2021年12月06日号

(2021年11月29日~2021年12月03日)

先週の為替相場

オミクロン株とパウエル議長発言で不安定に

 11月29日からの週、ドル円相場は不安定な動きとなった。

 南アフリカで検出された新型コロナウイルス変異株「オミクロン株」感染の世界的な広がりが先行き不透明感につながった。一方、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が議会証言で、テーパリング(金融緩和の段階的縮小)の前倒し終了の可能性に言及し、従来の慎重な姿勢から金融の引き締め姿勢に転換した。ドルは買い材料と売り材料が交錯し、不安定な動きとなった。

 先週前半、リスク警戒感が強まった。先々週末にオミクロン株への警戒感から1ドル=115円30銭台から113円00銭手前までドルが急落。週明けに113円台後半までドルが買い戻されたが、株安などを嫌気したドル売り円買いで113円割れのドル安円高となった。

 その後、感染が広がる南アのワクチン諮問委員会委員長が感染者の症状は軽度から中程度と、オミクロン株感染の症状が比較的落ち着いていることを示すと、1ドル=114円近くまでドルが買い戻された。

 しかし、モデルナ(用語説明1)のステファン・バンセルCEOが、オミクロン株は従来株よりワクチンの効果が弱い可能性が高いと発言すると警戒感が再び強まり、112円50銭台までドル安が進んだ。

 ドルが安値圏で推移する中で飛び出したのがパウエル議長の発言。新型コロナの緊急対策法(CARES法:用語説明2)による上院銀行委員会での議会証言で、物価上昇から「一過性」との表現を外す時が来たと、長期的な物価上昇の可能性を示唆し、テーパリングの前倒し終了の可能性にも言及した。

 これを受けて1ドル=113円70銭前後までドルが急伸。その後はパウエル発言前の112円53銭を割らず、113円70銭を超えずというレンジで取引が続いた。

 12月3日発表された米雇用統計(11月)は非農業部門雇用者数の増加幅が市場予想の55万人を大きく下回る21万人にとどまった。一方で失業率は予想を大幅に下回る4.2%へ低下。労働参加率が上昇する中での失業率低下(一般に労働参加率が上昇すると失業率は一時的に悪化する)で力強さもあり、好悪入り混じる結果という印象だった。

 雇用統計発表後はいったんドル安円高に振れた。その後は発表前を超える水準までドルが買い戻されたが、再び売りに転じるなど不安定な動きが週末まで続いた。

 その他通貨もやや不安定な動きを見せた。パウエル議長発言前にはドル安の流れの中で1ユーロ=1.1380ドル台までユーロが上昇したが、パウエル発言後は1.1230ドル台へユーロが急落。その後はレンジ内でのもみ合いを経て、1.1300ドル前後で推移した。

 ポンドは一時1ポンド=1.3370ドル前後まで上昇したが、パウエル発言を受けて1.32ドル割れまで下落。英国でもオミクロン株感染が拡大しているため、確実視されていた12月16日のイングランド銀行(中央銀行)金融政策委員会での利上げ見送り観測が台頭し、週末にかけてはポンド売りが優勢となった。1ポンド=1.3200ドル台のポンド安となったほか、先週初めの1ポンド=151円台後半から149円を一時割り込むなど対円でもポンドが下落した。

今週の見通し

 オミクロン株の影響について市場の見方が定まらないため、今週は非常に不安定な動きが予想される。

 リスク警戒感が対円でドルの上値を抑えるだろう。12月16日決定が確実視されていた英国の利上げ先送り観測が台頭している。米国では12月14、15日の連邦公開市場委員会(FOMC)でのテーパリング前倒し終了の決定が予想されているが、今回は検討にとどめ、次回以降に決定を先送りする可能性もある。オミクロン株だけでなくデルタ株による感染拡大も深刻なユーロ圏でも、金融緩和の長期化が予想されている。

 一方で物価上昇傾向は世界的に強まっており、各国中央銀行は難しいかじ取りを迫られている。

 こうした中、金融緩和の長期化姿勢を堅持する日銀と海外中央銀行との対比に市場参加者が関心を寄せ、相対的に円買いが強まる可能性がある。

 欧州の状況は米国以上に深刻だ。来週16日のイングランド銀行金融政策委員会について、金利引き上げと据え置きで市場の見方は割れており、どちらに決まっても為替相場は不安定な動きになるだろう。利上げ実施でも上げ幅は0.15%にとどまるとみられ、今後の利上げに慎重な姿勢が示されると、ポンド売りが強まる可能性がある。ユーロ圏は新型コロナ感染がさらに拡大し、ドイツは12月に入って新規感染者が1日7万人を超える日が続いた。フランスでも1日5万人を超えるなど過去最悪ペースとなっている。多くはデルタ株によるものだが、オミクロン株の感染者も増えてきており、今後のさらなる感染拡大が懸念される。

 こうしたユーロやポンド売りと円買い流れがドルの対円レートの重石となりそうだ。ドル円相場は米国の早期利上げ観測との綱引きとなるが、ドル安の可能性が高く、1ドル=111円台も視野に入りそうだ。

用語の解説

モデルナ 米マサチューセッツ州ケンブリッジに本社のある世界的なバイオ企業。NASDAQ に上場している。新型コロナウイルスに対するワクチンで脚光を浴びたメッセンジャーRNA(mRNA)に基づく創薬・ワクチン開発を手掛ける。新型コロナ対応のRNAワクチンでは、ファイザー・ビオンテックとモデルナによる2種のワクチンが認可を受けている。もう1つ日本政府が承認しているアストラゼネカのワクチンはアデノウィルス・ベクター・ワクチン。
CARES法 米国は予算を基本的に法律という形で決定する。新型コロナウイルス感染拡大に対応するため米国は2020年3月に約2.1兆ドルの緊急経済対策を発表。この根拠法となったのが「コロナウイルス支援・救済・経済保証法」(Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security Act)で、頭文字をとってCARES法と呼ばれる。この法律の下、FRB議長と財務長官は四半期ごとの議会報告が求められる。

今週の注目指標

豪中銀金融政策理事会
12月07日12:30
☆☆
 豪準備銀行(中央銀行)は9月7日の理事会で債券買い入れを週10億豪ドル減額し、今後については2022年2月の理事会で見直すとしている。少なくとも来年中は据え置くとしている政策金利と合わせ、今回の理事会では金融政策の現状維持が見込まれている。ただ、世界的に物価上昇傾向が強まる中、豪州でも第3四半期の基礎インフレ率が6年ぶりに目標の範囲(2-3%)内に収まるなど物価の上昇傾向が進んでおり、市場では早期利上げを求める動きも出ている。12月7日の理事会での買入縮小の示唆を含め、金融引き締め姿勢を強調するようだと豪ドルが買われ、1豪ドル=82円台回復も視野に入ってきそうだ。
カナダ中銀金融政策理事会
12月9日00:00
☆☆☆
 カナダ銀行(中央銀行)は前回10月27日の理事会で債券買い入れプログラム終了を決定。来年下半期から来年4~9月へ利上げを3か月前倒しする見通しを示した。その後発表された10月のカナダ消費者物価指数は前年比+4.7%に上昇。11月30日発表されたカナダの第3四半期GDPは前期比+5.4%と市場予想の+3.0%を大幅に上回るなど物価上昇と順調な景気回復を確認する形となった。このため、早期の利上げ期待がさらに強まり、1カナダ=90円台回復を意識するカナダ高の可能性もありそうだ。
米消費者物価指数(11月)
12月10日22:30
☆☆☆
 前回11月10日発表の消費者物価指数(10月)は前年比+6.2%と市場予想を超えて31年ぶりの6%台に乗せた。食品とエネルギーを除いた「コア」も+4.6%と高水準だった。今回は+6.7%、コアが+4.9%とそれぞれ物価上昇の加速が見込まれる。11月はガソリンの小売価格が前月比3.2%上昇(全米・全種平均:EIA調査)するなど物価の上昇傾向が続いており、市場予想以上の数字が出てくる可能性が十分にある。コアが5%台に乗せるとオミクロン株警戒が残る中でも早期利上げに踏み切らざるを得ないとの思惑が強まってドルが買われ、1ドル=114円台に向けた動きとなるだろう。

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