2021年06月07日号

(2021年05月31日~2021年06月04日)

先週の為替相場

ドル高優勢も、米雇用統計受けて値を落とす

 5月31日からの週、ドル円は4月6日以来となる110円30銭台を一時付けるなど、ドル買いの動きが優勢となった。

 週前半は109円台での振幅。5月28日に110円20銭前後まで上昇したものの、大台を維持できずに先々週の取引を終えたことで、いったん調整ムードも見られ、一時109円33銭まで。

 1日発表のISM製造業景気指数が、全体の数字は予想を上回ったものの、内訳のうち雇用部分の数字が2カ月連続で大きく低下し、好悪判断の境となる50に迫ったことなどが嫌気された。

 その後は週の後半にかけてじりじりとドル高円安に。米ADP雇用者数の好結果などをきっかけに110円台を回復し、5月28日に付けた高値を超える展開に。注目された米雇用統計発表までは110円台前半で推移した。

 雇用統計は非農業部門雇用者数が期待したほどの伸びを見せず、事前予想を大きく下回る結果となった。失業率は低下したものの、労働参加率が低下していたことが要因とみられ、弱い数字という印象は変わらず。

 この結果を受けて、ドル円は110円台から109円30銭台まで急落。その後少し戻したものの、109円50銭台で週の取引を終えている。

 2カ月続けて米雇用統計が弱く出たことで、米国の雇用市場に対する警戒感が広がった。接客業など感染リスクの高い職種が避けられる傾向が見られ、全体を押し下げている。

 市場では早期テーパリング期待の後退により、米債利回りも低下し、ドル売りにつながった。今月の米連邦公開市場委員会(FOMC)でも雇用に対して慎重な見方が示されるとの思惑が広がっている。

 ユーロドルも週後半にかけてドル全面高基調の中でユーロ売りドル買いが広がり、1.2250台から一時1.2100台まで下落。米雇用統計を受けて1.2180台まで上昇する展開に。

 ドル主導の動きの中で、クロス円はもみ合いに。ユーロ円は134円を挟んでの振幅が続いたが、週末にかけてポジション調整に頭を抑えられると、米雇用統計を受けたリスク回避の円買いに133円10銭台まで。

 その他、目立ったのはトルコリラ安。トルコのエルドアン大統領が同国のTVインタビューで、利下げの必要性に言及。中央銀行総裁にも話しており、7月、8月には金利が引き下がっている必要があると伝えたという。これを受けてトルコリラは2日早朝の市場で急落。対ドルでリラの最安値を更新。リラ円も昨年11月以来の安値を一時付けた。その後は値を戻したものの、やや頭の重い展開に。

今週の見通し

 米雇用統計の弱い結果により、それまでのドル高ムードが大きく後退した。ドル円は5月28日に続いて、先週後半も110円台を付けるなど、しっかりした動きが続いていたが、これで上値一服感が出る可能性も。

 米長期債の利回りも一時の低下傾向が落ち着き、上昇が目立っていたが、再び低下が目立つ展開に。

 ただ、米経済の回復期待は根強く、下がるとドル買いが入る流れ。ドル円は108円台後半から109円台半ばにかけては買い意欲が見られる。

 109円台でのレンジ取引を中心に、やや下方向のリスクを意識か。

 ユーロドルの動きもドル円に作用しそう。ユーロドルについては、10日のECB理事会が注目される。先月カザークス・ラトビア中銀総裁(用語説明1)が今回の理事会で現状の量的緩和策であるPEPP(パンデミック緊急購入プログラム)の購入ペースを縮小する形でのテーパリング開始の可能性に言及。その後ラガルドECB総裁らが慎重な姿勢を強調したことで、早期のテーパリング開始期待は後退しているが、警戒感は根強い。

 先週初めに発表されたドイツ調和消費者物価指数(用語説明2)の上昇率が前年比2.4%とユーロ圏のインフレターゲットである「2%を下回るが近い水準」を超えてきており、米国だけでなく欧州でも物価上昇懸念が広がっていることもテーパリング期待につながっている。

 米雇用統計後のドル売り基調に加え、根強いテーパリング期待からのユーロ買いが広がるようだと、ユーロドルは1.22台半ばを試しにいく展開も。この場合、ドル全面安の流れからドル円は108円台をトライする可能性が高そう。

用語の解説

カザークス・ラトビア中銀総裁 マーティン・カザークス(Mārtiņš Kazāks)ラトビア中銀総裁。ロンドン大学で経済学の博士号を取得。ラトビア財務省や同国市中銀行でのエコノミストを経て、2018年6月にラトビア中銀の金融政策委員に就任。2019年12月より中銀総裁。ラトビアは2014年にユーロを導入。
調和消費者物価指数 世界各国の消費者物価指数(CPI)は、経済構造や消費動向の違いによって、調査対象品目やそのウェイト、調査対象の入れ替え更新頻度などが国ごとに異なっている。ユーロ圏の多くの国は、自国の状況に合わせた消費者物価指数の調査・発表と並行して、ユーロ圏加盟国間の比較ができるようにマーストリヒト条約統一基準により調査対象などを統一したユーロ基準の消費者物価指数を調査・発表している。これを調和消費者物価指数(HICP:Harmonised Index of Consumer Prices)と呼ぶ。なお、EU統計局が加盟国全体の指数をまとめ、ユーロ圏全体の調和消費者物価指数を発表している。

今週の注目指標

独ZEW景況感指数(6月)
6月8日18:00
☆☆
 ドイツでワクチンの接種ペースが一気に加速していることもあり、前回5月の独ZEW景況感指数は4月の70.7、事前予想の72.0を大きく上回る84.4を記録。約21年ぶりの高水準にある。ZEWのバンバッハ所長は、新型コロナの感染拡大が減速したことで一段と楽観的になっており、これからドイツの景気が大きく上向くとの見方を示した。今回は86.0と、さらに強めの数字が見込まれている。事前予想通り力強い数字が示されるようだと、ユーロ高の流れにつながりそう。
ECB理事会
6月10日20:45
☆☆☆ 
 今回のECB理事会では政策金利・量的緩和政策ともに現状維持が見込まれている。直近のユーロ圏経済指標の強さもあり、一部でテーパリングの開始期待が出ているが、前回同様に慎重な姿勢を維持するとの見方が大勢。声明やラガルド総裁会見では慎重姿勢を強調してくると予想されるが、物価上昇圧力への警戒感などが一部加盟国で広がっていることから、そうした国に配慮を示す可能性もある。この場合はユーロ買いを誘う材料となり、対ドルで1.22台にしっかり乗せる動きも期待されるところに。
米消費者物価指数(CPI・5月)
6月10日21:30
☆☆☆
 前回4月の米CPIは前年比+4.2%と予想を大きく超える高水準となった。変動の激しい食品とエネルギーを除いたコア部分でも前年比+3.0%と高めだった。パンデミックの影響で比較対象元である昨年4月の物価が低下したことによるベース効果も見られるが、行動制限緩和の影響も大きく、米国の物価上昇に対する警戒感に。今回もこうした状況が継続しているとみられ、事前予想は前年比+4.7%、コア部分が同+3.4%と、さらに高い水準が見込まれている。米国のインフレターゲットはCPIではなくPCEデフレータであるため、単純な比較は難しいが、節目の2.0%を2カ月続けて大きく超える状況は市場のテーパリング期待につながる材料となる。それだけに、事前予想通りもしくはそれ以上の数字が出てくるとドル買いの動きに。ドル円は110円台に再び乗せる可能性も。

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