた1.2240台。

用語の解説

ジャクソンホール会議 カンザスシティ連邦準備銀行が主催し、米ワイオミング州ジャクソンホールで毎年8月に開催する経済シンポジウム。世界各国の中央銀行総裁、政治家、著名な学者などが参加し、米FRB議長が今後の米金融政策の方針を示す機会としてたびたび利用されている。昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響でバーチャルイベントとして開催された。今年の開催がどのような形になるのかはまだ発表されていない。
テーパリング Taperingとは先細りや漸減を意味する英語。金融用語としては、中央銀行による金融緩和策の中で、量的緩和策(QE)における債券の購入額を徐々に縮小していく出口戦略のことを意味する。

今週の注目指標

英第1四半期GDP速報値
5月12日15:00
☆☆☆
 新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて、昨年通年で9.9%のマイナス成長と1709年以来約3世紀ぶりの大きな落ち込みを示した英経済。昨年第3四半期の大きな伸びに続いて、昨年第4四半期も前期比+1.3%(速報時点では+1.0%)と堅調な回復を示していたが、第1四半期は-1.6%と落ち込む見込み。1月の月次GDPがウイルスの変異種による感染拡大の影響で大きく落ち込み、全体を押し下げる見込み。2月の月次GDPは前月比でプラス圏を回復、第1四半期と同時に発表される3月の月次GDPは前月比+1.5%と順調な回復が見込まれるものの、第1四半期全体ではマイナス圏に。もっとも、英中銀が今月、2021年の経済成長率見通しをそれまでの+5.0%から+7.25%に引き上げるなどワクチン接種の進展もあって、ここにきて英景気の回復は順調。第1四半期GDPでも予想ほどの落ち込みを見せず、底堅さを印象付けるとポンド買いの動きになりそう。ポンド円は今月の高値153円40銭台がターゲット。
米消費者物価指数(CPI・4月)
5月12日21:30
☆☆☆ 
 前回3月のCPIは前月比+0.6%と2012年8月以来の高い伸びを示した。新型コロナワクチンの接種が進み、需要が活発化したことが物価を押し上げたとみられる。前年比は+2.6%と節目の2.0%を超え、2018年8月以来の高い伸びとなった。前回がかなり高かった分、今回は前月比では+0.2%と伸びが鈍化もプラス圏を維持。前年比ではパンデミックの影響で昨年4月の物価下落が目立ったこともあり、+3.6%とかなり高い水準が見込まれている。2020年4月時の弱さという特殊要因だけに、相場への影響は限定的だとみられるが、水準がかなり高いだけに、予想を超えてさらに強めの数字が出てくると、ドル買いが強まる可能性も。ドル円は109円台半ばを試す動きも期待されるところに。
米小売売上高(4月)
5月14日21:30
☆☆☆
 前回3月は前月比+9.8%と10カ月ぶりの大きな伸びを示した米小売売上高。3回目の給付金支給などが個人消費の拡大を支える格好となった。前回が高かった分、今回は+1.0%と伸びは鈍化する見込みだが、プラス圏を維持すると期待されている。ただ、個人消費に大きな影響を与える米国の雇用について、先週末の非農業部門雇用者数が予想を大きく下回る弱い数字となった影響がどこまで出てくるか。予想外にマイナス圏に沈むようだと、米国の順調な経済成長への信頼感がやや後退し、ドル売りにつながる可能性。ドル円は108円ちょうどを試しに行く展開も。

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