2022年01月11日号

(2022年01月03日~2022年01月07日)

先週の為替相場

早期利上げ観測強まる

 年明けに一時1ドル=116円台に乗せるなどドル買い円売りが優勢となった。米ダウ工業株30種平均やS&P500指数などが史上最高値を更新する中、ドルが買い進まれた。

 4日の市場で1ドル=116円30銭台までドル高が進行。その後はいったん115円台に押し戻されたが、NY市場5日午後に公表された米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨(12月14・15日開催分・用語説明1)で、早期の利上げやバランスシート調整の可能性が示されたことを受けて再びドル買いが強まり、116円台を回復した。

 議事要旨は、経済・雇用・物価などの見通しに基いて、政策金利であるFF金利が従来想定より早期にまたは迅速に引き上げられることが正当化される可能性があることに留意と早期利上げを示唆した。

 市場では従来の6月からではなく、3月からの利上げスタートを織り込む動きが広がった。3月利上げ開始の場合、金融政策の変更が起きやすいとされるFOMCメンバーによる経済見通し(SEP)が示される会合だけで年4回の利上げが可能となる。

 議事要旨では、これまでの量的緩和政策で膨張したバランスシートについて、利上げからより近い時期に保有資産を縮小するのが適切だとの判断。リーマンショック後の量的緩和政策では、利上げ開始からバランスシートの縮小開始まで約2年かかった。今回は年内にも縮小が始まるとの見通しが広がっており、米連邦準備制度理事会(FRB)の金融引き締め姿勢が一気に強まったとの印象が強まり、ドル買いにつながった。

 7日発表された12月の米雇用統計は、関連指標であるADP雇用者数の増勢などから上振れが予想され、先週のドル買いを支えた。しかし、結果は非農業部門雇用者数(NFP)が予想を大幅に下回る低い伸びにとどまり、週末にかけてはドル高の調整が入った。もっとも11月の雇用統計同様に失業率は予想以上に低下。失業率計算の基となる家計調査ベースでの雇用者は65.1万人増と100万人を超える大幅増加だった11月に続き、NFPの基となる事業所ベースの数字との不可思議な乖離が続いた。その分、市場でのドル売りの勢いは限られ、週末の調整場面でも1ドル=115円台半ばを割り込まなかった。

今週の見通し

 米国の早期利上げ観測がドル買いにつながっている。米国でオミクロン株の1日当たり感染者数が100万人を超える日があるなど、感染拡大が深刻化しているが、これまでの変異株に比べて症状が軽いとの期待もあり、市場の警戒感はそれほど高まっていない。

 新型コロナより物価高への警戒感が米FRBの引き締め姿勢につながっているとみられる。今週は米消費者物価指数(CPI)の発表があり、前年比で7%を超える上昇率が見込まれている。米CPIはインフレ目標制の対象ではないが、対象であるPCEデフレータと変化動向は相似するため、CPIの上振れは物価高への警戒感につながり、早期利上げ観測がさらに強まると予想される。

 また、今週は上院銀行委員会でパウエルFRB議長の再任指名公聴会、ブレイナードFRB理事の副議長指名公聴会(用語説明2)が開かれる。利上げなど金融引き締めに慎重な「ハト派」の代表格として知られるブレイナード理事が、FRBの引き締め姿勢への転換に当たってどのような姿勢を示すのかが注目される。

 市場の従来想定以上に米FRBが金融引き締め姿勢を強めていることは、中長期的に大きなドル高材料となる。ただ、オミクロン株への警戒感から急激なドル上昇にも慎重な姿勢がみられ、ある程度の振れ幅を交えながらのドル高進行となりそうだ。

 米FRBによる金融引き締め姿勢が株安を招くことへの警戒感もある。米国を含む多くの国の中央銀行が物価高から金融引き締め姿勢を強める中、超緩和的な姿勢が長期的に続くとみられる日銀のスタンスは円売りを誘いやすい。1ドル=118円に向けたドル買い円売りが強まりそうだ。

 ドル高基調の中、昨年末の1ユーロ=1.1380台から1.1270台へユーロが下落したが、先週末の米雇用統計発表後のドル売りで1.1360台を回復し、ユーロの下落は限定的だった。オミクロン株での新型コロナ感染再拡大が米国などに比べて欧州で速く進んだことで、昨年はユーロ売りが強まる場面があった。しかし、ここにきて米国の感染状況が悪化し、昨年のユーロ売りの反動が出ている面もある。

 ただ、ユーロ対ドルでは、ユーロ安リスクはまだ根強い。PEPP(パンデミック緊急供給プログラム)を3月で終了させるなど欧州中央銀行(ECB)も一時の金融緩和姿勢を後退させているが、利上げは米国よりも遅れるとみられており、ユーロ売りが出やすい地合いとなりそうだ。昨年末から下値を支える1ユーロ=1.1270ドル台を割り込むと要注意。

 対円では株安を受けたリスク警戒の動きが広がるかどうかが焦点だが、ドル主導の展開が見込まれ、対円でユーロは方向感のはっきりしない展開も予想される。

用語の解説

FOMC議事要旨 米連邦公開市場委員会(FOMC)3週間後に公表される議事録の要旨。全文ではなくFOMC議事要旨と表記されるが、単に議事録と書かれた場合でも、こちらの議事要旨を指すのが一般的。議事録全文は5年後に公表される。
FRB議長・副議長指名公聴会 FRBの正副議長や理事の就任は大統領の指名した候補を上院が承認して成立する。予算案を含む法律の成立では米上院と下院は同等の権利を持つが、外交や連邦公務員人事の承認は上院だけの権限。両院で公聴会が行われる議会証言などと違い、上院だけで公聴会や人事案承認の決議が実施される。

今週の注目指標

米パウエルFRB議長再任指名公聴会
1月12日0:00
☆☆☆
 2月に4年の任期が切れるパウエルFRB議長についてバイデン大統領は再任指名を決定。上院の承認で再任が確定する。上院承認決議に先駆けて担当委員会である銀行・住宅・都市委員会で11日に公聴会を実施。その後、上院本会議での承認決議に回る。今回は多数派である民主党が賛成しており、パウエル氏再任は確定的。これまで金融引き締めに慎重だった議長が、引き締め方向へ転じた背景をどう語るかが注目される。早期の利上げに強い意欲を示すと1ドル=116円台後半に向けたドル高円安も予想される。
米消費者物価指数(CPI・12月)
1月12日22:30
☆☆☆
 前回11月のCPIは前年比+6.8%と1982年6月以来の高水準だった。食品とエネルギーを除いたコアCPIは前年比+4.9%と、こちらは1991年6月以来の高水準だった。ガソリン価格が前年比+58.1%と急騰し、物価全体を押し上げた。食品とエネルギーを除いた「コア」でも、中古車・トラックの+31.4%、新車の+11.1%と自動車価格の大幅上昇が物価を押し上げた。12月のガソリン価格は11月に比べて落ち着いたが、EIA調査の全米ガソリン小売価格は前年比+50.7%とかなりの高水準で、12月も物価上昇が続くと見込まれている。市場予想は前年比+7.1%、同コア前年比+5.4%と、大幅上昇の見込み。市場予想以上の上昇だと米国の早期利上げ観測が一段と強まり、1ドル=117円台に向けたドル高円安も予想される。
米ブレイナードFRB理事副議長指名公聴会
1月14日0:00
☆☆☆
 ブレイナードERB理事はFOMCメンバーの中でも、物価安定より経済成長や雇用拡大を重視する観点から金融緩和志向の強い「ハト派」と位置付けられる。インフレへの警戒感が強い共和党に対して、民主党は金融緩和姿勢を好む傾向があるため、同理事はパウエル議長の有力な後継議長候補と噂されていた。バイデン大統領はパウエル議長再任を選択したが、民主党内の強いハト派姿勢に考慮してブレイナード理事を副議長候補として指名した。上院で多数派の民主党の賛成で承認は確実視されるが、財政均衡を重視する共和党にとってパウエル議長続投以上に警戒感のある人事で、厳しい追及が見込まれる。FRBのタカ派シフトに理事がどのような姿勢を示すのかも注目点。金融引き締めに前向きな姿勢が目立てばFRBのタカ派化が強く意識され、1ドル=116円台後半に向けたドル高円安の可能性がある。

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