2021年10月18日号

(2021年10月11日~2021年10月15日)

先週の為替相場

ドル円の上昇加速

 ドル高円安の流れがさらに加速する展開。週初の1ドル=112円台から2018年10月以来となる114円40銭台までドルが上昇した。

 米国の消費者物価指数と生産者物価指数は9月分がともに高水準の伸びを続けた。連邦準備制度理事会(FRB)は物価上昇を「一時的」と判断しているが、市場はFRBの見方に反して物価高が当面続くするとの見通しを強め、金融引き締め観測が一段と強まった。

 10月8日発表の米雇用統計(9月分)の弱さにもかかわらず、金利先物や債券市場は米FRBの2022年利上げを織り込む勢いを見せており、ドル高の流れを支えている。

 NY原油先物が1バレル=82ドル台まで上昇したことも物価高への警戒感を強めた。原油高は英ポンドやカナダドルの買いを誘った。

 ポンド円相場は月初の1ポンド=149円台前半からの上昇が加速。先週初めの152円台後半から週前半に154円台後半へ上昇。週後半にはポンド高と円安の両面から上値を試す流れとなり、157円40銭台までポンド高円安が大幅に進んだ。

 対ドルではドル高の流れに押され、週の半ばに1ポンド=1.3560台までポンドが下落した後、週後半は上昇に転じて1.3770台まで買われた。ユーロの対ポンド相場では、先週前半の1ユーロ=0.85台前半から0.8420台までユーロが下落するなどポンドは全面高となった。

 ユーロも円安の流れに支えられて対円で堅調だった。6日につけた1ユーロ=128円30銭台から先週初めに131円超えへ上昇。その後は円売りとユーロ売りドル買いが交錯し、ユーロ円は131円00銭前後でいったんもみ合ったが、週後半にかけて円安の流れが強まり132円70銭台までユーロが値上がりしている。

 ユーロの対ドル相場は週半ばまでドル高の勢いが勝り1ユーロ=1.1520台まで下落。その後は1.1500の節目を前にしたユーロ買いと、ドル以外の他通貨の対円での全面高基調を受けたユーロ円の上昇に、一転して1ユーロ=1.1620台までユーロ高が進行した。

 その他の通貨で動きが目立ったのはカナダドル。カナダは先進国で唯一の純産油国(原油輸出が輸入よりも多い)であり、原油の対米輸出はカナダ経済で大きな位置を占めている。このため、NY原油の上昇がカナダ経済回復への期待を高め、カナダドルの上昇につながった。

 ドルカナダは先月末の1.27台後半から下落基調をたどっている。先々週末に節目の1ドル=1.2500カナダを割り込み、先週前半は1.2500が重くなる展開となった。週後半にかけてNY原油の上昇が加速すると1ドル=1.2330台のドル安カナダ高に振れた。

 14日にはトルコ中央銀行副総裁ら3名の中銀金融政策委員会委員の解任(用語説明1)が、同国の官報で公表された。金融緩和志向の強いエルドアン大統領が、21日の中銀金融政策委員会を前に政策金利引き下げへの圧力を強めたとみられる。トルコ中央銀行では副総裁1名と委員1名が新たに任命されている。

 トルコリラは中銀副総裁らの解任報道後に急落し、対ドルでの史上最安値を更新した。

今週の見通し

 ドル高円安の流れが継続し、大きな節目である1ドル=115円超えを意識する展開となっている。原油価格の高騰やサプライチェーン問題による供給制約が著しい物価上昇を招き、世界的に金融引き締め姿勢が強まっている。こうした中、日銀による金融緩和姿勢の維持が見込まれる円を売る動きが広がっている。

 日本はエネルギー自給率が低く、原油高騰の景気への悪影響に対する懸念も円売りにつながっているとの見方もある。

 先週末の時点でドルの対円レートは2018年10月の高値114円56銭までわずか10銭に迫った。2017年以来の1ドル=115円台が視野に入ってきている。

 ドル以外の通貨と円のクロス円も軒並みの上昇。特にポンドやカナダは対円での上昇期待が強い。原油は需給ひっ迫感がかなり強いが、産油国で構成するOPECプラスは10月4日の閣僚級会合で増産拡大を否定。OPECの中心的な国であるサウジアラビアが10月14日にも増産の必要性を感じていないとの見解を重ねて表明しており、原油高傾向が当面続くとの見通しから資源国通貨の上昇期待が広がっている。ただポンドは注目度の高い英国物価統計(用語説明2)の発表を控えており、やや不安定な点には要注意。

 ドルの対円相場は、先週末に1ドル=114円40銭台を付けた後、いったん114円割れのドル安円高に動くなど、ある程度の振れ幅が見られるが、ドル高のスピード調整の動きは限定的だ。ドルが下がるとドル高に乗り遅れた市場参加者の買いが入る流れ。

 高値警戒感に加え、114円台半ばから115円にかけて売り注文が並んでいると見込まれているため、ここからのドル急上昇は難しいが、基調はドル高方向か。今週1ドル=115円台に到達する可能性はかなり高いとみている。

用語の解説

中銀副総裁ら解任 トルコではエルドアン大統領が13日付でトルコ中央銀行のトゥメン、クチュクの両副総裁とヤバス委員の計3人を解任した。大統領は利下げ志向が強く、昨年11月の就任以来利上げを続けていたアーバル総裁(当時)を今年3月に解任するなど多くの中銀関係者を更迭した。今回解任されたトゥメン副総裁は今年5月に任命されたばかりだった。後任の2人は金融政策の経験に乏しく、大統領の意向に沿って利下げを主張すると見込まれている。
英物価統計 英国立統計局(ONS)は消費者物価指数、小売物価指数、生産者物価指数を同時に発表する。英中銀は1992年からインフレ目標を採用しており、当初は小売物価指数のコア前年比が、現在では消費者物価指数前年比が対象となっている。消費者物価指数前年比が対象となって以来、物価目標は2%に設定。上下1%までの許容範囲を超えた場合は中銀総裁が財務大臣へ、範囲から外れた理由と対処方法についての公開書簡を発出することとなっている。

今週の注目指標

英消費者物価指数(9月)
10月20日15:00
☆☆☆
 原油高などを受けて上昇が目立つポンド。物価の上昇傾向を反映した早期利上げ期待もポンド高要因として意識されている。そうした中、9月の英物価統計が20日に発表される。消費者物価指数・小売物価指数・生産者物価指数が同時に発表され、このうち最も注目度が高い指標はインフレ目標の対象である消費者物価指数前年比。前回(8月分)は+3.2%と目標値(+2.0%)を基準とした許容上限である+3.0%を超え、英イングランド銀行(中央銀行)の早期利上げ期待につながった。今回の市場予想は前回と同じ+3.2%。上昇率が予想を超えるとポンド買いが一段と強まり、1ポンド=158円台のポンド高円安を試す可能性もある。
トルコ中銀政策金利
10月21日20:00
☆☆☆
 トルコ中銀は前回9月23日の金融政策委員会で市場の予想に反し、政策金利を19.0%から18.0%へ引き下げた。同国の消費者物価指数が政策金利を超える中での利下げにリラ売りが強まった。カブジュオール中銀総裁は政策金利をインフレ率より高く保つという姿勢を示していたが、変動の激しい食品などを除いた「コア」を重視することが重要と会合直前に姿勢を変更し、利上げ余地を作った形。直近のコア物価上昇率は16.98%となっており、現状の政策金利18.0%からみて1.0%の利下げ余地があることや、エルドアン大統領が副総裁ら3名の委員を解任して中央銀行への圧力を強めているため、利下げ実施が確実視されている。ただ10月4日発表した9月の消費者物価指数が前年比+19.58%と大幅に上昇しており、利下げがリラ売りを誘い、1リラ=12円割れを試す可能性もある。
米製造業PMI(10月・速報値)
10月22日
22:45
☆☆☆
 米国の製造業PMIは4月以降、60超えで推移しているが、サプライチェーン問題への警戒感などから7月の63.4をピークに8月、9月とやや鈍化している。10月の市場予想は60.5と前回の60.7から3カ月連続での鈍化が見込まれている。新型コロナ感染は収まりつつあるものの、1日当たりの新規感染者(7日間平均)は直近でも8万人を超えており、経済への悪影響が懸念される。市場の鈍化予想をさらに下回り60を割り込む数字が出ると1ドル=113円台にドルが売られる可能性がある。

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