2021年07月12日号

(2021年07月05日~2021年07月09日)

先週の為替相場

リスク警戒感がやや優勢に

 7月5日からの週はリスク警戒感の広がりなどを受けて、ドル円は頭の重い展開となった。ドル円は今月初めに111円台後半を付けた後、2日には米雇用統計という大イベントを無事クリアした安心感もあってポジション調整の動きが広がり、週初からやや頭が重くなった。

 先週初めに111円台前半の円安となる場面が見られたが、米債利回りの低下と米株安の進行を受けたドル売り円買いの流れからドルはその後、対円でじりじりと値を落とした。6日に発表された米非製造業PMI確報値と米ISM非製造業景況感指数がさえない数字だったこともドル売り円買いの材料となった。

 先週後半には心理的節目でもあった110円00銭を割り込み、ポジション調整の動きが強まって109円50銭台までドルが売られる場面も見られた。

 週末にかけては行き過ぎた調整への警戒感や、米株の買い戻しなどを好感してドル高が進行。14、15日の半期議会証言(用語説明1)を前にパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長が公表した証言テキストでインフレの上振れリスクに言及したこともドル買い材料となり、110円台を回復して先週の取引を終えている。

 ユーロドルは振幅が目立った。ユーロ円の売りもあって、週前半のユーロ高ドル安基調は一服。1.19手前から週の半ばには1.1800台まで値を落とすと、その後1.1780台まで下げ幅を広げる場面が見られた。

 約20年ぶりとなる欧州中央銀行(ECB)による金融政策の「戦略見直し」では、インフレ目標を従来の「2%に近いが、それを下回る水準」から「2.0%」に引き上げるなどの合意が発表された。内容は事前報道とほぼ同じで、相場への影響は限定的だった。

 その後は対ユーロでのドル売りと対円でのユーロ買いの動きなどを支えに1.18台後半で推移している。

 ポンドドルもユーロドル同様に振れ幅が大きかった。先週前半はポンド高ドル安の流れから1.3900手前まで上昇。その後は一転してポンド売りとなり、1.3750台まで売られた。

 ジョンソン英首相が19日から新型コロナ対策での行動制限をほぼ撤廃することを発表。1日の新規感染者数が2万人を超える段階での行動制限解除が市場の警戒感を誘い、ポンド売りにつながった面もある。

週末にかけては欧州通貨買い円売りの流れもあって1.38台後半まで買われた。

 NZ経済研究所(NZIER:用語説明2)が6日発表した四半期調査でのNZ企業信頼感の急回復や、同日の豪中銀金融政策理事会が債券買い入れペース縮小を決めたことなどを受けて、オセアニア通貨買いの動きが広がる場面も見られたが、リスク警戒の動きからその後は反転。豪ドルは対ドルで6日の0.76手前から0.7410前後まで、NZドルは0.71台から0.6920台までそれぞれ値を落とした。

今週の見通し

 米FRBの金融引き締めを志向する「タカ派」シフトが意識され、一時強まったドル高の流れは先週いったん調整を迎えた。もっとも、今週予定されているパウエルFRB議長による議会証言などによっては、タカ派シフトが再び強まる可能性があり、ドル高円安の流れに戻る可能性もある。

 一時大幅に低下していた米債利回りに回復傾向が見られることも、ドル買いに寄与しそうだ。ただ、戻してきたといっても米10年債利回りは1.3%台。今春の1.7%台からはかなり低く、高値圏にあるドルの買いにどこまで寄与するのかは微妙なところだ。

 ユーロドルは一時の安値から回復を見せているが、依然として頭が重い。デルタ変異株による感染拡大への警戒感がユーロの重石となっている面もある。ポンドドルは先週末、ユーロドル以上に値を戻したが、こちらも感染拡大の中で19日から行動制限を撤廃することへの警戒感が見られ、ポンドが値を戻す場面では売りが出る流れも予想される。

 欧州通貨売りが強まる中、ドル主導の展開が広がると、ユーロ安ドル高やポンド安ドル高から対円でもドルはしっかりとした展開となろう。ただ、変異株がらみの欧州通貨売りが対円でも強まるとみられ、ドル円は上値を抑えられる展開も予想される。

 一時の円高進行リスクは一服しているため、上値期待が広がる可能性もあるが、不安定な材料も残っている。今週は慎重に流れを見極める局面か。

 ドル円は109円台半ばから110円台半ばのレンジを中心に上値トライが意識される。一方、円高方向では109円台半ばをあっさり割り込むようだと要注意。

用語の解説

半期議会証言 FRBの二大命題である雇用の最大化と物価安定に向け、政府と連携して目標達成にあたるため1978年に定められた「完全機会均衡成長法」、いわゆるハンフリー・ホーキンス法によって、FRB議長は半期に一度、議会に宛てた報告書(ハンフリーホーキンス報告書)の提出と議会での説明(議会証言)が義務付けられている。同法は2000年に失効したが、慣習としてその後も報告書提出と議会証言は継続している。2月ごろにその年最初の議会証言の場となった議会が、7月から8月に行われる2回目の証言では後に回る。今年2月に上院で先に証言が行われたため、今回の証言は下院が先になる。証言テキストは一つのため、先に行われる方に注目が集まる。
NZIER NZ経済研究所(New Zealand Institute of Economic Research :NZIER)は、NZ最大の独立系シンクタンク。政治的に中立な非営利法人として1958年に設立された。NZ中銀の元総裁でアジア太平洋経済協力会議(APEC)の事務局長も歴任したアラン・ボラード氏らが過去に理事を務めた。現所長はヒューレットパッカードNZ法人代表などを歴任したケイス・ワトソン氏。

今週の注目指標

NZ中銀政策金利
7月14日
11:00
☆☆☆
 6日にNZ経済研究所(NZIER)が発表した四半期調査では、NZの第2四半期企業信頼感は+7.0%となった。前期に第2四半期の予想値として示された-13.0%から大きく上振れし、NZ中銀の超緩和的な金融政策の正常化期待が広がっている。政策金利は現状維持の見込み。ただ、利上げ時期の見通しが当初の2023年中から2022年中へ前倒しされてきたところにNZIERの発表があり、今年11月の利上げを見込む動きが広がってきた。利上げ前に終了が見込まれる債券買い入れ(LASP)について、早期終了に向けた方針が示されるとNZドルが買われ、対円では78円がターゲットとなろう。
トルコ中銀政策金利
7月14日
20:00
☆☆☆
 エルドアン・トルコ大統領は利下げに意欲を見せているが、トルコ中銀は6月の理事会でインフレが顕著に低下するまで引き締め的な金融政策を断固維持すると表明。物価の上昇傾向が強まっていることもあり、6月は5月の理事会よりもより強い引き締め姿勢を示した。今月5日に発表された6月の同国消費者物価指数は前年比+17.53%と5月分や事前予想値を大きく超えて上昇しているため、今回も政策金利は19.0%での据え置きが見込まれる。本来であれば利上げをしてもおかしくない状況だが、低金利志向の大統領による圧力を考えると利上げは難しいとみられる。声明で今後の引き締め姿勢維持が示されるとトルコリラが買われ、対円で13円を意識する展開も。
パウエル米FRB議長議会証言
7月15日01:00
☆☆☆
 パウエルFRB議長の半期議会証言が14日に下院金融サービス委員会で、15日に上院銀行委員会で行われる。先週末に公表された証言テキストは「短期的なインフレのアップサイドリスクが増した」と、物価上昇リスクに言及。FRBのタカ派シフトが意識される中で、金融緩和を志向する「ハト派」的な姿勢を維持するFRB執行部までもインフレを警戒している状況が示された。質疑応答などで今後の出口戦略に向けた市場の期待が強まるとドル買いにつながる可能性がある。ドル円は111円台に向けた動きも。

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