2021年11月22日号

(2021年11月15日~2021年11月19日)

先週の為替相場

不安定な展開に

 ドルは10月に付けた対円での直近高値を更新し、一時1ドル=115円の大台に迫った。その後は売り買いが交錯し、週末を前に一気にドル売り円買いが入るなど神経質な展開だった。

 11月10日発表された10月の米消費者物価指数の力強い結果を受けて、市場では米連邦準備制度理事会(FRB)が今月から開始したテーパリング(金融緩和縮小)ペース加速や早期の利上げの思惑が広がり、ドル買いにつながった。ただ、節目の115円を前にいったん上値を抑えられた後は、欧州での新型コロナ感染拡大からのリスク回避の円買いが優勢となり、ドルは下落した。

 来年2月のパウエルFRB議長の任期切れが近づき、バイデン大統領による後任者指名が迫っている。パウエル氏の続投見通しに加え、金融緩和志向の強い「ハト派」的なブレイナードFRB理事が指名されるとの見方も広がり、ドルは上値を抑えられた。

 ユーロは対ドル、対円ともに下落した。リスク回避が円買いだけでなくドル買いにも作用したことに加え、新型コロナウイルス感染拡大を受けてオーストリアが22日から全土でのロックダウン再開を決定するなど行動制限の強化が進んでいることがユーロ売りを誘った。

 先週初めは1ユーロ=1.14ドル台後半だったが、今週の半ばに1.1260台までユーロが下落。その後は1.1370台まで買い戻されたが、週末にかけて1.1250ドル前後の安値を更新するなどユーロ売りが目立った。

 対円でも先週初めに1ユーロ=130円台後半だったが、今週半ばに129円00銭台までユーロが下落。その後130円近くまで持ち直したが買いは続かず、週末にかけて128円を下回るなどユーロ売りが加速した。

 オーストリアのロックダウンに加え、世界的に有名なクリスマス市が開かれるニュルンベルク(用語説明1)のあるバイエルン州やドイツ東部ザクセン州がクリスマス市の中止を決定するなどドイツでも消費に直結する行動制限が進み、警戒感が一段と強まっている。

 トルコ中央銀行は11月18日の金融政策委員会で、政策金利を16.00%から15.00%へ引き下げた。利下げは9月、10月に続いて3会合連続。インフレ率が上昇する中での利下げ決定に市場は警戒感を強め、リラは対ドルでの史上最安値を大幅に更新している。

今週の見通し

 欧州で新型コロナウイルス拡大への懸念が増している。ユーロ圏最大の経済大国であるドイツでは、1日当たりの新規感染者(7日間平均値)が直近で4万8000人を超え、これまで最多だった昨年末の2万5000人台を大きく上回っている。行動制限強化などが進む中、今後の経済への悪影響がかなり強く懸念されている。

 オランダでも感染者数が増加。夜間外出禁止令に反対するデモが暴動化し、警官隊が発砲する事態になっており、ユーロ圏の状況はかなり深刻だ。感染者数が落ち着いている日本や人口当たりの感染者数で欧州を下回る米国との差が投資資金の移動につながっている面もある。

 一方、世界的に物価上昇が著しい。利上げには程遠い日本や中国など一部を除けば、世界的に利上げ観測が強まっている。ただ、順調な回復とは言いにくい景気状況下での物価高が進み、スタグフレーション(用語説明2)が懸念されている。こうした状況で利上げに踏み切っても通貨安は止まらず、さらなる物価高を招く恐れがある。それだけに、各国中央銀行は厳しい判断を迫られている。

 アフターコロナでのリスク選好局面から、リスク回避へ中期的な流れが転換する可能性があり、要注意。

 ドル円はリスク警戒のドル買いと円買いの中、かなり神経質な動きが予想される。物価安定への信頼感からリスク回避の円買いが集まりやすい地合いにあり、ドル以外の他通貨売り・円買い主導で、ドルは対円で上値が重くなりそうだ。しかし、対円以外でのドル買いを支えにドル下落は限定的となる可能性がある。

 1ドル=113円台から114円台のレンジ取引の中、方向性を探る展開となりそうだ。

 欧州通貨は下落リスクを意識。先週からユーロなどは大幅に下落してきたが、もう一段の下げ余地がありそうだ。ただ、かなり不安定な値動きが続いているため、大幅な値戻しに動く可能性もある。

用語の解説

ニュルンベルク ドイツ南部バイエルン州第2の都市。歴代の神聖ローマ帝国皇帝が居住したニュルンベルク城があるなど歴史のある町で、現在も旧市街を城壁が囲む。ドイツ各地では例年大規模なクリスマス市が開かれる。ニュルンベルクのクリスマス市はその中でも最大規模を誇り、世界中からの観光客で賑わうイベントとなっている。
スタグフレーション 一般的に景気が拡大局面で起きやすい物価上昇が、景気の停滞や後退期に起きること。景気の停滞を意味するスタグネーション(Stagnation)と物価上昇を意味するインフレーション(Inflation)を合わせた造語。原材料の価格上昇や供給制限などによって生じる。日本では1970年代のオイルショック時にスタグフレーションとなっていた。

今週の注目指標

ユーロ圏購買担当者景気指数(PMI)(11月)
11月23日18:00
☆☆☆
 新型コロナウイルス感染がユーロ圏で再拡大する中、11月の製造業、非製造業のユーロ圏購買担当者景気指数(PMI)が発表される。ドイツ、ユーロ圏全体ともに10月から低下する見込み。好悪判断の基準となる50は上回りそうだが、行動制限の影響が強く出る非製造業PMIが市場予想をさらに下回る可能性がある。特に感染被害が大きいドイツの非製造業PMIは市場予想が51.5と50に近く、警戒感が必要だろう。欧州の景気鈍化懸念が強まるとユーロ売りに拍車がかかり、1ユーロ=1.11ドル台に向けた下落も予想される。
英購買担当者景気指数(PMI)
11月23日18:30
☆☆☆
 23日はユーロ圏に加え、英国や米国のPMIも発表される。英国は物価上昇が著しく、来月の英イングランド銀行(中央銀行)金融政策委員会(MPC)での利上げが予想される。ユーロ圏のように新型コロナウイルス感染拡大が加速してはいないため、景況感は底堅さが期待される。ただ、感染が落ち着いたわけではなく、高止まりの状況にある。英国経済はユーロ圏の影響も受けやすいことや、エネルギー価格上昇の悪影響の深刻化もあり、市場予想以上より景況感がさらに悪化している可能性もある。利上げ期待が後退するような状況が生じるとポンドが一気に売られ、1ポンド=1.32ドル台を試すような動きも想定される。
NZ中銀政策金利
11月24日10:00
☆☆
ニュージーランド準備銀行(中央銀行)は前回(10月6日)の定例理事会で政策金利を約7年ぶりに引き上げた。NZ中銀は声明で「時間が経過するにつれて金融政策による刺激がさらに取り除かれると見込まれる」と今後の追加利上げを示唆。10月18日発表された第3四半期消費者物価指数が市場予想を大きく超える前年比+4.9%に上昇し、今月発表された第3四半期雇用統計も強めの数字となったため、今回は現行の0.50%から0.75%への追加利上げが見込まれている。注目はオア中銀総裁の会見。市場は来年末までに政策金利が1.50%に上昇すると見込んでいる。こうした市場の期待を支える金融引き締め継続の姿勢を総裁が示すと、10月に付けた1NZドル=82円台半ばを意識するNZドル高円安の展開となるだろう。

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