2022年02月28日号

(2022年02月21日~2022年02月25日)

先週の為替相場

ロシアのウクライナ侵攻で振幅

 ロシアのプーチン大統領は2月24日の緊急演説で、ウクライナ東部ドネツク地区で軍事作戦行動を展開すると事実上の宣戦布告をした後、ロシア軍がウクライナに侵攻した。ウクライナの首都キエフが爆撃されるなど戦火はウクライナ全土に広がり、市場の警戒感を誘った。

 21日からの週は、ロシアによるウクライナ侵攻が間近に迫る中、ドル売り円買いがやや優勢で取引が始まり、1ドル=114円80銭前後までドルが下落。その後、フランスのマクロン大統領が提案した米ロ首脳会談の開催で両国が合意したと報じられると市場の警戒感が後退し、ドルは115円10銭台を回復した。もっともドルの上値は重く、その後はじりじりと売りが出た。

 現地時間21日夜(日本時間22日朝)、親ロシア派勢力が占領するウクライナ東部の2地域「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認する大統領令にプーチン氏が署名。平和維持軍としてロシア軍を両国に派遣するとの報道や米ロ首脳会談が開催されない見通しとの米高官談話を受け、リスク警戒感による円買いから1ドル=114円台半ばにドルが下落。ユーロは対ドル、対円で売られ、1ユーロ=1.13ドルを割り込んだ。21日のロンドン市場では1ユーロ=130円90銭台までユーロが上昇した後は上値の重さが意識されて129円30銭台まで下落した。

 その後は1.1360ドル台、130円70銭台までユーロが上昇。ユーロ買い円売りもあり、1ドル=115円20銭台までドルが買い戻された。

 23日NY市場では、バイデン米大統領がロシアへの追加制裁を発表し、警戒感が再び強まった。日本時間24日午前には、プーチン大統領による事実上の宣戦布告後、ウクライナ全土にロシア軍が侵攻する中、ドルは1ドル=114円台前半の2月3日以来の安値圏を付けた。ユーロは128円割れまで売られた。

 安全資産とされるスイスフランにも買いが強まり、2015年のスイスショック以来となるユーロ安スイス高圏となった。

 週末25日の海外市場では、リスク警戒感が後退した。西側諸国はウクライナに侵攻したロシアを強く非難し、経済制裁などの対応を取ったが、ロシアと北大西洋条約機構(NATO)軍の直接的な軍事衝突が起きる可能性は低いと受け止められ、市場は落ち着いていた。ロシアとウクライナの協議が準備されているとの報道も事態の早期収束を期待させた。

 しかし、週末に米欧が国際間の銀行送金ネットワークを提供する国際銀行間通信協会(SWIFT)(用語説明1)からロシア主要銀行を排除する方針を発表。ロシア中央銀行の外貨準備の利用も制限する方針を示したことで、警戒感が広がっている。

今週の見通し

 ウクライナ情勢と対ロシア制裁の影響を注視。

 ロシアへの批判を強める欧米は、27日にロシアの主要銀行を国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除する方針を示した。また、ロシア中銀による外貨準備の利用にも制限をかける方針を示した。これによりルーブル市場が大きく混乱。ロシアとの貿易にも大きな影響が出ることとなり、天然ガス輸入のかなりの部分をロシアに頼るドイツなど欧州を中心に、世界経済にも大きな影響が出てくると懸念されている。

 プーチン大統領は米欧の追加制裁を受けて、核抑止部隊に高度警戒態勢を指示。核のカードを示すことで、西側諸国へ揺さぶりをかけているとみられている。

 一方、事態の収束に向けた期待感も出ている。ウクライナ政府はベラルーシ(用語説明2)国境でロシアと協議すると発表した。ロシアはベラルーシの首都ミンスクでの協議を提案し、ウクライナが拒否していた。

 市場はウクライナ情勢にかなり神経質な反応を示している。SWIFTからのロシア排除の方針などを受けて、週明けはいったんユーロ売り円買いや対円を除くドル買いが優勢になった。ユーロの対円相場は反応が大きく、先週末終値から2円以上下落した。その後、ロシア・ウクライナ協議が実施される見通しを受けてドルは週明けの対円での下落分を埋めきり、逆に買われた。

 今後もウクライナ情勢に対してかなり神経質な相場展開が予想され1ドル=115円台を中心にもみ合いが続く展開か。事態が収束すると、ドル買い円売りが優勢となりそうだが、それまでは円売りには慎重な姿勢が見られるだろう。

 今週は3月1日に米ISM製造業景気指数、2日に米ADP雇用者数、3日に米ISM非製造業景気指数、4日に米雇用統計など米国の重要指標の発表が目白押し。ウクライナ情勢が落ち着かない限り経済指標への反応は限定的となりそうだが、リスク警戒感が強く、弱めの数字には反応しやすい地合いとなっており、市場予想との発表値の乖離には要注意。

 バイデン大統領の一般教書演説、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の半期議会証言などのイベントも予定されている。ウクライナ情勢もあって要人発言への注目度が高いため、こちらにも要注意。

 ロシアとの経済的な結びつきが深く、ドル円以上に値動きが大きくなりそうなのがユーロの対ドルと対円相場。ウクライナ情勢が落ち着けばユーロ買いが予想されるが、ドイツのエネルギー供給の不安定化への懸念からユーロは上値が抑えられる可能性がある。先週、1ユーロ=1.1106ドルとユーロは今年の最安値を更新。週末の対ロシア追加制裁発表を受けて再び安値を試す展開となっている。1.10ドル割れも十分に視野に入り、対円も昨年12月の安値127円30銭台を割り込む大幅なユーロ安となる可能性がある。

用語の解説

国際銀行間通信協会(SWIFT) 国際銀行間通信協会(スウィフトSWIFT:Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication SC)は、銀行間の国際金融取引に関する事務処理の機械化、合理化及び自動処理化を推進するためのネットワークを運営する組織。1973年に設立された。本部はベルギー。200を超える国や地域の1万1000以上の金融機関が参加している。
ベラルーシ ベラルーシは東ヨーロッパ東部に位置する共和国。かつてのソビエト連邦の構成国家の一つで、ソ連崩壊によって独立した。首都はミンスク。東側から北東側にかけてロシア、南側でウクライナ、西側でポーランド、北西側でリトアニア、ラトビアと国境を面する内陸国。白ロシアとも呼ばれる。

今週の注目指標

ISM製造業景気指数(2月)
3月2日00:00
☆☆☆
 前回1月分のISM製造業景気指数は3か月連続で前月より低下。57.6と2020年11月以来の低水準となった。生産や新規受注などが低下しており、サプライチェーン問題の影響が懸念される形となった。今回は58.0と前回から小幅ながら上昇見込み。力強い雇用統計の結果などを受けて、米経済の堅調さが意識される中で、しっかりとしたISM製造業の数字が示されるとドル買いに安心感も。ドル円は116円台に向けた動きを強めそうだ。雇用統計の先行指標としても意識される雇用部門の数字は前回10カ月ぶりの高水準となる54.5となった。こちらの数字にも要注意。
カナダ銀行政策金利
3月3日00:00
☆☆☆
 カナダ銀行(中央銀行)は前回1月26日の会合で政策金利を同国の過去最低水準である0.25%に据え置く一方、声明では将来的に金利は引き上げられる見通しを示した。同日発表された金融政策報告の中で、これまで利上げを判断するポイントとしてきた経済のスラック(需給のゆるみ)について、広範な指標により現在吸収されていることを示唆しているとし、早期の利上げを示唆した。2月16日に発表された1月のカナダ消費者物価指数は、前年比+5.1%と12月の4.8%を超えて30年ぶりの高水準だった。
 こうした状況から今回の会合での利上げはほぼ確実視されている。注目はウクライナ情勢などを受けて今後の追加利上げについてどこまで前向きな姿勢を示してくるか。積極的な追加利上げ姿勢を示せば1ドル=1.25カナダを意識するカナダ高の展開も予想される。
米雇用統計
3月4日22:30
☆☆☆
 前回1月分は非農業部門雇用者数が市場予想をはるかに超える増加を示し、発表後は3月15、16日の連邦公開市場委員会(FOMC)での大幅利上げ期待が強まるなど米景気の力強い回復を意識する動きが見られた。また、前回の非農業部門雇用者数は、過去値の上方修正も目立った。12月分は指標発表時の19.9万人増から51.0万人増へ大幅に上方修正。11月分は指標発表時の21.0万人増が12月分を発表した1月時点で24.9万人増に上方修正されていたが、さらに64.7万人増まで上方修正されている。今回の市場予想値である前月比12.5万人増は上方修正前の数字に対して行われたもの。結果の46.7万人増は数字自体にもインパクトがあったが、比較対象元である過去値の上方修正を加味すると、数字以上に強い数字といえる。
 失業率は市場予想や前回値の3.9%から0.1%ポイント悪化して4.0%となった。ただ、こちらは労働参加率が61.9%から62.2%に上昇していたことが要因と見られ、問題視されていない。労働参加率が上昇している場面では、これまで職探しを諦めていた人が雇用環境の改善から職探しを始めることがある。職探しを断念すると失業率の計算自体からも除去されるが、探し始めて職が見つかるまでは失業者扱いとなるため、一時的に失業率が悪化する。
 前回の非農業部門雇用者数の内訳を見ると、これまで弱いとされていた部門が軒並み上方修正された。昨年11、12月と雇用が減少して全体を押し下げた小売業は、両月ともプラス圏へ上方修正され、1月は6.1万人増。伸びが鈍いとされたレジャー&ホスピタリティ部門に至っては、11、12月ともに10万人以上上方修正され、1月分は15.1万人増と力強い伸びを示した。これらの部門は接客など人との接触が必要な職種が多く、オミクロン株の影響も警戒されていたが、今回の修正でこうした影響への懸念も払しょくされた形。
 今回も市場予想値は非農業部門雇用者数が前月比40万人増、失業率が3.9%と堅調が見込まれている。ロシアとウクライナの開戦を受けた先行き不透明感から、3月FOMCでの0.5%の大幅利上げ観測は後退している。ただ、FOMCまではまだ時間がある。それまでにウクライナ情勢が落ち着いた場合、雇用統計が強めに出ると、大幅利上げ期待が再び強まる可能性がある。それだけに、市場予想通りの強めの結果を買い材料に1ドル=116円台に向けてドルが上昇する可能性がある。

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