2022年01月31日号
先週の為替相場
週後半にかけてドル高強まる
1月25、26日の米連邦公開市場委員会(FOMC)をにらむ展開となった。FOMCまでは目立った方向感は見られなかった。週の初めに1ドル=113円台半ばを割り込むドル高円安となったが、その後は114円台を回復した。FOMCでの金融引き締めに向けた前向きな動きを予想したドル買いと、株式市場の不安定化を受けたリスク警戒感による円買いが交錯し、一方向の動きにならなかった。
FOMC前にはドル買いが強まり、114円台に乗せてFOMCの結果発表を迎えた。
FOMC声明は次回3月15、16日会合での利上げを示唆し、早期のバランスシート縮小の可能性も示した。ただ、3月の利上げ幅が0.5%になる可能性には言及がなく、一部で想定されたほど金融引き締めに積極的な「タカ派」ではないとの受け止め方もあった。もっとも、FOMC後のパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の記者会見が利上げに前向きな内容となり、ドル買いが強まった。
パウエル議長はバランスシートの縮小に意欲的な姿勢を示した。今後はすべての会合での利上げの可能性を排除せずと、連続利上げの可能性も示した。質疑応答で出た0.5%の利上げは、まだ何も決まっていないと述べたが、物価上昇は昨年12月FOMC時点より深刻だとの認識を示し、大幅利上げの可能性を残した。
一連のパウエル議長発言を受けて米国市場では、株価下落と債券利回り上昇が進み、11日以来となる1ドル=115円60銭台までドルが買い進まれた。
FOMCまで1ユーロ=1.1300ドルを挟んで推移していたが、ドル全面高の動きから1.11ドル台前半までユーロが下落。1ポンド=1.3500ドルから1.3350ドル台までポンドが下落した。
対ドル中心の動きだったため、ドル以外の他通貨は対円で一方向の動きにならず、1ユーロ=128円台前半から129円台前半で取引が続いた。
今週の見通し
米国の追加利上げ観測が強まる中、ドルは堅調に推移している。昨年12月時点で年内3回の利上げ予想が大勢だったが、年明けは3月FOMCでの利上げが織り込まれ、年内4回の利上げ見通しが大勢となった。さらに年内5回以上の利上げ予想も広がり、ドル買いを招いている。年内4回の利上げであれば、FOMC参加メンバーによる経済見通し(SEP)が示され、利上げを説明しやすい3、6、9、12月のFOMCでの利上げが有力視されていた。しかし、年内5回以上の利上げとなると、どこかで連続利上げが必要となる。年内すべてのFOMCで利上げして年7回の利上げになるとの見通しも浮上し、米国の追加利上げ観測が一段と強まっている。
こうした中、今週は2月4日に1月の米雇用統計が発表される。ISM製造業景気指数、同非製造業景気指数、ADP雇用者数など米国の重要指標の発表が続く。
1月28日発表された昨年12月の米PCEデフレータ(用語説明1)は前年比+5.8%、同コアデフレータは前年比+4.9%とともに11月から上昇。米国の早期利上げや積極的な追加利上げ観測の背景にある物価上昇が止まらない中、4日の米雇用統計が注目される。雇用が堅調を維持する限り、物価上昇に対応した利上げのハードルはかなり下がってくる。
また、今週は1日に豪準備銀行(中央銀行)理事会、3日に英イングランド銀行(同)金融政策委員会と欧州中央銀行(ECB)理事会が予定されている。ECBはコロナ禍を受けたパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の3月終了が決まっており、金融政策は現状維持の見込み。豪中銀は量的緩和の終了を決定する可能性があり、英中銀は追加利上げ観測が広がっている。
世界的な金融引き締めの流れが印象付けられると、株式市場にとっては厳しい材料となり、リスク回避の円買いが強まる場面もありそうだ。
米雇用統計は比較的落ち着いた雇用者数の伸びが予想されている。前回12月の雇用統計は非農業部門雇用者数の伸びが市場予想の45万人を大きく下回る19.9万人にとどまった。11月も21.0万人増(その後24.9万人増に上方修正)と55.0万人増の市場予想に届かず、2か月続けて市場予想を下回っている。
今回は15.0万人増と低めの増加幅が見込まれている。これまで大幅な雇用増を支えてきたレジャー&ホスピタリティ部門(用語説明2)の伸びがここ2か月鈍化傾向にある。オミクロン株感染拡大の影響が懸念された1月分も鈍い伸びにとどまる可能性が高く、雇用全体の予想も厳しいものになっている。
ただ、コロナ前の状況を考えると15万人増という数字は決して弱くない。また、前回3.9%と4%割れに低下した失業率が維持される見込みのため、市場予想前後の数字が出ると3月の利上げに向けた流れは変わらないだろう。
雇用統計がドル買いの安心材料となれば、ドルも対円で堅調に推移し、1ドル=116円台に向けた動きが強まる可能性も十分にありそうだ。
用語の解説
PCEデフレータ | 米商務省が毎月発表する個人消費の物価動向。名目の個人消費支出を実質の個人消費支出で割ったデフレータとして示される。多くの国でインフレ目標の対象は消費者物価指数だが、米国はPCEデフレータをインフレ目標の対象とする。米労働省が発表する消費者物価指数と比べると調査対象が広いことや、同系統の財での代替消費(例えばキャベツと白菜で、キャベツの値段だけが上がった場合、キャベツの消費が減り、白菜がその分増えることで、家計への影響はキャベツの値段だけを見た場合よりも小さくなる)を考慮していることなどの違いがある。ただ、計算が煩雑な分、消費者物価指数よりも発表は遅くなる。 |
---|---|
レジャー&ホスピタリティ部門 | 米労働省による雇用統計での職業部門分けの一つで、レストラン・バーなどの飲食部門、ホテルなどの宿泊部門、劇場・映画館などのレジャー部門からなるグループ。飲食部門だけで1100万人以上の雇用者がおり、雇用者数が最も多いグループとなっている。また対人の職種となっている分、新型コロナの感染拡大の影響を最も大きく受けたグループとなっている。 |
今週の注目指標
豪中銀理事会 2月1日12:30 ☆☆☆ | 政策金利は同国にとって最低水準である現行の0.1%で据え置きの見込み。ここにきて豪州でも物価上昇が著しいことから、従来5月の理事会で終了が見込まれていた現行の量的緩和策(週40億豪ドル規模の債券購入)の終了を今回の理事会で決定するという見方が強まっている。一部では額を減らして5月まで続けるという見方も残っている。利上げについても前回までの理事会で示された2023年実施を中心シナリオとする姿勢から、2022年実施の可能性を示してくる可能性がある。量的緩和を終了し、利上げ見通しを前倒しする前向き姿勢が強まると、1豪ドル=83円台に向けた豪ドル高円安も。 |
---|---|
英中銀金融政策委員会(MPC) 2月3日21:00 ☆☆☆ | 前回12月のMPCで四大通貨の先駆けとなる利上げを実施した英中銀。12月の英消費者物価指数が前年比5.4%と物価目標の2%、許容上限とされる3%をはるかに上回っており、今回会合での追加利上げが見込まれている。英中銀は米国や日本などに比べてインフレへの対応が厳しい「インフレファイター」として知られ、利上げ自体は当然か。ただ、12月の英小売売上高がマイナス圏となるなど、ここにきて英経済の状況がさえない点が懸念材料。追加利上げが景気回復の腰折れにつながるとの警戒感が広がるとポンド売りが強まる可能性がある。利上げ自体はポンド高材料であり、1ポンド=1.36ドル台を試す展開が期待されるが、中期的にポンド買いが続くかは微妙だ。 |
米雇用統計(1月) 2月4日22:30 ☆☆☆ | 前回12月の雇用統計は、非農業部門雇用者数が2か月続けて市場予想を大きく下回った。上述のレジャー&ホスピタリティ部門のさえない数字に加え、小売業の2か月連続の雇用者数減少、ヘルスケア&ソーシャルアシスタンス部門の鈍い伸びなどがドルの重石になった。これらの部門も対人サービスが中心で新型コロナの影響を受けやすく、1月も厳しい数字が見込まれる。ISM製造業景気指数、同非製造業景気指数、ADP雇用者数などの関連指標動向なども確認したい。今回の雇用統計と計測期間がかぶる1月9日から15日の週の新規失業保険申請件数が29万件(速報時点では28.6万件)と昨年10月以来の高水準だったことも懸念材料。予想をさらに下回る弱さを示すようだと、いったんドル売りが強まり、1ドル=114円台前半に向けた動きも想定される。 |
免責事項
本レポートは株式会社時事通信社が提供しています。また本レポートの内容は、株式会社時事通信社が提供する情報をもとに、株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイドが執筆しています。本レポートは、情報提供のみを目的にしたもので、売買の勧誘を目的としたものではありません。投資決定に当たっては、投資家ご自身のご判断でなされますようお願いいたします。株式会社時事通信社、株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイドおよび情報提供元は、本レポートに記載されているいずれの情報についても、その信頼性、正確性または完全性について保証するものではありません。また本レポートに基づいて被った損害・損失についても何ら責任を負いません。本レポートに掲載されている情報の著作権は、株式会社時事通信社および株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイドに帰属します。本レポートに掲載されている情報を株式会社時事通信社の許諾なしに転用、複製、複写等することはできません。
Copyright(C) JIJI Press Ltd. All rights reserved.
auじぶん銀行からのご注意
- 本画面に掲載されている情報は、auじぶん銀行の見解を代弁したものではなく、auじぶん銀行がその正確性、完全性を保証するものではありません。
以上の点をご了承のうえ、ご利用ください。