2021年08月16日号

(2021年08月09日~2021年08月13日)

先週の為替相場

ドル円一時上昇も、その後調整強まる

 8月9日からの週、ドル円は振幅を見せた。6日の米雇用統計が強めの結果を示したことで、米連邦準備制度理事会(FRB)による早期のテーパリング(金融緩和の段階的縮小)期待が強まる形でドルが買われた。6日のNY市場でドルは対円で109円台から110円30銭台まで上値を伸ばし、9日週明けの市場でいったんは調整したが、110円を維持するなど下値しっかり感を見せ、その後は週の半ばまでドル高の流れとなった。

 市場では次回9月21、22日のFOMCでテーパリング開始を示唆する可能性が意識されていた。しかし、米雇用統計の発表を機に、8月26~28日のジャクソンホール会議(用語説明1)の講演でパウエルFRB議長がテーパリング開始を示唆して9月のFOMCで正式決定するとの見方が広がった。

 金融引き締めを志向する「タカ派」で知られるカンザスシティ連銀のジョージ総裁などからテーパリング開始決定に前向きな発言が出てきたこともドル買い材料となり、ドルは対円で13日の米消費者物価指数(CPI)発表を前に110円80銭前後を付けた。

 雇用と並ぶFRBの二大命題である物価の安定に関連する重要指標として注目された米消費者物価指数(CPI)はほぼ事前予想通りの結果だったが、市場ではこの発表をきっかけにドル買いの動きがやや後退した。

 米国ではこのところ、CPIが事前予想を超える上昇が続いていたことや、雇用統計を筆頭に今月発表された経済指標に強めのものが目立っていたため、今回のCPIも強めの結果が期待されていた。このため、事前予想と同水準に収まった物価上昇率を受けて、いったん利益確定ムードが広がった。

 ドル円は110円台半ばを割り込んでもみ合いに入り、先週末まではいったん様子見ムードが広がる展開となったが、13日に発表された8月のミシガン大学消費者信頼感指数(用語説明2)が弱めに出たことでドル売りが急速に強まった。

 デルタ株による新型コロナウイルス感染拡大の影響が米国内でも深刻化しているが、これまでは経済指標などで目に見える形での影響は出ていなかった。しかし、今回のミシガン大学消費者信頼感指数の低調な結果を受けて、消費者マインドはかなり悪化しているとの思惑が広がり、ドル売りにつながったとみられる。

 ドル全面高の中で週半ばにかけてユーロは対ドルで1.1700台まで値を落とした。米CPI後はドル高調整で1.1750前後を回復し、その後週末にかけてのドル売りでユーロが上昇し、1.18台を付けた。

 リスク警戒の動きや、NY原油の下げなどが重石となり、資源国通貨は売られた。豪ドルはドル高の影響もあって先週半ばにかけて0.7310台まで下落。米CPI後のドル売りに0.7390近くまで上昇した後は0.7320台まで値を落とすなど、上値で売りが出た。週末のミシガン大学消費者信頼感指数を受けたドル売り局面でも豪ドルは0.7380前後までの上昇にとどまるなど、上がると売りが出る流れだった。

今週の見通し

 米早期テーパリング期待がやや過剰に強まっていた分のドル高に調整が入っている。米国でもコロナ感染が再拡大している。1日当たりの新規感染者数(7日間平均)はワクチン接種の影響で6月ごろにかけて1.1万人程度まで減少していた。しかし、ここにきて13万人程度と、一時の10倍以上に膨れ上がっている状況。死亡者数などが抑えられていることもあり、これまでに緩和された行動制限を再び強化する動きは広がっていないが、市民の間では警戒感が強まっていることが示される結果となった。

 こうした消費者マインドの悪化は今後の不透明感を誘う。パウエル議長をはじめとするハト派のFRB執行部は、テーパリング開始についてかなり慎重になると見込まれる。

 早期テーパリング期待で上昇した分の調整がいったん強まる可能性がある。ただ、米国の景気回復が他の先進国と比べても比較的しっかりしていることは事実であり、中長期的なドル買い基調は継続か。

 対円ではいったんドル高調整の動きが強まっても、下げ止まると反転する可能性もある。今月4日に付けた108円70銭台が目先のサポート。この水準の手前でドルが下げ止まるようだと、反転してのドル買いに期待感も生まれそうだ。

 ユーロは対ドルは1.18台での買いにやや慎重な姿勢がうかがえる。これまで押し目がほとんど見られなかっただけに、いったんは1.18台にしっかり乗せる場面もありそうだ。ただ、先月末に付けた1.19台はやや重い印象がある。

用語の解説

ジャクソンホール会議 ワイオミング州の景勝地ジャクソンホールで毎年夏に開催されるカンザスシティ連銀主催の経済シンポジウム。1978年に始まった同シンポジウムには例年世界各国の中央銀行総裁や著名な経済学者らが多数参加してきた。昨年は新型コロナの影響で初のオンライン開催だったが、今回は8月26~28日に対面方式で開催される。2010年の同会議で当時のバーナンキFRB議長が追加緩和の方針を示したことで、この会議は一気に注目度を増した。FRB議長が招かれて今後の金融政策動向を話す重要な機会として、その後も市場の注目を集めるイベントとなっている。
ミシガン大学消費者信頼感指数 ミシガン大学サーベイリサーチセンター(Survey Research Center)がアンケート調査を基に毎月発表している消費者マインドに関する指標。1966年を100として指数化されている。速報時点では300名、確報時には500名のアンケートを基に計算されており、同系統の指標であるコンファレンスボード消費者信頼感指数(調査対象は約5000世帯)などと比べてサンプルが少ないことから、結果にぶれが生じやすい。

今週の注目指標

米小売売上高(7月)
8月17日21:30
☆☆☆
 前回6月分の米小売売上高は、事前予想の前月比0.3%減に対して、0.6%増と強めの結果だった。行動制限緩和を受けてフードサービスが前月比+2.3%と全体を支える形となった。一方でサプライチェーン問題による供給制約のある自動車と自動車部品はマイナスとなった。行動制限緩和は7月の売り上げにも好影響と見られ、前回同様にフードサービスの伸びで前月比プラス圏を記録するようだとドル買いの材料になり、ドルは対円は110円台回復の動きも予想される。
NZ中銀金融政策理事会
8月18日11:00
☆☆☆
 NZ中銀金融政策理事会の結果が18日に公表される。前回7月の理事会でこれまで実施してきた新型コロナ対策での量的緩和策であるLSAP(大規模資産購入プログラム)での新規購入を7月23日までに停止することを発表。理事会の2日後に発表されたNZ第2四半期消費者物価指数が事前予想を上回ったことや、今月4日に発表された第2四半期雇用統計の強めの結果を受けて、今回の理事会では利上げ実施が期待されている。ただ、地政学的に関係の深い豪州で、最大都市シドニーを含むニューサウスウェールズ州などでロックダウンが続いていることもあり、景気や物価の先行き不透明感から今回は利上げを見送るとの意見もあり、見方が少し分かれている。利上げを実施し、さらに市場の期待する年内の追加利上げにも前向きな姿勢が示されるとNZドルが買われ、対円で78円を目指す展開も予想される。
米FOMC議事録
8月19日03:00
☆☆☆
 7月27、28日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨が公表される。市場の事前予想通り政策金利・量的緩和の現状維持を決めた前回の会合。市場で早期のテーパリング開始期待が強まる中、どこまで同問題についての議論を深めることが出来たのかが注目される。物価上昇が顕著となる中、先月のパウエル議長による議会証言などで、上下両院の議員からも厳しい質問が相次いでいた。地区連銀総裁などからも物価上昇を警戒する意見が出てくる中で、全体としてどこまで警戒感が見られたのかがポイントになりそうだ。早期のテーパリング開始期待につながると一気にドル買いが強まる可能j性があり、ドル円は110円台を回復する動きも予想される。

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