2021年11月01日号

(2021年10月25日~2021年10月29日)

先週の為替相場

方向感なく推移

 先週(10月25-29日)のドル円相場は方向感なく推移した。20日に1ドル=114円70銭の直近高値を付けた後、いったん調整ムードが強まり、先々週末から先週初めにかけて113円50銭割れの円高ドル安に動いた。

 その後実需がらみのドル買いや、独Ifo景況感指数の弱さを受けたユーロ売りドル買いなどがドル高円安につながり、114円30銭台までドルが値を戻した。米第3四半期企業決算の堅調さを受けた米国株高も、ドルや他通貨に対する円売りの材料となった。

 ドル高が一服した後はドル売り優勢に転じた。米国債利回りの低下や欧州中央銀行(ECB)理事会後のユーロ高ドル安などがドル全面安を誘い、週初めの安値を割り込んで1ドル=113円20銭台までドル安円高が進んだ。10月28日発表された米第3四半期GDP速報値が予想を下回ったこともドル売り円買い要因となった。

 週末にかけては再びドル高円安となり、1ドル=114円台のドル安に戻して先週の取引を終えている。シカゴ購買部協会景況感指数(用語説明1)やミシガン大学消費者信頼感確報値(いずれも10月29日発表)などの好結果がドルの買い戻しを誘った。

 1ドル=113円台前半から一転してドルの買い戻しが強まって下値の堅さが確認されたことも、短期筋のドル買い円売りを誘った。

 ECB理事会では市場予想通り、政策金利と量的緩和政策の現状維持を決定。理事会後の記者会見でラガルド総裁は市場の早期利上げ観測を強くけん制。市場が期待するような利上げ時期やその後の近い将来にフォワードガイダンス(中央銀行が示す金融政策の指針=今回は政策金利の引き上げ)の条件が満たされることはないとまで明言した。しかし、インフレが従来予想より長期化する可能性に言及したため市場の利上げ期待は維持され、会見後はユーロ買いが広がった。

 1ユーロ=1.1600ドルを挟んで方向感のあまりない動きを見せていたユーロ相場はECB理事会後に1.17ドル手前まで上昇。その後も翌日東京午前ぐらいまで高値圏で推移したが、1.17台を付けきれなかったこともあり、その後はユーロ安に転じた。週末にかけてドル買いが全般に強まったこともあり、1ユーロ=1.1530ドル台のユーロ安ドル高で先週の取引を終えている。

 その他サプライズとなったのはカナダ。27日のカナダ銀行(中央銀行)金融政策会合では、量的緩和の終了を発表。カナダ銀行は今後、保有する債券の残高を増やさず購入は償還資金による再投資に限定する局面に移行する方針が示された。利上げ前倒しの可能性にも言及があった。

 この動きを受けてカナダドルは一気に上昇。1ドル=1.2430カナダ前後から1.23近くまでドル安カナダ高が進行。対円では91円20銭台から92円台半ば手前までカナダドルが値上がりした。

今週の見通し

 ドル円は中長期的なドル高円安の流れが意識される。1ドル=113円台前半がしっかりしており、短期的にはドル買いが入りやすい地合いになりそうだ。

 ただ、今週は11月2、3日の米連邦公開市場委員会(FOMC)や5日の米雇用統計(10月)発表などの重要イベントがあり、それらの結果を確認するまで積極的な取引はやりにくい面もある。1ドル=113円台半ばから114円台半ばにかけてのレンジをコアに、次の方向性を探る展開か。

 いったん調整が入った分、大きな節目である1ドル=115円を試す可能性が高まっているが、一気に上昇するのは難しそうだ。

 週末には米雇用統計が控えている。雇用統計で最も注目度の高い非農業部門雇用者数は新型コロナ感染拡大が7月半ば以降広がったことやサプライチェーン問題を受けて、ここ2カ月連続で前月比の伸びが市場予想を下回る厳しい結果となっている。

 今回は感染拡大の落ち着きもあって、やや強めの結果が期待されている。外食部門の雇用回復が明確だとドル高材料になりそうだ。

 雇用は個人消費を通じて米経済を支える。雇用が力強さを取り戻すとドル買いに安心感が出て、1ドル=115円の節目超えに向けたドル高円安が予想される。

 今週は豪、英の中央銀行の動きも注目される。豪準備銀行(中央銀行)は10月28、29日に3年物利回り目標(用語説明2)の対象債券の買い入れオペを見送った。これにより豪3年物利回りは0.76%前後と、豪中銀が目標とする0.10%から大きく乖離した。この状況を受けて、11月2日の理事会で豪中銀は利回り目標の対象銘柄の変更か目標の廃止を行うとみられる。

 こうした動きは豪中銀の利上げ前倒し観測につながり、豪ドル高の動きが予想される。

 英イングランド銀行(中央銀行)は政策金利の利上げか据え置きかで市場の見方が分かれている。どちらに決まってもポンド相場は動きが出そうで、こちらも市場参加者の関心を集めている。英国の消費者物価指数前年比が9月までの2カ月連続で許容上限を上回る中、英中銀の選択が注目されている。

用語の解説

シカゴ購買部協会景気指数 現在の正式名称はISM-シカゴビジネスバロメーター。ISM製造業・非製造業景気指数を発表するISMのシカゴ地区支部とマーケットニュースインターナショナルが共同でシカゴ地区の製造業・サービス業の購買担当者の景況感を調査した指数。ISM製造業景気指数の前営業日に発表されるため、同指数の先行指標として利用されている。
3年物利回り目標 豪中銀は政策金利であるオフィシャルキャッシュレート(OCR;銀行間翌日物貸出金利)に加えて、3年物国債の利回りを金融政策の対象として掲げている。目標金利はOCRと同じ0.1%。現在利回り誘導の対象となっている3年物国債は2024年4月償還債。OCRを2024年まで引き上げないとする豪中銀の見通しの核が3年物利回り目標であった。

今週の注目指標

米連邦公開市場委員会(FOMC)
11月04日03:00
☆☆☆
 2、3日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)では、現在月額1200億ドル規模で実施している債券買い入れの縮小(テーパリング)開始がほぼ決定的となっている。ペースは未定だが、来年上半期にはテーパリングを終える可能性が高い。これまで実施された量的緩和政策後のテーパリングでは、終了後から利上げまである程度の期間があり、テーパリング開始=早期利上げではないが、市場の利上げ観測を強めることにはなりそうだ。テーパリング開始自体は織り込み済みだが、FOMC声明やパウエル議長会見で景気の先行きに前向きな姿勢が目立つようだと、早期利上げ観測が強まり、1ドル=115円台に向けてドル買いが強まる可能性がある。
英中銀金融政策委員会(MPC)
11月04日21:00
☆☆☆
 英国のインフレ目標である消費者物価指数前年比は8月分が3.2%、9月分が3.1%と許容上限である3.0%(目標値2%+1%)を超え、ベイリー英中銀総裁が財務相に対して状況を説明する書簡を送ることとなった。米国などと比べると物価上昇の勢いは抑えられているが、英中銀は歴史的に物価高に対して厳しく対応するインフレファイターとして知られ、今回の会合で利上げに踏み切る可能性がそれなりにある。とはいえ、現行の物価高はエネルギー価格上昇やサプライチェーン問題などを受けた特殊要因の部分もあり、今回は金利据え置きに回るという見方が若干優勢だ。その分、利上げを行った場合はサプライズなポンド高となり、は先週上値を抑えた1ポンド=1.38ドル台を超えてポンドが買われる可能性もある。
米雇用統計(10月)
11月05日21:30
☆☆☆
 米国の非農業部門雇用者数は、45万人(前回の19.4万人増)まで伸びが強まりそう。直近2回の雇用全体の伸びを抑えた宿泊・外食部門は、今回は回復が期待されており、雇用の拡大につながると見られる。ただ、サプライチェーン問題の影響がどこまで出てくるか読みにくい。電子部品の調達などが滞って生産が止まると、工場での労働者雇用が抑えられる形となり、製造業はもちろん周辺のサービス業の雇用にも悪影響が出てくる。予想に反して雇用者の増加幅が前回並みにとどまると、1ドル=113円割れの円高ドル安を試す可能性もある。

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