2022年02月14日号
先週の為替相場
米利上げ観測の強まりとウクライナ情勢を警戒
2月7日からの週は、後半にかけて米国の利上げ観測が一段と強まり、ドル買いが優勢が優勢となった。7日の1ドル=115円割れからドルはじりじりと上昇。1月の米消費者物価指数(CPI・用語説明1)発表の10日を前に115円80銭前後まで買い進まれた。米CPIが市場予想を超え、物価高騰が顕著だったことで、116円30銭台までドルはさらに上昇した。その後はもみ合いとなったが、週末を前にウクライナ情勢緊迫化への警戒感が強まりから円買いが入り、115円00銭近くまでドルは急速に下落した。
1月の米消費者物価指数の上昇率は7.5%(昨年12月は前年同月比比7.0%と市場予想の7.3%を上回り、1982年2月以来約40年ぶりの高水準だった。変動の激しい食品とエネルギーを除いたコアでも前年同月比6.0%と1982年8月以来の高い伸びだった。
前回も全体を支えたガソリン価格は昨年12月の前年同月比49.6%からは伸びが鈍化したが、40.0%と高水準を維持。中古車・トラックが前回37.3%から40.5%、新車が11.8%から12.2%と自動車関連の価格上昇も全体を押し上げた。食品も7%上昇するなど物価高が市民生活に悪影響を及ぼし、米FRBへの金融引き締め圧力につながっているようだ。
1月のCPI急伸を受けて、市場では3月の大幅利上げ観測が急速に強まった。CPIが発表された10日、ブラード・セントルイス連銀総裁が0.5%の利上げと7月1日までに政策金利の1%への引き上げを支持すると発言したことも市場の大幅利上げ観測を増幅した。金利先物市場の値動きを基にしたCME FedWatchでは、3月15、16日の連邦公開市場委員会(FOMC)での0.5%の利上げ予想はCPI発表前に25%前後だったが、10日午後から11日にかけて一時90%を超えた。
CPI発表を受けて1ドル=116円30銭台を付けた後、115円70銭台までドルが下落。しかし、3月FOMCでの大幅利上げ観測を押し上げ材料に、ドルは再び116円台に乗せた。
米CPI発表直後に1ユーロ=1.1430ドル前後から1.1380ドル前後までユーロ安ドル高が進行したが、ユーロはすぐに切り返して1.1500ドルの大台に迫った。ブラード総裁発言後はドル買いが優勢となってユーロは再び下値を試すなど荒っぽい動きを見せた。
週末を前にしたNY市場11日午後、リスク警戒のドル買いと円買いがともに進行。米ホワイトハウスのサリバン大統領補佐官(国家安全保障担当・用語説明2)が、ロシアは早ければオリンピック期間中にウクライナ国内で軍事行動を起こす可能性があると発言。また米メディアが在ウクライナの米国大使館員に退去が命じられる方針と報じられたことなどもあり、警戒感が一気に広がった。米国務省は12日に大方の在ウクライナの大使館員に対する退去を命じている。
ドルは対円で下落し、1ドル=115円台後半から115円00銭に迫った。対円を除けばドル買いが優勢で、1ユーロ=1.1400ドル前後から1.13ドル台前半のユーロ安ドル高。ユーロは対ドル、対円で売りが出て、1ユーロ=132円台から130円30銭台までユーロ安が進んだ。
今週の見通し
米国の利上げ観測とウクライナ問題への警戒感をにらみながらの展開。
先週の米CPI発表後に一時90%を超えていた3月FOMCでの0.5%利上げ見通しは、ウクライナ情勢緊迫化を受けた先行き不透明感もあって50%前後へ低下した。節目の2%を超えて、一時2.06%前後に上昇した米10年物国債の利回りは1.91%台まで低下した後、週明けは1.95%前後での推移と、一時の金利先高見通しは抑えられつつある。ただ、前年同月比7.5%という消費者物価の高い上昇率への警戒感は根強い。米FRB関係者発言などで大幅利上げ観測が強まり、ドル買いが優勢になる可能性がある。
年始のドル高円安局面と先週後半のドル高円安局面の2回にわたってドルの上値を抑えた1ドル=116円30銭台が目先のターゲット。116円台半ばを超えると、もう一段のドル高進行も予想される。
ウクライナ情勢が緊迫化の度合いを増している。米国務省は12日、大方の在ウクライナの大使館員に対する退避を命じた。ロシア軍のウクライナ侵攻が実現した場合、エネルギー問題への懸念からユーロ圏経済への悪影響が警戒され、11日午後のNY市場に見られたようにユーロとポンドを売り、ドルや円を買う展開が予想される。ドル安円高の動きがやや優勢と予想される。11日は1ドル=115円の大台を何とか維持したが、ウクライナ侵攻が実際に起きた場合、115円を割って一段と円が買い進まれる可能性もある。
円以外のほとんどの通貨に対してはドル買いが入るとみられる。ユーロ売りドル買いが見込まれる中、対ドルでの円買いもあってユーロは対円で大きく下落する可能性がある。11日は1ユーロ=132円台前半から130円台前半までユーロ安に振れたが、今週は130円の大台を割り込んで今年最安値128円20銭台を試す可能性もある。
用語の解説
米消費者物価指数(CPI) | 米労働省労働統計局(BLS)が、都市部の消費者が購入する商品やサービスの価格の変化を調査して指数化したもの。変動が激しい食品とエネルギー価格を除いたコア部分の指数も同時に発表される。米国のインフレ目標の対象は多くの国で採用されている消費者物価指数ではなく、個人消費支出(PCE)デフレータ。しかし、発表時期が対象月の翌月15日前後と、対象月の翌月末もしくは翌々月初めとなるPCEデフレータに比べて2週間程度早く、変化の傾向が似ているため、市場の注目を最も集める物価関連指標となっている。 |
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サリバン大統領補佐官 | ジェイク・サリバン(ジェイコブ・ジェレマイア・サリバン:Jacob Jeremiah Sullivan)。2008年ヒラリー・クリントン氏が大統領選予備選に出馬した際に同氏の外交安全顧問となり、その後発足したオバマ政権下でクリントン国務長官の副補佐官に就任。政策企画本部長を経て、2013年にバイデン副大統領の補佐官となった。2021年発足のバイデン政権では国家安全保障担当の大統領補佐官に就任。 |
今週の注目指標
英消費者物価指数(1月) 2月16日16:00 ☆☆ | 英国の1月の物価統計が16日に発表される。消費者物価指数、生産者物価指数、小売物価指数が同時に発表される中、もっとも注目を集めるのがインフレ目標の対象でもある消費者物価指数の前年比。前回は5.4%と1992年3月以来約30年ぶりの高水準だった。連続利上げを決定した2月3日の英中銀金融政策委員会(MPC)では、5人の0.25%利上げ主張に対して4人が0.5%引き上げを主張し、僅差で0.25%の利上げを決めた背景に、物価の高騰がある。今回も前回と同水準が見込まれており、今後の英追加利上げ観測が強まりそうだ。市場予想以上の強い数字が出ると、1ポンド=1.36ドル台回復に向けたポンド高の動きも予想される。 |
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米小売売上高(1月) 2月16日22:30 ☆☆☆ | 4日発表された1月の米雇用統計の好調を受けて、小売売上高も好結果が期待されている。前回は前月比-1.9%と予想を下回った。サプライチェーン問題を受けた品不足を受けて、ホリデーシーズンの買い物を前倒しした影響とみられる。今回は、低調だった前回の反動もあって、前月比+2.0%が期待されている。個人消費の拡大傾向は利上げのハードルを下げる材料となるだけに、予想前後か予想以上の強い結果が出るとドル買いの動きも想定される。16日NY市場朝の同指標発表の後、同日NY市場午後に1月の米FOMC議事要旨が出るだけに、発表後の反応は小さい可能性もある。小売売上高の伸びが好調でFOMC議事録も前向きとなるなぢ同方向に作用する結果になった場合、議事要旨後の動きを強める働きも。 |
米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨 2月17日04:00 ☆☆☆ | 1月開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨が16日NY市場午後に発表される。3月の米FOMCでの利上げ幅や今後の追加利上げペースについて、市場参加者が注目する。議長会見がかなり前向きなものとなった1月25、26日のFOMCでどのような議論が行われていたのか、議事要旨が注目される。3月の大幅利上げを示唆する「タカ派」色の強いものであれば、1ドル=116円台のドル高に動く可能性がある。 |
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