2021年10月25日号
先週の為替相場
約4年ぶりのドル高円安の後、調整
これまでのドル高円安基調が先週半ばまで続いた。米国債利回りの上昇などを材料として、20日には一時114円70銭台と、2017年以来およそ4年ぶりのドル高円安圏までドルが買い進まれた。
米国のインフレ懸念が強まり、利上げが従来の市場予想より早まるとの見方がドルを支えた。長期金利の指標となる米10年債利回りが一時1.70%を超える中、ドル買いが強まった。
堅調な米国株もドル高基調を支えた。長期金利上昇への懸念を抱えながらも、好調な企業決算を背景に米S&P500指数が史上最高値を更新したことを材料に、円はドルに加えて他通貨に対しても売られた。
先週後半は急速なドル高の調整に入った。1ドル=114円70銭と、心理的な節目の115円に迫る水準へドルが急上昇したことへの警戒感から上値追いに慎重な姿勢が広がった。
週末にかけて米債利回りが21日の1.7%台から1.63%へ低下し、ドル売りが出やすくなった面もある。
週末終値は1ドル=113円台半ば割れと、週間高値から1円を超えるドル安円高。
1ユーロ=133円台半から132円割れのユーロ安円高に動くなど、他通貨の対円相場も軒並み調整が入った。
その他主要通貨で値動きの目立ったのはポンド。20日公表の消費者物価指数(9月分)は前年同月比3.1%と市場予想や前月値を下回ったが、2か月連続でインフレ目標の許容上限である3.0%を超えた。NY原油の高騰を受けたもう一段の物価高見通しもあり、英国の早期利上げ観測の広がりがポンド買いにつながった。
英政府は19日、97億ポンド相当のグリーンプロジェクト(用語説明1)を発表。英国と米マイクロソフトのビル・ゲイツ共同創業者による4億ポンド規模の投資パートナーシップが報じられるなど英国への環境投資の拡大傾向が示されたこともポンドを押し上げた。
1ポンド=1.3830台とポンドは対ドルでの今月最高値を更新し、1ポンド=158円20銭台までポンド高円安が進んだ。
新興国通貨ではトルコリラの下落が著しかった。トルコ中央銀行は21日に金融政策委員会を開き、政策金利を18%から16%へ引き下げた。先々週の副総裁を含む3人の委員会メンバーの解任報道から金利引き下げ自体は予想されていた。しかし、10月4日発表された、エネルギーや食料品などの価格を除いたコア消費者物価上昇率(9月)の16.98%を大きく下回る水準までの利下げはサプライズと受け止められ、リラ売りを呼んだ。
今週の見通し
大きな流れとしてのドル高円安が継続するとみられる。米国ではNY原油高もあって物価上昇圧力が増し、11月2、3日の連邦公開市場委員会(FOMC)でのテーパリング(金融緩和の段階的縮小)開始が決定的であるだけでなく、来年中の利上げ見通しが強まっている。こうした金融引き締め観測から米債利回りが上昇し、投資資金の米国への流入を誘っている。
一方、好調な企業決算を反映して米国株は堅調に推移しており、金利・株式の両面から米国買いの流れになっている。
10月28日発表される米第3四半期GDPは、第1、第2四半期比での成長率鈍化が見込まれている。世界景気の減速要因となっているサプライチェーン問題はある程度織り込まれており、影響は限定的か。
当面は米債利回りの上昇傾向などを確認しながらの相場となるだろう。短期的な調整ムードが広がっているが、中長期的にはドル高基調が続くとみられる。ドルや他通貨の対円での調整(下落)がどこまで広がるかを確認しながらの取引となりそうだ。
欧州通貨は対ドルでもしっかりとした動きが予想される。ただ、ポンドに比べてユーロは上値が重い。早期利上げ観測が強まる英国と、金融緩和政策の長期化が予想されるユーロ圏の差がポンドとユーロの値動きの違いとして表れているようだ。ポンドは対ドル、対円両面でのもう一段の上昇が見込まれる。
10月28日に欧州中央銀行(ECB)理事会が開かれ、金融政策は現状維持が濃厚。現行の資金供給制度PEPP(パンデミック緊急購入プログラム)の2022年3月終了を前に、通常の債券購入プログラムAPP(用語説明2)の活用などを示唆してくるかがユーロ相場の注目点。
先週予想を超える利下げを実施したトルコリラは、対ドルでの史上最安値を割り込み、下落がどこまで進むか読みにくい。かなり不安定な動きが見込まれ、警戒が必要だ。
用語の解説
英グリーンプロジェクト | 英国は先週ロンドンでグローバル・インベストメント・サミットを開催。エリザベス女王とのレセプションなどが実施され、英政府主催の投資勧誘イベントではEU離脱後最大規模となった。この中でジョンソン首相が打ち出したのが、気候変動をはじめとする環境に関連した投資プロジェクト。洋上風力発電への60億ポンドの投資や、廃棄物処理での脱炭素化技術への投資など世界からの投資を呼びかけた。英首相はマイクロソフトの共同創業者であるビル・ゲイツ氏と4億ポンド規模の共同投資パートナーシップを発表している。 |
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APP | ECBは量的緩和策の債券購入プログラムは、2015年に開始して2018年末でいったん終了した後2019年11月に再開したAPP(資産買取プログラム)と、コロナ禍を受けて2020年3月に導入したPEPP(パンデミック緊急購入プログラム)の2階建て。このうちPEPPは来年3月終了の予定。APPは月額200億ユーロで期限は未定だ。市場はPEPP終了後にAPPの規模拡大や、APPで適用中のキャピタルキー(各国のECBへの出資比率)などに基づく規制を緩和し、拡充を図ると期待されている。 |
今週の注目指標
カナダ中銀政策金利 10月27日23:00 ☆☆☆ | カナダ中銀金融政策会合の結果が27日23時に発表される。7月に量的緩和を縮小したカナダ中銀はその後金利・量的緩和をともに維持し、今回も現状維持予想が市場の大勢。今月、マックレム総裁はサプライチェーン問題でインフレ収束に時間がかかる可能性に言及した。カナダ中銀は前回9月8日までの政策会合の声明でインフレは一時的なものという見方を堅持してきたが、今回の声明で変化があるか注目される。利上げについてはスラック(需給の緩み)吸収後という姿勢を維持する見込み。カナダ中銀はスラックの吸収時期について、前回会合で2022年下半期という見通しを維持していたが、サプライチェーン問題による景気回復鈍化への懸念から、先送りの可能性もある。この場合はカナダ売りとなり、ドルの対カナダは節目となる1.25に向けて上昇する可能性もありそうだ。 |
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ECB理事会 10月28日20:45 ☆☆☆ | 28日にECB理事会の結果が発表される。政策金利、量的緩和はともに現状維持見込み。注目は来年3月が期限が切れる現行のPEPPについての方針が声明や会見で示されるか。通常の資産購入プログラム(APP)の規模拡大や柔軟性拡大で景気支援を続ける姿勢を示すと期待されている。ここにきての物価上昇を受けて、より前向きな姿勢が示されるとユーロが買われ、1ユーロ=1.17ドル台を試す可能性がある。 |
米第3四半期GDP 10月28日21:30 ☆☆☆ | 第1四半期が前期比年率+6.3%、第2四半期が+6.7%と高水準での景気回復が続いた米国だが、第3四半期は成長の鈍化が予想される。7月半ば以降の新型コロナ感染の急拡大やサプライチェーン問題での供給制約が影響しているとみられる。市場予想は前期比年率+3.2%と上半期から伸びは鈍化することになるが、水準的にはまずまず。ただ、サプライチェーン問題の影響が予想以上に厳しくなっていた可能性もある。GDP成長率が鈍化し、市場予想を下回るとを見せると1ドル=112円台半ばを試すドル安円高に振れる可能性がある。 |
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