2021年11月29日号

(2021年11月22日~2021年11月26日)

先週の為替相場

先週末、円高が一気に進行

 先週(22-26日)、ドル円相場は大きな振幅を見せた。

 オーストリア政府が11月19日、欧州では今秋初めて全土規模のロックダウン再開を発表したことをきっかけに、1ドル=113円台のドル安円高で先週の取引がスタートした。

 しかし、バイデン大統領が来年2月任期満了のパウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長の続投を決めると、すぐにドル高円安基調に転じた。金融緩和を志向する「ハト派」色の極めて強い人物として知られるブレイナードFRB理事(用語説明1)の名前が後任候補として挙がっていたが、パウエル議長の続投が決まったことで市場では早期利上げへの流れが強まるとの見方が広がり、ドルを押し上げた。

 パウエル氏続投の発表直後に1ドル=114円台後半へドルが上昇。その後もドル買いが続いて節目の115円を上回った。

 来年6月利上げの織り込みが進んだことに加え、来年中に3回の利上げも織り込まれる中でドルが買い進まれ、1ドル=一時115円50銭台を超える水準までドル高円安が加速した。

 ドルはほぼ全面高となり、1ユーロ=1.1180ドル台までユーロ安ドル高が進行した。24日発表された米新規失業保険申請件数が20万件を割り込み、1969年以来の低水準となるなど米経済指標の強さもドル買いに寄与した。

 しかし、週末に入って流れが一気に変わった。

 南アフリカで検出された新型コロナウイルスの変異株「オミクロン」への警戒感が一気に強まった。オミクロン株は世界的な感染者拡大を引き起こしているデルタ株などと同様に世界保健機関(WHO)が「懸念される変異株(VOC)」(用語説明2)に指定。南アや周辺国からの渡航制限が各国で示されるなど、今後の世界経済にも影響するとの懸念が広がった。

 リスク警戒感から安全資産である米国債が買われて米長期債利回りが低下したことで、ドル売りも広がり、ドルはリスク回避の円高と合わせて大幅に下落した。週末26日東京市場朝方に1ドル=115円30銭台だったが、同日のNY市場では113円00銭台までドル安円高が一気に進んだ。26日朝の1ユーロ=1.1200ドル台が1.1330ドル台を付けるなど、対ユーロでもドル売りが広がっていた。

 その他の通貨で目立ったのが、23日のトルコリラ暴落。同日東京市場での1ドル=11.40リラ前後から13.40台まで約18%のドル高リラ安に振れた。

 対円でも1リラ=10円10銭前後から一時8円50銭前後までリラが急落。9円30銭台に戻した後、再び9円割れを付けるなど不安定な動きだった。その後は10円の大台回復目前までリラが戻す場面もあったが、週末にかけて円高進行から再び9円割れとなった。

 トルコ中央銀行はエルドアン大統領による強い金融緩和圧力に沿う形で9月以降3か月連続で利下げを実施。一方、消費者物価指数の前年比上昇率が20%に迫るなど物価が高騰し、市場の警戒感を誘っている。

今週の見通し

 米国の早期利上げ観測の強まりからドル高基調が顕著だったところに、南アで検出された新型コロナウイルス変異株「オミクロン株」によって、一気に警戒感が強まった。

 世界的に渡航制限強化などが予想され、市場のリスク警戒感が一段と強まった。欧州でデルタ変異株が猛威を振るっていたが、米国では一時に比べ感染拡大を抑えられる状況となり、日本では抑え込みにほぼ成功するなど、一時に比べてリスク警戒感が後退していたところに、新たな懸念材料が出現した格好となった。

 先週、1ドル=115円台半ば超えまでドルが上昇してドル高一服感も出ており、短期的な調整が入りやすかった。

 一時強まっていた米国の早期利上げ観測と、その後の利上げペース加速の思惑が後退していることも、ドル円の上値を抑えそうだ。

 ただ、オミクロン株への警戒ムードがこのまま続くかどうかは不透明だ。今週末12月3日には米雇用統計(11月)が公表される。雇用統計の力強い数字に早期利上げ期待が再び強まる可能性も否定できない。

 米国では物価上昇が著しく、11月24日発表された米国のインフレ率の目安となるPCEデフレータ(10月)は前年同月比5.0%、同コア前年比は4.1%とインフレ目標の2%を超えた。力強い雇用の回復傾向が続けば、「ハト派」寄りとされるFRB執行部さえ利上げ圧力を無視できなくなる。

 雇用統計(11月)次第で、ドル買いの流れに復帰する可能性も意識しておきたい。 ドル高調整が1ドル=112円台半ば前後で止まると、その後114円台へドルが値を戻す可能性は十分にありそうだ。

用語の解説

ブレイナードFRB理事 ラエル・ブレイナード(Lael Brainard)。ハーバード大学で経済学博士号を取得後、マサチューセッツ工科大学(MIT)などで教鞭を執り、同大学准教授を経てクリントン政権下で大統領副補佐官などを務めた。オバマ政権下では国際担当財務次官に就任。2014年にFRB理事。経済支援に積極的なハト派として知られる。2022年1月末で任期満了のクラリダFRB副議長の後任に指名されている。
懸念される変異株(VOC) 新型コロナウイルスに限らず、ウイルスは一般的に増殖や感染を繰り返す中で少しずつ変異していく。そうした変異のリスク分析における評価として、WHOや日本の国立感染症研究所をはじめとする各国の所管機関は、「懸念される変異株(VOC)」と「注目すべき変異株(VOI)」に分類している。VOCはVariant of Concernの略。感染性や重篤度が増す、ワクチンの効果を弱めるなどの性質の変化が見られる可能性があるものがVOC。新型コロナではアルファ、ベータ、ガンマ、デルタに次いで5例目。

今週の注目指標

パウエルFRB議長議会証言
12月01日0:00
☆☆
 パウエルFRB議長とイエレン財務相がコロナ支援・救済・経済安全保障法(CARES法)に基づいて上院銀行委員会で証言し、翌日は下院金融委員会でも証言する。雇用の回復が軌道に乗る中、物価上昇が顕著となっており、市場では米国の早期利上げ観測が強まっている。ただ、新たな変異株オミクロン株への警戒感から先行き不透明感も見られる。今後の財政・金融政策をパウエルFRB議長やイエレン財務相がどう見ているのかが注目される。議員がパウエル議長らに物価高への対応を迫る可能性があり、質疑応答も注目される。景気の先行きに前向きな姿勢が見られ、オミクロン株出現で少し後退した早期利上げ観測が強まれば、1ドル=114円台を回復するドル高円安も予想される。
米ISM製造業景気指数(11月)
12月2日00:00
☆☆☆
 前回10月分のISM製造業景気指数は9月(61.1)から鈍化したが、市場予想よりも強い60.8と、60台の高水準を維持。雇用統計の前哨戦として注目される雇用部門の数字は52.0と9月(50.2)から改善。今回は61.1とさらなる好結果が見込まれている。ただ、直近の強い結果は入荷遅延による部分が大きく、好景気というよりもサプライチェーン問題での供給制限が影響している可能性がある。こうした傾向が強まると、1ドル=113円割れを意識するドル売りにつながる可能性に注意したい。
米雇用統計(11月)
12月03日22:30
☆☆☆
 米雇用統計は11月5日発表の10月分で非農業部門雇用者数が53.1万人増と、事前予想の45.0万人増を超過。9月分も速報値の19.4万人増から31.2万人増へ上方修正された。失業率も9月の4.8%から10月は4.6%に低下した。
 非農業部門雇用者数の内訳を見ると、レジャー&ホスピタリティ部門が16.4万人増加した。同部門は新型コロナの影響を強く受けたが、アフターコロナの雇用回復が鮮明となった。同じく新型コロナの影響を受けやすい小売りや在宅介護などが伸びており、今後の期待感につながっている。サプライチェーン問題の影響を強く受ける自動車・同部品が2.8万人増加し、運輸・倉庫部門の増加と合わせ、雇用は力強さが戻りつつある。
 今回もコロナ後の雇用回復の流れが続くと期待されており、市場予想は53.5万人と前回比で若干の増加幅拡大が見込まれている。失業率も4.5%に低下する見込み。直近の回復は著しいが、雇用者数はパンデミック前(2020年2月)の1億5252万人に対して、直近で1億4832万人と約400万人も雇用者が少ないため、雇用者数が大幅に伸びる余地はまだ十分にありそうだ。
 雇用統計が市場予想通りかそれ以上の強さを示すと、米国の早期利上げ観測が再び強まってドルが買われ、1ドル=114円台回復に向けたドル買い円売りが強まると予想される。

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