2021年09月21日号

(2021年09月13日~2021年09月17日)

先週の為替相場

リスク警戒感やや強まる

 9月13日からの週は、リスク警戒の動きがやや優勢となった。ドルの対円相場は週前半の110円00銭を挟んだ推移から一時109円10銭台のドル安円高となった。中国不動産大手の恒大集団(用語説明1)の債務問題への懸念も市場のリスク警戒感を誘った。

 14日に発表された米消費者物価指数(8月)が事前予想を下回り、米国のインフレがピークアウトしたとの見方が広がったこともドル売りを誘った。3日の米雇用統計の弱さと合わせ、21日、22日の連邦公開市場委員会(FOMC)でのテーパリング(金融緩和の段階的縮小)開始決定がなくなったとの見方が強まったこともドル売り材料となった。

 ユーロが対ドルで週初の1.1770前後から1.1840台まで上昇するなど、ドルは一時全面安の流れとなった。

 その後もみ合いを経て、週後半にかけてドル買いが優勢となった。16日に発表された米小売売上高(8月)が事前予想を上回る好結果となり、警戒感が後退した。雇用と個人消費は密接に関係するため、3日の米雇用統計の弱さを受けて小売売上高も厳しい数字が見込まれていた。それだけに、前月比+0.7%、飲食店や自動車販売などを除く「コア」の前月比+1.8%という強い数字に安心感が広がった。

 週の後半までドルが買われ、1ドル=110円台のドル高円安に振れた。対ユーロでは週前半の安値を割り込み1.1750前後までユーロ安ドル高に動いた。

 ミシガン大学消費者信頼感指数(9月)が17日に発表された。8月分は一気に悪化し、米消費者マインド悪化への警戒感を生んだ。9月分は事前予想には届かない小幅改善にとどまり、市場の反応は限定的だった。

 週の終わりにかけて中国恒大集団の信用問題が警戒され、ドル高と円高の動きとなった。ドルは対円は110円台を維持できなかったが、下値はしっかり。対ユーロでは129円60銭台までユーロが買われた後、129円を下回った。ユーロはドルは1.1720台までのユーロ安ドル高。

今週の見通し

 中国不動産大手・恒大集団の債務問題への警戒感が一気に広がっている。世界最大規模のヘッジファンドLTCMの破綻(1998年)や、米大手金融機関リーマンブラザーズの破綻(2008年)時のような世界的な金融市場の混乱にはつながらないとの見方が広がっている。しかし、同社の債務は35兆円規模と大きく、社債の保有先として米欧を中心に日本の年金基金も含め世界中の機関投資家の名前が挙がっており、大きな影響が出る可能性がある。

 同社は23日にドル建て8350万ドル、人民元建て2億3200万元の利払いを予定している。特約条項により、利払いができなかった場合はデフォルト(債務不履行)判断まで30日の猶予はあるが、警戒感は一気に増すとみられ、円買いが強まる可能性がある。

 21、22日に開催される米FOMCは、政策金利と量的緩和政策の現状維持を決める見込み。テーパリング開始の決定は11月のFOMCが市場の見通しの本線。今回のFOMC声明文やパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長の記者会見で、11月会合でのテーパリング開始決定に向けた示唆があるかが注目される。ただ、新型コロナ感染拡大の影響が不透明なため慎重な姿勢を堅持するとみられ、声明文などでの姿勢に大きな変化は見られないだろう。

 注目は参加メンバーによる経済・金利見通しを示したSEP(Summary of Economic Projections)。各メンバーによる年末時点の政策金利見通しの予想をドットで示したドットプロットが注目されている。

 前回6月のドットプロットでは、18名中7名が2022年末までの少なくとも1回の利上げを見込み、18名中13名が2023年末までの少なくとも一回の利上げを見込んだ。また、予想金利水準から、2023年末時点までに少なくとも2回の利上げ予想が全体の中央値となった。前々回3月のドットプロットでは2023年末時点で金利を据え置くとの見通しが大勢となっており、利上げ期待が前倒しされた形。

 6月時点と比べ、米景気の回復が比較的順調に進んでいるものの、新型コロナの感染拡大を受けた不透明感が強まったことにより、こうした予想にどのような変化が生じているのかが注目される。

 政策金利見通しに大きな変化がなくても、経済成長や物価の見通しがより慎重になっていればドル売りが強まる可能性がある。

 中国・恒大集団の経営問題と合わせ、ドルの対円相場はドル安方向のリスクがかなり大きいと見られ、108円台トライの可能性が高まっている状況か。

 その他通貨では、ポンドは23日の英イングランド銀行(中央銀行)金融政策会合(MPC)待ち。前回はサンダース委員が量的緩和の縮小を主張し、7対1(1名欠員中)で据え置きを決定した。物価上昇が顕著な中、緩和縮小の主張が増えればポンド買いが予想され、ポンドは対ドルで1.38台回復も視野に入る。

 ユーロは週末の独連邦議会選挙が注目される。メルケル首相の所属するCDU/CSUが支持率を落としており、第1党の座を二大政党のもう一方である中道左派のSPD(用語説明2)が奪取する可能性が高い。ただ、SPDが単独過半数を確保する可能性はほとんどなく、連立の行方が注目されている。CDU/CSUが健闘し、現在と同じ大連立を再度組み直す状況が見られると、ユーロ買いの材料になり、ユーロは対ドルで1.18台を回復する動きも想定される。

用語の解説

恒大集団 1996年に設立した中国広東省深セン市を本拠地とする中国最大規模の民間企業。不動産開発を主軸に食品販売、観光業、インターネットサービス業などへの多角化を進めてきた。6月末時点の債務総額は1兆9700億元(約35.6兆円)に上ると発表された。同時点で総資産は40兆円を超えているが、流動資産のうち現金化が容易な現預金・売上債権は4.5兆円程度にとどまり、短期の債務返済などに警戒感が広がっていた。
SPD ドイツ社会民主党(Sozialdemokratische Partei Deutschland)。1863年に結成されたドイツの中道左派政党。メルケル首相の所属するCDU/CSUと並んで、ドイツ二大政党の一つ。戦前、戦後ともに何度も政権を獲得し、直近ではメルケル首相の前にシュレーダー氏が1998年から2005年まで首相を務めた。メルケル政権下では2005年から2009年、2013年から現在までの間、CDU/CSUと大連立を組んで与党陣営を形成している。

今週の注目指標

米連邦公開市場委員会(FOMC)
9月23日03:00
☆☆☆
 パウエルFRB議長が8月のジャクソンホール会議で、年内のテーパリング開始を示唆したが、今回のFOMCで決定するとの見方はほとんどなく、政策金利・量的緩和ともに現状維持の見込み。11月か12月のFOMCでのテーパリング開始決定が見込まれている。次回以降のテーパリング開始決定に向けて声明文や記者会見でどこまで地ならしが行われるかと、3か月ごとに発表されるFOMC参加メンバーによる経済見通し(SEP)がどう変化するかが注目点。新型コロナウイルス感染が拡大し、雇用や消費者マインドに悪影響が見られる中、声明などは慎重な姿勢を維持する可能性が高そうだ。SEPではここ2回、経済成長見通しを上方修正した。今回、慎重な見通しが強まれば、テーパリング開始後の政策金利引き上げの先送り見通しが広がる可能性がある。前回は2023年末までに2回の利上げがメンバー見通しの中央値となっていたが、その状況が変化するかにも注目したい。経済見通しに慎重な姿勢はドル売り材料になり、108円台のドル安円高を意識する流れになりそうだ。
英中銀金融政策会合(MPC)
9月23日20:00
☆☆☆
 前回のMPCでは、サンダース委員が国債買い入れ枠の減額を主張し、現行政策維持を7対1で決定した。前々回まではホールデン理事(チーフエコノミスト・前々回で任期満了)だけが買い入れ枠減額を主張していたが、ホールデン氏の退任後、サンダース委員が減額主張に回った(主張する減額の規模は異なる)。英国では15日発表の消費者物価指数(8月)がインフレ目標の許容上限である前年同月比3.0%を超える3.2%と物価上昇が著しく、今回会合で利上げに前向きな「タカ派」的な姿勢が強まるかが注目ポイント。市場は来年2回の利上げを織り込みつつある。声明や投票結果で利上げ期待がさらに強まれば、ポンドは対ドルは1.38台回復に向けて上昇する可能性がある。
独連邦議会選挙
9月26日
☆☆☆
 ドイツ連邦議会選挙が26日投開票され、引退を表明しているメルケル首相の後任が焦点。メルケル氏の所属する与党キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)は、次期首相候補だったラシェット党首が7月に洪水被災地を視察した際の行動が批判され、支持率が低下。支持率で一時トップに立っていた環境政党緑の党も、次期首相候補とされたベーアボック共同代表の盗作疑惑などで支持率を落とした。大連立の一角である中道左派の社会民主党(SPD)が支持率で首位に立ち、同党に所属するショルツ財務相が次期首相の最有力候補となっている。もっとも単独で過半数を確保する可能性はほとんどなく、連立の組み合わせが注目されている。可能性が高いと見られるSPD(シンボルカラー赤)、自由民主党(シンボルカラー黄)、緑の党(シンボルカラー緑)による「信号機連立」の場合、環境政策がより重視される形となり、景気回復への警戒感がユーロ売りを誘い、対ドルは1.16台のドル高ユーロ安を試す可能性がある。

auじぶん銀行外貨預金口座をお持ちのお客さま

ログイン後、外貨預金メニューからお取引いただけます

免責事項

本レポートは株式会社時事通信社が提供しています。また本レポートの内容は、株式会社時事通信社が提供する情報をもとに、株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイドが執筆しています。本レポートは、情報提供のみを目的にしたもので、売買の勧誘を目的としたものではありません。投資決定に当たっては、投資家ご自身のご判断でなされますようお願いいたします。株式会社時事通信社、株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイドおよび情報提供元は、本レポートに記載されているいずれの情報についても、その信頼性、正確性または完全性について保証するものではありません。また本レポートに基づいて被った損害・損失についても何ら責任を負いません。本レポートに掲載されている情報の著作権は、株式会社時事通信社および株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイドに帰属します。本レポートに掲載されている情報を株式会社時事通信社の許諾なしに転用、複製、複写等することはできません。

Copyright(C) JIJI Press Ltd. All rights reserved.

auじぶん銀行からのご注意

  • 本画面に掲載されている情報は、auじぶん銀行の見解を代弁したものではなく、auじぶん銀行がその正確性、完全性を保証するものではありません。

以上の点をご了承のうえ、ご利用ください。