2021年10月11日号

(2021年10月04日~2021年10月08日)

先週の為替相場

ドル高の流れ強まり、パンデミック前の高値を超える

 10月4日からの週はドル高の流れが一段と強まった。先月末に1ドル=112円台を付けた後、いったんは利益確定売りや中国不動産大手・恒大集団の債務問題などからドル売り円買いが広がり、110円80銭台までドルが下落する場面があった。

 その後は米国の物価上昇率拡大の見通しなどを背景にした米長期債利回りの上昇がドル高を支えた。5日はアジア市場で株式が売られる中、1ドル=111円台を回復するなど、円買いよりドル買いが優勢となった。同日の米国株が反発すると、円が売られ、ドル高円安に勢いがついて111円台後半までドルが買い進まれた。

 いったん111円台でもみ合った後、米政府債務上限についての共和、民主党による暫定合意を受けて、8日の米雇用統計(9月分)発表前にいったん112円00銭前後までドルが上昇用した。

 米雇用統計(9月分)で、非農業部門雇用者数(NFP)の伸びが市場予想を大きくった下回ったため、1ドル=111円50銭近くまでドルが下落。NFPは前月比19.4万人増(市場予想は前月比50万人増)だった。

 雇用統計発表後にいったんドル売りが強まったが、すぐに反転。1ドル=112円25銭前後までドルが上昇し、ほぼ高値圏で先週の取引を終えた。米長期債利回りの上昇が止まらなかったことがドルを支え、弱い雇用統計を受けても売りが限定的だったことでドルに買い安心感が出た。昨年2月のパンデミック前のドル高局面で付けた高値をわずかに更新し、ドル高基調の強さを感じさせた。

 5日のオーストラリア準備銀行(中央銀行)金融政策理事会は、市場予想通り政策金利と量的金融緩和策の現状維持を決定。声明に目立った変化はなく、市場の反応は限定的だった。

 4日のOPECプラス(用語説明1)閣僚級会議で、現状の控えめな増産ペースの維持が決まり、増産ペース拡大には至らなかった。この決定を受けて原油価格の上昇傾向が強まり、先週末にはNY原油先物が一時2014年以来となる1バレル=80ドル台へ上昇した。

 増産ペース維持が決まった後の米原油先物高は先進国唯一の純産油国(用語説明2)であるカナダドルに対する大きな買い材料となった。米ドルの対カナダ相場は月初に1ドル=1.2730カナダ台でスタート。先週初に1.25台のドル安カナダ高を付け、週後半からはドル売りカナダ買いが加速して1.2450台までドル安カナダ高が進んだ。

今週の見通し

 米10年物国債利回りの上昇が止まらず、金利が高くなったドルの上昇基調が強まっている。ドルは昨年2月に付けた高値を超えたことで今後の重要ポイントは見えにくいが、2018年10月に付けた1ドル=114円台半ば超えを試す動きが期待される。

 短期金利市場は、米連邦準備制度理事会(FRB)による2022年中の政策金利引き上げを完全に織り込んだ。米雇用統計は弱い結果に終わったが、市場参加者の金利先高観測がドルを支えている。

 対円では1ドル=114円に向けたドル高円安が予想される。これまで押し目がほとんどなかったため、短期的に大きめの押し目が入る可能性を否定できない。しかし、8日の米雇用統計公表後に下値を支えた1ドル=111円台半ば前後は強い下値支持線として機能しそうだ。

 中国不動産大手・恒大集団の債務問題に対する警戒感は継続している。仕組み債を含め、少ない元手で大きな資金を動かす「高レバレッジ」型の金融商品に深く関係していた米リーマン・ブラザーズとは違い、恒大の経営破綻が世界経済に大打撃を与える事態は考えにくい。しかし、中国の経済成長に悪影響が出ると、対中輸出の大きい資源国の通貨を中心に悪影響が出る可能性は残っている。原油高が資源国通貨高を誘い、豪ドル、NZドル、カナダドルなどがしっかりとした値動きを見せているが、対米輸出がほとんどのカナダはともかく、豪ドル、NZドルにはやや注意が必要だろう。

 ユーロは欧州中央銀行(ECB)が金融緩和政策の縮小にどこまで前向きな姿勢を示してくるのかで市場の流れが変わる可能性がある。米FRBが金融緩和の縮小に前向きな姿勢を示す一方、ECBは比較的慎重な姿勢を維持している。しかし、欧州は物価上昇圧力が高まると日米に比べてインフレ対応に積極的な気質がある。それだけに、金融緩和策の後退を打ち出してくる可能性もある。目先のドル高基調からユーロ安方向の意識が強く、1ユーロ=1.15割れも視野に入るが、流れの変化には要注意。

用語の解説

OPECプラス OPEC(石油輸出国機構)とロシアやメキシコといったOPEC非加盟の主要石油輸出国で構成される会合。ロシアなどが原油市場で影響力を増したことを受けて、原油価格の安定を目的に2016年12月に結成された。世界の石油生産の4割超をOPECプラス参加国が占める。
純産油国 石油の輸出が輸入よりも大きい国のこと。米国などは昨年の石油生産量世界1位だが、消費も世界首位で原油をカナダやメキシコなどから輸入しているため、純産油国ではない。カナダは石油生産量世界4位、埋蔵量ランキングでは、埋蔵量の規定によってばらつきはあるが世界2位の石油大国である。

今週の注目指標

米消費者物価指数(9月)
10月13日21:30
☆☆☆
 10月8日発表された米雇用統計で非農業部門雇用者数が予想を大きく下回った。しかし、11月2、3日の米連邦公開市場委員会(FOMC)でのテーパリング開始と2022年中の利上げ実施観測は根強く、ドル買いの材料となっている。こうした見方の背景には米国の物価上昇の継続がある。米FRBがインフレ目標政策の対象とし、個人消費の物価指標として重視されるPCEデフレータ(8月分、10月1日発表)は前年比+4.3%、食品やエネルギーを除くコアで前年比+3.6%と、いずれも政策目標の2%を大幅に超過している。米FRBは物価上昇を一時的なものとの見解を堅持しているが、サプライチェーン問題による供給制限もあり、物価上昇の長期化が懸念されている。13日には米消費者物価指数(CPI、9月分)が発表される。CPIはPCEデフレータと同系統の個人消費に基づく物価指標でPCEデフレータより発表が早いため、注目されやすい。市場予想は前年比+5.3%、食品などを除くコアは前年比+4.0%と、8月と同水準。高水準での推移は織り込み済みだが、予想値を超える物価上昇が確認されればドル高が加速し、ドル円は113円台に向けて動く可能性もある。
FOMC議事録
10月14日03:00
☆☆☆
 9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨が発表される。9月21、22日のFOMCでは政策金利と量的金融緩和政策の現状維持を決めた。声明は資産購入ペースの減速(テーパリング)が近く正当化される可能性があるとして早期のテーパリング開始を示唆。11月2、3日のFOMCでのテーパリング開始が決まるとの市場の見方を後押しした。FOMCメンバーの予想金利分布を示す「ドットプロット」では、2022年中の利上げと据え置きの見通しが9対9で拮抗し、利上げ観測を高めた。利上げに前向きな姿勢がどのような議論の下で強まったのか、議事要旨も注目される。早期の利上げ観測が一段と強まればドル買いの動きが加速し、中期的には2018年に付けた1ドル=114円台半ば超えを意識する流れになる可能性もある。
米小売売上高(9月)
10月15日
21:30
☆☆☆
 先週末に発表された非農業部門雇用者数(9月分)の伸びが市場予想を大きく下回り、雇用と密接に関係する個人消費の停滞も警戒されている。市場予想では、9月分は前月比-0.2%と8月分の+0.7%からマイナスに転じる見込み。サプライチェーン問題が直撃した自動車の販売低迷の影響が大きい。トヨタ自動車の子会社北米トヨタの9月の新車販売が前年同月比-22.4%に落ち込むなど自動車販売に大きな影響が出ている。自動車を除くコアは前月比+0.6%とプラス圏の見込み。市場予想を下回り、コアもマイナス圏に落ち込めばドルが一気に売られ、1ドル=111円台前半のドル安円高も視野に入ってくるだろう。

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