2021年10月04日号

(2021年09月27日~2021年10月01日)

先週の為替相場

週後半までドル高も、週末にかけて調整

 9月27日からの週は後半までドル高の動きが優勢となり、1ドル=112円台に乗せた。9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)を受けて、米国の利上げ時期が2023年から2022年中に前倒しされるとの見通しが強まり、ドル買いにつながった。米国債利回りの上昇も目立ち、指標となる米10年物国債の利回りは節目の1.50%を超える1.55%前後まで上昇した。

 米10年債利回りは、1.55%台を付けた後にいったん1.49%前後まで低下したが、週後半にかけて再び1.54%前後へ上昇し、ドル高基調を支えた。

 27日にボストン連銀のローゼングレン総裁(用語説明1)とダラス連銀のカプラン総裁(用語説明2)が相次いで辞任を発表。ローゼングレン総裁は健康問題を辞任理由に挙げているが、両総裁ともにコロナ禍で金融当局が市場への影響を強める中、様々な金融商品に投資していたことが判明して批判を浴びていた。週末には昨年2月、パウエルFRB議長が利下げの可能性に言及する前日にクラリダ副議長が債券ファンドから株式ファンドへ資金を移していたことが報じられた。

 カプラン、ローゼングレンの両氏が金融引き締めに前向きな「タカ派」の代表格として知られていることもドル売りの材料となった。9月のFOMCでは、将来の金利見通しを示す「ドットプロット」で18人中9人が来年中の利上げを予想した。両氏がその9人のうち2人であることは確実なため、2人の辞任が利上げ時期に影響する可能性が出てきたことも警戒感を生んだ。

 9月30日ロンドン市場までは月末要因での実需がらみのドル買いがうわされていた。しかし、実需買いが収まった30日NY市場からドル買いの調整が入り、週末にかけてはドル売りが優勢となった。

 米10年債利回りが週末10月1日のNY市場で1.46%前後へ急低下したこともドル売り要因となり、1ドル=110円台までドルが下落する場面が見られた。

 ユーロの対ドル相場はこれまでのドル全面高基調の調整が目立った。先週初めの1.17台前半から1.1560台までユーロ安ドル高が進んだ後、ユーロは1.16台を回復した。

今週の見通し

 中国の不動産大手・恒大集団の資金繰り問題が警戒された。ドル建て社債の利払いは23日付の8350万ドル、29日付の4750万ドルがともに実行されておらず、債務不履行(デフォルト)への警戒感が広がっている。

 同社のオフショア(海外)債務は約200億ドルあり、10月は1億6238万ドルの利払い予定がある。同社の債務は全体で約33兆円に上り、中国当局が打ち出した「三条紅線」と呼ばれる過剰融資抑制策のため新規借り入れは難しく、利払いや元本の返済は困難になっている。

 同社が破綻すると中国の不動産バブル崩壊が懸念される。対中輸出依存度が大きい豪州や南アフリカといった資源国を中心に世界的な悪影響の広がりが懸念され、市場のリスク警戒ムードを高めている。

 2人の地区連銀総裁が辞任する前代未聞の事態に陥った米連邦準備制度理事会(FRB)の問題も警戒感を招いている。金融政策を決定する立場にある地区連銀総裁が利益相反を疑われたことが米当局への不信感につながっている。来年任期満了を迎えるパウエルFRB議長の再任が難しくなったとの見方も広がり、こちらもドル売りの材料になっている。

 11月2、3日のFOMCでのテーパリング(金融緩和政策の段階的縮小)開始期待に加え、最速で来年に利上げとの見通しは継続しており、中長期的にはドル買いが入りやすい地合い。ドル売りが一気に進む局面ではないとみられるが、短期的にはドル安への警戒感もある。

 週末10月8日に米雇用統計(9月分)が発表される。前回(8月分)は非農業部門雇用者数(NFP)の伸びが前月比23.5万人(市場予想は73.3万人増)にとどまる衝撃的な弱さだった。失業率は市場予想通り5.4%から5.2%へ低下したが、全体として雇用はかなり厳しい状況という印象を与えた。

 今回9月分は、非農業部門雇用者数が前月比47.0万人増と前回から増加幅が大きく持ち直すことが期待され、週後半はドル買いが強まる可能性がある。

 6、7月にロックダウン解除を受けて大幅な雇用増を支えた飲食部門が前回8月分は4.15万人の減少に転じ、全雇用者数の伸び悩みの大きな要因となった。飲食部門の雇用者数は今年5月に994.8万人と1000万人の大台を割り込んだが、7月には1138.3万人と2カ月で143.5万人も一気に増加し、雇用全体を支える格好となっていた。ただ、急速な雇用増の反動に加え、7月半ばからのデルタ株による新型コロナ感染拡大で8月は雇用者が減ったとみられる。

 ただ、飲食部門はパンデミック前と比べて100万人近く就業者が少ないため、今回は雇用の回復が期待されている。

 1日に発表された米ISM製造業景気指数は全体の数字が市場予想を上回ったことに加え、雇用部門の数字が好悪判断の分かれ目である50を回復し、8日発表の雇用統計への期待につながっている。

 市場予想通り雇用がしっかりと回復すれば、今回のFRB問題によるタカ派2人の辞職後も早期利上げ期待が維持され、ドル買いが強まる可能性がある。

 1ドル=110円割れを試す円高の可能性はあるが、週後半に向けてはドルがしっかりとした値動きを示すだろう。

用語の解説

ローゼングレン総裁 エリック・ローゼングレン(Eric・S・Rosengren)ボストン連銀総裁。ニュージャージー州リッジウッド出身。コルビー大学卒業後、ウィスコンシン大学マディソン校で経済学博士号取得。博士課程在籍中にボストン連銀の調査部門に入り、同部門トップなどを経て、2007年7月より同連銀総裁に就任。金融引き締めに積極的なタカ派の代表格の一人として知られていた。任期満了の2022年6月に退任する予定だったが、昨年米FRBが新型コロナ対応で金融政策面から支援を行った時期に株式など複数の金融商品を購入していたことが判明。全保有株の売却などを発表したが批判は収まらず、9月27日に同月末での辞任を発表した。後任が決定するまで、モンゴメリー同地区連銀第1副総裁が暫定で総裁職を務める。
カプラン総裁 ロバート・カプラン(Robert・S・Kaplan)ダラス連銀総裁。カンザス州プライリービレッジ出身。カンザス大学卒業、ハーバード大学でMBAを取得後、米ゴールドマンサックスに入り、投資銀行部門を統括する役員などを歴任。その後ハーバードビジネススクール教授などを経て、2015年からダラス連銀総裁。タカ派の代表格の一人として知られていた。9月の財務開示で、ローゼングレン・ボストン連銀総裁らと同様に昨年の新型コロナ禍でFRBが積極的に市場を支える中で複数の金融商品取引を行っていたことが判明。保有株をすべて売却するなどの対応を行ったが批判は止まらず、10月8日付の辞任を発表した。

今週の注目指標

米ISM非製造業景気指数(9月)
10月5日23:00
☆☆☆
 1日に発表された同製造業景気指数は前回8月の59.9から59.5へ若干低下するとの市場予想に反して、61.1に上昇した。新規受注が高水準を維持したほか、雇用部門が好悪判断の境である50を回復するなど予想以上に力強い内容だった。もっとも部品・製品の入荷遅延も影響している。一般的に入荷遅延は景気拡大下で生じるが、今回はサプライチェーン問題が影響している可能性が高く、明るいだけの材料ではなかった。非製造業景気指数は59.9と前回の61.7から低下する見込み。非製造業は新型コロナ流行の悪影響を製造業以上に受けやすいため、市場予想以上に落ち込んでいる可能性もある。ISM非製造業景気指数予想を下回るとドル売りが強まり、1ドル=110円台半ばの円高を試す可能性もある。
NZ中銀政策金利
10月6日10:00
☆☆☆
 景気回復が著しく、NZ準備銀行(中央銀行)は年内の利上げを示唆している。前回8月の金融政策委員会の会合では、市場で利上げが予想されていたが、新型コロナ感染拡大に伴うロックダウン導入日だったこともあり、利上げは見送られた。ホークスビー総裁補は50BP(0.5%)の利上げも検討されたと発言しているためNZ中銀は利上げ姿勢を崩していないとみられ、今回会合での利上げ決定が予想される。ただ、同国最大都市オークランドのロックダウン期限が4日に延長されている点が懸念材料。利上げ見送りならNZドル売りが強まり、NZドルは対ドルで0.68を割り込む水準へ下落する可能性がある。
米雇用統計(9月)
10月8日21:30
☆☆☆
 非農業部門雇用者数は9月発表(8月分)の前月比+23.5万人から+47万人へ増加幅が広がる見込み。ただ、先週末時点では50万人を超える雇用者増加が期待されており、市場予想が下方修正されてきている点が警戒材料。雇用統計の計測基準日である12日前後が米国での新型コロナ感染拡大のピークとなっており、雇用が期待ほど伸びていない可能性がある。前回は飲食部門に加え、小売業や訪問介護など感染拡大への警戒感が強い分野で雇用が厳しい結果となっていた。今回も同じ状況が続くようだと、雇用は期待ほど伸びていない可能性がある。一方で、サプライチェーン問題のある自動車や自動車部品部門などを含めて製造業は前回もしっかりとした数字を示していた。サプライチェーン問題による雇用者数回復の鈍化が一服し、全体を押し上げる可能性もある。市場予想を超える雇用増が確認されればドルが買われ、1ドル=111円台後半に向けたドル高も想定される。

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