2021年08月10日号

(2021年08月02日~2021年08月06日)

先週の為替相場

ドル円振幅、米指標の好結果がドル買いに

 8月2日からの週は半ばまでドル売り円買いが優勢だったが、その後はドル買い円売りに転じた。

 先週前半、デルタ変異株による新型コロナウイルス感染拡大の深刻化に対する懸念からドル売り円買いが優勢だった。2日に発表された米ISM製造業景気指数が予想を下回ったこともドル売り円買いにつながった。ドル円は109円後半から108円台に値を落とした。4日に発表された米ADP雇用者数が予想をはるかに下回ったこともドル売り円買いを誘い、ドルは対円で一時108円70銭台まで下落した。

 しかし、ADP雇用統計の1時間45分後に発表された米ISM非製造業景気指数は事前予想を超える好結果だった。同指数のうち雇用部門がしっかりとした回復を示したこともあってドル買い円売り優勢に転じ、ドルは109円台半ば超えまで値を戻した。

 その後も109円台後半を中心とするもみ合いのまま6日の米雇用統計発表を迎えた。非農業部門雇用者数は事前予想の前月比87万人増を大きく超える94.3万人増。7月発表値(6月分)が85万人増から93.8万人増へ上方修正されたうえでの好結果でもあり、発表直後にドル買いが加速。ドルは対円で110円台をしっかりと回復する展開となった。

 内訳をみると、レジャー&ホスピタリティ部門が前月の39.4万人増に続く38万人増と好調を維持し、6カ月連続で20万人超えの雇用増。教育部門は対面授業の再開などから前月の5.28万人増に続いて4万人増と好結果になっており、ワクチン接種の進展を受けた行動制限緩和が雇用増につながっている状況が示された。

 感染リスクの高さから春頃に他業種比で雇用回復の遅れが指摘されていた運輸・倉庫部門が4.97万人増となったことも好印象。内訳を含めて総じて強かったという印象で、早期のテーパリング(金融緩和の段階的縮小)期待につながる形でドル買いにつながった。

 ユーロドルはドル売り基調の中、週半ばまで1.18台後半を中心に推移していた。ISM非製造業景気指数の好結果を受けたドル買いからユーロは対ドルで1.18台前半に下落した後、米雇用統計発表後のドル買い加速で一時1.17円台半ば割れまでユーロ安ドル高が進み、ドルは週末にかけて全面高基調となった。

 5日に英中銀金融政策会合の結果が公表され、事前見通し通り政策金利の据え置きと量的緩和策である債券購入プログラムの現状維持が決まった。債券購入プログラムについてはサンダース委員(用語説明1)が最大枠の縮小を主張して7対1での現状維持決定となった。前回まで縮小を主張していたホールデン・チーフエコノミストは前回会合後に任期満了で退任したが、サンダース委員に加えてもう1名ぐらいは縮小を主張するとの思惑が広がっていたこともあり、発表直後にポンドが一時売られた。しかし、英中銀声明などが比較的前向きだったため、ポンドはすぐに買い戻された。週末にかけて米景気指標の好結果を受けたドル買いでポンド安ドル高となったが、対ユーロではポンド買いが入った。

今週の見通し

 先週末の米雇用統計が非農業部門雇用者の伸びが事前予想を超え、早期のテーパリング観測が強まっている。一時は完全にないと思われていた今月26-28日の経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」でのテーパリング示唆の期待も一部で出ている。次回9月3日発表の8月の米雇用統計で雇用情勢の好調を確認した後、9月21、22日のFOMCでテーパリング開始を示唆、9月か11月のFOMC(連邦公開市場委員会)で正式決定し、12月か年明けの正式スタートというスケジュールを見込む動きも強まっている。

 日本はもちろんユーロ圏でも現行の金融緩和政策が維持されるとの見込みが広がる中、米国がテーパリングに向けた動きを強めるとの期待が広がるとドルの大きな買い材料になる。

 8月に入り世界的にホリデーシーズンとなり取引がやや閑散としやすい分、ドルの急上昇は難しそうだ。しかし、堅調な地合いを続ける中で上値を試す流れは十分にありそうだ。

 今週は米消費者物価指数(CPI)の発表が予定されている。米FRBに課せられた二大命題(用語説明2)は雇用の最大化と物価の目標水準前後での安定。雇用が順調に回復する中、物価にも注目が集まる。CPIは直近で政策目標の+2.0%をはるかに超える前年比+5.4%まで上昇。インフレ目標の対象であるPCEデフレータも+4.0%まで上昇してきており、物価の上昇傾向は著しい。FRBは物価高をあくまで一時的なものとするスタンスを崩していない。しかし、CPIの上昇傾向が続くと地区連銀総裁を中心に警戒感を示すメンバーが増えてくると予想され、テーパリングに向けた動きにCPIが大きく影響しそうだ。

 FRB関係者発言なども含め、今後のFOMCの姿勢の変化につながる材料には反応が大きくなりそうだ。

 ドル円は基本的にはドル高方向で110円台でのレンジ取引から111円台に向けた動きが期待される。大きなターゲットは7月2日に付けた111円60銭台か。

用語の解説

サンダース委員 マイケル・サンダース(Michael Saunders)。英中銀金融政策会合(MPC)9名のうち4名を占める英中銀外部からの委員の一人。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)を卒業後、いくつかの金融機関でのエコノミスト業務を経て、1990年から2016年までシティグループでエコノミスト業務に従事。欧州経済チームのヘッドなどを経て、2016年8月より現職。
FRBの二大命題 1946年の雇用法を原点に持ち、1977年の連邦準備改革法によって定められた「雇用の最大化」と「物価の安定」という2つの使命(デュアル・マンデート)のこと。FOMCが四半期ごとに示す長期見通しがデュアル・マンデートを具現化するものとされている。

今週の注目指標

米消費者物価指数(CPI・7月)
8月11日21:30
☆☆☆
 米雇用統計が強く出たことで、雇用と並ぶFRBの二大命題である物価にも注目が集まる。前回は前年比+5.4%、コア前年比4.5%とかなり強く出た米CPI。内訳を見ると、「中古車・トラック」「ガソリン」「航空運賃」「自動車保険」など移動関連が目立ち、行動制限緩和が物価に強く影響しているとみられる。6月半ば以降、NY州やカリフォルニア州といった人口の多い州での行動制限緩和がさらに進んだこともあり、今回も物価上昇率はかなり高めの水準が見込まれる。事前予想は前年比+5.3%、コア前年比+4.3%。前回から若干鈍化するがかなり高い水準である。事前予想に近い結果が示されると、雇用統計を受けて高まった早期テーパリングの期待を下支えしてドル買いにつながり、111円台に向けたドル高円安も予想される。
英第2四半期GDP(速報値)
8月12日15:00
☆☆☆
 英国の第2四半期GDP速報値が発表される。第1四半期は2020年12月から実施したロックダウンの影響で前期比-1.6%、前年比-6.1%と落ち込んだ。ワクチン接種の進展もあり英国では3月以降、行動制限が段階的に緩和され、「フリーダムデー」と名付けられた7月19日の制限原則撤廃へと至った。その過程となる第2四半期時点でかなりの景気回復が見込まれており、事前予想は前期比+4.8%、前年比+22.1%と高水準となりそうだ。物価上昇率が目標を超えて英国でも早期の引き締め開始が期待される中、事前予想通りかそれ以上に強いGDP結果が示されると、引き締め期待がさらに強まってポンドが買われ、対円は155円に向けた動きも予想される。
トルコ中銀政策金利
8月12日20:00
☆☆☆
 トルコ中銀は前回7月の理事会で事前予想通り4か月連続での金利据え置きを発表した。エルドアン大統領が利下げ圧力を強めたが、物価上昇とリラ安の中で利下げの選択は困難であった。3日に発表された7月の消費者物価指数は前年比18.95%と前月から大きく上昇。物価上昇が止まらない中、今回も利上げ余地はなく、現行政策金利の据え置きが見込まれている。ただ、今月に入ってエルドアン大統領が「金利を引き下げればインフレ圧力も緩やかになる」と発言して利下げ圧力を強めており、中央銀行の対応が注目される。さすがに利下げは難しいと思われるが、声明などで今後の金利引き下げの可能性を示唆するようなことがあると、トルコリラに一気に売りが出る可能性もある。リラの対円レートは昨年11月の下げ局面でギリギリ維持した12円を割り込む動きも視野に入ってくるだろう。

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